山内昌之のレビュー一覧
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「失敗の本質」の続編となる本書は、前作よりも読みやすい内容で、色々と頷きながら読み終えました。
イスラエルは、組織の戦略的失敗から学習を繰り返したそうです。
過去の成功事例にとらわれたり、他所の成功事例を真似るだけでは能がないと思っています。
やはり失敗から学ばないと。
恐怖心の存在を認めた上で、それをコントロールして任務を遂行するアメリカ兵。一方、恐怖心自体の存在を認めず、否認や抑圧によって受動的に対処した日本兵。
このあたりは山本七平氏の「日本はなぜ敗れるのか-敗因21ヵ条」とも共通する分析かと思います。
実践から学んで行動を修正することが出来なかった日本軍の姿も浮き彫りになっており、組 -
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「失敗の本質」の本を読んだことがあり、その後に久しぶりに野中先生の本が読みたいと思い読んでみた。非常に興味深い内容で、今まで通り日本軍の戦争を研究材料としつつ、戦場でのリーダーシップについて大量の論文とデータを元に分析されて納得感のある内容であった。
個人的には第8章の辻政信の内容に思うところがあった。幼い頃から文武両道で部下の信頼も厚く飲み会や風俗などが大嫌いで教科書に載るお手本のような軍人であるのにも関わらず、組織として何故上手く立ち回ることができなかったのか?日本人が目指すべき人物に限りなく近いはずなのに何故同世代のエリートには嫌われていたのか?そもそも日本の学問における優秀な人材は何 -
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認められたい。優れていることを証明したいという欲は暴走すると自らと周囲を滅ぼすことになる。そして、そのことによって自らの名誉(存命中・死後問わず)を失うことをスターリンや東条英機から学びたい。
私は小さなことで嫉妬に狂う凡夫だ。優秀な人の能力を目の当たりにすると自分の中で嫉妬の炎が燃えるのが分かる。読み進める中で、歴史に生きた人も同様であることに安心感を覚えたが、それと同時に嫉妬に狂った人生が喜びに満ちたものに終わらないこともよく分かった。
本書でも言われたように『知足』は嫉妬心を上回る心の支えになると思う。日々の小さな喜びを見出して、満足を得たい。
そして、優秀な人を見ても『余所は余所、 -
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ほんと読みたい本ばっかりです。
①歴史への問いかけ
ヘロドトス『歴史』―脱線の名人
トゥキディデス『戦史』―冷静無比の予言者
司馬遷『史記』―「激励の書」天道、是か非か
班固『漢書』―班馬の優劣はいかに
原勝郎『日本中世史』―日本史の美意識、西洋史の方法
②叙述の魅力
ギボン『ローマ帝国衰亡史』―ペシミズムと諸行無常の物語
頼山陽『日本外史』―叙事詩の人気
ブルクハルト『イタリア・ルネサンスの文化』―倫理的遠近法の歴史家
ホイジンガ『中世の秋』―美しい歴史の世界を求めて
ブローデル『地中海』―隠された「ヨーロッパ愛国心」
(付録1)ロレンス『知恵の七柱』―人間観察の芸術品
③歴史を見る眼 -
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時代の流れのなかにいるときは見えてこないことがある。
見えていても、カタチを伴ったものとして全体を捉えることができないので、時代の片隅にいた自分が見ていたものだけで、無意識にその時代を記憶に留めている。
自己の記憶はそういったもので、その記憶が己が生きる世のなかを造っていく。だから、人それぞれに見えている世のなかは違う。
でも、時代というのは、今を通り越すことによってその時間経過とともにカタチを現してくる。そしてそのなかで時を過ごした自分の記憶が、そのカタチのなかに位置付けられると、自分の記憶もまた朧気にカタチを伴ってくるし、違った存在になる。
もうすぐ8月が来る。また今年も日本 -
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黒船来航から、太平洋戦争、天皇人間宣言まで6章、山内昌之氏と佐藤優氏が対談で博覧強記、分析詳細しかも的確な語りを披露している。私には、目から鱗のことが多かった。
例えば、ペリーの後にやってきたロシアのプチャーチン提督が徹底した対話による外交を展開したこと。明治政府のシステムが初めから薩長を中心とした合議制で、2年近くにも及ぶそれが旧幕府も含めた超藩的な岩倉使節を可能にしたこと。サラエボで暗殺されたオーストリア=ハンガリー帝国のフランツ・フェルナント皇太子が、スラブに対して宥和的な考えを持っていたこと。日露戦争の後、日米戦争に向かわせてしまった政治家、外交官、論客、軍人などをたくさん挙げ、詳細に -
