あらすじ
「医療では、人は救えないんだよ」
現役医師が描く、人の命と幸福について。
2024年本屋大賞第四位&京都本大賞受賞、映画化決定の感動作『スピノザの診察室』続編、ついに刊行!
※シリーズではありますが、本作単体としてお楽しみいただけます。
「君はここまで来るために、何人の患者を死なせてきた?」
思想する医師・雄町哲郎は今日も京都の街をゆく。
大人気、哲学エンタメシリーズ待望の第二弾!
【あらすじ】
大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望されながらも、母を亡くし一人になった甥のために地域病院で働く内科医の雄町哲郎。
ある日、哲郎の力量に惚れ込む大学准教授の花垣から、難しい症例が持ち込まれた。
患者は82歳の老人。
それは、かつて哲郎が激怒させた大学病院の絶対権力者・飛良泉寅彦教授の父親だったーー。
「エピクロスが主張している快楽の本質は、何よりも『精神の安定』のことなんだ。だから自分は快楽主義者だと言う奴に出会ったら十分に注意することだ。心の平静を求めているのか、ひたすら快楽を求めているのか、こいつは全く別物だよ」(本文より)
エピクロス……古代ギリシャの哲学者。快楽主義を提唱した。
【著者からのメッセージ】
「幸福」とは何か。
本書の主題は、前作『スピノザの診察室』と同じく、この問いの中にあります。
幸福に生きるとはどういうことか。幸福は環境が与えるものなのか、それとも自分の力で生み出すものなのか。幸福と快楽とは何が異なるのか。
これらの問いが私の中で年々重みを増しているのは、臨床現場で様々な命の在り方に出会うからかもしれません。無論、容易に答えが出るものではありませんが、思索の旅を少しずつ前へと進めています。
古代ギリシャの哲学者エピクロスは、快楽主義の祖と言われる人物ですが、この問いに、実に簡潔な答えを示しました。
それは、心に悩みがないことと、肉体に苦痛がないこと。
彼が提示したこの素朴な条件に、私はもう一つだけ付け加えます。
すなわち「孤独ではないこと」。
多様性の名のもとに、人と人とのつながりが断ち切られ、互いに歩み寄ることが難しくなりつつある現代だからこそ、この物語が多くの人の足下を照らす、温かな灯火となることを願っています。
――夏川草介
【著者プロフィール】
一九七八年大阪府生まれ。信州大学医学部卒業。⻑野県にて地域医療に従事。二〇〇九年『神様のカルテ』で第十回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。同書は二〇一〇年本屋大賞第二位となり、映画化された。他の著書に、世界四十カ国以上で翻訳された『本を守ろうとする猫の話』、『始まりの木』、コロナ禍の最前線に立つ現役医師である著者が自らの経験をもとに綴り大きな話題となったドキュメント小説『臨床の砦』、二〇二四年本屋大賞第四位、京都本大賞を受賞した『スピノザの診察室』など。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
『エピクロスの処方箋』(夏川草介)を読み終えた。前作『スピノザの診察室』も非常に心に残る傑作だったが、今作はその感動を何倍も大きく超えてきた。
何度も目頭が熱くなり、静かに涙を拭う瞬間があった。今年読んだ小説の中で、間違いなくナンバーワンの一冊だ。読み終えた今も、この物語の世界観にずっと浸っていたいという余韻が抜けない。
主人公の「マチ先生」こと雄町哲郎は、かつて大学病院で将来を嘱望された優秀な内科医だ。特に内視鏡の操作技術は「神技」と称されるほどピカイチ。しかし日常生活の身の回りのこととなると途端にとんと疎くなる、愛すべきギャップを持った人物である。彼が輝かしいキャリアを捨て、京都の小さな地域病院「原田病院」へ移った背景には切ない理由がある。亡くなった妹・ナナさんの忘れ形見(甥)である小学4年生の龍之介くんを引き取り、育てるためだ。身寄りのない龍之介くんと真摯に向き合うため、多忙を極める大学病院を離れる決断をした。
