山田風太郎のレビュー一覧
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ネタバレ政治の安定しない混迷の明治期。
日本がどのようにどこへ向かうのか手さぐり状態の「空白の時代」が舞台です。
役人の不正などを取り締まる為に復古された警察機構「弾正台」に所属する香月経四郎と川路利良を中心とした連作ミステリとなっています。
このコンビが奇怪な事件を次々と解決していくわけですが、その方法がおもしろい。香月を慕って来日したフランス人美女エスメラルダは、なんと修行の成果により死者を呼び出すことが出来、事件の度に被害者を呼び寄せては「自分は誰々にこんな風に殺された」と教えてくれるのです。推理もへったくれもありません。
しかし各話のトリックは凝っています。歴史上の人物達がちらほらと登場したり、当時の逸話も挟まれていて楽しいです。
ユニークな展開におもしろおかしく楽しんで読んでいたので、最後の展開には度胆を抜かれました。
とんでもなく秀逸なミステリ小説でした。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【断正台大巡察】警察としての役割である邏卒の5人が、人々から小金を巻き上げてやりたい放題。小物っぷりが憎めません。香月と川路に出会う話で、最後はぞっとしました。邏卒の「日本がどうなろうとしったこっちゃない」というセリフが妙に印象に残っていましたが、この言葉も最後に繋がっていて驚きました.
【巫女エスメラルダ】香月と川路の正義の政府についての論争や、エスメラルダを巡っての香月の態度も大きな伏線になっています。
【怪談築地ホテル館】このトリックは非常に楽しかったです。築地ホテル館という舞台も趣があり、この時代とこの場所ならではという感じがします。
死者を呼び寄せる描写もばかばかしくも恐ろしい。
邏卒たちの小悪党っぷりが活かされてます。
【アメリカより愛をこめて】このトリックを弄する前提の壱岐守の行方に関してはおもしろいです。この事や幽霊騒ぎという経緯があるからこそ、このありえないトリックもまさか、と思わせてくれました。
ここでの俥の合体も、後で登場する戦車に似ています。
壱岐守の人を食った逃亡の足跡とその後の彼の人生を知ると「アメリカより愛をこめて」というタイトルがとても洒落ているように感じます。
【永代橋の首吊人】まさかまさかのトリックでした。これはおもしろい。容疑者は2人。しかしどちらにも犯行は不可能という状況が一転する一大トリックです。
谺国天の策謀は実際にあったことのようですが、それに対する川路と吟香の解釈の違いも興味深いものでした。実直な薩摩人の川路ですが、こういった所にも彼の思想が見えています。
谺国天が都合よく船まで行ったことや、すぐにお店を出てしまったことなどの「想定外」が、後に大きな意味を齎していてうまいです。
吟香というのは掴みどころのない魅力的な人物ですね。
【遠眼鏡足切絵図】一見関係のない事件が次々と起こりますが、それが繋がっていくのは見事です。この話はそんな偶然が都合よく、とも思うのですが、それも作者の想定の範囲でした。いつの間にかいなくなった俥夫にもきちんと触れられているのに、誘拐騒ぎで忘れていました。
【おのれの首を抱く屍体】首の入れ替えトリックにはすぐ気付くと思いますが、その痕跡や証拠がなく、しかも最後まではっきりしないまま終わってしまいました。これまでの話すべてに、曖昧だったり偶然だったりする事があってそれが後々繋がっていくわけですが、本作ではそれが明示された終わり方でした。
【正義の政府はあり得るか】ここで明かされた真相には驚愕です。川路が最初から香月の危険性について述べていますが、それがこんな展開に繋がるとは。
そして、最初から自分で言っている通り「正義の政府はあり得ない」という考えのもと、西郷の提案を呑んだ川路という男の人間性もまた見た気がしました。
しかしなにより驚いたのは邏卒たちです。彼らもまた明治という時代に生きる一人の人間であったのだと今更ながら気付かされる思いです。最初のケチな小悪党の印象をがらりと変えて、ひた走る最後の彼らの姿には胸が熱くなりました。
エスメラルダは最後まで謎の人物でした。彼女がなぜ毎回お縫に語りかけていたのかも気になります。
