山内昌之のレビュー一覧
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著者の山内昌之氏は、中東・イスラーム史や国際関係史を専門とする歴史学者。
本書は、中東で進行する第二次冷戦とポストモダン型戦争が複雑に絡む「中東複合危機」を、歴史や地政学の観点から分析するとともに、その危機が第三次世界大戦をもたらすというシナリオを検討したものである。
著者はまず、現在の世界の状況を、自由主義対共産主義、資本主義対社会主義というイデオロギーの差異を基本とする国家のブロック対立を特徴としていた「第一次冷戦」に対して、中国、ロシア、イランのような、均質なイデオロギーを持つわけではないが、独裁や権威主義的な統治様式に依拠する国家群が、米欧本位で作られた国際政治経済・国際法のシステムに正面から挑戦する「第二次冷戦」と呼ぶ。
更に、自由や人権を基礎にした市民社会や国民国家を尊重するモダン(近代)の原理を否定しながら、カリフ国家やイスラーム法の実現というプレモダン(前近代)の教理を主張するISが、世界各地でテロを起こしている状況を、「ポストモダン型戦争」と呼び、その第二次冷戦とポストモダン型戦争が結びついたシリア戦争、ひいてはそこから派生する政治現象を「中東複合危機」と定義している。そして、その中東複合危機がグローバルに広がろうとしている点に21世紀の難点が集約されているのだという。
著者は、2015年年末から2016年年初にかけて起こった2つの事件は、そうした状況を象徴する事件として、世界史上の記憶に残るものであろうという。一つは、言わずもがなのISによるパリでの同時多発テロであり、二つ目は、サウジアラビアがシーア派指導者を処刑したことに激昂したイランが、テヘランのサウジアラビア大使館を焼き討ちにしたため、サウジアラビアがイランと国交断絶を表明し、イスラーム教スンナ派とシーア派の対立が先鋭化したことである。因みに、ローマ法王フランシスコは、前者のテロ事件の象徴性を、「まとまりを欠く第三次世界大戦の一部である」と表現したのだという。
そして、上記を分析するために、「大文字のイスラーム」(戦争やテロ行為を辞さない人々が依拠するイスラーム教)と「小文字のイスラーム」(多くの人々が穏やかに信仰するイスラーム教)の違い、スンナ派とシーア派の分裂と抗争、ISの生まれた背景と実態に加えて、過去に何度も戦ってきた仇敵であるロシアとトルコの対立、それにイランを加えたトルコ・イラン・ロシアの三竦みの状況等を詳しく取り上げている。
今後について、著者は、宗教やイデオロギーの対立が鎮静化するとは思えず、中東複合危機の終焉には相当に時間がかかるとし、むしろ、難民問題が中東とヨーロッパの政治状況を不可分に結びつける「中東欧州複合危機」ともいうべき新段階を出現させることにより、「まとまりのない第三次世界大戦」に突入しかねないと結んでいる。
中東地域を中心に複雑な対立構造が絡んだ国際情勢の現状、及び予想される将来を冷静に把握・分析するために、意義ある一冊である。
(2016年2月了) -
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古来組織と嫉妬は背中合わせでありました。
インテリジェンスの世界でも「歴史についてよく勉強すること。歴史は相似形をかたち作ることが多いのでそれを見逃さないために。加えて動物行動学的なものと嫉妬についてもよくよく勉強すること。人間の行動原理がわかるから」といったことがよく言われるようで、この本は嫉妬の歴史についてひも解いている本であります。
嫉妬というとプライベートの領域では女性と同一視されることが多いですが、仕事・業務・権力と紐付いた嫉妬というのは男性女性関係なく凄惨なものとなります。古来中国の宦官や大和王朝の公家に代表されるように、男の嫉妬は女性よりもむしろ陰湿さ激しさを増す場合が多いようで。
過去の嫉妬を叙述的に書いているので、何かすぐにこれに生かせるぞ!というノウハウ的なものが多いわけではありませんが、嫉妬をする人の思考のパターンや、嫉妬に陥る状況、そして周りからどう見えるかという第三視が豊富に記述されているため、自分がそういった状況に陥った時のパターン認識には有効に役立ってくれると思いました。
エピソードとしては、鴎外がこんなにも嫉妬深かったというのはこの本を読んで初めて知りました。浅学でした。 -
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げに恐ろしきは、男の嫉妬…。この本には男の嫉妬にまつわる妨害、追放、殺戮にまつわるエピソードが古今東西に渡って収録、紹介されてあって、読みながらおなかいっぱいになってしまいました。問題作だと思います。
あんまり具体的なことは書くまいと自分に 戒めているが、僕がとある出来事から学んだことは、男にとって嫉妬という感情が自分という人間を焼き尽くしてしまいかねないくらいに度がし難い感情であるということでした。やはり、嫉妬というものは女性のそれよりも男のそれのほうが何倍も激しいものなのだということを実感した次第でありました。