そんなマチ先生の根底には、前作のスピノザ、そして今作のエピクロスに通ずる深い人間哲学がある。「医療では、人は救えない。人を救うのは、人だ」——ただ病気や病変を治すための処方箋を出すのではない。冷静沈着で達観しながらも、患者のためにできることを一つひとつ積み重ね、心穏やかに過ごせるための「安心感」まで処方しようとする彼の姿勢に、何度も心を打たれた。
今回の物語の大きな軸は、かつてマチ先生が激怒させ、医局を去るきっかけとなった絶対権力者・飛良泉教授の父親の手術だ。マチ先生の腕に全幅の信頼を寄せる仲間・花垣准教授とともに、この極めて難易度の高い症例に挑むことになる。大学病院特有の政治的思惑や権力闘争が渦巻く中、本来そうした泥臭い事情を嫌うマチ先生だが、物語を貫くのはどこまでもまっすぐな人間ドラマだ。
特に存在感を放つのが、大学病院から研修に来ている南茉莉先生だ。思惑や立場に振り回されがちな大人たちに対し、「患者の意思はどうなんですか?」と、物事の本質を真っ直ぐに問いただす。このブレない姿勢が本当に心地よく、胸を突く。そして憎いのが、マチ先生と南先生の関係性だ。南先生の側には深い尊敬を超えた恋愛感情に似た思いが見え隠れし、無意識かもしれないマチ先生とのやり取りに、読者としてはハラハラ・やきもきさせられっぱなしだった。また、まっすぐに健やかに育つ龍之介くんの存在も、この物語に温かい光を注いでいる。
この小説は単なる医療ドラマにとどまらず、現代の「医師不足」や社会構造の根深い問題にも鋭く切り込んでいる。権利ばかりを主張し、私利私欲や楽な方へと流されてしまう風潮。全体を見渡し、本当に何が必要なのかを自分で考えて選択できる人間が減っているという現実は、決して医療界だけの話ではない。
自分自身が教員として日々現場に立っているからこそ、この問題は痛いほど胸に響いた。「楽な方に流れるな、目先の私利私欲に流されるな」と子どもたちに伝えていくことの大切さ。そして、多様な背景や事情が絡み合う現実の中で、それを貫くことの難しさ。自分自身の生き方や、教育者として何を伝えていくべきかを強く考えさせられた。
感動で涙が溢れる名場面の連続でありながら、深い社会的メッセージと人生哲学が込められた圧巻の傑作。近いうちに必ず再読したい。この素晴らしい世界観と「処方箋」を、ぜひ多くの人に味わってほしい。
Posted by ブクログ
雄町哲郎先生は、腕は一流で、医師として、そして一人の人間としての確かな哲学を持っている。患者にとって何が一番いいのかを考えながら向き合う姿がとても印象的だった。こんな医師に診てもらえたら、穏やかな最後を迎えられるのではないかと思う。そんな哲郎の生き方が周囲の人たちにも影響を与えていくところもよかった。
エピクロスの哲学と絡めながら物語が進むところも面白い。エピクロスのいう「快楽」とは、激しい喜怒哀楽ではなく、「いつも平穏で、心が穏やかでいられること」なのだという。そんな毎日を過ごせることが幸せだという考え方にとても共感した。心が穏やかになるような、素晴らしい本だった。
Posted by ブクログ
『スピノザの診療室』の続編。客観的というか俯瞰して書かれている文章からマチ先生の達観した雰囲気が伝わり、すぐに世界観に入り込めた。南先生が関わることで、新たな繋がりや見えなかった一面が広がり、マチ先生の思想を深掘りできたように感じられた。また、医療現場の過酷さなどが描かれているが、前作同様、それぞれの患者さんのキャラクターや、龍之介くんの優しさや謙虚なところや、原田病院の人たちの温かな雰囲気が物語を支えていて、最後まで気持ち良く読めた。
Posted by ブクログ
とても共感できる本。
働き方とか、人生をどう生きるべきかとか、夫婦の仕事の分担の考え方とか。
