島田雅彦のレビュー一覧
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私の最も好きな作家の文章論であり、ゆえに読む前の期待値が大きすぎたのかもしれない。タイトルは「文章作法」であり、前半はたしかに文章作法として読めたのだが、後半に移るにつれ、内容は人生論あるいは社会批評になってしまった感がある。
思い切って、本書を人生論、もしくは社会論評として読めば、内容はそれに見合った、著者ならではの洞察にあふれた書として読むことができる。だが、「文章作法」を読みたいという動機で本書を手にした私には、いささか拍子抜けの感があった。
島田雅彦氏の小説は、かなりの数を読んだと自負しており、その中にはすばらしい佳作が多くあった。だからこそ氏の書いた「文章作法」に期待した。少しでも島 -
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ネタバレ実は初めての島田雅彦。特に理由はないのだけれど、今までなぜか読む機会が訪れなかった。
最初はもやもやさせられるのだけれど、途中からはエンタメ的な流れになって、ページを繰る手が止まらないくらい。
でも話が盛り上がってくるにつれ、不安も覚えはじめる。期待される話の流れに対して、残ページ数が足らない気がするのだ。大団円の長ぜりふは、おそらく作者がいちばん言いたいことだと思うのだけれど、その後の展開がなく終わるので、読後感も結局は中途半端なまま。村上龍ならここから第2巻まで話をふくらませるだろうに、トム・クランシーなら1話4巻物で大河ドラマ化するだろうに、実に惜しい(笑)
余談ながら、解説を書いて -
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直木賞芥川賞選考委員でもある作家島田雅彦氏、彼の独自の思想と観点による日本文学史概論。
全十章は時代順に構成され、古典『源氏物語』に見る色好みの伝統から、西鶴と近松に見る江戸文学、漱石・一葉・谷崎から迫る近代文学の深奥、太宰と安吾らの作品から感じる戦後日本の精神と文学、そして文学の未来「AI小説」までと内容は多岐に亘る。
多様な視点と膨大な知識の上に成り立つ歴史観、そして作家の感性から日本文学史を捉え直し、日本文学に通底する日本人のDNAと文学そのものの存在意義を確信に満ちた光で照らし出す新しい文学論。
私にとって日本文学は茫洋たる大海と同じである。文学史の概要を言葉の上で理解する -
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別冊NHK100分de名著 「幸せ」について考えよう (島田 雅彦;浜 矩子;西 研;鈴木 晶)
アダムスミス、フロイトなどの過去の識者は幸福をどうとらえたのか?を総合的に解説。
まず資本主義の開祖アダム・スミス。どちらかというと自由放任のイメージがあるが、金銀財宝の量に富の源泉を見出す重商主義を否定し労働によってこそ価値が生まれるという労働価値説を展開しました。重商主義ならぬ「重人主義」。
人々に、話す力と同じくらい黙っている力があれば、世の中はもっと幸せになるだろう。──スピノザ
「幸福」について、初めてちゃんとしたかたちで語った哲学者はアリストテレス(*)です。『ニコマコス倫理学』という -
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島田雅彦というと、私が現役の高校生だったころから、国語便覧に載っている偉いセンセイである。
読まねばならぬ・・・はずなのだが、なぜか食指が動かず、今まできてしまった。
初島田である。
銀行員藤原道長が、支店長の悪を暴き、せめて差し違えることができれば、と、これまでの生活から「離脱」する。
娘の彰子、妻の香子(紫式部の本名ともいわれる)、そして彼の逃亡生活を助ける熟女源倫子、といった名前を見ていくと、何か現代の貴種流離譚なのかと思ってしまうが、そう読むと、波乱万丈なシーンさえ安心して読めることになるが、一方で特権意識に満ちた、かなり胸糞悪い話になってしまう。
これは却下。
意外とグルメ小説と -
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島田氏は結婚を勧める根拠として7つの理由を挙げているが、その中に離婚できる、というのがある。統計的には3割を超える確率で結婚は破綻していることをふまえ、結婚は決して永久就職ではなくなってきている現実を静かに指摘する。離婚を奨励しているわけではないが、いつまでもつか分からないというのが心構えでいるのが相当ということ。うまくいくときはうまくいくし、いかないときはどのように努力してもうまくいかない。そう達観するのが身のため。墓場まで一緒にいなければならないと考えるから苦しくなる。結婚をくびきとして考える必要はない。いやになったらいつでも別れればいい。そういう感覚でおれば結婚の敷居もグンと低くなる。
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無限カノン三部作の最後。
前二作の二人称の語りとは違い、カヲルの一人称で語られる。
命がけの恋を失った後、なんだかんだで妻子を得たがその後、商売道具である歌声を失いどん底へ。偶然にも旧友と再会し、なぜかエトロフ島に住むことになる。そこで現実離れした人々と出会い交流を深めていく中で自身も悟りの境地に至り、それまでの苦しみから解放される、失ったはずの恋によって。
正直な感想としては、この三作目は必要だったのか?と言うか、こういうカタチでしか決着できなかったのか?と思ってしまう。
恋を失った後が端折られ、妻との出会いや生活も端折られているため、歌声を失った後、何故妻子の元へ戻れなかったのかが理解でき -
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美貌というのは一時の権力だという。
もし自分がもっと美人だったら、あれもうまくいくかも、これもうまくいくかも、そう思ってしまうが、実はそうとも限らないようだ。
本書の主人公、白草千春は、その美しさから自分の運命が翻弄されてしまう。
かわいそうなほどに。
義理の父との約束はおぞましいし、「壇のおじさま」は高校生の千春に後継出産を依頼する。
気持ち悪い、そんな感情が先立つ。
「壇のおじさま」は彼女を大切にしていた。
同じように、あの彼も、この彼も、彼女を愛おしい、大切だ、そう思っていたのかもしれない。
たとえそれが一瞬であって
千春は死んで、やっと自らから解放されたのだろうか。
彼女の人生を語る