夏川草介のレビュー一覧
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ネタバレ一人の医師が、長野の地方病院という過酷な環境の中で、医者のあるべき姿や、友人や家族との向き合い方、そして生と死について、等身大に悩み続ける姿を描いた物語。
作中で、
「『良い医者』にはなりたい。だが何をもって『良い医者』とするのか。これは我が脳中にする至上の難題である。」
という言葉が登場する。
この一節には、本作の姿勢がよく表れているように思う。
「あるべき姿」はあるのか。あるとして、それは何なのか。そもそも正解など存在するのか。
病気や死をはじめ、人生には理不尽な出来事が数多く降りかかる。
本作は、そんな「ままならないもの」を解決しようとする物語ではない。答えのないものに対して、それでも誠実に向き合い続けることの尊さを、等身大の視点で教えてくれる作品だった。
また、長野という土地の描写も本作の大きな魅力である。
雄大な自然の中で、病と向き合う人々の日常が静かに息づいている。その魅力が詰まった一節を引用したい。
(以下引用)
『安曇野の向こうに連なる北アルプスが、乗鞍、常念、爺ヶ岳、鹿島槍、と、名高い名峰ことごとくくっきりと稜線をあらわにし、驚くほど近く見える。絶景と言っていい。(中略)安曇さんは、最初の感嘆の声をあげたあとは、言葉もなく目を細め、まぶしげに北アルプスの山々を見つめている。その心に去来するものは、故郷の記憶か夫との思い出か、我々が知る由もない。ただできることは、黙ってそばについていることだけである。幸い今のところポケットの中の院内PHSは静かに沈黙を守っている。(中略)「最後の最後にこんな幸せな時間が待っていたなんて、本当に人生というものはわからないものです」』
この場面に象徴されるように、本作は病気を治すことだけが人を救うことではない、と教えてくれる。 -
Posted by ブクログ
オススメで見かけて気になって買った本。
初め、何となく世界観が古賀史健さんの『さみしい夜のページをめくれ』っぽいなぁと読みながら思いました。どちらも本の素晴らしさを教えてくれるお話です。
「難しい本に出会ったらそれはチャンスだよ」
「難しいってことは新しいことが書いてあるって証拠だよ」
この言葉に私は嬉しくなりました。
『百年の孤独』は2回読んでもわけが分からなかった。
カミュの『シーシュポスの神話』もコリンウィルソンの『アウトサイダー』も挫折して積読に。
私は読めた時の景色を見たいから、諦めずにトライしようと改めて決意しました。
ちなみに…『星の王子様』は学生の頃読んでちんぷんかんぷんだったけど、大人になって読んだらすごくいいお話でした。
これからも本からたくさんの力をもらおうと思います。 -
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『スピノザの診察室』『エピクロスの処方箋』を読み終わり、夏川草介作品を遡ってみた。今回もオーディブル。
「孤独を取り除く」というフレーズが印象的だった。
ナレーターさんの節回しの影響もあるかもしれなけど、なんとなく森見登美彦の「四畳半神話大系」な空気もチラリ感じた。それはそれで楽しい。
”電子カルテを入力……”というフレーズに「おっ」と小さく反応てしまう(『スピノザの診察室』『エピクロスの処方箋』のときも同じだった)そして。「あぁ、普及したんだなぁ」と妙な感慨を覚えた。ITベンダー社員時代「電子カルテ」の普及(まずは利用が認められる必要があった)はビジネス的に重要テーマだったのだ(特に公共・医療系システム関係者にとって)。 -
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現代の医療における問題点を的確に表現しながらも、安曇野の雄大な自然や花、桂と美琴の爽やかな恋愛要素が彩りを添えることで、読みやすい一冊になっていました。
終末期の医療は、未だに発展途上の感があり、医療者の中でも悩みが尽きない分野です。御本人の意思が示されていれば、まだ救われるのですが、ない場合には御家族の決断が二転三転することは、よくあることです。死について話すことをタブー視するのではなく、家族や大切なひとと意思を共有できていたらいいのにと常々考えてしまいます。
この小説の中で最も共感した人物が、半崎です。半崎ほどの大事にはなっていませんが、私も看護師1年目にインシデントを起こしたことはあります。自分のせいで患者が、先輩だったらこうはならなかった。そんな思いが渦巻いて、病棟に行くのも、患者へのケアのひとつひとつが怖くて仕方なかったです。
今思えば、その時の自分にできる精一杯はやっていたし、新人だったらそんなものと、そう思います。個人の問題だけではないことを、今では痛感しているからかもしれません。どんなに予測して対策を重ねても、一日中1人の患者に張り付いていない限り、すべての事故を防ぐことは不可能と言っていいでしょう。この小説はその部分を、病院の実態を知らないひとにも伝えてくれるのではと思います。 -
Posted by ブクログ
「スピノザの診察室」と「エピクロスの処方箋」を先に読んだので、当作も京都の雄町雄介シリーズだと思っていたら全然違った。文調もいささかギャグ路線で上記2作とのギャップに読み始めのうちは戸惑った。
しかし読み進めるうちに、雄町雄介シリーズと同じく味わいを感じるようになった。舞台は信州松本。さりげなく地酒が紹介されたり、豊かだが厳しい自然の空気感が伝わったりと、その風土の想像を楽しめた。当作も大学医局と地域の草の根医療の対峙という社会テーマをベースにしている。そのジレンマの中で描かれる人間と人間の関わりには深く感銘を受けた。読後の余韻も良かった。傑作に出会えて満足である。 -
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本作は、現代日本が直面する終末期医療の「延命治療」や「看取り」という重いテーマを扱っているにもかかわらず、物語が暗く重くなりすぎず、不思議と安曇野の爽やかな風が吹き抜けるような読後感。
主人公の二人も魅力的だけど、彼らを取り巻く「死神の谷崎」「小さな巨人」「事なかれの遠藤」といった、ひと癖も二癖もあるキャラクターたちが物語をいっそう引き立ててくれて面白かった。
特に「死神」と呼ばれる谷崎の語る「看取り」のスタンスには「一理あるな」と妙に納得させられた。
「高齢者医療」は自分にはまだ先のことだと思っていたが、本作を通じて深く考えさせられた。もし自分がその立場になったら、過度な延命治療は絶対に望まないだろう。
安曇野の四季折々の花々の描写や、美琴と正太郎の爽やかな恋愛要素も微笑ましくて良かった。
続刊はでないのかなー!