山田風太郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ「棺の中の悦楽」目当てで購入。「誰にも出来る殺人」はすでに読んでおり、これが山田風太郎得意の書簡体小説だが、「棺」はそうではない。「棺」の方が後に書かれたせいか、初期のミステリ作品に比べ、人物や場面の描き方が丁寧になっているように感じた。もしくは、これまで読んできた作品が、語り手の独白が中心のものが多かったから、そうではなく三人称で描かれることによって、そう感じたのかもしれない。個人的には、第三の花嫁に手を出せずに躊躇するところ、第四の花嫁をいたぶり、それをただ見ている無力の夫に自分を投影する箇所が面白かった。
自分としては過去最高級に面白かったが、読書会で発表したところ、受けは微妙であった・ -
Posted by ブクログ
徳川家康の身勝手な理由によって取り決められた、甲賀と伊賀十人ずつによる忍者対決。独特な秘技を持つ個性豊かな忍者たち。奇襲・暗殺・だまし討ちと手段を選ばない非情な戦いの連続。弦之介と朧の引き裂かれた恋を絡めながら、想像を超えるスリリングな展開が続き、エンターテイメント作品として、非常に濃密な内容を持っている。
それぞれの忍者が持っている秘技は、あまりにも人間離れしているので、サイボーグのように感じ、SFというか、マンガのようでもある。忍者の中でも、伊賀の薬師寺天膳と甲賀の如月左衛門の二人の存在が、この摩訶不思議なストーリー展開には欠かせない。薬師寺天膳は何とも下衆な野郎。読んでいる際中は、甲賀の -
Posted by ブクログ
【眼中の悪魔】【虚像淫楽】【厨子家の悪霊】【笛を吹く犯罪】【死者の呼び声】【墓掘人】【恋罪】【黄色い下宿人】【司祭館の殺人】【誰にも出来る殺人】収録。
本格ミステリー短編9篇と、「連鎖式」の長編【誰にも出来る殺人】を収録した傑作選。探偵作家クラブ賞を受賞した【眼中の悪魔】と【虚像淫楽】、ホームズのパスティーシュで意外な事実がラストで明らかになる【黄色い下宿人】、逆転に次ぐ逆転の【厨子家の悪霊】など、いずれも良く出来た作品ばかりです。
私的ベストは【誰にも出来る殺人】。短編一つ一つに意外なオチが用意されているので独立して読めますが、最後まで通して読んだときに全く別の構図が現れるところが秀逸です -
Posted by ブクログ
山風ミステリの中でいまいち知名度に欠ける本書でありますが、決して完成度が高くないわけではなく、むしろお得意の時代物とミステリとが、極めて高い次元で融合した傑作です。
低知名度の理由は時代小説という側面ばかりが強調されて、ミステリだという認知があまりされていないからなのではないでしょうか…。
内容は新顔の女囚人お竜が、やむにやまれぬ事情で収監された囚人たちの容疑を張らすために奔走するといったものです。対象となる6人の囚人が関わった事件はどれも奇々怪々なもので、本格ミステリ読者なら唸らずにはいられない好編ばかりです。
そしてラストになって突如として時代小説らしい仕掛けがクローズアップされ、山風らし -
Posted by ブクログ
異国の美女エスメラルダを探偵役に据え、香月と川路、愉快な羅卒たちが織りなす明治時代を舞台にした連作ミステリです。
幕末が倒れ、新時代の幕開けかと思いきや、体制は未だ整っておらず、混沌とした世界が鮮やかに書かれています。
そんな時代を背景に起きる事件は、どれも奇天烈なものばかり。それを一種の物憑き状態となった異国人巫女のエスメラルダが解き明かします。
披露されるトリックはどれも単純なものですが、それを支える舞台、伏線が非常に良くできています。中でも「怪談築地ホテル館」は大胆なバカミス風のトリックが味わえます。
そして本書の特筆すべきところは、事件を颯爽と解き明かしていった末に迎える、最終章にあり -
Posted by ブクログ
本格ミステリと呼ばれるものは、動機に弱く、リアリティに欠ける。という批判が現れ、松本清張を筆頭に社会派ミステリが隆盛を築いた時代に、本格ミステリの一角を担う山風が、あえて特異な動機にのみ焦点を当てたこの連作短編集を出した姿勢に、まず敬意を表したいと思います。
各短編の動機は、側からみれば異様、対価に見合わない、と思われるようなものかもしれません。
しかし、あくまで外側からはそう見えるというだけであって、本人にとっては、如何ともし難い問題。人を殺してでも訴えたいものがあるということです。
動機にリアリティなんてものは存在するのでしょうか?そもそも万人が納得するリアリティのある動機などあり得るので