でも結局根本的に、自分が関わっている人には真心を持って、仕事には信念を持って向き合うことが大切だと言うこと。大事なことを見失いそうになったらマチ先生の言葉を思い出したい。
Posted by ブクログ
マチ先生に再び会えたー。
高い技術を持ちながらも町医者としての道を選んだマチ先生。でも熱い気持ちは変わらず。
1作目に比べて他の登場人物の気持ちも書かれていて、みんな信念がある医学に純粋な気持ちの医師達だった。だから衝突もあり得る、そして発展していく。
Posted by ブクログ
マチ先生の人間味あふれる医師はなかなかそういないよね。小さな病院で自信をもって働く姿は甥っ子の龍之介くんにもしっかり伝わってて素晴らしいです。人は必ず死んでいくけど死ぬ間際までそこにしっかり信頼できる医師がそばにいてくれることはうらやましい限り。医師である作者だからこそ、医学の要素もめっちゃ入ってそこも好きでした。読み終わったあと、じーんとあたたかくなりました。こういう本を待っていた!!濃茶の金平糖と阿闍梨餅を食べながら、浸ったいい時間でした。続編出ないかなー。
Posted by ブクログ
京都巡りしたいなぁ、お菓子付きで。
マチ先生は中村倫也のイメージで、映像が浮かぶ小説。
映像になっても、原作の良さはそのままのはず!
心の在り方、思考の在り方、生と死、幸せとは…
これまでも問いながら生きてきたけど、
マチ先生との出会いで新たな視点をもらえた気がする。
Posted by ブクログ
「理屈は措いて、患者のために力を貸してくれ」
この作品に登場する医師達は皆、立場や思想の違いはあれど、患者の為に在りたいと思う気持ちを共通して持っている。
立場や思想を超え、患者の為に動く医師達の連帯が激アツだった。
哲郎と花垣による内視鏡手術…聞いただけでもワクワクする。
前作と今作を読み比べると、前作は医療の、もしくは医師としての哲学を滔々と語る作品、つまりはスピノザの哲学における前段部分、運命を変える術を人は持たない、という部分に重きを置いていた作品と感じた。
対して今作は、後段部分、運命を変えられない中でも努力することが重要である、という部分を大々的に描いているように見えた。
難度の高い手術の「成功がもたらすカタルシス」を哲郎が感じていたことに驚いたが、なるほど確かに、そうでなければあの高度な技術は身に付かないだろう、とこれまでの哲郎の医療に対する向き合い方を思った。
終末期医療の現場を描いているため、患者を看取るシーンが当然あるのだが、人が亡くなるシーンに対し、悲しさよりも、温かな、安心するような気持ちを感じるのは、哲郎の哲学に魅了されている証拠なのであろう。
特に、元之助がこれまでの医師に対する苛立ちをぶっきらぼうに語るシーンが心に残っている。
スピノザの哲学と歴史ある古都の在り方を思う。
「人はいわば、大きな歴史という大河に浮かぶ流木のような存在だ」
大きな流れの中に在る我々は、流れを変える術を持たないが、その流れの中で何をするかは選べるのだ。
つまり、この作品に御鎌餅といううまそうな甘味が登場したのであれば、食べてみたいと思うのは当然の流れなのであり、それには抗えないのだ。
Posted by ブクログ
夏川先生の医療系の作品はどれもほんとに美しいなと思う。
それぞれの医師の価値観はどれも違っているけど、皆自分の仕事に真剣に全力で向き合っている。それだけでも自分の荒んだ心が洗われる気がした。
夏川先生の中にある医師としての異なる価値観を物語の登場人物に落とし込むことでご自身との対話をされているのかなあ。。
Posted by ブクログ
前作に引き続き、素晴らしい作品でした。
とにかく主人公のマチ先生が魅力的で、様々な哲学的な考え方に触れることができます。医療や死について考えるきっかけを与えてくれました。
私の祖父は末期の食道癌で、胃瘻を断って自宅で静かに余生を楽しみました。胃瘻についての話題が出ましたが、ついつい祖父の姿を重ねながら読んでいました。
Posted by ブクログ
良かった!とても良かった!
