大木毅のレビュー一覧
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ネタバレこれまでの著者の著作物をエッセイ風にまとめたもの、という印象です。
まえがきにも書かれていますが、これまでの著者の綴ったものを集めて改めて俯瞰してみると「筆者の感心は一つところをぐるぐると回っているのだな、と思い知らされたものだ。すなわち、本書のタイトルとした『歴史・戦史・現代史』である。」とのことなので、様々な書き物を集めたものですが、テーマを据えています。
ただし著者は上記のようにテーマを述べていますが、読んでみるとより具体的なメッセージが込められています。それは例えば、
●日本において戦術というより戦場に近い分野の研究は市井の間ではほとんど行われておらず、もっぱら自衛官や元自衛官の専任状態になっているということへの問題意識。
●その自衛官らによる研究も精神主義や教訓戦史の陥穽に陥っている可能性があり、真に有意義な研究を妨げている危険がある。
●一般的なアカデミックな研究に目を移した場合も、事実によらない歪んだ研究が成果が世間にまかり通っていることへの危機感
などなど。これらのメッセージが様々な書評やエピソードを通じて語られているという印象です。
こう書いてしまうと本書をとっつきにくい作品と勘違いしてしまうかもしれませんがさにあらず。そのメッセージに通じた書き物しか取り上げていないというわけではなく、横道脱線もあります。これが本書を読みやすくしていると思います。
例えば著者のベストセラー作品となった『独ソ戦』には納められなかったエピソードや、先の大戦で欧州とアジア双方で重要な役割を担ったソ連という存在の位置づけ、スターリングラードの降将パウルスのその後の数奇な運命、著者が触れた様々な
著作物(中には北杜夫の「どくとるマンボウ」など、軍事と全く関係ないものも含まれます)の紹介・感想などなど。知識欲を満たしてくれる情報が豊富なので気軽に読んでも面白いと感じます。
個人的にはジャーナリストであるジョン・トーランドに関するエピソードは強く印象に残りました。
トーランドは持ち前のフットワークの良さと膨大な数をこなす調査力を活かし『バルジ大作戦』や『旭日』といった名高い作品を残しましたが、その後枢軸国側に過度に肩入れする性格を強め、最終的にはその評価を落とすことになった人物です。
その上昇・下降のエピソードは、たとえ名声を得たとしても研究者としての初心を忘れてはならないこと、最終的には評価を落としたとしても当初の作品の学術的歴史的価値は落ちないと評価する著者の「真面目さ」を感じます。
私はこのエピソードで、別宮暖朗氏が土肥原賢二を念頭にした「外務に携わる人間は往々にして任地惚れする」という言葉を思い浮かべました(トーランドも枢軸国側への膨大な調査を通じて「任地惚れ」したのかもしれません)。
読みやすく、また著者の書評からは興味深い作品も知ることができるのでお勧めですね。 -
Posted by ブクログ
独ソ戦の発端 イギリスとの戦いの行き詰まりを感じ、ソ連を先に下せばイギリスも諦めるだろうとの考えがドイツ側にあった。ヒトラーの思想にはきたる「千年帝国」のためにソ連の国土を植民地にするというのもあった。
戦争と地形 フランスは道路が舗装されており、侵攻が容易であったが、ソ連の土地は荒れており、鉄道の軌間も異なっていたこともあり計画通りに戦争を進められなかった
不完全な計画 ソ連の戦力をあまりにも軽く見た計画(首都の陥落とソ連側の重要な燃料拠点の同時攻略等)を立て、兵站が不足する自体に陥った。その影響でドイツ軍による村落の収奪が始まり、多くのパルチザンを生むことになった。(同志少女の最初のシーンが思い出される)
表面上は勝利しているように見えても、その実全く計画通りには行っておらず、「空虚な勝利」であった。
ドイツの戦争の発端 ヒトラーの独裁が戦争を招いたのか?否、ドイツ国民の総意である。これには以下の要素が挙げられる。
・ゲルマン民族至上主義
ユダヤ人、社会主義者、精神病者を劣等者とすることでナチズムの政策に固有の原動力を与えた。
・ドイツ国民重視の内政
国民の不満を高めない為に軍備拡張の財源を税金に求めるのではなく、帝国主義的な収奪を行うことで解決を図ろうとした。
三つの戦争
「収奪戦争」 対ソ戦前から「収奪戦争」の傾向はあった。その行為の根幹には人種差別の思想があった。奪われたのは物資だけではなく、五体満足のソ連軍の男子を徴兵さえもした。
「通常戦争」 捕虜取り扱いにおける戦時国際法の遵守や非戦闘員の保護等