エスメラルダは経四郎の狂気に加担しましたが、経四郎を平穏の愛で包むことが出来るお縫に、彼女もまた親愛を持っていたのかもしれないと想像しました。 -
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徳川家光の治世。
御公儀隠密として徳川家に仕える甲賀、伊賀、根来の三派を、最も優れた一派のみにまとめるという大老・土井大炊頭の命から、遠大なる物語が幕を開けます。
大炊頭のとんでもない命令によって三派による忍法合戦、全面戦争が始まるかと思いましたが、三派それぞれを代表する三人の忍者が、査察人の前で忍術を披露するという事務的な幕開けでした。
正直、査察の場面で披露された三人の忍術にはふ~んとしか思わなかったのですが、後に実戦や姦計で使われるとこれらの忍術の恐ろしさがどんどん分かっていき、同じ忍術が状況によってバリエーションを増やしていくのがおもしろいです。ただびっくりするような忍術というだけでなく、それを物語の中で活かして更に忍術が進化していきます。
物語は甲賀、伊賀、根来の代表忍者3人と査察人・椎ノ葉刀馬を中心に展開していき、ここに家光の弟・忠長、刀馬の許嫁・お京、そして異様な存在感を放つも捉えどころのない大老・土井大炊頭などが絡んでどこへ物語が転がっていくのか分かりません。
それぞれが腹に一物持っていて、どこまでが騙し合いなのか分からない。
そうした不安の中でもその時々の戦いやエピソードは楽しく、それぞれのキャラクターもどんどん輝きを増していきページを繰る手が止まりません。
三人の忍術はまさに女を道具の如く扱う忍術ばかり。
しかし、そうした経緯を経ての終盤の虫籠右陣の言葉には胸に迫るものがあります。
忍者・虫籠右陣はとんでもない曲者で大好きになってしまいました。
そして忍者ではありますが筏織右衛門の剣術の場面は圧巻です。
忍術も凄いけれど剣術もかっこいい!
大炊頭に似ているといわれ、大老の多大な期待を寄せられた椎ノ葉刀馬が選んだ結末がまた凄い。振り回され続けた彼の最期の言葉にこそ、彼の人としての貫録と偉大さが表れているようです。
登場人物はあまり多くなく、ほとんど忍者3人と椎ノ葉刀馬の場面です。この4人の死闘がどうなるのか大いに楽しんで読み進めたからこそ、最後まで読んだ時の衝撃は凄かったです。まさかここまで壮大な物語になるとは思いませんでした。それまでの印象がガラガラと崩れるとともに、あの時のあの言葉が、あの行動が、違う意味を持って目の前に突き出されます。最初から最後まで計算されつくした展開と真相に興奮し戦慄し、しかし最後は涙なしでは読めませんでした。
間違いなく大作、名作、傑作。ただただ面白い!の一言です。 -
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ネタバレ中国四大奇書のひとつ「金瓶梅」を基にした連作短編ミステリー。
怠惰で醜悪で妖艶な欲望渦巻く魅惑の世界で、ユニークなトリックが披露される良質な一冊です。
探偵役が決まっているだけでなく、本作では犯人役も毎回同じ人物に決まっているのがおもしろい。
同じ人物が事件のきっかけを作り、同じ立場の人間が被害者となり、同じ犯人が罪を犯し、同じ探偵役が真相を見抜くという展開の繰り返しですが、毎回凝ったトリックとエロティックな展開がおもしろく飽きやマンネリはありませんでした。
最後は作者にまんまとしてやられて脱帽。
【赤い靴】どろどろとした女たちの愛憎劇も楽しいですが、両足を切断された二人の死体、足フェチの男、夢遊病の女と事件も不気味で楽しいです。見取り図が添えられたロジカルで良質なミステリー。しかし何よりも動機が凄い。
【美童と美女】濃厚すぎて胃もたれしそうなエロティシズム。女同士、男女だけでなく男同士の嫉妬も絡まって愛憎、欲望がぷんぷんと臭いたってます。西門慶は本当に最低な人間なのですけれど、どこまでも欲望に忠実な姿に何故か憎めない。
【閻魔天女】このトリックで西門慶のアレを利用したのにはびっくりしました。そんなばかな。西門慶って凄いんだな。
