【感想・ネタバレ】八九六四 「天安門事件」は再び起きるかのレビュー

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Posted by ブクログ 2022年02月24日

アメリカと世界の覇権を争わんばかりの成長を見せる現在の中国では、歴史の中に埋もれてしまっているように感じる天安門事件。
あれから30年が過ぎ、繁栄を謳歌する現在の中国の国民は、都市部に限っては現在の豊かな生活がある限り、自由を求め、共産党の一党支配に反対する声はあがらないだろう。
そして香港も同じ道...続きを読むを辿るのだろうか。

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Posted by ブクログ 2021年04月26日

1989年6月4日に起きた「天安門事件」、それは現代中国最大のタブーである。今も中国政府は「六四」「八九六四」元の金額の送金すら許さないという。当時、民主化を叫んだ若者たちを訪ね、その肉声をまとめた。事件は、ある意味で「祭」だった。そして、40年以上が経つ今、多くの人々はそれぞれの立場で「祭りの後」...続きを読むを生きていた。

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Posted by ブクログ 2021年02月11日

安田さんすごい。尊敬。いつかこんなものが書ける大人になりたいんだけどなれますか。

新聞に染まりすぎて「著者の感想が表に出る文章」を長らく書いてないけど、やはり筆者の考察が挟まれた方が読み物っておもしろい。一方でそれは明確に「これはあくまで筆者の考えです」とわかる書き方で書かれている。つまり「これが...続きを読む事実だ」という押し付けがましさがない。

かつて参加したけど今は現状の中国をそれなりに肯定する知識人(体制の受益者)、かつて参加したor後年目覚めた危うい一般人、今も気持ちがある少数の一般人、今もまじめに活動してる少数の活動家…
ざっと類型化するとこんなところか。
香港も台湾も今は何も影響を受けていないように見えるけど、台湾のひまわり運動は天安門の悪かった点をそのままプラスにして成功させたという筆者の見方が面白い。

ああ、中国。なんて大変で、なんて興味深くて、なんて人を飽きさせない国なんだろう。一生愉しませてくれるんだろうな。

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Posted by ブクログ 2019年09月08日

徒に結論を求めるのではなく、当時を過ごしたそれぞれの群像を忠実に写しとる作業の成果。誠実な成果物が、単に天安門事件だけはなく、わが国の政治体制についても、問いかけてくることが多々ある。著者の丁寧な努力に敬意を表したい。

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Posted by ブクログ 2019年06月26日

気がついたらノンフィクションで複数の賞を取ってしまい、なかなかレビューしづらくなってしまった。著者の得意とする「足で情報を稼ぐ」という古典的とも言える方法と、ネットを使った情報収集が組み合わさった結果として得られた傑作である。

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Posted by ブクログ 2019年06月20日

今年、発生から30年ということで、ニュースに取り上げられることも増えた天安門事件。日本では「中国共産党が民主化運動を武力で鎮圧した事件、すなわち悪」とした取り上げ方が大半です。この事件で天安門広場を占拠した当事者に、30年を経過した今の視点から当時の運動を再評価してもらうインタビューをまとめたのが本...続きを読む書です。
天安門事件の当事者は北京周辺の大学に通う当時の大学生が主体でした。30年前の中国で、北京に住んで大学に通うというのは相当なエリート予備軍です。彼らにすると、自らの既得権益を守ってくれる政治体制に対する反抗という位置づけになります。差別された貧困層が蜂起したわけではないのですね。
そういう背景もあって、様々な見解が引き出されています。当時のエリート層は事件後に器用に生きる術も持ち合わせている人が多いので、現在も経済的に成功した地位にある人が多く「あのまま共産党体制が倒れていたら、今の繁栄はない」と肯定的にとらえている人が多いのには驚きました。ソ連や東欧諸国の体制が崩壊して相当に国内が混乱し、国際的な地位や影響力が低下したことを引き合いに「ああならなくて良かった」と考える人が多いのです。
一方で、当時の考えをそのまま抱き続けて社会運動を継続している人(当然、現在の習近平体制では相当に厳しい監視がつけられている)、知識層の大学生の運動を「知識人の知識人による知識人のための運動」と冷めた視線で見つめていた庶民の存在も描かれています。
中国共産党は天安門事件の存在自体を否定するような教育を進めている状況で、天安門事件を意味する「八九六四」という数字を想起させる「六四」元や「八九六四」元のスマホ決済ができないというほどにネット上の規制をかけています。語る事さえタブーとされる今、「この取材は今では無理。天安門事件の最後の記録となるだろう」との本書の帯の文言は、決して誇張でないと思います。
天安門事件の当事者は30年前の大学生。すなわち私と同年代です。当時のニュース報道を思い出しながら、興味深く読みました。第50回大宅壮一ノンフィクション賞受賞のしっかりした内容のノンフィクションです。

