【感想・ネタバレ】あしたの名医―伊豆中周産期センター―(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

産婦人科医の北条衛は、伊豆中央病院に異動を命じられた。予期せぬ都落ち、しかも鬼の老教授が医局を支配していると聞く。着任早々、その教授と手術を行うはめになった衛。彼は、地域の命の砦を守る重責を感じつつ、個性ゆたかな先輩医師に学びながら成長してゆく。激務に疲れた衛に活力を与えるのは、伊豆半島の海と山の幸だった。現役医師が描く、興奮と感動の医学エンターテインメント。(解説・杉江松恋)

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ネタバレ

 のんびりとした伊豆の温泉や美味しそうなご飯の情景。それと交互に現れるすごく怖い教授、そして凄まじい気迫の医師そして妊婦の妊娠との激闘、緊迫した手術と命の危機。気の緩みと緊張が幾度となる続く物語であった。才能ある医師が新たな出会いをし励まされ、時に休み時に覚悟を決めて挑む。いろんな形の強さと医師の生き様を感じさせる。
 最初に頑迷にして旧弊な存在として現れた教授ルールが、この極限の環境においては非常に理にかなったものであるということが複数の段階で、複数の理解であらわになっていき、逆にそれが必要なほどに地域医療の抱える根本的な問題が浮かび上がる。そして合間にある伊豆の土地の温かさや美しさ、ご飯のおいしさなどが、その問題だらけの地域医療で支えなくてはならないものとして現れるのだ。そしてそれを支えて改善して発展させたい医師達の思いや、それに感銘を受けていく主人公の視点の説得力を生んでいる。

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2025年07月25日

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 都内の大学病院で腹腔鏡手術の手技を磨いていた北条衛は、伊豆中周産期センターへの異動を命じられる。しかも、鬼の老教授が医局を支配しているという悪評も聞こえてくる。

 医療系の物語としても面白いんだけど、伊豆観光案内、伊豆グルメ情報誌?としても大変優秀。食べ物の描写がうまくって思わず夜中にビール飲んじゃったし、伊豆グルメを堪能しに行きたくなっちゃった。

 自分のお産の事を思い出しつつ、お医者さん側から見るとこんな風なの?と思ったり。

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2025年05月19日

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わたしの尽きぬ悩みの一つに「病院が遠くて通うのが大変」というのがあります。持病があり専門医に診てもらう必要があるのですが、住んでいる所は医療過疎地域です。
この小説は、同じく医療過疎問題を抱える伊豆半島が舞台になっていて興味深く読みました。
伊豆半島にある産科救急特化型の医療センターに、入局5年目の医師、北条衛が東京の大学病院から異動でやってきます。前任者から聞く話によると、この病院の医師たちは曲者ぞろい、トップの教授は頑固で絶対的な権力を持っているとのこと。
過疎地域に住むわたしは、病院の少なさや高度な医療を受けるためには遠方まで出向かなければならないことに不安を持っていますが、都落ちしてくる医師もまた、不安を抱えてやってくるんだろうなと思いました。でも、伊豆は観光地です。風光明媚な景勝地であり、地元でとれる食材をいかした美味しい食べ物がたくさんあります。食事の描写が素晴らしく、食べることは生きること、そして、幸せなことだと改めて感じました。
産婦人科は、命が産まれる瞬間に立ち会う「生」の喜びとともに「死」のリスクが隣り合わせにあります。伊豆半島の交通事情により、車の運転が困難な山道を2時間かけて妊婦が運び込まれるケースもあり、緊迫する場面の連続です。命を預かる現場で必要なことは何でしょうか。豊富な知識と高い技術を身に着ける努力は大切だと思います。でも、どんなに力を高めても、人は全知全能の神にはなれません。人として生死をわける危機に向き合う時、瞬時の判断、決断ができる底力は、日常生活の積み重ねの中にあるのではないでしょうか。自然や人といった身の回りの世界と日々関わりつながって、失敗したり傷ついたりしながら信頼を築き学んでいくことで、成長できるのが人間なのでしょう。
過疎地で暮らす不安の中に「あした」の希望を見せてくれる作品でした。

