夏川草介のレビュー一覧
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『神様のカルテ』を読んでまず感じたのは、これは地方病院で奮闘する医師の物語ではなく、「人を救う」とは何を意味するのかを静かに問い続ける作品だということだった。
舞台は、深刻な医師不足に悩む地方病院。主人公の栗原一止は、昼夜を問わず患者と向き合い続ける内科医である。過酷な勤務の中で、末期がん患者との出会いと別れ、大学病院への転職という選択、そして家族や仲間との日常を通して、自分がどんな医師でありたいのかを模索していく。命の危機が次々と訪れる医療ドラマではなく、一人の医師が患者の人生と向き合いながら、自らの生き方を見つめ直していく物語である。
この作品が描いているのは、医療の最前線ではない。命には救えるものと救えないものがあるという現実を前に、それでも医師は患者に何ができるのかという問いである。一止は決して天才医師ではなく、自分の無力さに何度も苦しむ。しかし、そのたびに患者を「病気」としてではなく、「人生を生きる一人の人間」として見つめ続ける。その姿勢が、この作品を単なる感動的な医療小説では終わらせていない。医療とは病気を治す技術である以前に、人の人生に寄り添う営みなのだということが、一止の日々を通して自然と伝わってくる。
印象的だったのは、病院の外で描かれる穏やかな時間だった。妻・ハルとの何気ない会話、御嶽荘での暮らし、親友たちとの交流。そのどれもが派手な場面ではない。それでも、その静かな日常があるからこそ、一止は命と向き合い続けることができる。読んでいて何度も考えたのは、人を支える力は特別な瞬間だけで生まれるものではなく、何気ない日常の積み重ねから生まれるのではないかということだった。患者に寄り添う医師にも、寄り添ってくれる誰かが必要なのだという事実が、とても温かく描かれている。
そして心に残ったのは、この作品が死を敗北として描いていないことだった。どれほど優れた医師でも、すべての命を救うことはできない。しかし、その人らしく最期まで生きられるよう支えることはできる。その考え方が物語全体を貫いているからこそ、別れの場面にも悲しみだけではない静かな尊厳が宿る。一止が悩み続けた「良い医師とは何か」という問いは、そのまま「人と向き合うとは何か」という普遍的な問いへとつながっていく。
『神様のカルテ』は、命を救う医師を描いた物語ではない。限られた命の時間の中で、その人らしく生きられるよう寄り添い続けることの意味を描いた作品である。読み終えたあとに残るのは、医療への感謝や感動だけではない。誰かを本当に支えるとは、相手の人生を変えることではなく、その人の人生に最後まで誠実に寄り添うことなのではないかという静かな問いだった。 -
Posted by ブクログ
『エピクロスの処方箋』や『スピノザの診察室』など、作者の描く温かく深い物語に惹かれていて、NHKでドラマ化されると知って読んでみた。
期待通り、今作も地域医療の日常や終末期の現実が淡々と丁寧に描かれており、じわじわとリアルさが染みてくる作品だった。
特に深く考えさせられたのは、終末期医療における「最善とは何か」というテーマ。
作中で「死神」と揶揄される谷崎医師。
読み進めるうちに、彼こそが誰よりも患者のことを一番に考えているのではないか、と感じるようになる。過酷な延命治療の限界を見極め、患者が人間としての尊厳を保ったまま穏やかに旅立てるよう、あえて泥をかぶっている。その真摯な向き合い方は、これからの高齢化社会に向けて深く考えさせられるものがあった。
そんな厳しい医療場面の中で、実家が花屋だという桂研修医がもたらす「花」の描写が、とても良いアクセントになっている。
血や管、機械音に囲まれた無機質な医療現場で描かれる花々の可憐さや美しさは、目に見えるようであり、緊迫した現場にしばしの安らぎを与えてくれる。
自然に咲き、自然に枯れていく花の姿は、人間の命のあり方とも重なり、物語をただ重苦しいだけで終わらせない救いになっている。
「生きることと、死んでいることの差は何か?」
きれいごとだけではない終末期医療の現実と、そこに添えられる花の美しさ。いつか必ず訪れる「自分や家族のその時」を静かに想う、きっかけをくれる一冊だった。 -
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ネタバレインスタのフォロワーさんのレビューを読み興味が湧いたので読んでみました。
