山田風太郎のレビュー一覧
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【眼中の悪魔】【虚像淫楽】【厨子家の悪霊】【笛を吹く犯罪】【死者の呼び声】【墓掘人】【恋罪】【黄色い下宿人】【司祭館の殺人】【誰にも出来る殺人】収録。
本格ミステリー短編9篇と、「連鎖式」の長編【誰にも出来る殺人】を収録した傑作選。探偵作家クラブ賞を受賞した【眼中の悪魔】と【虚像淫楽】、ホームズのパスティーシュで意外な事実がラストで明らかになる【黄色い下宿人】、逆転に次ぐ逆転の【厨子家の悪霊】など、いずれも良く出来た作品ばかりです。
私的ベストは【誰にも出来る殺人】。短編一つ一つに意外なオチが用意されているので独立して読めますが、最後まで通して読んだときに全く別の構図が現れるところが秀逸です。 -
Posted by ブクログ
山風ミステリの中でいまいち知名度に欠ける本書でありますが、決して完成度が高くないわけではなく、むしろお得意の時代物とミステリとが、極めて高い次元で融合した傑作です。
低知名度の理由は時代小説という側面ばかりが強調されて、ミステリだという認知があまりされていないからなのではないでしょうか…。
内容は新顔の女囚人お竜が、やむにやまれぬ事情で収監された囚人たちの容疑を張らすために奔走するといったものです。対象となる6人の囚人が関わった事件はどれも奇々怪々なもので、本格ミステリ読者なら唸らずにはいられない好編ばかりです。
そしてラストになって突如として時代小説らしい仕掛けがクローズアップされ、山風らしからぬ(?)超絶ハッピーエンドに雪崩れ込みます。
このラストが良すぎてもうそれだけで☆5をつけたくなっちゃいます。
時代小説もミステリも読まないという人が読んでも楽しめること請け合いです。 -
Posted by ブクログ
異国の美女エスメラルダを探偵役に据え、香月と川路、愉快な羅卒たちが織りなす明治時代を舞台にした連作ミステリです。
幕末が倒れ、新時代の幕開けかと思いきや、体制は未だ整っておらず、混沌とした世界が鮮やかに書かれています。
そんな時代を背景に起きる事件は、どれも奇天烈なものばかり。それを一種の物憑き状態となった異国人巫女のエスメラルダが解き明かします。
披露されるトリックはどれも単純なものですが、それを支える舞台、伏線が非常に良くできています。中でも「怪談築地ホテル館」は大胆なバカミス風のトリックが味わえます。
そして本書の特筆すべきところは、事件を颯爽と解き明かしていった末に迎える、最終章にあります。
個々の解決したかに思われた事件が、伏線として機能し、1つの物語が浮かび上がってくるのです。
ここで明かされるとある人物の思惑は、山風だからこそ書き得た、この時代だから成立する、凄まじいものになっています。
やはり天才か、山田風太郎! -
Posted by ブクログ
本格ミステリと呼ばれるものは、動機に弱く、リアリティに欠ける。という批判が現れ、松本清張を筆頭に社会派ミステリが隆盛を築いた時代に、本格ミステリの一角を担う山風が、あえて特異な動機にのみ焦点を当てたこの連作短編集を出した姿勢に、まず敬意を表したいと思います。
各短編の動機は、側からみれば異様、対価に見合わない、と思われるようなものかもしれません。
しかし、あくまで外側からはそう見えるというだけであって、本人にとっては、如何ともし難い問題。人を殺してでも訴えたいものがあるということです。
動機にリアリティなんてものは存在するのでしょうか?そもそも万人が納得するリアリティのある動機などあり得るのでしょうか?