【西門家の謝肉祭】色欲に溢れかえっていた西門家に食欲まで加わって欲望の濃密さにむせ返ります。なんとなく予想できた展開ですが、食道楽の夫人の旺盛な食欲を思い出すと、豚とか牛とかを連想してなんとも言えない気持ちになりました。
【変化牡丹】金蓮が体張ってます。入れ替えトリックは他にもありましたが、これが一番無理やり。
【銭鬼】色欲、食欲と出て金銭欲です。あんな殺され方は嫌だな。
【麝香姫】今度の相手をどうするかと思えばよりによってあんな方法をとるとは…。西門慶可哀そう…。「わたしは悪い女なのかも」とかいってる金蓮が可愛いです。
【漆絵の美女】意気消沈している西門慶に一人づつ声をかけている場面がおもしろいです。あんなに女がいながら真に心に寄り添って慰めたのが伯爵で、我らが金蓮は何を言うのかと思えば爆弾発言しました。かっこいい。「美童と美女」が悲惨な話だったのでここで救いがあるかなと思いきや、もっと後味が悪かった。
【妖瞳記】これはトリックは分かりやすいですが、それよりも品のある美しい女性の秘密の趣味というのが良いです。麗華さん好き。
【邪淫の烙印】ゾオラ姫がかわいい。このトリックはおもしろい。怪僧との対決も楽しいです。
【黒い乳房】このへんにくるとあの人の存在感が大きくなって信用できませんのでトリックは気付きやすい。西門慶が聴覚や嗅覚もコントロール出来る超人になってて笑いました。
【凍る歓喜仏】愛する男にこの策略を巡らせた金蓮は凄い。西門慶がああすることを見通していたということを気にも留めないほどの愛情ですが、純愛と同時に利己愛です。西門慶は最後まで彼らしくて良かった。
【女人大魔王】このトリックはすごいです。状況をも巧みに利用し全て自分の思い通りに事を運ぶ。金蓮の執着と怜悧さが際立っています。
【蓮華往生】淫婦と呼ばれた金蓮がこんなにも愛に殉じた最後を遂げるとは。金蓮と伯爵の二人が主要な役割を務めてきた展開であったのに、この二人の関係がこんな形で終わったことに胸が痛みます。
【死せる藩金蓮】春梅の真の姿と金蓮との関係は分かっていたつもりでしたが、その情念の深さには驚きました。一つの街を滅ぼすほどの動機、その方法、共にとんでもないです。
「死せる藩金蓮」というタイトルながら、彼女を愛した誰もが死んだ彼女を「生きている」としているのが金蓮の凄さを物語っていたようです。
金蓮には多くの人物が想いを寄せていますが、その中でも武松という豪快な男は金蓮の相手としては遜色ないです。しかしあえてこのビッグカップルではなく伯爵を中心に据えているのが、金蓮を取り巻く人間模様を俯瞰的に見せ、かつ哀愁漂う切ない幕切れを演出しました。
他の何を犠牲にしても欲しいものを手に入れようとした金蓮と、結局誰も犠牲に出来ず何も手に入れられなかった伯爵という二人の愛し方は全く正反対であったように思います。
連れ去られる金蓮を見送るときの、自由人である伯爵には似合わない執着と愛情が哀しすぎる。
これだけ欲望にまみれたばかばかしくも凄まじい男と女の愛憎劇で、淫婦・藩金蓮という強烈なキャラクターを描きながらも、最後には一人の男の一途な愛情で締めて感動させてしまう作者の手腕に敬服です。
【人魚燈籠】登場人物が違いますが「邪印の烙印」と同じ真珠盗難事件です。しかし別の展開をみせており、わたしはこちらの方が好きでした。 -
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ネタバレ山岡荘八の「柳生宗矩」という正真正銘正統派の後なので、破天荒な柳生が読みたくて山田風太郎を選択。
忍法とあるけれど、印を結んでドロンは登場せず、せいぜい敵首領の銅伯が修法を使い、体を鉛のように変化させる程度。風船になって空を飛んだり、他人に化けるというような現実離れした忍法は登場しない。敵の7人はそれぞれ武器を手に真っ当に勝負を挑んでくる。
対するは我らが十兵衛。
ではなく、7人の女性。武家の妻や娘たちとは言え、武芸にはほど遠い彼女たちが、十兵衛の指南を受けて武術を体得し、復讐を遂げていく。
十兵衛が手出しをしない、というルールを作ったのが秀逸。これで立ち会いはスポーツ化し、勝ち抜き戦の様相を呈することになる。
でも圧倒的に強い十兵衛も何度も窮地に立たされ、絶体絶命の境地に追いやられる。その十兵衛の危機を何度も救う女性たち。チーム一丸となって敵を倒すのだ!
