「売国」。
随分穏やかでないタイトル。
「ハゲタカ」を読んで以来、真山仁さんの作品は読んでいなかった。今回久しぶりに読むと、相変わらず骨太な作品だった。
物語は検察官富永と宇宙開発研究員である八反田との面から描かれる。
しかし、冒頭で一気に様々な人物が登場する。通産省官僚の男、宇宙航空研究センターの教授、官房長官、などなど。肩書きが小難しいひとがドヤドヤ登場するため、やや混乱する。読んでいくうちに収まってはくる。
そもそも検察官と宇宙航空研究員がどう繋がってくるのかと思う。
物語は現実にあり得そうだと感じられる絶妙な加減で、事実と虚構とが絡んでいる。このリアリティある物語進行は大変面白い。
しかし残念なことに、これで終わり?という印象は否めない。一応の解決を見せてはいるが、置き去りにされたものが多すぎる。
左門の生死が不確かなことも、富永の実家のその後や家族のことも、事件自体の捜査の行方と結論も、続編があるのかと思わせる。
読み方次第で結末は察しろというのは乱暴すぎるよう感じる。
検事富永が取り調べに用いようと実家の菓子司へ電話し、父親に和菓子を送ってもらうよう頼む。和菓子をわざわざ京都から東京まで父親が持参してくれる。その和菓子を見て、少年富永が祖母のために和菓子をこしらえたときのことを思い出す。
ここのくだりが富永の心と家族関係の歪さを上手く描けていて良かったのに、最後にどうなったのかが書いていないとせっかくのエピソードも無駄ではないだろうか。とても残念に感じた。
ロケット開発と政治とが絡むため、宇宙航空研究センターの描写は必要だが、八反田は特に必要だったのだろうか。
希望に燃えた若い研究員だからこその情熱に押された行動があるわけでもなく、何も出来ず流されているだけの人物を物語の中心に置く意味がわからない。
ロケットに関することや糸川英夫博士のことなどの記述が興味深いだけに勿体無い。
真山仁さんの作品は骨太な社会派で面白いのだが、確か「ハゲタカ」のときにも読後感が余り良くない、スッキリしないものが残った。
わたしには合わない作家さんなのかもしれないと感じた読書だった。