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Posted by ブクログ 2018年10月08日

【紅き乱宴の後に】1989年に起こった天安門事件によって何らかの影響を受けた人々のその後の人生を取材した作品。当時のリーダーは,民主活動家は,そして血気盛んな学生をかばった教授たちは,今いかなる思いを抱えて生活しているのか......。著者は,中国に特化したルポライターとして活躍を続ける安田峰俊。
...続きを読む
個人のレベルにまで降りていき,天安門事件の内幕を語らしめた記録としても評価できる一方,大志破れた若者たちがその後どのような道のりを辿り得るのかを,痛切な実例と共に教えてくれる一冊でもありました。中国現代史に興味を持たない方にもオススメしたい作品です。

〜大志を抱いた孫悟空の人生は,実は筋斗雲を降りてからのほうが長かったのだ。〜

当時の実質的なリーダーであった王丹の独白を引き出したのはすごい☆5つ

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Posted by ブクログ 2018年08月12日

1989年6月4日に発生した中国の天安門事件。中国の正史上、なかったことにされており、口にすることはおろか、6月4日が近づくとWeChatPay等の送金アプリで8964元・64元という金額を送金することすら禁じられるこの事件について、政府に立ち向かった学生運動家や市井の住民、逆に政府側として鎮圧に関...続きを読む与した警察学生など当時を知る人々や、天安門事件以降の世代として香港の反政府デモである「雨傘運動」に関与した一連の運動家など、60名を超える人々へのインタビューをまとめた大型ルポルタージュ。

まず一読して、歴史的事実として認識している天安門事件(私自身は幼少の時代であり、ほぼこの事件に関する記憶はない)について、実際の現場で何が起きていたのかということを自分が何も知らなかったということを痛感させられた。本書では、事件当日、軍部が発砲を無闇に繰り返すことで流れ弾で死ぬ市民の存在など、メディアでは公にされない激しい流血の様子が複数人のインタビューから克明に浮かび上がってくる。

習近平就任後の中央集権化と抑圧的な諸政策は、近年の経済成長を背景として、現在のところは何とか国民の不満を抑えることに成功しているように見える。一方でこうして天安門事件を今振り返ると、経済成長が失速したときに何が起きるのか、薄ら寒くなるのも事実である。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年07月27日

天安門関係者に話を聞いて回った著書。ステレオタイプではない生の声が満ち満ちている。転向し出世した者、一貫して反政府の態度を貫き続ける者、後年にネットで「覚醒」し活動をはじめたことで人生を狂わされた者、日本人の目撃者、元リーダーとしての十字架を背負い続ける者と十人十色。

これだけたくさん話を聞くと散...続きを読む漫な印象に留まりがちだが、著者の豊富な知識に基づいた思考が、地の文としてところどころ記されているため、大変に読みやすい。

ワンテーマで何かを記そうとするとき、書き手はイタコとしてふるまうだけではなく、話し手の思考をしっかり理解し、分析しながら、書き進めること。それがなにより大事なのだということを知った。同業者として、今後の作品作りに大いに参考にしたい。