風太郎なので女性はすぐに脱がされる。それも想定の内だったので、期待していたのだけれど、どこかあっさりしていて、ネチネチとしたエロさが無いのがやや不満。できればもっと下半身もわくわくさせて欲しかった。
話が広がり、沢庵以外の雲水が活躍するのもやや興奮度を下げているかもしれない。だって坊さんたちは最初から死を前提に敵に対するのだから。
「生きるための剣」ではなく、「他人を生かすために自分が死ぬ」法になってしまっている。それでいいのか? そこだけ、気になりました。
十兵衛のイメージはもちろん千葉真一。野獣系のハンサムでスマート。さっぱりしていて、剣の駆け引きが大好き!
帰りの電車でも睡魔よりも面白さが先に立って、ほぼ一気読みとなりました。 -
Posted by ブクログ
人を騙し、女を売り歩き、戦場を荒らし、やることなすこと常識外れのとんでもない7人の香具師が主人公。行いを見れば到底ヒーローにはなりえない悪者達ですが、その大胆不敵、自由奔放な生き様はどこか憎めません。
冒頭からの彼らの非道な行いに呆れたころに、絶世の美女、麻也姫が彼らを一刀両断するのがなんとも気持ち良く、風のように捕らえどころがなく、女を物のようにしか見ていなかった彼らが、強烈な一発を食らわせた麻也姫に執着することとなるこの場面が見事です。
悪者の顔を踏んづけて決め台詞を吐く麻也姫に、7人の香具師同様読んでいる私もぐっと心を捕まれました。
7人の香具師が恥をかかされた復讐の為だ!とかなんとか言いながら、麻也姫に近づきたいが為に、厳しい忍者修行に耐え、あの手この手で頑張る姿は微笑ましい。とくに悪源太は好きな女の子をいじめてしまう悪ガキのようです。
しかし、口では薄汚いことを言いながらも麻也姫へは純粋な敬愛を持っているのとは反対に、麻也姫以外の女達には相変わらず冷淡で、特に女忍者達の扱いには胸が痛みました。
麻也姫という絶対的なヒロインがいる限り女忍者達の末路は決まっているようなもので、それ故あのラストはなるべくして、という感じがします。
政治的な謀略によって敵味方の構図が変化していくのもおもしろく、忍城での攻防、忍術合戦も迫力満点。
旗を立てるシーンなど名場面が多いです。
それにしても麻也姫がかわいい。
近づきがたい気高さと親しみやすさが同居した魅力的なヒロインで、悪行三昧だった香具師が彼女に命を懸けてしまうのもうなずけます。
香具師たちの声が哀しく響くラストは、彼らの生き様、麻也姫への想いを包括した、もうこれ以外にないという素晴らしい結末だったと思います。 -
Posted by ブクログ
奇想天外な物語ばかりの忍法帖シリーズの中でも屈指の異色作♪ でも香具師の主人公たち7人の悪辣で奔放すぎるえげつなさに圧倒されつつ、人間模様は刻々変化し、いつしか麗しの姫を命がけで守り通すようになると、俄然盛り上がる忍法バトル♪
「のぼうの城」と同じ舞台設定(舞台というか場所と史実?)だとは後で知りましたが、先に読んでたのはこっちの方だし、あっちも悪くはないにしても、圧倒的に発想力に差があり過ぎて比べ物にならない♪ そもそも忍法帖だしw 規定の枠になど収まるワケがなく、暴走に次ぐ暴走が奇奇怪怪なSF伝奇ロマン風味でもあり、飽きることがない♪♪
女性からすると読み進めるのがキツい場面が多々ある?かも知れないからオススメできないけど、痛快を突き抜けたような娯楽アクションを好む人ならば必ず満足するであろう傑作♪♪