「世界観戦争(絶滅戦争)」 敵と見なした者の絶滅を追求する「絶滅戦争」の意味を持つ。「出動部隊(アインザックグルッペ)」はその象徴的な存在がであり、将来ドイツの障害となるであろう存在(ユダヤ人、ボリシェヴィキ等)を殺戮する役割を持っている。
だが、「世界観戦争」という存在には弱点があった。世界観の維持の為に「軍事的合理性」という通常戦争が持つ特性を捨てなければならない為、「退却」という選択肢は無いに等しかった。(体制の動揺を防ぐため)
ソ連側にも「大祖国戦争」という標榜、「ファシストの侵略者」に打ち勝つため(その他いろいろ)という思想が生まれたことで対独戦の正当性が付与され、世界観が構築された。
最終的には、戦況の悪化ととも「世界観戦争」「収奪戦争」が「通常戦争」を飲み込み、「絶対戦争」となった。
p220
スターリンやらかし集
・緒戦の敗因を将校に帰し、粛清祭り。
・独ソ戦前に行われた大粛清によって軍部が急激に弱体化していた。
・ドイツが攻めてくるという情報があったにも関わらず情報を無視して防衛体制を築かなかった。
・ドイツ軍の軍人が乗っていた偵察機を撃ち落としてドイツ軍側の作戦計画がソ連側に漏洩したにも関わらず、スターリンは敵の工作だと信じ込んであてにしなかった。
ヒトラーやらかし集
・杜撰な計画の遂行(ナチ側全員の責任でもあるが、ソ連を舐めた、首都と燃料拠点の陥落を求めたのはヒトラーである)
・偶然の勝利をきっかけにした自信過剰による軍部首脳部の軍人の解雇。敗北の責任を司令官に帰して辞めさせ、ヒトラー自身が司令官となった。
「これ以上の後退は、諸君の破滅を意味し、しかも、それは祖国の破滅につながる。[中略] 一歩も退くな! これが、我らの主たるスローガンでなければならぬ。ほんの一メートル ほどであろうともソ連領土であれば、ただの一区画であろうともソ連の地ならば、おのおのの持ち場を、血の最後の一滴が流されるまで、可能な限り長期間にわたり、断固として 守り抜くことが要求されるのだ。」 -
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歴史の教科書では語りきれないことが満載されていた。
政治の世界にも腹の探り合いはあっても案外とサッパリしていると思ったけど、いやいやねちっこくあり嫌なら嫌と言えない上下関係姻戚関係。
大島浩、松岡洋右、この二人の行動が大きく影響したことがわかるが、この本ほどしっかり裏付けされた書き方をしているものは見ない。
歴史には、日独伊三国軍事同盟とあり、それは「互いに利益がある事に対して協力関係を結びましょう」エイエイオーかと思っているでしょうが
そうせざるを得ない伏線があったり、バーターであったり、たくさんの大人の事情がある。
御前会議で昭和天皇のが敢えて口を開き読み上げた
四方の海みなはらからと思ふ世に など波風のたちさわぐらむ
明治天皇の御製が意味のわからないものはいなかったという。
なら何故と思ってしまう。
振り返れば少しのきっかけで結果が大きく変わることは多い。
終盤を拝読するあたりからはいつも慈愛の念があった。
腹の探り合いは日常かもしれないが、何かを信じたり例え痛みがあろうとも協力し支える、そんなお互い様の世の中にしていけたらと思う。
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戦史家二人による対談。
戦史史料、文書、オーラルヒストリーについて、著者二人が日本軍について語る。 様々な事例をあげながら、旧日本軍の軍人達がどのような人たちであったのかを語っており、大変面白く読めた。 二人とも過去に軍人当事者に会う機会があり、資料や書き物だけではわからない雰囲気や性格、軍人気質に接することができた。 この先そういう経験を持つ人が少なくなり、史料を読むときに、文字に書かれたことだけを鵜呑みにすることを心配している。 また戦史についてはいろいろな本が出ているが、小説家では吉村昭と澤地久枝を高く評価している。 資料の付き合い方向き合い方が真剣なのだそうだ。 対談なので面白いエピソードが多く、知らなかった事実や見解の違い、俗説への批判、文人たちの考え方などいろいろと勉強になった。
ちなみに自分の家系では、祖父が軍人で輸送船に乗って何度も南方へ行っており、生還した運のいい人だったらしい。また母方の伯父は空母鳳翔の通信長だった。 伯父の紹介で父母が結婚し、自分がいる。 身内の人たちが戦争を生き延びてくれたから今の自分がある。 この本とは関係ない話だが、生きている時に話を聞いておきたかった。 -
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ネタバレ第二次世界大戦における「電撃戦」で欧州を席巻したドイツ装甲部隊の生みの親と呼ばれるハインツグ・デーリアン将軍の評伝。
