あらすじ
「これは絶滅戦争なのだ」。ヒトラーがそう断言したとき、ドイツとソ連との血で血を洗う皆殺しの闘争が始まった。日本人の想像を絶する独ソ戦の惨禍。軍事作戦の進行を追うだけでは、この戦いが顕現させた生き地獄を見過ごすことになるだろう。歴史修正主義の歪曲を正し、現代の野蛮とも呼ぶべき戦争の本質をえぐり出す。
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Posted by ブクログ
面白いのでスラスラ読めた。
独ソ戦に関しては、映像ドキュメンタリーや映画で知ってるぐらいだったが、細かい戦況の変化が地図付きで説明されていて理解しやすい。
両陣営の内情や作戦企図も最新(2019年時点)の研究成果を反映して説明されているので、古い文献を読んだことのある人にもオススメ。
Posted by ブクログ
独ソ戦である
要するにヒトラーVSスターリンということである
まずは2人の共通項をあげてみたい
どちらもひげのおっさんである
ヒトラーの有名なちょび髭に対しスターリンはいわゆるカイゼル髭である
カイゼルとはドイツ語で皇帝を意味し、ドイツ皇帝ウィルヘルム2世の口髭が始まりとされていいわ!髭の話はいいわ!
ふざけちゃいけないやつだわ!
はい、話戻します
2人の共通するのは極悪独裁者ってことです
そんな2人の全面対決ですから、それはもう悲惨です残酷です
そして本書ではそんなところにも目を向けつつ、戦史、軍事史面から独ソ戦を紐解いている
注目したいのは戦略戦術についても多くページが割かれていることで、これがかなり面白かった
独ソともに捕虜や民間人の虐殺に手を染めており、このような惨禍は二度と繰り返してはならないんだが、やはり冷静に独ソ両軍の作戦概要なんかを振り返るのは普通に面白いのだ
いかんな〜と思う
「バルバロッサ作戦」とか「土星(サトゥールン)作戦」とか言われちゃうと普通にかっこいいのだ
「第4装甲集団」とか「第6機械化軍団」とか激突しちゃうと普通にワクワクしちゃうのだ
いかんいかん
そういうのはフィクションの中だけにしよう
これ約束な!
Posted by ブクログ
第二次世界大戦をドイツと旧ソ連の戦いに絞って軍事史だけでなく政治外交史や戦時経済のことも含め様々な視点で説明された「独ソ戦通史」
かなり歴史に疎い私でも読み切れたので、歴史初心者にもおすすめしたい一冊。
岩波新書の中ではかなり読みやすく、新書の中ではデータを元に俯瞰的に描かれており、良書ではないかと(歴史に詳しくないから違うかもだけど)
独ソ戦、私の中ではヒトラーやべぇ、スターリンコワッ、ぐらいやったんやけど、この本を読むと、慢心はいかんし、失敗から学ぶことは多いし、数の暴力は→
怖い、という感想。あと、戦争はやはり嫌だな。人がチェスのコマみたいに使われているの、ほんとキツい。
ものすごい数の人間が、紙屑みたいに散っていく。ほんとに嫌。辛い。戦争はあかん。どんな正義があろうと、これははじめたらあかんやつやわ。
Posted by ブクログ
本編225頁という短さながらやられたらやり返す、相手に地獄を見せられたら見せて返す、敵は最期の一人まで地獄を見せつける──そんな戦争が見えてくるようだった。
『炎628』ではロシア領内におけるドイツの蛮行がこれでもかと描かれていたが、本書ではロシアも負けておらず「君たち人の領内で酷いことしたもんね?」と言わんばかりに蛮行の限りを尽くしている。どっちが被害者でどっちが加害者なのか、そんな単純な問題など地中深くに埋めて勝利をモノにしろ。今日、世界のあちこちで行われている戦争は決して終わらない。
Posted by ブクログ
岩波新書 新赤版1785
独ソ戦 絶滅戦争の惨禍
著:大木 毅
1941年6月22日のナチス・ドイツのミンスク、レニングラード、ウクライナへの、ソビエト連邦同時侵攻から、1945年5月11日プラハの闘いまでを、独ソ戦と呼ぶ
その戦場は、フィンランドから、コーカサスまでの数千キロに及ぶ長大な戦線と、独ソ両国民に甚大な被害をもたらした。
独ソ戦における、ソ連の被害は、死者行方不明者 1129万、一方、ドイツは、最大、832万である。
戦闘のみなら、ジェノサイド、収奪、捕虜虐殺が繰り返し行われ、人類史上最大の惨劇と言っても過言ではない
ナチスドイツ 世界観戦争 劣等人種スラヴ人を奴隷化するための戦争、絶滅戦争
ソ連 ロシアを守るための大祖国戦争
ソ連の捕虜はその場で殺害し、一方、ドイツの捕虜も、その95%が生きて祖国に戻ることはできなかった