本の帯には「この取材は今後もう出来ない」と記されているが、聞き手の安全は担保されているのかが気になった。著者は最早、中国に入国することは無理かも知れない。

ネット検閲が強まる2015年(2014年と記していたかも)より前に取材を終えて、ギリギリ書き切ることが出来たと記しているが、確かに中国のネット検閲はエグい。それは私も取材を通して感じている。

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Posted by ブクログ 2018年07月22日

数々のインタビューに基づいて,六四天安門事件を描き出した好著。
左右双方から距離を置いた紋切り型でない取り上げ方がとても良かった。さまざまな思想背景,さまざまな人生遍歴が見えてくる群像劇。事件に少しでも興味のある人は必読だと思う。

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Posted by ブクログ 2021年10月04日

これは面白かった。天安門事件を当事者の視点で振り返ってもらうインタビュー。
学術的な意味や歴史的な意味は充分知っているけれど、これが天安門事件の核心だな、という感じがした。ウアルカイシのインタビューまで入っていて、天安門事件がいかに稚拙な運動だったかが浮き彫りになっていて面白い。

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Posted by ブクログ 2021年01月22日

かなり面白かった。
当時を振り返って、現在の中国人だけでなく日本人にもインタビュー。彼らは身分も「八九六四」に対する意見も様々で、「あれは失敗だった」と悔悟する者もいれば、今なお運動を続ける者もいる。
天安門事件とは何だったのか。何となくフワ〜っと始まったデモが、体制の武力行使によって鎮圧されたとい...続きを読むうのが事の顛末らしい。それによって大半の若者たちの心は折られてしまい、今なお傷痕を残している。

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Posted by ブクログ 2020年01月19日

天安門事件は中国の民衆の中ではすでに風化した経験であることを明らかにしたルポ。風化に現在の政権が加担しているのは明らかだが、それだけではないことが歴史の難しさを示している。

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Posted by ブクログ 2019年12月25日

1989年に天安門広場に集まった大学生たちは、国のエリート候補である自覚を持ち、親である共産党政府に甘える子供のような気分だった、というのはわかる気がする。

それを打ち砕き、近代史に残る事件としたのは、共産党内部の権力争いの結果だった。

集会に参加したエリート候補たちは、その後、中国政府の幹部と...続きを読むなった者、民主化運動を貫きアウトロー?化したものとさまざまだが、「言論の自由はないが豊かになった中国社会」に対する想いには複雑なものがある。

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Posted by ブクログ 2019年11月29日

"そこ"にいた人もいなかった人も、いまだに熱い思いを抱く人も冷めた目で見ている人も、さまざまなインタビューから紡ぎあげられる天安門事件はそのイメージが一つに集約されるわけでなく、歴史は様々な側面があることを肌感覚で知ることができる。
また、最近の香港における反送中プロテストの背景...続きを読むも垣間見ることもできた。
天安門事件の詳細な経緯などは他の書籍に譲るとして、インタビュー各人毎に節が構成されており、一人ずつ毎日少し読んでも飽きが来ないし、話の流れが途切れることもないので、気軽に読めるところが本書の良い点でもある。

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購入済み

すばらしい

2019年11月26日

よくまあ、これほど丹念に、このテーマを追いかけたこと。すばらしいと思います。当時、彼の地で騒動が起こっていることだけはわかりましたが、実際に何がどうなっているのかは全然知らなかった。そうだったのかあ、といちいち興味深く、共感したり、反感を持ったりしながら一気に読了しました。筆者が何も押し付けてこない...続きを読む、ただただ、淡々と、今引き出せることだけを取材して並べた手法もすばらしいと思います。良書です。

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Posted by ブクログ 2019年11月11日

香港情勢を理解する上で役に立つかな?と手に取った天安門事件の「後」を生きる人々のインタビュー集。一言でいうと「世知辛い」。自由より民主制より繁栄。豊かさを与えれば大衆は独裁に従順になる…。

