岩波新書 新赤版1785
独ソ戦 絶滅戦争の惨禍
著:大木 毅
1941年6月22日のナチス・ドイツのミンスク、レニングラード、ウクライナへの、ソビエト連邦同時侵攻から、1945年5月11日プラハの闘いまでを、独ソ戦と呼ぶ
その戦場は、フィンランドから、コーカサスまでの数千キロに及ぶ長大な戦線と、独ソ両国民に甚大な被害をもたらした。
独ソ戦における、ソ連の被害は、死者行方不明者 1129万、一方、ドイツは、最大、832万である。
戦闘のみなら、ジェノサイド、収奪、捕虜虐殺が繰り返し行われ、人類史上最大の惨劇と言っても過言ではない
ナチスドイツ 世界観戦争 劣等人種スラヴ人を奴隷化するための戦争、絶滅戦争
ソ連 ロシアを守るための大祖国戦争
ソ連の捕虜はその場で殺害し、一方、ドイツの捕虜も、その95%が生きて祖国に戻ることはできなかった
互いに、捕虜になれば殺される闘いであり、そのために各戦線で、熾烈な戦いが繰り広げられることとなる
気になったのは、以下です。
■緒戦
・粛清によって弱体化していた軍に、ドイツ侵攻の情報が届いていたにもかかわらず、スターリンは、対抗しなかったため、奇襲をうけた形で独ソ戦はスタートした。
・ヒットラーというよりも、参謀本部は、独ソ不可侵条約をソ連が継続的に守るとは思っていなかった
・西部戦線で、イギリス軍と膠着状態になっていたドイツ軍は、同盟国ルーマニア油田の保護と、ソ連領内のマイコープ、クズヌイの油田の簒奪をもとめて、東進する計画を進めていた
・ソ連は、フィンランド戦争を仕掛け、レニングラードに隣接したカレリア地方の割譲を要求した。ドイツはこれをみて、ソ連が、国境を西に動かそうとしていることを認識した。
・ドイツは、北方軍、中央軍、南方軍を同時にソ連に侵攻させる、「バルバロッサ」作戦を立案し、1941年6月22日に実行に移した
北方軍 リガ⇒プスコフ⇒レニングラードへ(フィンランド軍と連携作戦)
中央軍 ミンスク⇒スモレンスク⇒モスクワ⇒ゴーリキへ(ソ連首都制圧、政治拠点制圧)
南方軍 オデッサ⇒キエフ⇒ハリコフー>スターリングラードへ(石油資源確保)
・ドイツ軍を待っていたのは、劣悪極まりない、ロシアの環境であった。フランスでは、舗装道路、給油できるガソリンスタンドも、乗り入れ自由な鉄道も、なかったため、ドイツ得意の電撃戦も発動することができなかった
・前線と補給との乖離、燃料などの物資は、まばらにしか届かない
・バルバロッサの失敗とは、ドイツ軍の惨敗でも、ロシア軍の善戦でもなく、兵站の不足が原因であった
■ドイツ軍VSソ連軍
ドイツの戦法は、電撃戦である、短期決戦指向、戦車と航空機を集中して、戦線を突破、敵を包囲して殲滅する
ソ連軍の戦法は、接近戦、指揮命令系統が混乱しても、降伏せず、徹底抗戦
ドイツ軍は、戦車、燃料不足に陥り、兵站の失敗が明らかになる。加えて、バルバロッサの短期決戦の構想が崩れ、独ソ戦が長期化することとなる。これは、ソ連軍が優位になることを意味していた。
ソ連軍は、予備役を呼集し、前線に段階的に投入した
赤いナポレオン、トゥハチェフスキー元帥の用兵思想
現代戦は、激烈な消耗戦であり、それに勝利するためには、無停止の連続攻撃を行い、戦略的な広域レベルで突破を実現することが必要不可欠である
空軍、砲兵、前線部隊の攻撃により、敵の最前線から中間陣地、さらに後方陣地までも、一気に制圧する
砲兵や、前線部隊の手が届かない後方は、迅速に突破した戦車・機械化部隊、空挺部隊が抑え、敵の再編成や予備兵力招致の阻止にあたる
この作戦術は、ベトナムで敗れた米軍の目にもとまり、米軍のドクトリンとして大きな影響力と発展を遂げていく
■ソ連の反攻
3つの反攻策
天王星作戦 スターリングラードのドイツ軍殲滅計画
土星作戦 東部戦線南翼のドイツ軍殲滅計画
火星作成 ドイツ中央軍先端突出部の殲滅計画+木星作戦+海王星作戦
ウクライナ奪回作戦
ドイツ軍のクルスク、城塞作戦 プロホロフカでは、ソ連235両を撃滅、ドイツ3両の損害なるも
連合軍のシシリア上陸への対応のため、ドイツ軍の抵抗はここまでで終わる
バグラチオン作戦
1944年6月~8月のソ連のドイツ反攻作戦、レニングラードから、オデッサにいたる長大な戦線で
ソ連の反攻が始まる
連合国のノルマンディ上陸に先立つこと、ソ連軍は、すでにベルリンにその進路をすすめていた
ドイツを制し、第二次世界大戦を終了させたのは、ソ連軍の功績によるところが大きい
目次
はじめに 現代の野蛮
第一章 偽りの握手から激突へ
第一節 スターリンの逃避
第二節 対ソ戦決定
第三節 作戦計画
第二章 敗北に向かう勝利
第一節 大敗したソ連軍
第二節 スモレンスクの転回点
第三節 最初の敗走
第三章 絶滅戦争
第一節 対ソ戦のイデオロギー
第二節 帝国主義的収奪
第三節 絶滅政策の実行
第四節 「大祖国戦争」の内実
第四章 潮流の逆転
第一節 スターリングラードへの道
第二節 機能しはじめた「作戦術」
第三節 「城塞」の挫折とソ連軍連続攻勢の開始
第五章 理性なき絶対戦争
第一節 軍事的合理性の消失
第二節 「バグラチオン」作戦
第三節 ベルリンへの道
終章 「絶滅戦争」の長い影
文献解題
略称,および軍事用語について
独ソ戦関連年表
おわりに
ISBN:9784004317852
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:860円(本体)
2019年07月19日第1刷発行
2019年09月13日第6刷発行