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2024年11月16日

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お仕事小説やっぱり好きだわ。
医療小説ではあるんだけど、飯テロ小説でもある。
伊豆に行きたくなりました。

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2024年09月08日

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大好きな医療小説と食のエピソードがつまった作品。
過疎の医療問題など話は深刻なものだが、出てくる登場人物の温かさや伊豆の自然や食美味しいべ物の話で包まれていて心地よく読む進めることができた。
シリーズ化することを期待。

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2024年07月14日

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ネタバレ

自分が医療系ということもあり、共感出来る部分が多数ありました。
専門的な面もありつつ、普段医療小説を読まない人にまで誰にでも楽しく読んでもらえるような話の展開が素敵でした。
最初は早くスキルアップしてキャリアを磨きたいと考えていた主人公が、周りの患者さんや医者と関わるうちに考えが少し変わっていったところ、三枝教授の理不尽に見えるやり方は実は限られた医療資源・人材の中で患者を救うためにあるルールであったことなど、共感できる部分が多数ありました。
面白かったです。

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2024年06月26日

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職場で勧められた本。
終盤にかけて涙を堪えながら読んだ。
キャリアを積むことより大事なことがある。使命感や志のあるひととともに働けることは幸せだ。自分もそれに能う人間でありたい。そんな集団で働きたい。
三枝、田川、塔子さん。みんなすき。

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2024年06月24日

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私にとって久々の本格的な医療小説。

 大学病院で内視鏡を極めようとしている北条衛は伊豆周産期病院に移動を命じられる。
 厳格な教授に、立て続けに舞い込んでくる命の危機の現場。
 その中で人情味溢れる人々との関わりができ、仲間ができる。

終盤、衛の心が折れる事件が起こるが教授や伊織の両親の言葉に救われる。

古くて怖いだけと思っていた三枝教授、実はカッコ良すぎる。

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2024年04月27日

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伊豆半島を舞台にした医療小説で、新人産婦人科医が先輩方に学びながら奮闘する話。出産のシーンや手術のシーンが中々リアルで読んでてこの人の書く本に興味を持った。地域医療の問題に興味がある方に。

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2024年01月14日

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えがったよね。どの章が良いとかよりも通して5人のチームワークが完成したって事。ラストにほとんど出てない三枝先生登場と謝罪と北条の将来を守る絶対良い人 やっぱり伊織の手術は衝撃的で塔子の告白で震えた。大将の一言にワサビの涙腺のとあそこが1番良かったです。常に緊迫感のオペに対岸の美味しい食べ物に まぎわもこんな美味しんぼ的なリアル食の物語で一挙両得で得した気分です。三枝先生に自分の意思を伝える正解で 何故なら大将と女将に言葉を贈られたから。成長した未来のチームも見てみたい 北条良かったよ!

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2024年01月09日

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伊豆半島を舞台に地域医療の問題点をふまえた医療ライトノベル。郷土料理と時に緊迫した展開のバランスが素晴らしいエンタメ小説。

何となく本屋で手に取ってみた一冊。ましかこれ程面白いとは。

現役産科医ならではのリアルな手術の描写。人材難で多忙な中束の間の休息と突然の呼び出し。

伊豆半島の海と山の幸をふんだんに描きながら、地域医療の問題点にまで踏み込んだ作品。

笑いあり涙ありの良作でした。

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2023年12月12日

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おもしろかった!
さすが現役産婦人科医!
生々しくリアリティー溢れる!