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Posted by ブクログ 2019年09月14日

天安門事件から30年が経過した現在に、関与した人たちへの入念なインタビューをまとめたドキュメンタリー。
現在でも中国政府は天安門事件に関して規制しているため、既に中国人の若者たちは天安門事件を過去の出来事として詳細に知ることも出来ない。さらに事件に関与した学生たちも、多くの人たちが現在の地位を脅かさ...続きを読むれることを恐れて、当時のことを語ろうとせず、事件は風化しつつある。
そのような中で、著者は粘り強く取材を重ねて、様々な形で事件に関係した人たちへのインタビューを行い、それらを本書にまとめられた。
さらに、現在の中国では経済成長に成功したこともあり、当時のように中国を変えようとする意識も低くなり、活動家たちも一致団結する状態からは程遠い。
しかし、当時事件に関与したことで現在でも監視されている人物が自由な生活ができないという事実や、中国政府によって監視が日々強化されていることで、真の自由を得られていないことに中国人たちはいつまで耐え続けられるのだろうか。
また、ちょうど香港では大規模なデモが連日続いているが、このデモが同じような惨劇に見舞われることなく、平和的に自由の扉を開くきっかけになることを願う。

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Posted by ブクログ 2019年08月11日

 「“その事件”を、口にしてはいけない」
 1989年6月4日、中国の“姿”は決められた。
 中国、香港、台湾、そして日本。60名以上を取材し、世界史に刻まれた事件を抉る大型ルポ!!この取材は、今後もう出来ない――。

 天安門事件の学生指導者の筆頭であり、いまも中国民主化運動の象徴的存在である王丹...続きを読むは答えた。

「しばしば『天安門事件は中国を変えなかった』という批判がなされますが、しかし『たとえ中国を変えなくても世界を変えた』とは言えるはずですよ」

「私たちは自分の家の問題は解決できなかったが、よその家の問題を解決していた―――」


 そしてこのルポの作者、安田峰敏は感じた。

「あまりにも早すぎる時期に一生のハイライトを迎えた後も、人生はずっと続いていく。
 そして、生きて同じ道を歩んでいさえいれば―――。
 放棄ることさえなければ、若き日の思い出の一部が奇妙な形で報われることもある。

 ひとまず、そんな教訓らしきものだけは得られるのかもしれない。」


(内容紹介)より
 一九八九年六月四日。変革の夢は戦車の前に砕け散った。台湾の民主化、東西ドイツの統一、ソ連崩壊の一つの要因ともされた天安門事件。
 毎年、六月四日前後の中国では治安警備が従来以上に強化される。スマホ決済の送金ですら「六四」「八九六四」元の金額指定が不可能になるほどだ。
 あの時、中国全土で数百万人の若者が民主化の声をあげていた。世界史に刻まれた運動に携わっていた者、傍観していた者、そして生まれてもいなかった現代の若者は、いま「八九六四」をどう見るのか?
 各国を巡り、地べたの労働者に社会の成功者、民主化運動の亡命者に当時のリーダーなど、60人以上を取材した大型ルポ。
 語り継ぐことを許されない歴史は忘れさられる。これは、天安門の最後の記録といえるだろう。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年05月27日

天安門事件に対し、中国人の見方はさまざま。「民主化すべきだった」という意見に、「あのとき民主化すれば現在の繁栄はなかった」という意見。デモの参加者もどこか牧歌的だったところはあるし、子が親に反抗するような、そんな感じのデモだったという。多くの中国人が出てくるが、聞きっぱなしや書きっぱなしではない。し...続きを読むっかり著者の考察が入っており、ジャーナリズムの鑑だと思う。