この本はそんな「嫉妬」というものについて、古今東西のさまざまなエピソードを通じて、世界史というものを考察するというものです。しかし…。嫉妬というものが場合によっては一国の運命を揺るがしかねないような途轍ものない感情であることが延々と書かれてあって『そうだよなぁ…』というなんとも言いようがない感情とそれに伴う妨害工作、追放。殺戮…etcのオンパレードに
「自分の中にもこういう『魔物』が潜んでいるのか・・・。」
という思いに恐れ慄いてしまったことを正直に告白します。
森鴎外は医学者でありながら小説も書けるということで最後まで男爵の称号を得られず、石原莞爾はその天才的な軍事的才能ゆえに東条英機から疎まれ、追放されます。旧ソ連のトハチェフスキーという将軍はその出自と教養。そして才能をスターリンにねたまれ、非業の最期を遂げる…。このほかにもさまざまな嫉妬にまつわるおぞましいエピソードが列挙されていて、新書ながら読んでいておなかいっぱいになってしまいました。
嫉妬。この度がし難い感情を否定することはできませんが、この感情に真正面から向き合ってみるためにも一読して損はないと感じています。 -
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東京大学大学院総合文化研究科教授の山内昌之氏の新刊。
本書はちくま新書の企画として『政治学の名著30』と同時期に出版されたものだが、内容はタイトルの通りである。『史記』『ガリア戦記』『読史余論』などの古今東西の歴史の名著がずらりと並んでいる。
名だたる歴史家がいかなる眼差しで時代をとらえ、語っているのかを本文を抜粋しながら、ごく簡単に説明されている。
ただ、恥ずかしながら私はこの本で紹介されている「古典」をほとんど読んだことがなく、自分の無学さ、不勉強さに恥じ入る次第である。しかし本書を読めば、たとえ時間がかかってもこれら「古典」に挑戦し、歴史の面白さを体感したいと思うようになるのである。
「歴史」は単なる暗記科目ではないということが、すぐにわかる一冊である。 -
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国際政治や外交については20年前の本であっても、今の日本を語っているように感じる
中公叢書 山内昌之 歴史と外交
イスラームとヨーロッパの関係を読んで〜異なる価値観を持つ人 との付き合い方は、相互主義を前提として、その人の宗教や思想は 尊重しつつ、自分は それを受け入れる自由 と 受け入れない自由 を持つこと、と解釈した
著者の歴史観は現実的。「歴史は 複雑に入り組んでおり、推測と主観性を消し去ることはできない 」とした上で
「ナショナリズムは、歴史の推測や主観性を増長させる」とのこと
日本と中国の歴史観の違い
「自由と多様性のある日本の歴史家には、データの細部にわたり一致した歴史観はありえないが、中国の歴史の最終解釈者は中国共産党であり歴史観は一致する」
「国益をめぐって対立する相手に対して、歴史認識を外交カードとして駆使する国家はおぞましい」
アラビアのロレンスのゲリラ戦術
*正規の軍隊と違い、自分たちは「蒸気同様であって好き勝手なところで爆発できる」
*戦争は可能なかぎり避けるべき〜人命尊重
*世論を操作して自らの大義に人心を引きつける
20年前に予測した未来シナリオ
1.ダボスワールド〜中国とインドの急成長と脱欧米化
2.パクスアメリカーナ〜アメリカのリーダーシップと不安定要因の日本
3.新カリフ制〜イスラームの新リーダーと欧米、中国、ロシアの衝突
4.恐怖のサイクル〜各国の大規模な安全保障対策、全体主義な世界
ガザーリー「知者であることの最小限の条件は、無知な一般の人々の仲間入りをしないことである」
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リーダーシップの本質は、フロネシス(賢慮)ないし実践知と定義している。
"フロネシスの中身を一言で言えば、個別具体の物事や背後にある複雑な関係性を見極めながら、社会の共通善の実現のために、適切な判断を素早く下しつつ、自らも的確な行動を取れる「実践知」のことを言う。そうした知を備えたリーダーがフロネスティック・リーダー"
フロネスティック・リーダーの能力
①善い目的を作る能力
②場をタイムリーにつくる能力
③ありのまま現実を直観する能力
④直観の本質を概念化する能力
⑤概念を実現する政治力
⑥実践知を組織化する能力
典型はチャーチル、目的が共有できなければミッドウェイのように陥る
本書は、それを備えるリーダーについての書。
現場とコンセプトをたえず行き来するフィードバック・ループを機能させるには、現場を身体的に理解しているリーダーの存在は不可欠。
それにはサイロの破壊と、タスクフォースの創設を通じた機動的な知の総動員がカギ。