そんな問いかけが、作中から伝わってくるようでした。
様々なタイプの動機を書き分けたこの短編集。
胸に強く響く短編が1つはあることと思います。 -
Posted by ブクログ
草履取りから天下人へ・・・
日本史上最大の成り上がり者・・・
豊臣秀吉・・・
日本の英雄の1人・・・
天下を取るまでの政略、外交、軍事の天才的な冴え・・・
恐ろしいほどの強運の持ち主・・・
お調子者で陽気で人から好かれ・・・
武将だけども人を殺すのが嫌い・・・
多くの人を取り込む人たらし・・・
大体の秀吉モノ(太閤記モノ)はこの秀吉の陽性にクローズアップ・・・
日本人が好きな秀吉モノはこっち・・・
天下を取ってからの転落していく秀吉の暗部にはあまり触れない・・・
落差がありすぎて酷すぎるから・・・
まるで別人かと思うくらいの変貌を遂げるので・・・
秀吉好きな人も引いちゃうくらいなので・・・
大体は触られない・・・
そして、秀吉の暗黒面が出てくるのは天下を取ってから、とする・・・
しかし・・・
この・・・
山田風太郎の・・・
妖説太閤記は・・・
一味違う・・・
秀吉の暗部に、秀吉の闇にこそクローズアップ・・・
そもそも秀吉が成り上がっていったのは・・・
そう天下を取ることを目指したのは・・・
信長の妹であり戦国一とも謳われる美女のお市の方を手に入れるため・・・
もっと言うとお市を抱くために己をすべてを振り絞って戦国の世を駆け上がっていく、とする・・・
それは・・・
秀吉が・・・
その怪異な、醜い容貌のせいで・・・
女というものに・・・
まったく愛されないことからくるハイパーなコンプレックスから生まれ出た暗闇の情念から来ている・・・
この暗闇の情念が秀吉の才覚と絡み合って・・・
信長の下、頭角を現し・・・
そして、本能寺の変を引き起こす・・・
遠まわしに、決して悟られぬよう、ジワジワと明智光秀を追い込んで、自らの手は汚さずに、明智の手でもって主君、信長を討ち滅ぼす・・・
お市を手に入れるために・・・
邪魔な信長を消す・・・
ということで山田風太郎は秀吉黒幕説ですね・・・
好みの女を抱く・・・
好きなように抱く・・・
己の欲望をかなえるために、そのためだけに天下を取る・・・
天下を取ってからは欲望の歯止めが利かなくなる・・・
女を抱きまくるわ・・・
何万?何十万?の人に負担を強いて大建造物作りまくるわ・・・
大増税するわ・・・
大殺戮するわ・・・
無謀で無意味な海外遠征するわ・・・
あとのことなど知ったことか、と言わんばかりに、あらんかぎりの悪や愉しみをし尽くす・・・
そして枯れ果てていく・・・
妖説、とあるけど、非常に生生しくリアルな雰囲気を醸し出してる・・・
これぞ本当なんじゃない?と思わせてくれる山田風太郎の筆の凄みたるや・・・
感服です・・・
とても面白かった・・・
この妖説、上下巻・・・
上巻は秀吉の闇を見つつも、彼の才気の冴えをビンビン感じながら読める・・・
下巻は秀吉の闇しか見えない・・・
彼の欲望にまみれた姿と、孤独な姿と、彼に翻弄される人々の苦しみしか見えない・・・
特に最後の方はヤバイ・・・
死の臭いが漂ってくるくらいの酷さ・・・
巻末エッセイにもまさに書いてあるけど・・・
太閤殿下よ、早く死んでくれと・・・
主人公の死を願わずにおけないほどの衰えと哀れさ・・・
死んでホッとする、というね・・・
天下人の心の闇、孤独さ、哀れさがこれほど詰まった秀吉モノはない・・・
最後に・・・
文中で後に豊臣から天下を簒奪する徳川家康が感嘆しながら心の中で呟くのだけど・・・
ワタクシ、昔からこういう点において秀吉スゲー!と思って好きだったので、以下引用・・・
実に、やりたいことをやってのけた、あの男は。
天下制覇、大遠征のみならず、殺戮も、肉欲も、あらんかぎりの悪と権謀の愉しみも。
死ぬときのみれん、もがきようさえも、恥も外聞もない、ありったけの人間相をみせたではないか。
わしはああはできぬ。
しかし、生きるとは、あれがほんとうではないか。他をかえりみず、やりたい放題にやってのける。
それが人間が生きぬき、生きつくすということではないか?
あれほどの男は、前代未聞であったし、また未来にも一人もこの日本に現われてくることはあるまい。
と、ある・・・
絶対に統治してほしくない独裁者だけど・・・
やはり秀吉が好きだね・・・ -
Posted by ブクログ
ああ素晴らしい。
純文学かと見紛うほどの綺麗な文体とストーリー展開。
しかしそれでいて本作は第一級のミステリでありノワール小説なのだ。
いままでこんなにも規模の大きい◯◯◯殺人(読めばわかる)は見たことない!!
この結末だけをとって、やれリアリティがないだの、実現不可能だとか言うのは全くの見当違いだろう。
作者がやりたかったのはこの結末ではなく、この時代に行きた人達の慟哭を文字にして伝えることではないだろうかと僕は思うのだ。
その過程でミステリの体裁をとってしまっただけのこと。
まぁ、そこが山風らしいのだが…
正直、平成生まれの僕は登場人物たちの気持ちを理解できたとは言えない。
きっと不可能だろう。
しかしこれだけは確実に言える。
本書は傑作であると。