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Posted by ブクログ 2019年03月15日

著者の別の本をたまたま読んだ流れで本書も読んでみた。なかなか読み応えがあるルポ。

彼の国ではタブーなこのタイトルの数字にピンとくる日本人は、よほど時事に詳しいか、極端に左か右の人でしょう。

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Posted by ブクログ 2018年10月13日

いや、素直に面白かった。僕より一回り近く若いこのノンフィクション作家の作品は、初期の「和僑」というのしか読んだことなかったのだが、それが今一つというかどうも口に合わず、その後読んでなかった。この作品はひょんなことから手に取ったのだが、取り上げた題材と切り口がうまく当たったのか評価一変。天安門事件を知...続きを読むってる世代の人も知らない世代の人も、一読の価値ある。
僕は天安門の時高一で、当事者以上に何も判っていなかったけど真剣にみていた。25年後の雨傘革命はまさしく現場でみた。それでも何か引っかかる思いがあった天安門と今の中国、香港への理解について、この本は良い助けになる。個人の感想は挟みつつも、基本的には当事者のインタビューで構成されているのが良かったか?
この本でも明確にされているように、天安門は過去のことになりつつある。けれど、今の香港と中国のフラストレーションを理解するには知っとかないとダメなんだな。色々整理されました。僕に取っては自分の人生に関わってくる部分でも有るので良いタイミングだったかも。半ば食わず嫌いだったけど他のも読んでみようか。

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Posted by ブクログ 2018年06月12日

天安門事件をめぐる同時代人の回顧録。多くの人の振り返りが紹介されていて、当時の運動への感情、現在の中国への目線が赤裸々に綴られている。
相反する二つの考えがあるとすると、かつて追い求めた理想と今の現実、前者は運動を弾圧する政府に怒りを燃やし、運動へ邁進したが、後者-経済発展が進んだ中国-を目の前にし...続きを読む、それを受け入れる、そういう感情を持つ人が多く、まあそうだよなと納得。

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Posted by ブクログ 2021年08月19日

19890604。
天安門事件である。
当時、なんらかの形で関わった人たちへのインタビューで構成される。
浮かび上がって来るのが、相当行き当たりばったりで、お祭り的な盛り上がり。中共はそれに、暴力で立ちふさがった。
その後、様々な生き方に別れていくが、開発独裁っていうのがそれなりに説得力があることが...続きを読むよく判る。

それにしても作者がネット右翼批判を無条件に打ち込んでいるのが、気持ち悪い。

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Posted by ブクログ 2021年05月30日

【感想】
「独裁主義は失敗し、民主主義がかならず勝つ」

天安門事件について論じる書は、いつも同じような結びで終わっている。
しかし、あの事件をそんな単純にカテゴライズしてよいのか?
「民主化を求める学生たちと彼らを鎮圧した政府」という構図だけでは、当時の空気感やデモに至るまでの人々の心理状態を、詳...続きを読む細に論じきることはできない。

筆者は「民主主義vs独裁政権」という画一的な論調を嫌い、天安門事件のOB・OGに当時を語ってもらうべくインタビューを敢行した。そうして編まれたエッセイ集が本作である。

事件の参加者は多種多様であり、お祭り気分で座り込みをする者から、有り金をはたいて学生を支援する者までいた。
彼らに共通していたのは、「民主化」という夢に賭けていたことである。しかし、「運動の意味を正しく理解していたか?」という点ではNOだ。情報統制下にあっては民主運動についての明確な概念を抱けるはずがない。みんなして何となく「現状のどん詰まりを打破するには、独裁主義を壊すしかない」と思っていたにすぎず、論理立ったイデオロギーは存在しなかった。

事件後、参加者の運命は二分される。
1 運動に入れ込みすぎたあまりに共産党から目をつけられ、自由を奪われた者
2 抱えていた不満が経済発展により解消された結果、運動をやめた者

1の立場から語られる天安門事件は、いつもの論調、つまり「民主主義vs独裁政権」による悲惨な結末につながる。中国という国が、過去から変わらず統制を敷いている証拠が浮き彫りにされるだけだ。