いくつかの話が最終話に繋がる展開。
キツい塔子先生の過去が、教授への現在での立ち振舞いの大元になっていたとは。

都市に集中する若い医師たち。
それを誰も責めることはできない。
医療の地域間格差を小さくすることは難題であることを、多くの人たちに知ってもらいたい。

ただ、文庫本の解説が質的にものたりないかなぁ……

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2023年12月09日

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ネタバレ

産婦人科の先生が書かれているという事で、すごく読み応えがあった。専門用語もたくさん出てくるので本の中、伊豆中病院の中にグッと惹き込まれるような感覚があり、緊迫感のある場面ではドキドキしたし、無事に命が誕生した時は胸が熱くなった。
リアルな医療小説が大好きなので、医療小説としても大満足!
そしてなによりご飯の描写が!とんでもなく美味しそう!!読んでいてご飯の香りがしてきそうな、口の中に味が広がるような美味しそうな描写に涎とニマニマが止まらなかった…
出てくるご飯、全部食べたい。三島に行きたい!!!

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2023年11月15日

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ネタバレ

命をかけて一瞬一秒を争う場所での緊張感と、美しい自然から得られる悦び、そして新たな命が産まれる感動、涙無しには読めず、とてもおもしろかったです。

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2023年10月24日

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この方の本は程よく現場感があり、
読み応えがあって好んで選んでる
所謂作者読み
その価値あり。
今回は人間味あり
土地柄あり
とてもキャラクターにも深みがあり
良作

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2025年11月30日

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医療系のストーリー小説はよく読むが、このかたのは初。
この方も医師なのね。
医師って、小説家になる方が多いイメージが。。
みんな文才もあるのね、すごい。

さて。この本の中身。
リズムがよく読みやすい。
産婦人科領域の話は、「コウノドリ」で結構見聞きしていたので、伊織ちゃんの病状にもすぐに気づいた。
そして、それがどれだけ致死率が高いかも。
なので、あの展開は、伊織ちゃんを救うために最大限に必要なものだったと思う。
だから、北条、いくなよ!と、最後は思ったが、無事に残ってくれてよかったよー。
あのあたりの三枝教授の話し方、行動は、同じく医師で小説家の夏川草介氏の「始まりの木」の教授に似ているなーと思っていた。

大人買いとして、続編2冊も購入をしたので、またすぐ読むよー!

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2025年09月16日

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医療関係の小説は数多く読んだが、産婦人科領域は初体験
少子化が危ぶまれる昨今、母子を守る医師たちに感銘した
わずか数ヶ月の期間をこれだけの話にまとめ上げた作者の経験と能力にも感銘した
医療のみではない楽しみもあって良かった

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2025年09月02日

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この小説とは関係ないが、本を読むと何か得ることができる。
印象に残った言葉は、
経験が増えればふえるほど人生は潤う。
潤いのある人生を送れるかどうかは、君自身が選択することができる。

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2025年08月11日

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美味しい料理小説でデビューした産婦人科医が書いた本格医療小説。なので各話毎に医療と料理が出てくる。
伊豆中周産期センターという架空の設定だが、どう考えても自治医大の分院をイメージしてしまう。作中では周産期センターしか出てこないので、これだけかと思うのだが、現実の大学病院は殆どの科が揃っているので違和感がある。
ただ、伊豆随一の病院なので、伊豆中から難しい患者が運ばれるのは間違いない。作中では、それらの出産光景が専門医である作者から詳細に描かれる。赤ちゃんも母親もリアルな死からの生還は感動する。
本院から左遷されたような主人公が、頑固で偏屈な老教授に虐められるようなイメージの出だしだが、同僚、先輩の医師達も好人物だし、滅多に登場しない教授も良い人だった。
それに挟み込まれる伊豆の名物の料理達。美味しそうな料理の数々に、また伊豆に行きたくなってくる。

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2025年06月11日

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出産や手術シーンは、結構はっきりと描写されていて読み応えあり。絵や写真は無いのに、書かれている言葉だけでご飯が想像出来てしまった。お腹すいた。チームの皆が一丸となって妊婦さんを救おうとするシーンはドキドキハラハラ、感動。