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歴史は勝者によって作られる。ただ、後世の我々は残された史料を、角度を変えて読み解くことにより、必ずしも「勝者の歴史」通りではないストーリーを発見することができる。
これは本書で語られている一節。まさにその通りで、例えば幕末史。司馬遼太郎の「竜馬がゆく」「燃えよ剣」は今や幕末の定説感さえ漂わしている。膨大な資料を渉猟し、書かれたとはいえ、あくまでも幕末を舞台にした「小説」。ゆえに、著書の主人公に対する肩入れから来る「作り事」も多く含まれている。黒船来航から明治維新までを概観する上においては格好の書ではあるけど、倒幕派=義 佐幕派=不義 という単純な見方で眺めるのはあまりにも短絡的過ぎる。「フィ -
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ネタバレ本書の対談の目的は、2020年度から実施される高校の学習指導要領に入る新必履修科目「歴史総合」の発展に貢献したかったと山内昌之は言う。
山内昌之は中東の歴史が専門で、佐藤勝はご存知の通り元外務省分析官。
日本の近現代史で、これまで何となく気になっていた明治以降の歴史の背景や裏側の事情などを、この二人がつまびらかに語ってくれる。
二人の情報量の多さ(博識)と鮮やかな切り口に感動さえ覚える。
例えば、
〇黒船来航時の混乱については、「江戸幕府はオランダからの国際情勢報告と、中国との通商ネットワークから、(アヘン戦争について)かなり正確な情報を得ていた。(黒船来航は)まったく未知の危機への驚きでは -
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野中教授が主張されている「現場感覚」「大局観」「判断力」を有した「フロネティック・リーダー」を裏付けるための、戦時の事実・将校の行動を通じて各専門家が論じている。
自分は、「石原莞爾」「辻政信」「山口多聞」の考察が大変深く印象に残った。
天才肌故か、組織に目配せする能力が欠落していた石原。
軍の基本ポリシーに忠実すぎるが故に数々の失策に対し誰も苦言を呈すことができず、結果的に独走を許してしまった辻。
組織や上官への抜群の目配せと溢れる程の愛国心故に自らの不利をあえて飲み込み率先して殉職した山口。
ヒューマニズムに偏った感想になってしまい、申し訳ありませんが、私にとっては非常に参考になりました。 -
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ISの拡散や、シリア政府崩壊とヨーロッパ難民問題について、いったいなぜそういうことが起きているのかわからない。しかし、これだけのことが起きているのだから、きっと知らなくてはならないはずだ。本書は、中東地政学や歴史の専門家がきちんと説明しているようなので、手に取った。そもそもこの本を読むまで、サウジがスンニ派(本書ではスンナ派と表記)、イランがシーア派ということもわかっていなかった。オサマ・ビン・ラディンが王族だったと聞いてそんな王族は大丈夫かいなと思っていたけれど、サウジには王子だけでも1,000人、王族は5,000人もいるらしく、それだけいるとスキャンダルも多いらしい。
というようによくわ -
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[多様な入射角から]二十世紀の終わりを目前にして、日本人のイスラーム研究の第一人者である筆者が、歴史について様々な思考を試みたエッセイ集。 タイトルにあるイスラームを始め、中央アジアやロシア、日本史や歴史観など、多様な角度から歴史の本質に迫る言及がなされています。著者は、『イスラームと国際政治』、『ラディカル・ヒストリー』など多数の著作を有する山内昌之。
(本書のタイトルが少し内容に鑑みてミス・リーディングな気はしますが)歴史の面白さ、そしてそれに深い洞察を有することにより見えてくる異なる地平の有意義さがひしひしと感じられる作品でした。エッセイが書かれた時期は今から15年ほど遡るのですが、 -
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[不穏に次ぐ不穏]シリアの混乱やISISの台頭、トルコとロシア間の不和や欧州への難民流入など、数多くの危機を「中東複合危機」と位置づけながら、その行き着くところを考察した作品。主に2014年から2016年初頭までの出来事が大きな画の中でまとめられています。著者は、東京大学名誉教授を務める歴史学の泰斗、山内昌之。
一見したところ「ぐっちゃぐちゃ」になってしまった中東地図を、地政学や歴史を踏まえながら俯瞰的に眺めた視点から再構成しており、最近の中東情勢を整理するために非常に役に立つかと。それにしてもこの2年間で、こうも中東が変貌したのかと驚きを隠せませんでした。
中東においては、国家という