筆者が求めていたのは2の立場から語られる天安門事件だ。運動から30年近く経ったのに、民主化の要求が強まらない理由はなぜなのか。単純な「民主主義vs独裁政権」では論じえない中国の複雑さを裏付ける言葉が欲しいのだ。

そしてその言葉は、インタビューのトップバッターである張宝成によって端的に述べられている。
「何より中国は豊かになった。現代中国は昔ほど困窮しておらず、一党主義への不満を持たずにいれば、それなりに人生の幸福を享受して生きていくことも可能になった。裕福が民主化運動の衰退を担ったのだ。」

彼らが抱いていた「独裁主義を壊す」という野望は、「良い暮らしが欲しい」という俗っぽさが変化したものにすぎなかったのだ。そのため、体制に不満を抱いていたほとんどの人間は、その後の目覚ましい経済発展によって溜飲を下げたのである。

となると、中国の経済成長が下り坂になったとき、真の問題が起こるのではないだろうか。

ソ連が五か年計画によって世界恐慌の影響を受けなかったとき、西側諸国は社会主義を肯定的に論じていた。しかし、経済発展が下り坂になるにつれてメッキが剥がれ、急速に社会体制が瓦解していった。

それと同じ現象が、中国にも起こる。天安門事件は過去でもあり未来でもあるのだ。

将来、中国に景気後退局面が訪れたときに何が起こるか。癒着と既得権益、格差が無視できないほど露呈してしまっても、何億人もの人々は黙ったままでいられるのだろうか。
そして1989年と違って、多くの情報が正確に手に入る時代において、共産主義を壊すイデオロギーは本当に生まれないのか?

「天安門事件は再び起こるか」
それは「民主化の是非」という避けられない難題を、一旦保留してしまった中国へ向けられたメッセージである。

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【本書のまとめ】
1 本書の構成について
天安門事件の全体を貫く論調はいつも同じだ。
「民主主義は正しい。ゆえに民主化運動は正しい。それを潰すのは悪いこと」
しかし、正しい民主化運動が悪い武力鎮圧に歯が立たなかった点は仕方ないとしても、何故その後もながらく、民衆のあいだで民主化の要求が強まらないのか。あの渦のなかにいた一般人は事件をどう思っているのか。
60人以上の人間から聞いた六四天安門事件の現場感覚を、一冊の本にまとめた。


2 あの時代に生きた人々へのインタビュー
①張宝成
現代の中国内外で、民主化についての統一した思想は「ない」。
中国の社会で、共産党以外の強い組織を作るだの、イデオロギーを統一するだのは簡単にできることではない。
何より中国は豊かになった。現代中国は昔ほど困窮しておらず、一党主義への不満を持たずにいれば、それなりに人生の幸福を享受して生きていくことも可能になった。裕福が民主化運動の衰退を担ったのだ。

②魏陽樹
みな自分に実感がない社会問題の解決を訴えていた。刺激や娯楽の少ない社会で、体制の圧迫感から解放される非日常を味わう人々がいるだけであり、「もう少しましな世の中にしてほしい」といった程度の現状改善を望んでいた。
しかし、六四天安門事件を境に価値観が変わる。「これから何が起こるかわからない」恐怖が蔓延したのだ。
強大な権力の統治がひとたび緩めば、世の中の一切がめちゃくちゃになる。そうした危険性が中国にあることを再認識した。

「仮に当時の学生が天下を取っていたら、別の独裁政権ができただけだろうと思う」
「体たらくなのは共産党だけじゃない。学生の側だって、いまの人よりずっと視野が狭かった。情報統制のせいで、学生は中途半端にしか情報を仕入れられず、民主主義への薄い理解から、外国=天国だと空想していた。だからあんなことになった。それが天安門の真実だと僕は思うんだよ」
「中国は変わったということなのさ。天安門事件のときにみんなが本当に欲しかったものは、当時の想像をずっと上回るレベルで実現されてしまった。だから、いまの中国では決して学生運動なんか起きない。それが僕の答えだ」