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2025年01月31日

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静岡のおいしい食べ物がこれでもかというほど出てきて、描写もイメージしやすくとても読みやすい。クセが強めの産科メンバーもまた書かれ方が魅力的でどんどん引き込まれる。続編もあるのでそのまま抵抗感なく読めてしまう。、

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2024年12月18日

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伊豆といえば、駿河湾や伊豆高原など風光明媚な印象がある。日本の地形の始まりが凝縮されているようさえ感じる。そんな場所へ若手医師の北条衛が赴任する。本作は6編の短編で構成されている。
藤ノ木優さんらしく、食事と医療を上手く織り交ぜている。食べるということは生きるということでもある。金目鯛が食べたくなった。

医療現場での奮闘とほっとする場面とが絶妙なバランスだと感じる。ひとりひとりが患者のために向き合い、それを助け合う姿が美しい。医療現場に限らず、社会生活を送る上で、それはとても大切だと思う。
医療のAI化やロボット化は一面では技術として有効なのだろう。しかし、患者のケアは生身の人間対人間であるからこそ、温かさや優しさが伝わり、大きな治療薬となるに違いない。

そんな人間関係は北条衛にとって、大きな成長の糧となっていく。周りの塔子さんや三枝教授の人間性が支えとなっている。最新医療とは何をもって最新というのだろうか?冒頭で印象を記述したが、伊豆というはじまりの地は、新たな医療の始まりであったり、北条衛の本物の医師への始まりという意味で、このロケーションはピッタリだと感じた。

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2024年12月02日

Posted by ブクログ

今日買って3時間で一気読みしてしまった。著者が医師だからか、良い意味で患者と医師の描写には変に感情に訴えるような場面や表現はない。それでいて患者への思いや医師としての信念はじんわりと伝わってくる。自分の仕事への向き合い方はどうなんだと、ハッとさせられる言葉があちこちに。けして派手さはないけれどじっくりと心に響く、味わい深い一冊だった。あと、いつか必ず伊豆に行きたい!

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2024年09月23日

Posted by ブクログ

初読み作家さん。
地元が舞台で、知ってる土地の名前が出てくるし、もちろんモデルとなった病院にも行ったことがあるので、とても親近感を持って読み進めました。
美味しいお店も気になり、出てくる料理も作ってみたいと色々な点で読み応えのある1冊でした。

続編、出るかな〜?

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2024年08月20日

Posted by ブクログ

 伊豆半島。温泉や景勝地、魚の幸・山の幸にも恵まれた豊かな土地だ。
 けれど近年、伊豆でも若者の流出とともに過疎化も始まっている。医療施設の減少も目立つがそれは産婦人科において特に深刻である。
 そんな伊豆の産科医療を支えているのが伊豆中央病院、通称「伊豆中(いずなか)」だ。

 伊豆の新しい生命の誕生を第一線で守る伊豆中産婦人科医たちの奮闘を描いた医療ドラマ。
 北上次郎オリジナル文庫大賞。

 なお物語は主人公の北条衛の視点で展開するが、第4話「城ヶ崎塔子の夏休み」のみ先輩医師の城ヶ崎塔子の視点で語られる。
          ◇
 天渓大学医学部附属病院の医局員、北条衛に急な異動の辞令が出た。異動先は伊豆中央病院。
 ここは産科救急特化型の施設である総合周産期母子医療センターであり、産科関連業務が中心だ。

 東京の本院を離れるということは、最新の情報や先進医療から遠ざかるということに繋がる。だから地方への異動は、ただでさえ気が進まないものだ。
 ましてや婦人科の腹腔鏡手術のエキスパートになるべく研鑽を積んでいた衛にとって、産科医療にしか携われない病院への異動は、キャリアの中断を意味する。
 さらに衛の前任で赴任半年で逃げ帰ってきた佐伯によると、三枝教授によるワンマン体制や教授ルールと呼ばれる謎の決まりなど、息が詰まるような環境だと言う。

