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Posted by ブクログ 2024年04月14日
ここ最近で一番の本だった。
民俗学について研究する女学生と大学の先生の話で、何よりこの2人のやり取りがおもしろい。
民俗学って何なのか、まずそれが分からないと思うが、本を読んで思ったのは倫理に近いものだと感じた(正確には違う)。理屈ではない、神に対する信仰心とかそういった類のことである。
正直私は、...続きを読む神とかまったく信じていない。この本に出てくる例えば、樹齢何百年の木とかも新しく道路を作るために伐木するのに何も思わないし、どんどんしろとも思うタイプである。それが経済のためになるし。
ただそれに対してこの本では、そういう自らの幸福を求めている人だけの国は亡びていくとしている。目に映ることだけが全てだと考えるようになれば、すごいシンプルな世の中であるが、そういう世の中になっていくということは、自分より力の弱い者を倒すことは倫理に反するどころか、とても理にかなった生き方になると。
また、「どんな物事でも、金銭に置き換えることでしか判断できないような、品のない人たちばかり幅を利かせている世の中」など心にぐさっとくるセリフが多い。
ぜひみなさん一読してほしい。
Posted by ブクログ 2024年04月02日
私、この本に出会えてよかった。
民俗学を軸に、日本人の心のあり方を考えさせてくれる1冊。
大学院生藤崎千佳が、何とも個性的で偏屈な准教授古屋神寺郎とともに、日本各地を巡る旅の物語。
まず、古屋先生が濃い笑。
ここまで濃くはないけども、私が師事している教授も濃いなぁと、自分の世界と重なってしまった...続きを読む。
そして、学問に対する、人としての芯の強さ。
古屋先生にあるその強さ、かっこよさが、私の世界の登場人物とも繋がる。
それを受け取る素直さ、柔軟さがあるからこそ、千佳ちゃんは成長していけるんだと思う。
そして度々登場する、民俗学の礎、柳田國男。それこそ度々名前を聞いていながら、まだ読んでいない。これを機に読もうと思う。
心に残ったフレーズをいくつか。
「神も仏もそこらじゅうにいるんだよ。風が流れたときは阿弥陀様が通り過ぎたときだ。小鳥が鳴いた時は、観音様が声をかけてくれたときだ。そんな風に、目に見えないこと、理屈の通らない不思議なことは世の中にたくさんあってな。そういう不思議を感じることができると、人間がいかに小さくて無力な存在かってことがわかってくるんだ。だから昔の日本人ってのは、謙虚で、我慢強くて、美しいと言われていたんだ。」
「大切なのは理屈じゃない。大事なことをしっかり感じ取る心だ。人間なんてちっぽけな存在だってことを素直に感じ取る心なのさ。」
「この国には、この国特有の景色がある。その地に、足を運ばなければわからない、不可思議で理屈の通らぬ、怪しささえ秘めた景色だ。その景色と向き合い、何が起こっているのかをただ見るだけでなく感じ取らなければいけない。」
その道がどこに続くのかもわからぬまま、ただ木は切られ、道は広げられ、東京は巨大化していくことになる。
その流れを止めることはできない。
アスファルトとコンクリートの町の拡大を、押しとどめることはできないし、とどめることに意味はない。
大切なことは、どこに向かって道を切り開いていくべきかをしっかりと見定めることだ。無闇と前に進むことに警鐘を鳴らし、ここに至り来たった道筋を丹念に調べ、どこへ道をつなげていくべきかを考えていくことだ。
多くの人が闇の中を手探りで歩んでいる今、未来を見据え、先々にささやかでも灯火を灯していくことができるのだとすれば、それはずいぶんと愉快な仕事ではないだろうか。
Posted by ブクログ 2024年02月02日
大学で民俗学を専攻する千佳は、変わり者の指導教官である古屋に付いて、日本各地を旅してまわる。
千佳に皮肉ばかりをあびせる辛口な古屋だが、実は情に厚く、日本の行く末を案じる熱い心を持っているのだった。
千佳はそんな古屋の内面に触れ、民俗学の意味について理解しはじめる…
民俗学という学問がどういうも...続きを読むのなのかほとんど知らなかったが、
『未来のために過去を調べる』という古屋の言葉に、漠然と抱いていた民俗学へのイメージが一変した。