前作、『スピノザの診察室』よりも、さらにマチ先生の魅力が溢れている。
雄町先生の哲学、医療に対する真摯な考え方、大好きです。
医師の世界と、死に向き合う苦悩、病気を治すための医療技術、想像もつかない世界を夏川草介さんはいつも教えてくれる。
そして難しい手術内容でも、とても穏やかに丁寧に描かれているので、すんなりと読める。
このシリーズはまだまだ続きそうですね。
甥の龍之介くんの成長と、南先生との関係もまた続きが読みたいところ。
京都のお菓子も食べてみたいなあ。
ラスト、ちょっぴり伏線回収(?)というか、行くお店が良いですね!
『スピノザの診察室』は映画化されるようですが、キャストが気になります。
マチ先生はどなたが演じられるのだろう……
Posted by ブクログ
今作もとても良かった
タイトルどおりの、哲学をもって生死に対峙するマチ先生の温かさで、作中、患者さんを何人も看取るシーンがあるのに、哀しいではなくじんわりくるのがすごい
それから今回も花垣先生カッコよかった
教授とバチバチやるシーンは痺れました
Posted by ブクログ
達観しているように見えるマチ先生も、思考がぐるぐるなって、シンプルな考えができていないことに気付けないことがある。南先生に気持ちの答えを導かれて気づく部分がいい。
続編があればまた見たい。
妻が寝たきりの料理屋の店主の、「医者が誰も妻には話しかけず、自分にだけ話すことで、妻がもういない気持ちにさせられた。」という部分。
胸が締め付けられた。言われれば共感できる気持ちも、当事者でなければ気づかないことがたくさんあるなぁ。
Posted by ブクログ
雄町哲郎の新作。生きるとはなにか、死とはなにか考えさせられる。今回は恋模様もあって好き。そして内視鏡の手術シーンは手に汗握りくぎづけ。第三弾もお待ちしています。
Posted by ブクログ
エピクロスとは、快楽主義を提唱した古代ギリシャの哲学者です。
私たちが一般的にイメージする快楽主義とは、感覚的な快楽を幸せと考え、自分が気持ち良いと思うことを自由に追求していく思想ではないでしょうか。しかし、エピクロスが説いた快楽の本質は、本文にもあるように「何よりも精神の安定のこと」なのだそうです。
これは、還暦を過ぎた方なら少し理解できるのではないでしょうか。私自身62歳になった今、物欲や金銭欲、権力欲よりも、「日々を穏やかに過ごせれば、それでいい」と考えることが多くなってきたように思います。
2年前に読んだ『スピノザの診察室』でも感じたことですが、原田病院のような病院が自宅の近くにあったらいいのになあ、と今回も思ってしまいました。
今作では、雄町先生と南先生の距離が、物理的にも感情的にもぐっと縮まりました。二人がこの先どんな関係を築いていくのか、続編の展開も今から楽しみです。
また一つ、良書に巡り合えました。
Posted by ブクログ
「人生の面白さってものは、出世や月給にあるんじゃない。お前が思っているよりずっと複雑で意外性に溢れているんだ。
世の中には治せない病気が山のようにある。けれども癒せない哀しみはない。
幸福と快楽とは、とても似ている部分があるが、実際は異なるものだ。
エピクロスが主張している快楽の本質は、何よりも『精神の安定』のことなんだ。」
仏教で言うところの、八風におかされぬを賢人というなり、に通じると思う。
「良かれと思って進んだ道で、かえって患者さんを苦しめてしまうこともある。治すことだけが幸せな人生とは限りません。進むにしても、立ち止まるにしても、覚悟というものが必要です。
人を救うのは医療ではない、人なんだ。
すべての人がいずれ必ず死ぬのだとすれば、医師は何のために患者を診るんだ?