前作のロンメルの評伝と同様、様々な脚色によってゆがめられた「グデーリアン像」に対し、ファクトをベースに実際の姿をあぶりださんといているのが本書の大きな特徴だと思います。
ロンメルの場合、周辺の人々の様々な思惑が脚色されたロンメル像を形作った(ロンメル自身は1944年に服毒自殺を遂げているので当然なのですが)のに対し、グデーリアンの場合は自身がこれを意図した点がロンメルとの大きな違いでしょう。
彼の回想録には、自身の手によって画期的な装甲戦術が編み出され、暗愚な上司の無理解に悩まされながらも装甲部隊創設を成し遂げ、戦中では多大な戦果を挙げたものの、ヒトラーやその取り巻きの無能によってこれが無に帰せられたことが綴られています。
しかし本書を読むと、これらが(嘘とまでは言わないものの)大きく脚色された物語であることがわかります。
構成としてはグデーリアンの青年将校時代から、第一次世界大戦での活躍、戦間期の活動、そして第二次世界大戦と戦後の活動に至る、グデーリアンの一連の歴史経過がたどられます。
その中で大きく3つの(グデーリアンにとっての)「不都合な真実」が語られます。
1つは「装甲部隊(戦術)の生みの親」の栄誉を実際以上に享受している点。
当然グデーリアンもこれに大きく寄与していたことは事実ですが、一方でフォルクハイムやルッソといった優秀な先達が数多く存在し、彼らなくしても装甲部隊の創設はあり得ませんでした。
もう一つは、グデーリアンは巷でいわれるような「政治や人道に中立な軍人」ではなかったという点。
グデーリアンは元来国粋主義的な思想を有しており、第一次世界大戦後に創設された(彼も所属する)武装組織である「鉄師団」は、数々の残虐行為を繰り返します。
また、ポーランドにおける保養地取得に関するマンシュタインの回想では、人道を意に介さないグデーリアンの非情な姿が垣間見られます。
最後は、グデーリアンは優れた戦術眼を有する一方で(ドイツの多くの将星たちと同様に)戦略眼は欠如していたという点。
グデーリアンの戦術眼には目を見張るものがあり、対仏戦での戦術行動は今でも各国軍の模範とされていることが示される一方で、対英戦や対ソ戦では随所で戦略眼の欠如を示す言行が見られることが紹介されています。
本書ではグデーリアンのあまり知られていない経歴(特に第二次世界大戦前)が具体的に説明されているので新鮮です。
また随所にみられる小ネタ(具体的なエピソード)もなかなか面白いですね(たとえばマンシュタインが自身の対仏作戦構想をグデーリアンに評価してもらう際、二人は異なる部隊に所属してたがその司令部はたまたま同じコブレンツに置かれており、しかも二人の宿泊するホテルはなんと隣同士だった)。
ロンメル、グデーリアンに続き、マンシュタインの評伝も予定されているとのことで、それも楽しみですね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「砂漠の狐」として名をはせたエルヴィン・ロンメルは良くも悪くも脚色された物語を持つ英雄だと思います。
プロイセン軍人が幅を利かせた帝政時代にあってはそこから外れたアウトローからキャリアをスタートさせ、第1次大戦では大胆な戦術を駆使して次々と戦果を挙げ、ついにドイツ軍最高の勲章(ブルーマックス勲章)を獲得。
第2次大戦のフランス戦線において、彼が指揮した師団はその神出鬼没ぶりから「幽霊師団」と恐れられ、アフリカ戦線では常に劣勢な物量下で英国軍と互角以上にわたりあい、ついに元帥に上り詰める。
戦局が悪化するにつれて何とか講和による戦争終結を目指すものの受け入れられず、最後はロンメルにスポットライトをあてた当人であるヒトラーからの命により自ら毒をあおぐという悲劇によって人生の幕を下ろす・・・。まさに映画や小説のような筋書きです。
しかし逆に、どこまでが脚色でどこまでが真実なのかがはなはだわかりにくい人物でもあります。
本書を読むとわかりますが、ロンメルを題材にした著作物は様々な思惑によって彼を持ち上げ、またこき下ろしていることから事実が非常にわかりづらくなっている。
そんな中にあって本書は「真実のロンメル」を明らかにせんとして書かれた一冊なので大変参考になります(ただし、それがゆえに「夢から覚めてしまう」不安も付きまといます)。
読み終えての感想ですが、本書は非常に親切な構成でとても分かりやすいです。
文章は簡潔にして明快です。
章立てとしては、ロンメルの生い立ちから軍人としてキャリアを築いていく流れを時系列で説明しています。
その中で意外な事実も多々記されています(まさかあのロンメルがルチー(後の婦人)に黙って愛人との間に子をもうけ、しかもその子を公然と養っていたとは・・・!)
