夏川草介のレビュー一覧
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『スピノザの診察室』を読んで、派手な展開や強く泣かせるような場面があるわけではないのに、読み進めるうちにじんわりと心が動かされ、気づけば目が潤んでいるような、静かな感動を覚えた。
この作品で印象に残ったのは、主人公が必要以上に前に出ないことだと思う。物語を引っ張っていくというよりも、周囲の人や出来事に寄り添いながら、その場にいる一人として存在しているように感じられた。そのため、読んでいる自分も主人公と同じ位置に立って、病院や街の風景を見ているような感覚になった。地域医療の現場の空気感や、人と人との距離の近さが、途切れることなく頭の中に流れ続けていたのがとても印象的だった。
また、主人公 -
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Posted by ブクログ
ネタバレずっと気になっていた一冊。2026年の本屋大賞に夏川先生の本がノミネートされたことをきっかけに手に取りました。
劣悪な勤務状況の病院に勤める主人公・栗原一止。夏目漱石のような独特の話し方で変わり者として周囲に見られているが、実は優しく誠実。患者に親身になって対応している姿勢が胸を打つ。最後の安曇さんからの手紙にはグッときた。
迷った時には立ち止まろう、という筆者からのメッセージは、日々何かを目指さなければいけないような雰囲気の私達をホッとさせてくれる。
一止と看護師・東西とのやり取りが面白い。一止が私には妻がいるから‥のくだりで、東西が呆れる場面があるが、本当は東西は一止が気になっているのでは -
Posted by ブクログ
※ネタバレあり
心温まる物語が好きな方、哲学的思考性のある方、京都が好きな方、甘いものが好きな方におすすめ。
最先端の技術で命を救うことが使命だった凄腕医師が、地域の町医師に転職し、多くの高齢患者の避けられない死と向き合う中で、医師にできることは何なのかを見つめなおす物語。
"たとえ病が治らなくても、仮に残された時間が短くても、人は幸せに過ごすことができる、できるはずだ、というのが私なりの哲学でね。そのために自分ができることは何かと、私はずっと考えているんだ"
本作の魅力は何といっても全体に漂う温かい空気感。
主人公の哲郎をはじめ、登場人物みんないいやつで言葉のひとつ -
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Posted by ブクログ
「学問をするのに必要なのは、気概であって学歴ではない。」
これがこの小説に通底するメッセージではないかと思う。高度医療だけでは救えない命があるし、看取れない命がある。大きな歯車だけではカラクリは精緻に動かない。小さな歯車と大きな歯車がうまく組み合ってこそのカラクリだろうし、社会もそうあるべきなのだろう。この小説には決して大きな歯車ではないが魅力的な人たちがたくさん登場する。主人公の一止先生も大学病院で高度医療を極めることより街場の医者として患者と向き合う道を選ぶ。どちらが優れてるとかどちらが良いということではないけれど、私自身も目の前の患者さんと真摯に向き合うような生き方をしたいと思う。