藤ノ木優のレビュー一覧
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医師でありながら小説家でもある9人の短編小説が詰まった作品でした。あんなに忙しそうなのに、いつ小説書いてるんだろうって不思議に思う凄い方々。
医師であるからこそのリアルな感じが伝わってきて、とても面白かったです。
特に空中テントは、認知症の家族を介護したことある人なら誰しも共感出来る部分がたくさんあると思いました。施設の入所は、家族を見捨てることではなく、プロがみてくれる安全な場所にいれるという考えが広がったらいいな。
私も主人公のお母さんにとても同情しました。介護する人は、自由が奪われて当然なのか、当事者じゃない人達から見捨ててるなんて文句言われる筋合いはほんとにない。文句を言うなら1週間でいいから、在宅での介護を経験してみたらいいと思う。どれだけ大変かはやったことのある人にしか分からない。
あとは救いたくない命も面白かったです。医療従事者であれば、色んな患者がくる。犯人であろうと、被害者であろうと、どんな人であろうと病院に来たら、全力で治療をしなければならない。そこに差別はあってはならないけれど、医療者も人間だから色んな考えが浮かぶよなと改めて考えさせられました。たくさんの人の命を奪った人を救うことは、正しいのか。でも真相解明のためには、犯人に生きててもらって動機を聞き、罪を償ってもらうのがいいような気もする。難しい問題だと思いました。
こんなにたくさんの医師が書いた作品をたくさん読めて楽しかったです。
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☆4.3
液体窒素の一気圧での温度がマイナス196℃。
受精卵のゆりかごということで、家族のあり方を、考えさせられた。
事情はいささか複雑で、両親の胚を着床させて、両親の子を宿し、娘を出産するが、遠縁の親戚が引き取った程で、義母として、自ら腹を痛めた娘を育てる、精神的に疾患のあるというか、ある種PTSDの症状のある主人公が不器用に育ての母を演じるというものかたり、地面師とと並行読書だったので、なかなかきつい話の中身である中、少しほっこりする話でした。いやぁ、本当に生き切ることは難しい。
幸い私は、母から、産まなきゃ良かったとは言われたことは一度もなく、主人公の友達の心境は明確にはわからないが、私が生まれてしまったことにずっと疑問を持って生きているということを、両親に云ったことも幸いないのである。これだけは、一つ救いだ。生き切ることは困難だが、生まれてきてしまっては致し方ないことである。
何とか人生をまっとうしたいものである。
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静岡県は原木椎茸生産日本一だとは知らなかった。初っ端から絶品の黒鮑や、伊豆牛が描かれて食べたい思いが募る。
北条衛のチーム、塔子、筋肉の神里真司、先輩の下水流明日香、そして禿げでずんぐりの田川誠一とこれまでのチームも健在で、そこに研修医阿佐ヶ谷ゆめと塔子の同期で三枝教授の教え子の海崎栄介が加わった。
圧倒的な手腕の海崎先生は登場した時から自由奔放な印象だった。腹腔鏡手術の専門家でもあり、北条衛は立ち会うことができるのかが最大の興味だった。
モクズガニや小牧寿司(マグロ)の三色丼も洋梨も美味しそう。激務の中で美味しい料理が描写されるとこちらまでホッとさせられる。世界遺産の韮山反射路まで出てきた。
構成は5話あるが、緊迫感は次第に高まる。子宮腺筋症の術式、帝王切開における横8の字法、S状結腸切除術、そして腹腔鏡手術など具体的な描写もリアリティを高める。塔子の覚悟、そしてそこにドラマがあり、ホロリとさせられる。生と死に向き合う姿には感服させられた。 -
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伊豆といえば、駿河湾や伊豆高原など風光明媚な印象がある。日本の地形の始まりが凝縮されているようさえ感じる。そんな場所へ若手医師の北条衛が赴任する。本作は6編の短編で構成されている。
藤ノ木優さんらしく、食事と医療を上手く織り交ぜている。食べるということは生きるということでもある。金目鯛が食べたくなった。
医療現場での奮闘とほっとする場面とが絶妙なバランスだと感じる。ひとりひとりが患者のために向き合い、それを助け合う姿が美しい。医療現場に限らず、社会生活を送る上で、それはとても大切だと思う。
医療のAI化やロボット化は一面では技術として有効なのだろう。しかし、患者のケアは生身の人間対人間であるからこそ、温かさや優しさが伝わり、大きな治療薬となるに違いない。
