始まりの木

始まりの木

小説・文芸
979円 (税込)

4pt

神様を探す二人の旅が始まる。

「少しばかり不思議な話を書きました。
木と森と、空と大地と、ヒトの心の物語です」
--夏川草介

第一話 寄り道【主な舞台 青森県弘前市、嶽温泉、岩木山】
第二話 七色【主な舞台 京都府京都市(岩倉、鞍馬)、叡山電車】
第三話 始まりの木【主な舞台 長野県松本市、伊那谷】
第四話 同行二人【主な舞台 高知県宿毛市】
第五話 灯火【主な舞台 東京都文京区】

藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生である。所属は文学部で、専攻は民俗学。指導教官である古屋神寺郎は、足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける、偏屈で優秀な民俗学者だ。古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの”を藤崎に問いかけてゆく。学問と旅をめぐる、不思議な冒険が、始まる。
“藤崎、旅の準備をしたまえ”

※この作品は単行本版『始まりの木』として配信されていた作品の文庫本版です。

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始まりの木 のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    【物語に感じた印象】
    黎明の森

    澄み切った冷気と凛とした樹々たちが、新しい一日のはじまりを教えてくれる。
    そんな夜明けの森の中に立っているかのように、自然と背筋が伸びて、心が洗われる作品であった。

    【感想】
    初読みの作家さん。
    土俵である医療小説ではなく、民俗学をテーマにした本作が、記念すべき初読みの一冊目となった。

    本書を読む前、ノンフィクションを読んでいた私は、その作品が抱える重苦しい雰囲気にガッツリと呑まれてしまっていた。そういった理由もあって、生命力に溢れた木の表紙に惹かれて手に取ったわけだが、それが大正解であった。

    なんて美しい国なのだろう・・・
    なんて美しい言葉なのだろう・・・
    丁寧に描写された言葉を辿っていけば、日本ならではの美しい四季、その土地の空気感、色鮮やかな風景が頭の中に映し出されていく。
    そして、改めて日本の美しさに気づくとともに、失われつつある日本人の感覚が、私の中にも残っていたことに安堵した。

    立派な御神木に胸を打たれて頭を下げたり、美しい夕日や朝日を見てありがたいと感謝したり、勝負時には手を合わせて願ったり・・・
    これらの無意識の行動は、誰かに教えられたわけではない。太古より日本人の心に根付いている、目に見えない存在を感じての行動であったと初めて自覚した。

    また本書では、同様の言葉を何度も目にした。毎回ニュアンスを変えて、登場人物の口から語られているのだが、作者の夏川さんからの強いメッセージ、警鐘のようにも感じられた。

    「目に見えること、理屈の通ることだけが真実ではない。そのことだけは忘れないことだ」

    現代は何事にも「エビデンスは?」、「根拠を示せ!」、「数字は?」と言われる世の中だ。
    そして、その中でも最もエビデンスが重要視される医療現場に身を置いて、エビデンスのない判断はリスクをはらむと十分理解している作者が綴った言葉であったからこそ、重みを感じ、説得力があった。

    エビデンスがない、目にも見えない、数字でも語れない、それでも確かに存在しているものはある。その中に、日本人の本来の心が生きている。

    すっと心に沁みて、自分の在り方すら変えてしまう物語だった。そして、日本人として、読むことができて本当に良かったと思う一冊だった。

    できれば続編も読みたい。

    【心に残った言葉】
    「巨木を敬い、巨岩を祀り、巨山を拝して、自らを世界の一部に過ぎないと考えてきた日本人の感覚は、完全に消え去ったわけではない。今もそこかしこに確かに息づいて、人の心を支えている。だからこそ・・・・・・」「だからこそ、この国は美しいと思うのだよ」(p.75)

    「今君が目にしているもののひとつひとつが、この国が積み上げてきた歴史そのものだ。それも、もう二度と目にすることはできないかもしれない貴重な風景だ」(p.216)

    「目に見えないものがある、理屈の通らない出来事がある、どうしようもなく不思議な偶然がある、そういう感じ方が、自分の生きている世界に対する畏敬や畏怖や感謝の念につながるんです。もし、目に映ることだけが全てだと考えるようになれば、世界はとてもシンプルで、即物的です。そういう世界だと、自分より力の弱い者を倒すことは、倫理に反するどころか、とても理にかなった生き方になるかもしれません。つまり勝てばいいんですから」(p.229)

    「昔のこの国の人たちは、美しいとはどういうことか、正しいとは何を意味するのか、そういうことをしっかり知っていた。しかしどんどん木を切って、どんどん心を削ってきた結果、そういうことがわからなくなってきちまったんだ。わからなくなっただけならまだいいが、途方に暮れて、困り果てたあげく、西洋にならって、なんでもかんでも金銭ずくで計算して、すっかりモノの価値をひっくりかえしてしまった」(p.311)