③佐伯加奈子
「あのとき、仮にデモも何も起きなくたって、中国は多分、徐々にいまと似たような社会になっていったと思うんですよ。」

だが仮に、向かっていく未来の方角は一緒にせよ、中国社会の変化はもっと緩やかで、1980年代の純粋でおっとりした部分を残しながら現代につながってゆけたのではないか。
事件後、中国では政治的な議論がタブーになり、デモに共感した人たちの多くは、社会に対して一種のシニシズムやニヒリズムを抱きながら、エネルギーの全てをカネ儲けに注ぐようになった。
こうして、現代まで続く拝金主義ができあがる。当局側も、金を自由に儲けられる社会を「統治の正当性」の根拠に据えるようになったのだ。

④呉凱
「東側の人間は、――たとえ体制を変えたって、もともと西側だった連中からはワンランク下に見られる。一次的な感情に突き動かされて、あとさきを考えずに国家を壊したらどうなるかわかったもんじゃない」
「だから、中国の人民解放軍は、あんな方法を取ってでもデモ隊を止めざるを得なかった。鎮圧は仕方ない。正しいことだったのだと考えるようになったよ」

⑤凌静思
「仮に現在、再びデモが起きたとしても支持する。中国の政治体制の本質的な問題点は天安門事件から変わっていないが、これは変わらなくてはいけない。」

⑥ラウ・シンライ(香港人)
「簡単な話さ。現在の香港における天安門追悼運動に価値があるとすれば、『中国共産党が嫌がる』という一点につきる。香港はこういう主張ができる自由な場所だ、と内外にアピールできる点だけは、有意義な活動だと言えるだろうね」
「天安門事件の当時は、多くの中国人が理想を持つ立派な人たちであるように見えた。だが、中国共産党の洗脳教育と拝金主義によって、いまの中国人はなんら敬意を払うに値しない連中であるというしかないさ。僕は香港人だ。香港人は大陸の中国人とは異なる歴史を持つ民なんだ」

⑦ウアルカイシ
「われわれは何が民主であるのかは知らなかったが、何が民主にあらざるものかは知っていた。すなわち、人民を主役にしない世の中は民主ではないということだ」

●王丹による天安門運動が失敗した要因
・一人一人の参加者が「民主や民主運動についての明確な概念」を欠いていた。その結果、運動方針の混乱が起こった。
・参加者に対するしっかりした指導や、参加者をまとめる指揮系統が存在せず、途中から運動が四分五裂に陥った。
・学生と知識人だけが盛り上がり、一般国民への参加の呼びかけを怠った。
・運動を政治目的達成のための手段として使うという意識が薄かった。交渉の落としどころを準備するという概念がなかった。


3 インタビュイーに共通する性質
一見バラバラの個性を持つ天安門OB・OGたちも、ひとつの最大公約数的な共通点がある。
それは「自分が中国の未来を担って、この国を変えてやるのだ」という妙に気負った感情を、少なくとも1989年の時点では誰もが持っていたように思える点だろう。
だが、今の世代はそういう思いを抱かなくなった。彼らよりも若い中国人が国家に対して取る選択肢は、巨大な体制に積極的に協力するか、もしくは関心を示さずに距離を置くかだ。
それは、過去の学生運動の挫折体験が強すぎるからなのかもしれない。

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Posted by ブクログ 2020年11月23日

日本の学生運動と同じで、一般の人々も巻き込んだ運動にならなければ大きな変革はなし得ない。
日本人もそうだが、一般の人々が現状を大きく変えてまで変革を求めていない以上、第二の天安門事件は起きない。
中国共産党はそのためにも、経済を発展させていくことに必死で、それが失敗した時には何か起きる可能性もあるの...続きを読むだろう。

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