そんな人間関係は北条衛にとって、大きな成長の糧となっていく。周りの塔子さんや三枝教授の人間性が支えとなっている。最新医療とは何をもって最新というのだろうか?冒頭で印象を記述したが、伊豆というはじまりの地は、新たな医療の始まりであったり、北条衛の本物の医師への始まりという意味で、このロケーションはピッタリだと感じた。 -
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医師でありながら作家でもある方々の医療小説9編。
私の知っている作家さん以外にこんなに多くの医師作家さんがいることに驚きました。どれも医師であるだけに小説の内容は臨場感が溢れていて迫力がありました。
中山祐次郎さんの『救いたくない命』は救急で運ばれてきた患者が犠牲者15人以上を出した通り魔事件の犯人と知り、葛藤をしながらも必死に命を救う姿に京アニ事件を思い出しました。
南杏子さんの『空中テント』は家族の介護の経験がある人は共感出来るはず。
どれも本当に良い作品ばかり。若手医師の過酷な労働時間、医療ミスの隠蔽、不都合な論文を闇に葬る等、医療小説が好きな人なら興味のある内容ばかり。でも朝比奈秋さんの『魚類譚』はちょっとホラーぽくて異色でした。 -
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作家、産婦人科医・医学博士
今なら、過去を変えられる――
大学病院で産婦人科医として勤務する草壁春翔。
春翔は幼い頃に妊娠中の母が目の前で倒れ、何もできずに亡くなってしまったことをずっと後悔していた。
ある日、春翔は実家の一室で母のPHSが鳴っていることに気づく。不思議に思いながらも出てみると、PHSからは亡くなった母の声が聞こえてきた。
それは雨の日にだけ生前の母と繋がる奇跡の電話だった。さらに春翔は過去を変えることで、未来をも変えることができると突き止める。そしてこの不思議な電話だけを頼りに、今度こそ母を助けてみせると決意するのだが……。
現役医師が描く、時をこえる本格医療・家族ドラマ! -
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ネタバレ9人の現役医師による医療小説アンソロジー。
医師作家でしか表現できないと思われる臨場感あふれる詳細な描写、ヒューマンでミステリアスなストーリーが魅力の作品集だ。
1〈研修医ヒナノの洞察〉
上司からパワハラを受けている研修医が患者の膠原病を見つけ上司を見返す痛快な話
2〈魚類譚〉
封建的で理不尽な医大の内部構造、詳細な手術シーンにミステリーとホラーの要素を取り入れた作品
3〈パイナップルのある光景〉
同じような引きこもり系の精神疾患でも、一方は入院治療、一方は家族による対処という示唆をする精神科医。専門的な見解が押し付けなく、ふわっと伝わってくる秀作
4〈救いたくない命〉
救急外来に運び込まれてきた瀕死の男はとんでもない犯罪者。しかも、手術助手を務める医師には憎むべき理由があった。救急救
命手術場面の描写がすごい
5〈春に綻ぶ〉
コロナ病棟で働く内科医の日常と苦悩をリアルに描く。苦闘の果てに主人公はかすかな希望を見出だす
6〈闇の論文〉
がんを見極める生検の際、傷ついた血管からがん細胞が侵入し、転移を招くことを証明した論文。これが世間に知れた場合の混乱を避けようと医療界の重鎮は論文を闇に葬る。現実世界ではどうなっているのか気になる
7〈言葉が消えるまえに〉
過去に同じ脳神経外科の医局員だった男の裏切りで医局を追放された主人公。そこへ、その男がグリオーマ患者としてやって来る。主人公のヒューマンな姿勢が光る
8〈空中テント〉
唯一、医師の視点ではなく、女性看護師を主人公にした作品。肉親が認知症になった時の介護を巡って、エゴむき出しの親族や主人公に訪れる修羅場、介護サービスを考えるまでの経緯がリアルに描かれる
9〈峠を越えてきた命〉
伊豆半島にある産科救急に特化した病院の若手医師が主人公。切迫早産の妊婦が救急車で揺られながら険しい天城峠を越えて病院に向う様子、待機して万全の体制を取る医療スタッフ、分娩室での対処の様子が実に生々しく描かれる。危険にさらされる新しい命を懸命に救おうとする産科スタッフの努力と救急隊との密接で的確な連携が読み手の心を打つ。秀逸で感動的な人間ドラマだ
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伊豆半島。温泉や景勝地、魚の幸・山の幸にも恵まれた豊かな土地だ。
けれど近年、伊豆でも若者の流出とともに過疎化も始まっている。医療施設の減少も目立つがそれは産婦人科において特に深刻である。
そんな伊豆の産科医療を支えているのが伊豆中央病院、通称「伊豆中(いずなか)」だ。
伊豆の新しい生命の誕生を第一線で守る伊豆中産婦人科医たちの奮闘を描いた医療ドラマ。