古書店を営む祖父が亡くなり呆然とする主人公の前に、人の言葉を話す猫が現れます。そして、本を守るために力になってほしいとお願いされるところから物語は始まります。
本を守るために主人公とヒロインが奮闘する温かいお話でした。。
・・・温かいお話ではあるけれど、速読する人や、ビジネス書やベストセラーしか読まない人などを否定しているようにも受け取れてしまい、世界の名作を読まないと本が好きという資格がないような、そんな印象が少なからずあって、そこがちょっと引っかかりました。
著者の、名作への思い入れが強いんでしょうね。
どんな本でも読み手次第で得られるものはあると思うし、どんな読み方でも好きなようにさせて、私は思うのですよね。 -
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NHK 福本莉子さん主演 プレミアムドラマ「勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~」制作開始
生きることと死んでいることはどう違う?現役医師が描く高齢者医療のリアル
美琴は松本市郊外の梓川病院に勤めて3年目の看護師。風変わりな研修医・桂と、地域医療ならではの患者との関わりを通じて、悩みながらも進む毎日だ。口から物が食べられなくなったら寿命という常識を変えた「胃瘻」の登場、「できることは全部やってほしい」という患者の家族……老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差は何か? 真摯に向き合う姿に涙必至、現役医師が描く高齢者医療のリアル! 解説・佐藤賢一 -
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ネタバレ原著が刊行された1937年当時の医療と、現在の医療では共通することも、大きく変わったこともあったことが、小説を通じて立体的に感じられた。結核の気胸療法なんて知らなかった。チーム医療という言葉がこの年代の本に出てくる事に驚いた。
アンドルーが眩しく見えたり、むかついたり、読むのに体力を使ったが、夏川先生の解説も込みで、読んでよかった。
上巻とは異なり、クリスティンのあまりにも不憫な人生に胸が痛くなった。アンドルーが本来の自分を取り戻せて、明るいクリスティンがみられると思いきや、あんな終わりを迎えるなんて。
316「人間の心というものが、今回ほどの致命的な一撃を受けても立ち直ってくることができるということは、彼にとって不思議でもあり、また悲しいことでもあった。」という言葉が印象に残った。
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Posted by ブクログ
ネタバレ栗原一止は、信州にある「24時間365日対応」の本庄病院で働く内科医である。医師不足による激務で忙殺される日々は、妻・ハルの支えなくしては成り立たない。夏、新しい内科医として本庄病院にやってきた小幡先生は、内科部長である板垣(大狸)先生の元教え子であり、経験も腕も確かで研究熱心。一止も学ぶべき点の多い医師だ。
しかし彼女は治ろうとする意思を持たない患者については、急患であっても受診しないのだった。抗議する一止に、小幡先生は「あの板垣先生が一目置いているっていうから、どんな人かって楽しみにしてたけど、ちょっとフットワークが軽くて、ちょっと内視鏡がうまいだけの、どこにでもいる偽善者タイプの医者じゃない」と言い放つ。彼女の医師としての覚悟を知った一止は、自分の医師としての姿に疑問を持ち始める。そして、より良い医者となるために、新たな決意をするのだった。(あらすじより)
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今回は5編からなる。
新しく女医の小幡先生がやってきたり、
東西の昔の男の話があったり、
比較的オムニバス感が強め。
その分、1や2ほどの没頭感はなく、
大泣きした2ほどの壮大なストーリーはなかった。
ただ医者とはどうあるべきか?という根本的なテーマに触れる内容であり
新たに一止が踏み出すきっかけを描く巻であり、
ターニングポイントになる巻であることは間違いない。
一止が誤診をしてしまうあたりは、読んでいても予想外で
そこから踏み出していく流れはお見事だった。
それにしても、登場人物たちのウィットに富んだ会話の数々、すごすぎないか。
こんなセンスある軽口がそろっている職場、レベル高すぎる。
医師も看護師も、もちろんハルや住人も、魅力的な登場人物が多いのが、この物語に惹かれる一因だと思う。