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私の見た「昭和20年」の記録である。満23歳の医学生で、戦争にさえ参加しなかった。「戦中派不戦日記」と題したのはそのためだ――(「まえがき」より)。 「歴史」「死」に淡々と対峙する風太郎の原点がここにある。終戦直後の日本人の生活精神史としても実感できる貴重な記録。
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Posted by ブクログ
山田風太郎、23歳、東京医専の医学生。その彼の昭和20年の日記、700ページ。授業と空襲、空腹と疲労、買い出しと疎開、そして所感と思索……日々起こったことを綴っているだけなのに、その完成度の高さに驚嘆する。本も読み続けている。医学書、科学書、哲学書、小説など、数えてみると150冊あまり。これにも驚か...続きを読むざるをえない。 東京大空襲や城南大空襲は知っていたが、爆撃機(B29)や戦闘機(P51)がほぼ連日連夜飛来していたとは! 驚いたのは、空襲や死が日常になると、ほんとうに危険になる間際まで逃げることなく、日常の生活を送り続けるようになったこと。最たるは、未明に東京大空襲があったその日、新宿の医専にたどり着くと、予定通り「胎生学」「組織学」「生物学」の試験が行なわれていた! 7月から10月まで、東京医専は信州飯田に疎開。そこで敗戦を迎えた。軍医として戦地に赴くことを覚悟していたのだから、コンフリクトは尋常ではない。一方で、それとは無関係に、季節は移ろいゆく。心のなかの葛藤と飯田の自然の情景、その対比的な描写が印象的。 将来妻となる女学生(13歳)との鶴岡での出合い、飯田を去るにあたって開催した医専の学芸会の盛況ぶり――暗いトーンのなか、それらだけ二輪の花のように明るい。
どういう読み方をするかで、どう感動するかが決まってくるような60年前の日記である。 60年とは遠い昔だし、戦時という異常な状態の記録でもある。私としては私が幼かった時代を知りたかった。戦争も末期、そして終戦と激動の一年、冷静に事実を記してあるその体験をくまなく知ることは出来た、がそれだけではなかっ...続きを読むた。 毎日のようにB29の爆撃を受けて、いつ死ぬかもしれない東京の一医学生の青春だからではない。貧しい孤独な青年の内的生活の豊かさに感動してしまったのだ。 空襲警報で不安な眠れない一夜を過ごしたとしても、配給制度で食糧の不足、お腹がすいてる日でも、日記の終いには何々を読んだと淡々と括ってある。ツルゲーネフだったり、モーパッサン、チェーホフだったり、医学書、哲学書だったり、と読んだ本の数々に本好きとして感激。(どのようにして本を手に入れたのか?) 当時のラジオ、新聞の報道も克明に日記に記されている。ラジオからの「敵機来襲」「空襲警報」「艦砲射撃ある」こんなに情報があったのかと驚く。新聞から知ったる歴史的事実も間違っていない。いつの時代も見る目に曇りなければ真実に近づくのだという感動! このような激動にもまれながら、深く、真摯に、率直に考えることの出来た一青年の日記は今でも立派に通じる。風太郎青年の生い立ちと内面の悩みが、この日記に色濃い憂愁をかもす。 孤独で内に秘めた想いが沸々と湧いて思いのたけを述べたく、でも忸怩たる青年は現代もたくさんいるのだ。否、時代が相も変わらずなのかもしれない、というのが杞憂であってほしい。 日記に書かれている田舎の風景描写が涙の出るほど美しい。ところどころの人物活写におかしみがある。 やはり山田風太郎の日記だった。一読の価値あり、いえ再読もすべき。
深い洞察力で見つめた昭和20年の1年間。後に作家となる医学生の日記は貴重な一次資料。 歴史は後世により書き変えられていくことがある。学校で習いドラマなんかに出てくる戦前、戦中の日本。まるで8月15日を革命が起きたかのような歴史観は全く違ったことが本書から良く分かる。 日本国民は政府や軍閥に騙され...続きを読むていたわけでもなく、自らの意思で戦争に協力している。日本の勝利を狂信的に信じるところはあるが、ことのほか情報も伝えられている。原子爆弾、ジェット戦闘機などウワサではあっても一般人に伝わっていることが分かる。 昭和20年という一年間。作品化を前提としていない、装飾のない記録だけに貴重であろう。 現在はモーニングでマンガ「風太郎不戦日記」として連載されているようだ。こちらも気になる。