本当に大切なのは、目の前にいる人が今を笑顔で過ごせるということだよ。それが私の言う第三の道だ。」
素敵な言葉をたくさんいただきました。
Posted by ブクログ
医者とは立場も責任の重さもまったく違う看護師だけど、マチ先生の患者と向き合う姿勢には前作同様感嘆する。私も驕らず努力を怠らず自分にできることを黙々とやっていこうと思う。勉強頑張ろう。
Posted by ブクログ
前作『スピノザの診察室』から続く、京のとある町の小さな病院で日々医療に向き合っている内科医のシリーズです。
主人公は病に倒れた妹の遺した少年を引き取るために大学病院を退いた京都の町医者。病床数も少ない小さな町の病院に勤めている内科医の彼は、今日も外来、訪問診療、緊急オペと多忙な日々を過ごしている。そんなある日、大学病院の先輩医師より、複雑な症例の患者のオペを打診される。82歳の高齢患者で、既に3回の内視鏡手術を試みていずれも失敗に終わっているという。4回目の内視鏡手術。しかもその患者は大学病院の現教授、飛良泉寅彦の父親と聞いて、治療を進めるべきか断るべきか思案に暮れる彼だったが——。
前作、スピノザの診察室から1年越しで続編を読むことができました。この作者の先生は、ご本人が医療に携わる医師でおられるということもあるのだろうと思いますが、不思議と読者を病院の診察室に、ベッドの上に、"雄町哲郎"という一人の医師の前に連れていってくれるような文章を書かれるな、と思います。前作もそうでした。『神様のカルテ』シリーズとこの京都の町のお医者さんのシリーズは同じ医療小説であるのに、どこか雰囲気が異なります。京都の、古都の風景や情緒とそこに流れる歴史を感じさせる文章がそう思わせるのでしょうか。不思議です。
今作も、前作同様、物語自体は淡々と、けれど確かに進んでいく日々を綴っていくような展開です。劇的な治療法も、手術での手に汗握る描写も、派手な事故もありません。ただひたむきに医療に携わる人々の姿があるだけです。その、物語としては起伏に乏しく思うような日々が、静かな文体で粛々と、滔々と語られ、後からじわじわと感情が追い付いてくるような静かな感動と共に一冊に綴じられている。そんな感覚になるお話でした。
様々な哲学的な問答や、考え方が物語の中でも語られていきますが、それをしつこく感じさせないのは、作者ご本人が、それを自分のものとして感じ、考えてきたものなのだろうと思います。私は哲学者には知識が乏しく、どのような哲学者がどのような命題をどのように考えていったのか、ほとんど教科書の知識しかありません。けれど、遥か古代から人は、同じことを悩み、同じ壁に当たってきたのだろうということが感じられます。時間がたくさんあったはずの学生時代には思わなかったのに、時間が自由にならなくなった社会人になってから、もっと学びたいと思うようになるとは、皮肉なものです。
病気の人を救う(もしくは救えなかったことから立ち上がる)展開となりがちな医療系のエンタメ小説にあって、この物語の立ち位置は少し異なります。病気の、ではなく『人の心』に灯を掲げてくれるような物語です。登場人物それぞれが魅力的なことももちろん、彼ら彼女らの理念、信念が清々しく、静かに語りかけてくれるようでした。心が疲れた時に、何度も読み返したくなるような一冊だと思います。
幸福に生きるとはどういうことなのか、医療を通してその問いを考えさせられる、静かであたたかな一冊でした。
Posted by ブクログ
医療従事者として患者さんに向き合う時の
スタンス、心持ち。
前作もそうだが今作も深くうなずき、感銘を受ける瞬間がたくさんあった。
大きな流れとしては
主人公が困難と思われる処置に立ち向かうってことなんだろうけど
そこに向かう行動の裏にある哲学がすごいなと思う。
私にとって、ものすごく得るものがある作品
Posted by ブクログ