 まったく気が重いだけの異動だが、衛には断るという選択肢はない。1年したら呼び戻すという口約束を信じてしぶしぶ伊豆に赴任したのだった。
 そんな後ろ向きな気持ちで着任した衛を待っていたのは……。 ( 第1話「カイザーと着任祝いの金目鯛」) ※全5話。

      * * * * *

 主人公の北条衛が、数々の出産や帝王切開を介助し、さらに困難を極める手術の前立ちを務めることで、産科医として成長を遂げていくというストレートな展開ですが、非常に胸を打つストーリーになっていました。

 医師としてのキャリアの中断を甘受し、悪い噂の絶えない職場へ赴いた衛。当初は警戒心をあらわにし、病院の体制に疑問を感じていました。
 けれど彼を迎えた人たちの温かさや高邁な姿勢に触れるうちに、医療に携わる者に最も必要なものは何かということに、衛は気づいていきます。

 衛の意識を変えていった人たちが、実に魅力的です。

 まず、気難しい暴君のように見える院長の三枝教授。
 実は伊豆の産科医療の将来だけでなく勤務医の人生にまで配慮する、懐の深さと情の深さを持ったリーダーです。
 また、医師としての見識や手術で見せる判断の的確さ、手技の正確さやスピードは神懸かり的で、衛は思わず見入ってしまうほどです。

 次に、衛の直属の上司である、産科部長の城ヶ崎塔子。
小柄でスリムな身体のいったいどこにこれだけのパワーが ⁉ と思うほど、 明るく周囲に気を配りつつチームを鼓舞し、急患の多い現場を引っ張り続けます。
 また、患者に対しても行き届いた対応を忘れない姿勢は、衛の心を打つほどです。

 その他にも、下水流明日香とスキンヘッド田川という2人の先輩医師、医局時代の後輩だったイケメン神里、塔子に心酔する看護助産師の八重も一騎当千の強者で、まさに役者が揃っています。
 いずれも産科医療に誇りを持ち、常にベストを尽くそうと努める。その熱量は、読んでいるこちらの心まで熱くしてくれるようでした。

 「医は仁術」。読後、最初に浮かんだのがこのことばです。

 もちろん医師としての価値観は様々でしょう。だから東京の本院での順調な出世を第1に考える医師がいるのを批判するつもりはありません。
 それでも、伊豆中に医師生命を捧げてキャリアを終えようとする三枝や塔子の高潔な精神に魅力を感じずにはいられませんでした。

 余談ですが、毎話登場する料理やクラフトビールの美味しそうな描写も、作品の大きな魅力です。これもぜひ、お楽しみに!

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2024年06月03日

Posted by ブクログ

出産の描写は圧巻です。人間がこの世に生まれて来ることは奇跡だと、そんな風に思ってしまう。
本格的な医療小説であると同時に、これはグルメ小説ですね。読んでるとお腹が空いて来ます。

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2024年01月09日

Posted by ブクログ

美味しそうな表現と、美味しそうなお店たち。伊豆中の温泉、食のツアーに行ってみたいです。次回も楽しみにしております。

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2023年11月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人物設定、ストーリー展開、全てどこかで読んだことのある感満載でした。最後の衛の出した答えも予想通り。
それだけに気持ちよく読めたし安心の結末なのです
ハラハラドキドキではなく心穏やかに読み終えたい人におすすめ

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2023年10月29日

Posted by ブクログ

地域の産婦人科?

脳内イメージはこんな背景。スーパーヒーローが居ないことで、物語がいきいきと「魅える」。

じっくりと読む時間がなかったのが残念だったけど、いろんな出来事における主人公とその二人の上司の会話に感動したな。

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2024年01月22日

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