あらゆる物に感謝の念を持つ日本人特有の心の持ちようは、受け継がれていくべき大切なものだと思う。
全編を通して優しさに満ちたストーリーだった。
Posted by ブクログ 2023年11月23日
主人公と大学の先生とのやりとりは、読んでいて楽しかったです。と同時に、こんなに大学の先生と親密になり、自身の研究にいそしめる状況が羨ましくもありました。日本の素晴らしい自然風景の描写も、目に浮かぶようでした。
民俗学について、この本を読むまではほとんど知識がなく関心もなかったです。
現代の日本人...続きを読むに欠けている自然への謙虚さ、目に見えることだけが全てでないということ、大事なことをしっかり素直に感じとる心、などハッとする事柄がたくさん散りばめられていました。
神宮外苑の銀杏並木伐採問題や、ビッグモーターの街路樹問題など、心に引っかかっていることが思い出されてきます。
文庫本の解説は、倫理学者の方が書いていますが、倫理学のことも理解でき、読む価値があります。
「神様のカルテ」も好きですが、同じくらい「始まりの木」も心に残りました。
Posted by ブクログ 2023年11月09日
とても、とても良かった。
私も探しているであろうことの端っこが見えかけたような。
人間という小さな存在には説明出来ないけれど、それでも何かを解りたい、何かを掴みたい、という想いを書いて下さったのだ、と思った
古屋先生の言葉の端々に滲む愛を、深く受け止めたい。
Posted by ブクログ 2023年12月05日
昔から受け継がれてきたものはそれなりの根拠があるのだろうな~
自然の雄大さと素晴らしさ、厳しさも感じられすべて大切にしていくべきだと思いました。
Posted by ブクログ 2023年10月03日
民俗学の准教授と教え子の女子院生がフィールドワークに出かけ、日本人の失ったもの(失いつつあるもの)や神様について問いかける。
樹齢400年や600年の古木の存在感や、お遍路さんの「同行二人」という言葉が印象に残りました。八百万の神という言葉が浮かびました。
解説まで読み応えありました。
Posted by ブクログ 2023年09月29日
ひと言で言うと、偏屈の鎧を着た民族学の准教授と
元気な大学院生が、フィールドワークの旅に出るというお話
この二人の関係がいいね
突き放しているようで、実は深い思いやりを持つ師と、文句を言いつつも尊敬し信頼する学生
民族学の深さも感じられる
でも、一番心に残ったのは
後半に出て来る老住職の言葉だ
庭...続きを読むの桜の大樹を観ながら杯をあおり
「大切なのは理屈じゃない。大事なことをしっかり感じとる心だ。人間なんてちっぽけな存在だってことを素直に感じ取る心なのさ。その心の在り方を仏教じゃ観音様って言うんだよ」
それは、別の宗教ではまた別の呼ばれ方をしているということだね
呼び方は人間が決めたものだからいろいろあるけど
本質的なものは同じということなんだね
とても大事なことを教えられた気がする
Posted by ブクログ 2023年09月09日
神様のカルテでは、患者と医療に真摯に向き合う姿があって、この本では学問に真摯に向き合っていて。著者の物事への考え方、感じ方が、自分と似ていることころがあって、夏川さんの本がすごく好き
金銭とか科学的な物差しでは測れない、感じる世界、心の世界を大切にしたい
Posted by ブクログ 2024年04月13日
多くの方がレビューを書かれているのを見て、昔読んで面白かった「神様のカルテ」の作者さんでもあり、買ってみることにした。
高名だが変わり者の民俗学者とその教え子がフィールドワークで日本各地を旅する物語。
二人は旅先で様々な風景に出会い、その美しさが描かれるとともに、あわせて、民俗学の意義、学問に対す...続きを読むる姿勢、古来からある日本人の神や自然との付き合い方などが語られていく。
偏屈な先生と勝気な女子学生という組合せは、まあ、いいコンビだとは思うが、そのやり取りに新味はなく、そこにはあまり惹かれず。先生が自ら「障碍者」を連呼するのもいかがと思う。
民俗学について書かれた内容やそのあり様については知らないことも多くあり興味深かった。