前作が良かったので期待して読み始めたが、ハードルが上がってるのに、さらに上回る良さ!これは手元に置いておきたい本。マチ先生が哲学と呼ぶ、人生の理念のようなもの。軸が常にぶれない。医療が人を治すのでなく人が人を治す。努力で、何事もできるようになるなどとは傲慢というのに同意。ある程度、そもそも、その事柄には優位性を持って生まれているのだという事を手先の器用さを遺伝と伝えつつ、努力したから手に入れたと思えるほど世の中甘くないと…本当にその通り。ままならない事だらけ、人間無力さばかり。あらがえない、誰のせいでもない。そういうことを語りかけてくれる。人の生き死にだけはどうにもならないと、父の死やナカナカ娘が授からなかった事、流産等通じて、その時初めて実感して体得した事を、マチ先生が周りのみんなに説いてくれている様を見ることができて何度も感涙。目の前の人が今を笑顔で過ごせること。かけがえのない日常。
Posted by ブクログ
「スピノザの診療室」の続編です。マチ先生をはじめとするおなじみの登場人物たちが以前と変わらない立ち位置と環境で出てきたので、すんなりと作品の世界に入り込むことができました(´vωv`*)
『長いようでわずかであったかもしれない。チェンバロが途切れたタイミングで「ただ」と寅重老人が思い出したように口を開いた。
「この年になって、好きな物が食えんというのは、ほんまに苦しいもんですわ」
…「カツ丼が好きだと聞きました」
老人の皺だらけの頬がふっとゆるんだ。いたずらが見つかった少年のような無邪気な表情であった。
-第三話 百鬼夜行-』
『清らかな檜の香り、厚みを感じさせないやわらかな餅皮、雑味のない澄んだ甘味、それらが渾然となった味わいは、今川の清澄な佇まいそのものだ。
…ー誰も彼も、遠くばかり見る世の中や。
嫋やかな、それでいて厳かな声が耳の奥に響いた。
ー足下の花にちゃんと目を向けるんやで。
-第四話 初弘法-』
胃瘻の話題もあり、今作は「食べものと関わる」、ふとした描写が印象に残りました。食べることが単なる栄養補給ではなく、「自分が今、確かに生きている」と感じ取る行為なんだなぁと思えました。最近は、気を抜くと食事を作業のように済ませたり、味わうことを忘れて、テレビや動画、SNSに心を奪われたりしてしまうので、何気なく口にするものの味や香りに丁寧に向き合いたいと思いました。長五郎餅に加えて、御鎌餅も覚えておきたいですね。
2026.8
レビュー1番手?
発刊同時に一気読み
家内用に書籍も購入。
今回も清々しく何度見てもホロりとする場面が多数
やはり先書のスピノザから読まれてからをオススメ
また京の街の銘菓巡りへ出掛ける用事が出来ました
前書拝読後、銘菓巡りのバス停待ちで後ろ走る自転車が
同じお店の名前の話しをしながら通り過ぎていったのは
いい想い出
Posted by ブクログ
「スピノザの診察室」の続編。
今回もマチ先生の言葉が沁みるんです。完治しない患者や家族にたいする言葉の選び方が優しくて。
前作から数年経ち、甥っ子や病院の関係とも少しずつ進んで、また一歩前進かな。
Posted by ブクログ
高度な医療技術を持ちながら、町の病院で患者の治療にあたる通称マチ先生
マチ先生と患者とのやりとりを通して医療のあり方、人生の最期の迎え方、作者の哲学が散りばめられたマチ先生の言葉に考えさせられることの多い作品だった
古都京都の街並みや風俗が伝わる文章も個人的には好きだった
快楽主義の創始者エピクロスの説く快楽とは心の安定のこと
心をかき乱されない為には苦しみのみならず、楽しみからも距離を置くことが大事と説いている
マチ先生と甥の龍之介の会話は銀河英雄伝説のヤンとユリアンみたいだった
Posted by ブクログ
高度な内視鏡の技術をもち、かつては大学病院の医局長を務めていた雄町哲郎。妹が亡くなり、その息子(甥)の龍之介を引き取ったことをきっかけに大学病院を辞め、京都市内の小さな総合病院、原田病院で働いている。患者は高齢者が多く、訪問診療や入退院を繰り返す患者の対応に日々追われている。雄町は医療に対して独特な哲学をもっていて、揺るがない信念に基づいて患者と向き合い、この小さな病院で働く意味を感じている。一方、雄町の技術と医師としてのあり方に強い信頼を置き、親友でもある花垣(大学病院准教授)をはじめ、大学病院への復帰を望む声も少なくない。