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新聞や週刊誌に寄稿したもののまとめなので、一つ一つの文章が短く読みやすかった反面、内容が今ひとつ頭にはいりづらかったです。
リーダーシップと言うよりも歴史に学べと言う方に重点が置かれているように感じました。
リーダーシップも特に政治家に関するものが中心で、学びがないわけではないのですが、サラリーマンなど会社組織におけるリーダーシップを期待していると微妙かもしれません。
ロシアのウクライナ侵攻による学びについては、中東問題と絡めながら、今後どのような事が起きる可能性があるのか?と言う内容は勉強になりました。
リーダーシップと言う観点では、言葉と言動の一致の成功例としてのニュージーランドでのモスク襲撃への対応が特に分かりやすかったです。完全に理解できた訳ではないのですが、リーダーとして常に求められる本質・実体・現象の3つの重要性についても、自分の立場では何に当たるのかもう少し考えてみたいと思います。 -
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歴史学者である著者が、歴史を学ぶことの効用を伝える一冊。2016年に出版された書籍で、当時の日本の政治に関する著者の見立てが語られている。与党が自民党から民主党政権に移行後、再び自民党になるような時代。過去の歴史から、世の中を見通してみようという試みを感じた。
4章:歴史という武器から学ぶ
が特に印象に残った。
国が最も必要とするのが国民の強い意志であり、「大規模な一丸となった行動」
これを実現するため
①国民向けの公共教育の充実、②道路や橋から光ファイバーや各種ネットワークにいたるインフラの絶え間ない現代化、③高度の学術知識を持った移民の受け入れ、④研究開発と政府の援助、⑤民間の経済活動への支援と必要な規制の実行
この5つが重要であると指摘している。これらを実現するために過去から国家が試行錯誤してきた歴史があり、学ぶべきことが散りばめられているようだ。 -
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「嫉妬」という言葉を聞いて良い感情だと感じる方は少ないだろう。だが時に自身を奮い立たせる原動力になったり、その気持ちを抱いた後に来る自身に対する嫌悪感から、より精神を高度に成長させる糧にもなったりする。斯く言う私もビジネスの世界では同僚や後輩の昇進に内心平然ならぬ感情を抱いたり、学生時代には好意を寄せる女性が他の男と話をしているのを見ては、自分は大して好きじゃないという想いとは逆の態度をとりながら自分の精神を無理やり平静に保とうとした事を思い出す。これは絵に描いたような嫉妬である。
本書は歴史上の人物にも見られた嫉妬と、それを要因に発生した政変や粛清などを取り上げている。
それは古代ローマ時代から現代に至るまで、誰もがよく知っている人物にまつわる話が中心となっている為、非常にわかりやすく頭に入ってくる。
そして嫉妬の恐ろしさが世界史・日本史を大きく変えてきた事実にも驚愕してしまう。
兄弟間、夫婦間、親子、上司部下の関係などいずれのパターンでも人が常に自分と他を比べる性質である以上、何処にでも嫉妬は発生する。そして時代背景が戦時のような混乱した状況にあれば、嫉妬の相手方を容易に死に追いやることも珍しく無い。そのやり方も恨みの大きさや見せしめの効果を狙ったケースなどでは見るも無惨な形で執行される。嫉妬とはその様な恐怖につながる危険な感情だし、現代でもニュースにされる様な男女間の嫉妬の行く末などにも通ずる。
嫉妬が生み出すもの、自身の身を追い落とす存在になる様なケースでは相手への恐怖心、自身にできない事をやってのけてしまう事から来る畏怖の念、蹴落としてでも競争に勝ちたいという執念など、かなりの爆発力を秘めている。それほどまでに人を突き動かす原動力になるが、その一方で、そうした嫉妬を受けないタイプや、嫉妬の感情に縛られない人物もいる。本書はそうした人材も取り上げることで嫉妬の感情の抑制に繋がる方法も示唆しているようだ。
とは言え本書を読んで感じるのは、目立てば当然に周りからの嫉妬にさらされるし、そうならない様に身を潜めれば大業を成し遂げるのは難しいし、究極的にはそれを抱えながら上手く生き延びるしか方法は無いというこではないだろうか。
本書後半で取り上げる「天才」石原莞爾と「秀才」東條英機の辺りは非常に面白く、現代社会で自分の周囲を見渡せば、その様な嫉妬に渦巻く争いの一つや二つが容易に出てくる。
本書を読みこうした知識を持っておくだけでも、また一つ自分の精神を周囲にはコントロールされにくい強固なものにできるのではないだろうか。会社組織なら優秀な部下がいてこそ、チームの勝利と自身の評価に結びつくのであって、部下への嫉妬などは持たない事である。万が一上司部下の関係がひっくり返るなら、自身の努力が周りに対して及ばなかっただけである、と素直に受け入れるだけである。が、自分がそこまで立派な人間になる日は遠そうだ。