藤ノ木優のレビュー一覧
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伊豆半島。温泉や景勝地、魚の幸・山の幸にも恵まれた豊かな土地だ。
けれど近年、伊豆でも若者の流出とともに過疎化も始まっている。医療施設の減少も目立つがそれは産婦人科において特に深刻である。
そんな伊豆の産科医療を支えているのが伊豆中央病院、通称「伊豆中(いずなか)」だ。
伊豆の新しい生命の誕生を第一線で守る伊豆中産婦人科医たちの奮闘を描いた医療ドラマ。
北上次郎オリジナル文庫大賞。
なお物語は主人公の北条衛の視点で展開するが、第4話「城ヶ崎塔子の夏休み」のみ先輩医師の城ヶ崎塔子の視点で語られる。
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天渓大学医学部附属病院の医局員、北条衛に急な異動の辞令が出た。異動先は伊豆中央病院。
ここは産科救急特化型の施設である総合周産期母子医療センターであり、産科関連業務が中心だ。
東京の本院を離れるということは、最新の情報や先進医療から遠ざかるということに繋がる。だから地方への異動は、ただでさえ気が進まないものだ。
ましてや婦人科の腹腔鏡手術のエキスパートになるべく研鑽を積んでいた衛にとって、産科医療にしか携われない病院への異動は、キャリアの中断を意味する。
さらに衛の前任で赴任半年で逃げ帰ってきた佐伯によると、三枝教授によるワンマン体制や教授ルールと呼ばれる謎の決まりなど、息が詰まるような環境だと言う。
まったく気が重いだけの異動だが、衛には断るという選択肢はない。1年したら呼び戻すという口約束を信じてしぶしぶ伊豆に赴任したのだった。
そんな後ろ向きな気持ちで着任した衛を待っていたのは……。 ( 第1話「カイザーと着任祝いの金目鯛」) ※全5話。
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主人公の北条衛が、数々の出産や帝王切開を介助し、さらに困難を極める手術の前立ちを務めることで、産科医として成長を遂げていくというストレートな展開ですが、非常に胸を打つストーリーになっていました。
医師としてのキャリアの中断を甘受し、悪い噂の絶えない職場へ赴いた衛。当初は警戒心をあらわにし、病院の体制に疑問を感じていました。
けれど彼を迎えた人たちの温かさや高邁な姿勢に触れるうちに、医療に携わる者に最も必要なものは何かということに、衛は気づいていきます。
衛の意識を変えていった人たちが、実に魅力的です。
まず、気難しい暴君のように見える院長の三枝教授。
実は伊豆の産科医療の将来だけでなく勤務医の人生にまで配慮する、懐の深さと情の深さを持ったリーダーです。
また、医師としての見識や手術で見せる判断の的確さ、手技の正確さやスピードは神懸かり的で、衛は思わず見入ってしまうほどです。
次に、衛の直属の上司である、産科部長の城ヶ崎塔子。
小柄でスリムな身体のいったいどこにこれだけのパワーが ⁉ と思うほど、 明るく周囲に気を配りつつチームを鼓舞し、急患の多い現場を引っ張り続けます。
また、患者に対しても行き届いた対応を忘れない姿勢は、衛の心を打つほどです。
その他にも、下水流明日香とスキンヘッド田川という2人の先輩医師、医局時代の後輩だったイケメン神里、塔子に心酔する看護助産師の八重も一騎当千の強者で、まさに役者が揃っています。
いずれも産科医療に誇りを持ち、常にベストを尽くそうと努める。その熱量は、読んでいるこちらの心まで熱くしてくれるようでした。
「医は仁術」。読後、最初に浮かんだのがこのことばです。
もちろん医師としての価値観は様々でしょう。だから東京の本院での順調な出世を第1に考える医師がいるのを批判するつもりはありません。
それでも、伊豆中に医師生命を捧げてキャリアを終えようとする三枝や塔子の高潔な精神に魅力を感じずにはいられませんでした。
余談ですが、毎話登場する料理やクラフトビールの美味しそうな描写も、作品の大きな魅力です。これもぜひ、お楽しみに! -
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小学館が創設した「食」に関する新レーベル「おいしい小説文庫」。2020年、コロナ禍の非日常だからこそ、食小説を通じ読者の心に彩りを添えたい、との思いで立ち上げたとのこと。その内の一冊です。
ところで、現役医師兼作家さんて結構いらっしゃいますね。本書の著者・藤ノ木優さんもそうで、本作がデビュー作とのこと。今回初読みでした。
末期患者専門の料理を提供する店「まぎわ」を舞台に、終末期医療の一つのあるべき姿を提示するとともに、人の心や店の流儀が解らない半端な青年・翔太が、人の想いや最後の晩餐を叶えることに喜びを見出し、料理人として成長していく物語です。
翔太の、包丁の技はあれど心が伴わない、イラッとさせられる描写も意図的なんでしょう。そして、人へ寄り添う手段として「食」も多大な貢献要素なのだと気付かされます。
なんだか、小川糸さんの『ライオンのおやつ』を思い出しました。食は大事ですね。
「まぎわ」は確かに「死の間際」かもしれませんが、料理で患者に寄り添って満足してもらえるのなら、残り少ないけれども新たな「生」を燃やすきっかけとなる「出発間際」とも言える気がします。
こんな「心」のこもった料理を提供されたら、涙なくしていただけません。架空の物語ながら、目に浮かぶ料理と本小説の提起に、心穏やかに手を合わせたくなります‥。美しい物語でした。 -
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まぎわの料理とは、「死ぬまぎわ」の料理だった⁉️
「ありがとう。私の人生で、一番美味しくて、一番楽しくて、一番美しいご飯だった」
「料理を作り続けて欲しい。翔太さんの料理には、人を救う力があるわ。私が亡くなった後も、沢山の人を助けてあげてね」
現役医師が描く圧巻のデビュー作!
修業先の和食店を追い出された赤坂翔太は、あてもなく町をさまよい「まぎわ」という名の料理店にたどり着く。
店の主人が作る出汁のおいしさに感動した翔太は、店で働かせてほしいと頼み込む。念願かない働きはじめた翔太だが、なぜか店にやってくるのは糖尿病や腎炎など、様々な病気を抱える人ばかり。
それもそのはず、「まぎわ」はどんな病気にも対応し、患者に寄り添った食事を提供する、特別な食事処だったのだ。
塩一つまみ気軽には使えない店の正体に戸惑いを隠せない翔太。そんな中、翔太は末期がんをわずらう元モデル・如月咲良のための料理を作ってほしいと主人に依頼され――。
病と向き合う若き料理人の葛藤と成長を現役医師が描く、圧巻の感動作! -
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研修医凪沙の成長1ヶ月。ってところか。
著者が医師なので、医療行為の場面や、病状についてとてもリアリティがあるなと思う。
凪沙が1番初めに失敗するシーン。
「自分は医者である。患者をどうにか助けねば」と、思うあまりに暴走してしまう感じ、すごくわかるなーと。
医師ではないが、キャリアコンサルタント資格を手にした後、私は面談で失敗した。
凪沙と似たような気持ちに落ち入り、「どうにかしなきゃ」と暴走し、クライアントの信頼を損ねてしまった。
あのときの光景、まざまざと思い出せるなー。。。
伯母が肺がん末期でホスピスに入院していた過去があるので、武田さんの過程には感情移入をしてしまった。
幸せなラストだったと思うよ。
武田さんにとっても、家族にとっても。
いつか、もっと成長した凪沙の物語もみてみたい。
その頃には、凪沙は、指導医になっているとかね。