という、ペースにある流れは一作目と同じ。すごく大きな事件が起こるわけではないが、読んでいて自然と命や医療のことを考えずにはいられなくなる。こんな医者がたくさんいたら、どんなに安心して病院にかかれることか。今回の話題の中心は、医局を辞めたことで逆鱗に触れた大学病院の飛良泉教授の父の難しい手術と、原田病院に週に一度研修に来ている、後期研修医の南との関わり。
前作もそうだったが、情景描写が丁寧で、読んでいると頭の中に柔らかい線で描かれた映像が浮かんでくる気がする。
Posted by ブクログ
マチ先生の信念・哲学と、飛良泉教授の信念であり医師としてあるべき姿のやりとりかなー。どちらも正しいのに、相容れないというか。
教授父の手術シーンそのものは、案外サクッと。その前のやりとりが実に読み応えあり。
Posted by ブクログ
2026年本屋大賞4位。スピノザの診察室の続編ですが、こちらから読んでも問題ありません。
続編でも、主人公のマチ先生、やっぱり素敵ですね。
京都の町を舞台に、地域医療と、先端医療の狭間で、幸せについて問う作品。患者を生かす事に打ちこむ医者は多いが、マチ先生は誰よりも死を直視して人に寄り添う。
今作もまた、医療と哲学と相反する内容だけど、実に読みやすいし、生死について考えさせられ、素敵な言葉に溢れている優しい作品でした。
1番心に刺さったの、「人は死と向き合った上で、それでも絶望とは距離をとり、なお他者に心を致し、思いを馳せることができる」という考え方。
自分がまもなく死ぬとなった時に、周りに笑顔を振りまいたり、他者の好きな食べ物を用意したりできるかな…
賞味期限三日の大黒屋の御鎌餅や、阿闍梨餅、緑寿庵清水の金平糖、などなどを食べてみたいと欲にまみれている私ですが、遠くばかり見ずに、足下の花にちゃんと目を向けられる日が来るといいなぁ。しっかり前向きにしていただきました。
前作に比べて人間関係もかなり順風満帆のマチ先生、次回作に期待せずにはいられません。第1作の映画化も決まりましたし、未読の方は今からでも遅くないと思います。きっと貴方もマチ先生のファンになるはず。おすすめです。
Posted by ブクログ
『スピノザの診察室』の続編、登場人物は変わりないが、主人公マチ先生の不思議な思考経路と行動形態は相変わらず健在、特に花垣准教授と同輩として、南さんとは指導医として、西島講師には天敵としてのやり取りに読みがいがあります。
それと、かつて科学は哲学に含まれてたことがマチ先生の言動に現れていて、この物語には根底に哲学があるのがいい。
「・・知識は大事だ。でも物知りになることと、自分の頭で考えることは別だよ。どんなに医学書を読みあさっても、患者さんの看取り方は書いていない」
Posted by ブクログ
元々は大学病院で勤務していた医師が甥の面倒を見ることになって
別の小さめの病院で勤務するようになって、そこでの
患者との話や訪問診療などの話、あとは病院での手術の話などが
メインになっている。
基本的には医師の目線で話が進んでいくけど、医師も看取りなどで、
やはり生と死と向き合っていく仕事であることが良く分かる。
Posted by ブクログ
エピクロスが好きなので、タイトルに惹かれて買ってみたけど、肝心のエピクロスは第三話にちょろっと顔を出すだけ。特別出演の大御所みたいな感じでなんか肩透かし。
現役医師だけあって、医師不足や大学病院の構造問題、曇天の不定愁訴患者の増加など、医療現場の描写はとてもリアルで勉強になる。
人間関係の対立と和解、お涙頂戴気味の展開は読むに堪えない。が、途中で風邪をひいて頭痛と鼻詰まりで頭が回らなくなると、不思議なくらいスルスル読めた。三宅香帆が「世の中の大半の人は、本が読めないくらい疲れている」みたいなことを書いていた気がするけれど、なるほど、弱ってる時には、こういう物語が処方箋なのかぁ……とぼーっとした頭で妙に納得してしまった。