また各所で説明されるロンメルの人物評ですが、実際に彼と関わりを持った人物たちの証言が公平に取り上げられ、そこか浮かび上がる人物像として説明されているのでとても客観性が高いと感じます(当然証言者の思惑やバックボーンについても言及されています)。
それと同時に、巷のロンメル戦記の中では邪魔者として彼の足を引っ張ったかのように描かれている人物たちや、ロンメルに苦も無く蹴散らされたかのように描かれる将領たちの実際の姿も客観性を持って補足されているので、読んでいて感心します。
くわえて具体的な戦闘状況の文章描写とともに戦局図や地図が挿絵として豊富に掲載されているのも助かります。
本書を読んで浮かび上がってくるロンメル像は、大胆かつ勇敢な天才戦術家としての(馴染みのある)姿とともに、実際以上に自分を大きく見せたがる自惚れ屋、そして大きな戦略的見地を欠き、己が戦術の完遂のためには部下の命を顧みない非情な姿、です。
本書を読むとわかりますが、彼の指揮下で幾人もの師団長レベルの将領が戦死し、また捕虜になっています。この人数ははっきり言って異常です。あの血みどろの独ソ戦にあっても初期の時点ではアフリカ戦線よりましだったのではないか、と思わせるレベルです(師団長レベルがそうなのですから、下士官レベルは言わずもがな、です)。これだけを見ても、ロンメルの指揮には重大な問題をはらんでいたことが見て取れます。
個人的に彼の行動は、第1次大戦でのルーデンドルフや、もっとさかのぼって北伐における魏延の行動とかぶって見えました。
ちょっぴり夢から覚めて、真実のロンメル像を垣間見たい方におすすめの一冊だと思います。 -
Posted by ブクログ
「独ソ戦」著者によるロンメル評。
最近hoi4 にハマりww2を勉強し始めたため購入。
サクサク読めたし入門本として最適だと思う。
ロンメルがドイツ国防軍の中でもアウトロー的経歴の持ち主だった事を重視し、故に勇猛大胆、独断専行な戦術家として大成し、上級将官としての教育を受けなかったことから補給軽視、戦略的視野が弱い指揮官であったと分析している。
またアウトサイダーであったため、軍部で昇進するためにも功名心とその誇示には病的であったとも。
そんなロンメルの評価は現代に至るまで未だ定まらない。
ロンメルの活躍はナチスにより過度に喧伝されており、また彼が最後までヒトラーへの忠誠心を持ち続けたかも曖昧なこともあり、ナチスの忠実な一員かドイツ国防軍の良心の一人か、今日まで上振れと下振れを繰り返しているからだ。
ただしロンメルが度々戦場で見せた騎士道精神だけはいつの時代も変わらず評価されていると、この本は締めている。
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Posted by ブクログ
ネタバレ第二次世界大戦におけるドイツとソ連の戦いについて、専門家ではなく一般向けに分かり易く、近年の研究成果も踏まえて解説してれる一冊。
単に戦闘を追うだけでなく、ドイツとソ連の当時の状況などの解説も加えられていて、日本人には馴染みの薄い当時のヨーロッパの状況についても理解できます。
昨今、ロシアとウクライナの間で起きている紛争の背景だとか、クリミア半島のこととか、その辺の地理のこととか、ロシア人とフィンランドや東欧の人々の間にどのような思いがあるのかなど、非常に理解しやすくなる一冊です。
日本では第2次世界大戦=太平洋戦争。
”戦争”といえば当然、日本とアメリカとの戦いの話しになってしまう。そしてヨーロッパの戦争の話しとなると、ナチス・ドイツ、ヒトラーのユダヤ人迫害、虐殺のイメージや、イギリス・フランスとの戦いや、ドイツが追い詰められた終盤の戦いぐらい。
しかし、第二次世界大戦の最も激しい戦闘は、ドイツとソ連との戦いにあったようだ。しかもその戦争は単に国家間の利益のぶつかりあいによる通常戦争ではなく、相手を殲滅させること自体が目的の絶滅戦争だった。
スターリンによる内部粛清による軍隊の弱体なども影響して、最初はドイツがかなりソ連を追い詰めたが、やがて物量も戦略も上手のソ連に押し返されていく様子だとか、相手を悪魔化して殺戮していう様子だとか、敗戦後はナチスに全て責任を負わせたが、実は国民も大部分は戦争に積極的に加担していたとか、いろいろと日米戦争と重なる部分も多いのも興味深かった。