安田峰俊のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
中国の秘密結社が現代においても大きな意味を持つ、そもそも中国共産党が秘密結社の成功例だという指摘は面白い。中国の歴代王朝は中央集権的な体制を作ったが、地方に送られる官僚に土地への愛着はなかったために民生向上へのインセンティブがなく、政治や社会への不信感を抱かざるをえない、究極の自己責任社会だった。そこで血縁者同士のより集まった宗族や同郷会といった相互扶助組織が作られた。それが中国の秘密結社の下地になっている。
チャンツィーも入党した中国致公党という参政党、世界各国の華僑社会の秘密結社、法輪功、全能神、新天地教会といったカルトなどについて説明されている。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ世の中のことにとても疎いので読んでよかった。
印象に残ったワード「全体主義」「差別」「ファシズム」「水道法改正」「種苗法改定」「カジノ」「歴史修正主義」
コロナ禍だからこそ伝えたい「自由」と「権利」と「多様性」
p19「自由や多様性を守る」ということは、(コロナ禍で)マスクをしない人も、バーベキューをする人も、同じ社会で暮らす仲間として尊重するということ…せめて糾弾したり排除したりしないということ…自分たちの安全のためにどうしても行動を変えてもらう必要があるならば、その人の人権や生活が損なわれないよう、民主的な手続きを守りながら、理性的にお願いするということ
p17〜18 社会を民主的 -
Posted by ブクログ
現代における天安門事件の意義を描いた傑作ノンフィクション『八九六四』があまりにも素晴らしかった著者が中国の秘密結社をテーマにしたのが本書であり、もうタイトルを読むだけでワクワクしてしまう。
対象となるのはマフィア、マイナー政党、カルト宗教などであり、日本でも話題の孔子学院などは著者自らが潜入しており、その生々しさも含めて面白い。また、本書が優れているのはそうした普段は陽の目を見ないような秘密結社を白日のもとに晒したという点もさることながら、こうした秘密結社を共産党がなぜ執拗に迫害するのか?(例えば宗教団体の法輪功への迫害はその筆頭である)、という点への答えを見出している点にある。
本書での -
-
Posted by ブクログ
中華圏の周縁を生きる人へのルポルタージュをまとめた一冊。同著者の書いた「さいはての中国」の続編的な一冊。
内容的には濃くなっていて。中国本土の村同士の抗争が起こった地域に踏み込んだり、恐竜オタクから研究者になった人に話を聞いたり。中国の深淵をさらに覗き込んだ一冊になっている。
なんだけど…前作とはなんか味わいが違う感じがしていて。
それが何によるのかがわからずモヤっとしていて、レビューも書けずにいたんだけど、それが「読み手(聞き手)が書き手(話し手)に期待するもの」によるものの変化だとわかって、やっとレビューを書く気になった。
それを端的に感じさせるのが、本著の最後にある郭文貴という人物 -
購入済み
すばらしい
よくまあ、これほど丹念に、このテーマを追いかけたこと。すばらしいと思います。当時、彼の地で騒動が起こっていることだけはわかりましたが、実際に何がどうなっているのかは全然知らなかった。そうだったのかあ、といちいち興味深く、共感したり、反感を持ったりしながら一気に読了しました。筆者が何も押し付けてこない、ただただ、淡々と、今引き出せることだけを取材して並べた手法もすばらしいと思います。良書です。
-
Posted by ブクログ
安田峰俊(1982年~)は、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員も務める、ノンフィクション作家。立命館大在学中に中国・深圳大学に交換留学した経験から身に付けた流暢な中国語を駆使した、中国関連の書籍や雑誌媒体、テレビ等での活動で特に注目されている。2018年出版の『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』で城山三郎賞及び大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
本書は、2015年に単行本で出版された『境界の民』を加筆修正の上、2019年に文庫化されたものである。
本書のテーマは題名通り「境界の民=マージナル・マン」であり、取り上げられているのは、在日ベトナム人、日本ウイグル協会、日本人と中国人の間に -
Posted by ブクログ
天安門事件から30年が経過した現在に、関与した人たちへの入念なインタビューをまとめたドキュメンタリー。
現在でも中国政府は天安門事件に関して規制しているため、既に中国人の若者たちは天安門事件を過去の出来事として詳細に知ることも出来ない。さらに事件に関与した学生たちも、多くの人たちが現在の地位を脅かされることを恐れて、当時のことを語ろうとせず、事件は風化しつつある。
そのような中で、著者は粘り強く取材を重ねて、様々な形で事件に関係した人たちへのインタビューを行い、それらを本書にまとめられた。
さらに、現在の中国では経済成長に成功したこともあり、当時のように中国を変えようとする意識も低くなり、活動 -
Posted by ブクログ
「エロ」という根源的欲動をテーマを、中国に身を投げ出して取材するような著者だからこそできる取材スタイルで掘り下げた一作。
テーマ自体は中国人すべてにかかわるといってもいいテーマ。だからこそ、テーマを追えば追うほど「中国人のエロ」というより、エロよりも「中国人各人のもつフェチズム」が見えるようなところがあり。読めば読むほど「中国」そのものはわかるような、わからないような、そんな気分になる一冊だった。
個人的に気になったのは、東莞の性風俗事情について書いたくだり。接待向けにも使われる中国式の風俗サウナが中華圏の人に向けて特殊化し「莞式服務」とか「東莞式ISO」などと呼ばれある種のブランド化して -
Posted by ブクログ
「“その事件”を、口にしてはいけない」
1989年6月4日、中国の“姿”は決められた。
中国、香港、台湾、そして日本。60名以上を取材し、世界史に刻まれた事件を抉る大型ルポ!!この取材は、今後もう出来ない――。
天安門事件の学生指導者の筆頭であり、いまも中国民主化運動の象徴的存在である王丹は答えた。
「しばしば『天安門事件は中国を変えなかった』という批判がなされますが、しかし『たとえ中国を変えなくても世界を変えた』とは言えるはずですよ」
「私たちは自分の家の問題は解決できなかったが、よその家の問題を解決していた―――」
そしてこのルポの作者、安田峰敏は感じた。
「あまりに -
Posted by ブクログ
国境の隙間にいる人たちを取材した旅の記録。埼玉のベトナム人タウン、新疆ウイグル自治区での中国共産党の弾圧、上海の日本人社会、上海の日本人向け風俗店を営む中国人マスターの一族の話、国自体が「隙間」の存在である台湾、という形で章が立てられている。
取材されたのが2013・2014年で初出が2015年。4年を経て新疆ウイグルでのウイグル人達への監視体制の強化が進み、台湾の政治情勢よりも香港への中国の関与が大きくなっている。
現在コンビニで働く外国人のアルバイトの人たちの在留資格で出来るかはわからないが、仮に一部の人たちが永住するといわば移民一世となる。彼らの子ども達が社会人になる頃はどうなるのだ