藤ノ木優のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
大学病院で医療事故に関わり、世間から誹謗中傷を受けて職場を追われることになった産科医の一馬。
逃げるように訪れた先の限界集落で、雪の中産気づいた妊婦に出会い小さな産院に同行する…。
著者が現役の産婦人科医なのもあり、お産のシーンは特に生々しい緊張感がありました。
病気の治療ではなく命の誕生と向き合う産科医。
現場では常に母親と赤ちゃん2人の命が託されていて、その計り知れない重圧に息が詰まりそうでした。
いくら日本の周産期医療が安全であっても、出産するまで何が起こるか分からない中で手を尽くし、助からない命があるのも事実。
突然家族を失くした遺族が医師や病院を責めたくなる気持ちは無理もないけど、そこには助けたくても助けられなかった過酷な医療現場の現実があることを認識させられました。
最早ボランティアも同然の経営状態で医師ひとりで産院を守り、30年以上新しい命を救い続けてきた相良先生。(御年75歳!)
24時間365日お産を支える責任を背負ってきたのに対し、村人は実情を知ろうともせず相良先生を厄介者扱いしているのが悔しい…!
「お産は何もしなくても生まれるもの」という化石発言には、思わず拳をギュッと握り締めました。笑
田舎特有の閉鎖的、排他的な考えを含めて、少子高齢化した過疎地が抱える問題の根深さを感じます。
相良先生のような存在を美談にせず、どんな状況であっても医療は医者の犠牲のうえにあってはならないのだと痛感しました。
病院が近くにあっていつでも治療してもらえる環境は、決して当たり前ではないということに改めて感謝したいです。 -
Posted by ブクログ
定年後勤めだした仕事が少なからず医療に関係しているので、一つ現役医師の小説家が書いた小説を読んでみようと思い、手始めに新潮文庫にある『夜明けのカルテ』という9人の医師小説家の短編を集めたアンソロジーを読んでみた。収録されていたのは下記の作品である。
牛島志季『研修医ヒナノの洞察』
朝比奈秋『魚類譚』
春日武彦『パイナップルのある光景』
中山裕次郎『救いたくない命』
佐竹アキノリ『春に綻ぶ』
久坂部羊『闇の論文』
遠野九重『言葉が消えるまえに』
南杏子『空中テント』
藤ノ木優『峠を超えてきた命』
それぞれ主人公が外科医だったり産婦人科だったり研究職だったり患者を抱える家族だったり。自分に身近な問題が扱われていたり、医療関係者だからこそ書き込める医療用語が出ていたりすると、読む側としても気が引き締まる。研究職を経験したことのある自分にとっては『闇の論文』に興味を持ったが、一番印象に残ったのは救いたくないのに医者と言う立場ですく若くてはならない『救いたくない命』だった。これを機に、医療小説をまとめて読んでみようと思っている。 -
Posted by ブクログ
ある過去を持つ新人助産師が主人公のお話。
医療系のお話が好きで様々なお話を読むけれど、産婦人科の物語を読むのはこれで2冊目。
そして1冊目の本も藤ノ木さんの本(偽医者がいる村)でした!
産婦人科医をされている藤ノ木さんだからこそ、業界のお話がとてもリアルに書かれていて読みやすかったです!
そして何より、勉強になります。この本を読んでより一層視野が広がった気がしてます!
物語はある過去を持つ新人助産師(守谷まゆ)。
新卒で入った病院ではその過去のトラウマがあるため、子を受け止めることがどうしてもできない。
その過去と向き合うお話も含まれていて、まゆちゃんの成長もみれるお話になっている。
夏頃に続編ができるそうなので、それまで楽しみに待っていようと思います!! -
Posted by ブクログ
『あしたの名医』の著者のデビュー作品
魂の出汁で作った最高のお・も・て・な・し
物語の舞台はちょっと変わった料理屋
「まぎわ」 まずは暖簾をくぐってみた
読み進めるとすぐに疑問に感じた。
「まぎわ」のマスターの過去、なぜ医者を辞めてまで料理人に?そして出汁へのこだわり。
物語後半にマスターの悲しい過去が明かになるが、現役医師の著者が描く闘病生活の描写はあまりにもリアルで重い。
そして、マスターの「生きるって何だろうね」という言葉。
最初は亡くなった奥さんの罪滅ぼしのように見えて切なかったけれど、お客さんの笑顔に救われていく姿を見て、医療で救えなかった心をあたたかい一杯の出汁で救いたい。奥さんが最後に食べたお粥で見せた笑顔のように。そんな想いがこもっているのかなと感じた
特に余命わずかの咲良のために試行錯誤を繰り返した「桜の料理」を提供する描写は涙がポロポロ落ちる。
最期まで自分らしくあろうとする咲良の姿とささやかな願いが叶った瞬間の笑顔が忘れられない。
「まぎわのごはん」はお客さんの最後の想いを叶える最高のお・も・て・な・しだ。
生きるということは食べること。
自分の大好物、想い出の味、病気と闘っている人達に生きる希望を与えてくれる心のごはん。
あぁあ、あっという間に面白くて完食してしまった。マスターと翔太に「おかわり」をお願いしたいが残念ながらないようだ。
心もお腹も満たしてくれる最高の一冊だった。
ご馳走さまでした。
-
Posted by ブクログ
「あなたは助産師に向いていない!」
え~いきなり、その言葉はきつくない?
プリセプターの亜美さん、私だったら心が折れちゃうよ。
この妥協を許さない亜美には良からぬ噂も……。
そう、この物語は現役医師が描く新人助産師・まゆの成長物語。
さすが、現役産婦人科医師ならではのリアリティーな描写。
特に緊急カイザーのシーンは「蹄の音を聞いたらシマウマではなくウマが来たと思え」の格言通り、一分一秒を争う「時間との戦い」、モニターの音、スタッフの緊迫感がひしひしとと伝わってきて、母子の無事を祈りながらハラハラドキドキしながら夢中でページをめくった。
初めての夜勤で、まゆが直面した「中期中絶」「命の選択」という重い現実は、他に方法はなかったのか、正解のない問いに心がモヤモヤする。
熊本の「いのちのかご」でまゆの複雑な生い立ちに「生きていてありがとう」という言葉が胸に響いて思わずじーんとしてしまう。
また、やむを得ず子を手放す母親に「家族を作ってあげてください」という言葉に、私自身物心ついたときから母親がいなかったので胸に込み上げてくるものがあった。
かつては「泳げない魚」のようだったまゆが、厳しい亜美の指導のもと過去を乗り越え成長していく姿は『コウノトリ』が新しい希望に向かって羽ばたいていくように将来が頼もしくもあり、今後どんな助産師になっていくのか、その成長を見守り続けたくなるので是非シリーズ化してもらえると嬉しい。
あと亜美のスビンオフ作品とかも読みたいかも。
母親と新しい命に寄り添う助産師の物語は『コウノトリとんだ』という言葉通りあたたかい余韻が残る心地よい一冊だった。