本書の対談の目的は、2020年度から実施される高校の学習指導要領に入る新必履修科目「歴史総合」の発展に貢献したかったと山内昌之は言う。
山内昌之は中東の歴史が専門で、佐藤勝はご存知の通り元外務省分析官。
日本の近現代史で、これまで何となく気になっていた明治以降の歴史の背景や裏側の事情などを、この二人
...続きを読むがつまびらかに語ってくれる。
二人の情報量の多さ(博識)と鮮やかな切り口に感動さえ覚える。
例えば、
〇黒船来航時の混乱については、「江戸幕府はオランダからの国際情勢報告と、中国との通商ネットワークから、(アヘン戦争について)かなり正確な情報を得ていた。(黒船来航は)まったく未知の危機への驚きではなく、脅威は予期していました。そして危機感を想像力で膨らませすぎた結果として、必要以上のパニックを起こしたわけです」
そして「ペリーの力ずくの対日外交の背景には、イギリスとの国際的海運競争という重圧もあった」として、米英の国際的海運競争の実態を解き明かしてくれる。
また、当時の幕府も薩長も外国が深入りすることを嫌い、「外国の介入より敗北を選んだ幕府」の背景に迫り、戊辰戦争が世界でも犠牲の少ない内戦で終結させた理由を解き明かす。
〇時代は下って、「昭和を通じて、陸軍が最も警戒し準備しているのは対ロシア戦で、少なくとも陸軍の一部には蒋介石の中国と長期戦などやっている場合ではない、という認識があった・・・(略)・・・昭和13年1月の大本営政府連絡会議では、参謀本部の実質トップの多田駿が(中国の)戦線拡大に断固反対し、それに対して和平工作の打ち切りを主張したのが外務大臣だった広田弘毅でした。城山三郎の『落日燃ゆ』によるフィクションは歴史の真実を錯覚させるという点で怖いものがある・・・(略)・・・この広田弘毅という人物がよりによってこの時期に外務大臣の座にいたことがたいへん不幸だった。普通考えられがちな陸軍と外務省のイメージがここでは逆転しているのです。その結果、近衛文麿首相が出したのが『国民政府を相手とせず』で有名な近衛声明でした」
これら以外にも、西郷・大久保の対立、太平洋戦争への決断や、戦後の国体という意味についても面白い対談が交わされている。
近現代史に興味のある人にとっては、非常に有意義な必読書になると思う。