『人生の岐路に立ったとき、その判断を助ける材料は提供してくれる学問だ』というのにはやや煙に巻かれた感じだが、『未来のために過去を調べる。それが民俗学である』には、主人公と同様になかなか惹かれるところがあり。
エリートだった柳田國男がその後半生を民俗学に費やした理由については、まったく無知だったので、ちょっとした驚きがあった。
古来からの日本における神を感じるという信仰のあり方や神の存在についての考察(『この国の人々にとって、神は心を照らす灯台だった』)、自然との付き合い方についての思いは理解できるし、そうした宗教観や倫理観が薄れてきた結果、権力や金の力が跋扈する今の世相に対する批判にも頷けるところは多かった(いささかお勉強臭かったが…)。
お話の中では第二話の鞍馬での出来事や最終話の桜が満開の風景などがとても印象深い。どちらのエピソードも色や絵柄が目に浮かぶよう。
ただ、それを何度も『理屈の通ることだけが真実ではない』などと言わなくても、普通にファンタジーとして描けば十分に伝わったようには思った。
最後の解説がこれまた難しくて、残念ながら十分に読み下せたとは言い難い。
これについて行けるようであれば、この物語の言わんとするところをもっときっちりと理解できたのであろうかと思わされた。
Posted by ブクログ 2024年03月29日
こちらも皆様の本棚から、評価が高かったので気になっていた一冊。神様のカルテの夏川先生。
大学の文学部で民俗学を学ぶ藤崎千佳は、指導教官の古屋についてフィールドワークへ出かける。
古屋は事故で脚に障碍がある為、千佳が荷物持ちなどをしながら旅をする。
偏屈な先生なのだが、どこか魅力的な存在。
先生...続きを読むとの2人旅を通して、たくさんの気付きを得る千佳。
相変わらず夏川先生の作品は、上品で言葉の一つ一つが素敵で、本好きさんにはたまらないだろうなぁ。。。
私みたいな学のない物にはちょっと難しかったのだが、素敵なお話が一冊の中にギュッと詰め込まれていた。
日本の神様っていいな。。。
日本の八百万の神様、私の腰痛を治して下さいな。。。
↑こういう奴には奇跡は起きないな。
四国八十八ヶ所歩いて回るくらいの気合いが無いと。。。
あ゛ーーーーーー
腰痛い。゚(゚´ω`゚)゚。
Posted by ブクログ 2023年10月10日
夏川さんが書きたかった内容なんだろうな、と思いながら読み進めました。個人的には関心の高いテーマ、領域なのですが、物語という観点からは、そこまでではなかったかな、ということで星三つ。
Posted by ブクログ 2023年09月21日
表現がとても綺麗
途中まさかのスピリチュアル!
それから所々スピリチュアルが出てくる
意外なところで涙してしまった
最後、住職も教授も誰も死んでない
古屋が教授になったかもわからない
ちょっともやっと
それが良いのか!
景色の表現が細やかでとても美しい言葉なんだけど想像するまで深く考えられなかった
...続きを読むさらーっと読んでしまった
古屋との掛け合いは面白かった
毒舌に言い返せるくらい頭の回転早くなりたいw
民俗学とは全くわかってなかったけれど面白そうだな、とは思った!
日本における神様は、大樹だったり滝だったり岩だったり身近にあるもののことが多い
住職の「亡びる」ニヤリがこわい
Posted by ブクログ 2023年08月26日
『神様のカルテ』の作者が民俗学をテーマに小説を書いたと知り、気になって手に取った。青々と葉が茂る巨木が描かれた表紙、フィールドワークとして青森や京都を訪れる物語である点にも惹かれた。
第1話はいきなり「寄り道」であるが、教官・古屋と千佳の人物紹介的な章となっている。難しい話だったらどうしようかと思っ...続きを読むたが、そこは夏川さんの小説らしく、登場人物が個性的かつ魅力的に描かれていて引き込まれた。民俗学が何かを直接的に説明することはないが、古屋と千佳の会話からそれに触れることができ、興味をそそられる。
2話は少しオカルトめいた話だ。古屋はここでも芯のある言葉を千佳に伝える。「科学の通じない領域にも真摯な目を向ける」「世界はそんなに単純にはできていない」
3話、本書タイトルとなる「始まりの木」では古屋が奥さんとそして民俗学と出会った過去が語られる。
物語が進むごとに少しずつキャラクターの背景が明らかになり、人物像に深みが増すあたりも夏川さんらしい本だなと思う。