"昭和20年1月~12月までの日本が太平洋戦争敗戦へといたる時代、山田風太郎さんが記した日記。当時の雰囲気が現実感を伴って伝わってくる。われわれは終戦の日がいつだかも、原爆が投下された日がいつということも知った上で日記を読み返していることになる。自分がその時代を生きていたらどんな行動をして...続きを読むいたか?いろいろなことに思いをはせる。 敗戦後寒い中寝床を暖めるものがなく、食べるものもなくても、山田さんは本を読んでいる。借りものなのか購入したものなのかわからないが、とにかく本を読み続けている。とてつもない量の本だ。 驚くと同時に、平和な今の時代ではもっともっと学べる環境にあるはずであるが、当時の山田さんの足下にも及ばない。ねじを巻かないといけない気持ちになり背筋が伸びる。"
再読 最高潮の東京空襲から大転換へ 昭和二十年で作者が消えてなくなるわけではないのだけれど その後も全部読んだあとで読み返すと この日記作品の面白みは急速に薄れていく 個々人の紆余曲折はありながらも戦中の日常から 戦後の平和な日常への切り替わり 戦後生まれだからと戦中を暮らす人々と何も変わらない一方...続きを読むで 時代は確かに誰かが動かして転がっていく 自分は平均だとは思っても平凡だとは思っていない皆がつくる大衆がそれを映しているのであり そのまったく理性的でなく流れ行く先徒ならぬ景色は それでいて文明技術の変化を表層直ちに受ける 一身にして二世を生きるような転換期にそれは見えるようであり見えないようでもある
『敗戦して自由の時代が来た、と狂喜しているいわゆる文化人たちは彼らが何と理屈をこねようと、本人は「死なずにすんだ」という極めて単純な歓喜に過ぎない。』という文が印象的でした。
一庶民の視点から見た、敗戦前後の日本の描写と、個人の感慨であり、貴重な史料である。山田が有名にならなければ世にでることはなかっただろう。
若き医学生、山田誠也青年による、運命の昭和20年の記録。何に驚くといって、この過酷な世界の中で、ほとんど毎日何かしらの本を読んでいることである。案外戦中派の人達の中には「あの頃が一番本を読んだ」という人が多いらしい。一種の現実逃避だったのかもしれない。ところで、この日記は日々をライブとして記録してい...続きを読むるのかと思ったら、実は出版にあたって少し編集しているところがあったらしく(後に出た「焼跡日記」におなじような記述が見られる等)、それに気付いた時にはちょっとだけ興醒めした。とはいえ、若かりし頃の作者の冷静と情熱がひしひしと伝わってくる事には変りはない。しかし、これほど知的探究心に富み、怜悧な洞察力を持った青年が、戦後「うんこ殺人」などという、中島らも氏をして「このミス」で「未読だがタイトルだけで一位」と言わしめる作品を生み出す小説家になろうとは、まさかの運命の変遷を御神もご覧じろ、といったところか。
敗戦後の焼土と化した東京の惨状の生々しさに圧倒されました。罹災民の中でも老人や戦災孤児の姿は哀れであります。闇市に群がる人々や買出しの満員列車に揺られる人々の今日を食いつながなければならない逞しさと同居する悲しさに私の親世代の苦労に頭が下がる想いでいっぱいであります。そして、巻末の作者の 「日本は亡...続きを読む国として存在す。われもほとんど虚脱せる魂を抱きたるまま年を送らんとす。いまだすべてを信ぜず。」が辛く悲しい。嗚呼。
こんなに透徹した、現実的な眼でみた昭和20年を読めるのは、本当に有難いこと。そのような資料的価値とともに、作者が心に抱える悲しみ孤独にも魅かれてしまう。「この不幸がやがておれの武器となる、とー。」橋本治の解説がまた過不足なくて凄い。文中に註や解説が全然無いので、この解説を先に読んでも良かったな〜
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