    0
    2026年06月11日

    Posted by ブクログ

    夏川さんの本を久しぶりに読みました。
    日本の綺麗な風景を想像しながら読む時間は古屋先生と共に歩いているような、旅の時間でした。

    つい先日、鞍馬を訪れた自分としては叡山鉄道の紅葉のトンネルがありありと想像できて嬉しかったです。

    この国に生まれて育った自分には、作中にある自然から神を感じる信仰というものがどういうものか、言葉にはできないけれどまさしく「感じる」ことができます。
    それは当たり前ではなく、尊いものだと歳をとってから思うようになりました。
    民俗学は日本人を知る学問だなと、この本を読んでそんな風に感じました。元々興味のある分野ですがこれから先いろんな土地でその風土を感じられるものを探してみたいと思います。

    0
    2026年01月25日

    Posted by ブクログ

    日本の文化は多神教によって支えられてきた。神も仏もそこらにいる考えであるから、目に見えないこと理屈の通らないことを感じ、人間がいかに小さく、無力であると自覚する。これが、昔の日本人の謙虚で我慢強く美しい心を作っていたのではないか、と書いていた。
    神様がいると信じることは、世の中に目に見えないものがあると感じることで、この感覚によって人間は少しでも他人への理解を深め、歩み寄ろうという気になるだそう。これらの夏川草介による一説は、巻末の膨大な参考文献により、真実味を帯びていた。
    合理性という刃により神木が伐採されている今、日本人はいかにして古き良き日本人らしさを保っていけるのだろうか。日本の未来について少し考えたくなる、そんな本だった。

    0
    2025年07月18日

    Posted by ブクログ

    この本にもっと早く(できれば10代)に出会いたかった!!

    その時自分がいる環境や立場で感じるものが違ってくると思うけれど、その違いを楽しみながら、繰り返し読みたいと思える作品です

    0
    2025年03月31日

    Posted by ブクログ

    夏川さんの本を最初に読んだのは、スピノザから。その本の何とも言えない優しさと強さに感動し、夏川さんの本を読みたいと手にする3冊目が「始まりの木」
    第一話で、古屋先生がどうして片足が不自由になったかが分かることに、驚いた。下手したら後半に分かる流れでもおかしくないのに。でも読み進めていって、登場人物たちのことを書きたかったわけではないからなんだと。主役は民俗学。自然に宿る神様たち。
    日本は豊かになったのか。お金にならない、仕事に役立たない、学問は何の意味があるのかと、純粋に知りたい学びたいという気持ちだけでは生きていけない、心の余裕がない気がする。
    心を削ってしまったから、風通しも悪くなって息が詰まる。理屈じゃなく、大事なことをしっかり感じ取れるかどうか。素敵な言葉たちがたくさん詰まっていた。
    もちろん登場人物も魅力的。古屋先生の偏屈な物言いは自分には心地良く、大事なことは言葉にしてくれる。偏屈に負けず学びに素直な千佳も素敵だし、仁先輩の飄々とした様も格好良い。1つのことを突き詰めて学ぶことは、何だか楽しそうに思う。

    「旅の準備をしたまえ」

    言われたい!旅したい!!

    0
    2025年02月24日

    Posted by ブクログ

    藤崎 旅の準備をしたまえ、このフレーズ好きだわ。ラストの所で出て来るのも粋だね、出だしから奇人扱いだけどちゃんと理由があるし余計な事を言わずに誤解されたまま。最初から最後まで読みたい欲求がある、なんでだろう波長かな、出だしの季節を表現する3〜4行がうま過ぎて、もちろん情景が浮かぶ。十一月の京都は黄と紅の町であるとか。柳田國男の名前は知っていたが語れる程読んでもいない。民俗学から農村の貧しさ和菓子知った所が始まりで使命感になる、神様も信じるじゃなくて感じる!それが民俗学!滅びる!はグッとくる。民俗学は知らないが思わぬ夏川草介さんで学べたこと嬉しく思います

    0
    2024年10月29日

    Posted by ブクログ

    やはり、夏川草介さんの紡ぐ文章はどこか温かい。情景も自分がその場にいるかの如く想像しやすい。
    また、作品名となっている「始まりの木」は古屋先生にとっては第三話であると思うが、二人にとっては第五話だと思う。

    0
    2024年08月18日

    Posted by ブクログ

    この著者の作品はいくつか読んでいますが、やっぱり医療については現実的です。ただ、それだけではなくて、理論では説明できない不可思議な出来事も描かれていて、丁度いい感じでファンタジーです。文庫版の解説はつまらなかったです。

    0
    2026年07月24日

    Posted by ブクログ

    ほんわか心に響く物語。民俗学って何だろうと考えながら読む。初めて読む作家さんだが、素敵。始まりの木を見に長野伊那谷ぬ行きたくなる。

    0
    2026年07月18日

    Posted by ブクログ

    自然を神として崇めてきた日本人、それが現代になり失われつつあり、このままだと「亡びるね」という言葉はズシッときた。
    民俗学がそれを救う!

    0
    2026年05月14日

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