北上次郎オリジナル文庫大賞。
なお物語は主人公の北条衛の視点で展開するが、第4話「城ヶ崎塔子の夏休み」のみ先輩医師の城ヶ崎塔子の視点で語られる。
◇
天渓大学医学部附属病院の医局員、北条衛に急な異動の辞令が出た。異動先は伊豆中央病院。
ここは産科救急特化型の施設である総合周産期母子医療センターであり、産科関連業務が中心だ。
東京の本院を離れるということは、最新の情報や先進医療から遠ざかるということに繋がる。だから地方への異動は、ただでさえ気が進まないものだ。
ましてや婦人科の腹腔鏡手術のエキスパートになるべく研鑽を積んでいた衛にとって、産科医療にしか携われない病院への異動は、キャリアの中断を意味する。
さらに衛の前任で赴任半年で逃げ帰ってきた佐伯によると、三枝教授によるワンマン体制や教授ルールと呼ばれる謎の決まりなど、息が詰まるような環境だと言う。
まったく気が重いだけの異動だが、衛には断るという選択肢はない。1年したら呼び戻すという口約束を信じてしぶしぶ伊豆に赴任したのだった。
そんな後ろ向きな気持ちで着任した衛を待っていたのは……。 ( 第1話「カイザーと着任祝いの金目鯛」) ※全5話。
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主人公の北条衛が、数々の出産や帝王切開を介助し、さらに困難を極める手術の前立ちを務めることで、産科医として成長を遂げていくというストレートな展開ですが、非常に胸を打つストーリーになっていました。
医師としてのキャリアの中断を甘受し、悪い噂の絶えない職場へ赴いた衛。当初は警戒心をあらわにし、病院の体制に疑問を感じていました。
けれど彼を迎えた人たちの温かさや高邁な姿勢に触れるうちに、医療に携わる者に最も必要なものは何かということに、衛は気づいていきます。
衛の意識を変えていった人たちが、実に魅力的です。
まず、気難しい暴君のように見える院長の三枝教授。
実は伊豆の産科医療の将来だけでなく勤務医の人生にまで配慮する、懐の深さと情の深さを持ったリーダーです。
また、医師としての見識や手術で見せる判断の的確さ、手技の正確さやスピードは神懸かり的で、衛は思わず見入ってしまうほどです。
次に、衛の直属の上司である、産科部長の城ヶ崎塔子。
小柄でスリムな身体のいったいどこにこれだけのパワーが ⁉ と思うほど、 明るく周囲に気を配りつつチームを鼓舞し、急患の多い現場を引っ張り続けます。
また、患者に対しても行き届いた対応を忘れない姿勢は、衛の心を打つほどです。
その他にも、下水流明日香とスキンヘッド田川という2人の先輩医師、医局時代の後輩だったイケメン神里、塔子に心酔する看護助産師の八重も一騎当千の強者で、まさに役者が揃っています。
いずれも産科医療に誇りを持ち、常にベストを尽くそうと努める。その熱量は、読んでいるこちらの心まで熱くしてくれるようでした。
「医は仁術」。読後、最初に浮かんだのがこのことばです。
もちろん医師としての価値観は様々でしょう。だから東京の本院での順調な出世を第1に考える医師がいるのを批判するつもりはありません。
それでも、伊豆中に医師生命を捧げてキャリアを終えようとする三枝や塔子の高潔な精神に魅力を感じずにはいられませんでした。
余談ですが、毎話登場する料理やクラフトビールの美味しそうな描写も、作品の大きな魅力です。これもぜひ、お楽しみに! -
Posted by ブクログ
小学館が創設した「食」に関する新レーベル「おいしい小説文庫」。2020年、コロナ禍の非日常だからこそ、食小説を通じ読者の心に彩りを添えたい、との思いで立ち上げたとのこと。その内の一冊です。
ところで、現役医師兼作家さんて結構いらっしゃいますね。本書の著者・藤ノ木優さんもそうで、本作がデビュー作とのこと。今回初読みでした。
末期患者専門の料理を提供する店「まぎわ」を舞台に、終末期医療の一つのあるべき姿を提示するとともに、人の心や店の流儀が解らない半端な青年・翔太が、人の想いや最後の晩餐を叶えることに喜びを見出し、料理人として成長していく物語です。
翔太の、包丁の技はあれど心が伴わない、イラッとさせられる描写も意図的なんでしょう。そして、人へ寄り添う手段として「食」も多大な貢献要素なのだと気付かされます。
なんだか、小川糸さんの『ライオンのおやつ』を思い出しました。食は大事ですね。
「まぎわ」は確かに「死の間際」かもしれませんが、料理で患者に寄り添って満足してもらえるのなら、残り少ないけれども新たな「生」を燃やすきっかけとなる「出発間際」とも言える気がします。
こんな「心」のこもった料理を提供されたら、涙なくしていただけません。架空の物語ながら、目に浮かぶ料理と本小説の提起に、心穏やかに手を合わせたくなります‥。美しい物語でした。