互いに、捕虜になれば殺される闘いであり、そのために各戦線で、熾烈な戦いが繰り広げられることとなる
気になったのは、以下です。
■緒戦
・粛清によって弱体化していた軍に、ドイツ侵攻の情報が届いていたにもかかわらず、スターリンは、対抗しなかったため、奇襲をうけた形で独ソ戦はスタートした。
・ヒットラーというよりも、参謀本部は、独ソ不可侵条約をソ連が継続的に守るとは思っていなかった
・西部戦線で、イギリス軍と膠着状態になっていたドイツ軍は、同盟国ルーマニア油田の保護と、ソ連領内のマイコープ、クズヌイの油田の簒奪をもとめて、東進する計画を進めていた
・ソ連は、フィンランド戦争を仕掛け、レニングラードに隣接したカレリア地方の割譲を要求した。ドイツはこれをみて、ソ連が、国境を西に動かそうとしていることを認識した。
・ドイツは、北方軍、中央軍、南方軍を同時にソ連に侵攻させる、「バルバロッサ」作戦を立案し、1941年6月22日に実行に移した
北方軍 リガ⇒プスコフ⇒レニングラードへ(フィンランド軍と連携作戦)
中央軍 ミンスク⇒スモレンスク⇒モスクワ⇒ゴーリキへ(ソ連首都制圧、政治拠点制圧)
南方軍 オデッサ⇒キエフ⇒ハリコフー>スターリングラードへ(石油資源確保)
・ドイツ軍を待っていたのは、劣悪極まりない、ロシアの環境であった。フランスでは、舗装道路、給油できるガソリンスタンドも、乗り入れ自由な鉄道も、なかったため、ドイツ得意の電撃戦も発動することができなかった
・前線と補給との乖離、燃料などの物資は、まばらにしか届かない
・バルバロッサの失敗とは、ドイツ軍の惨敗でも、ロシア軍の善戦でもなく、兵站の不足が原因であった
■ドイツ軍VSソ連軍
ドイツの戦法は、電撃戦である、短期決戦指向、戦車と航空機を集中して、戦線を突破、敵を包囲して殲滅する
ソ連軍の戦法は、接近戦、指揮命令系統が混乱しても、降伏せず、徹底抗戦
ドイツ軍は、戦車、燃料不足に陥り、兵站の失敗が明らかになる。加えて、バルバロッサの短期決戦の構想が崩れ、独ソ戦が長期化することとなる。これは、ソ連軍が優位になることを意味していた。
ソ連軍は、予備役を呼集し、前線に段階的に投入した
赤いナポレオン、トゥハチェフスキー元帥の用兵思想
現代戦は、激烈な消耗戦であり、それに勝利するためには、無停止の連続攻撃を行い、戦略的な広域レベルで突破を実現することが必要不可欠である
空軍、砲兵、前線部隊の攻撃により、敵の最前線から中間陣地、さらに後方陣地までも、一気に制圧する
砲兵や、前線部隊の手が届かない後方は、迅速に突破した戦車・機械化部隊、空挺部隊が抑え、敵の再編成や予備兵力招致の阻止にあたる
この作戦術は、ベトナムで敗れた米軍の目にもとまり、米軍のドクトリンとして大きな影響力と発展を遂げていく
■ソ連の反攻
3つの反攻策
天王星作戦 スターリングラードのドイツ軍殲滅計画
土星作戦 東部戦線南翼のドイツ軍殲滅計画
火星作成 ドイツ中央軍先端突出部の殲滅計画+木星作戦+海王星作戦
ウクライナ奪回作戦
ドイツ軍のクルスク、城塞作戦 プロホロフカでは、ソ連235両を撃滅、ドイツ3両の損害なるも
連合軍のシシリア上陸への対応のため、ドイツ軍の抵抗はここまでで終わる
バグラチオン作戦
1944年6月~8月のソ連のドイツ反攻作戦、レニングラードから、オデッサにいたる長大な戦線で
ソ連の反攻が始まる
連合国のノルマンディ上陸に先立つこと、ソ連軍は、すでにベルリンにその進路をすすめていた
ドイツを制し、第二次世界大戦を終了させたのは、ソ連軍の功績によるところが大きい
目次
はじめに 現代の野蛮
第一章 偽りの握手から激突へ
第一節 スターリンの逃避
第二節 対ソ戦決定
第三節 作戦計画
第二章 敗北に向かう勝利
第一節 大敗したソ連軍
第二節 スモレンスクの転回点
第三節 最初の敗走
第三章 絶滅戦争
第一節 対ソ戦のイデオロギー
第二節 帝国主義的収奪
第三節 絶滅政策の実行
第四節 「大祖国戦争」の内実
第四章 潮流の逆転
第一節 スターリングラードへの道
第二節 機能しはじめた「作戦術」
第三節 「城塞」の挫折とソ連軍連続攻勢の開始
第五章 理性なき絶対戦争
第一節 軍事的合理性の消失
第二節 「バグラチオン」作戦
第三節 ベルリンへの道
終章 「絶滅戦争」の長い影
文献解題
略称,および軍事用語について
独ソ戦関連年表
おわりに
ISBN:9784004317852
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:860円(本体)
2019年07月19日第1刷発行
2019年09月13日第6刷発行
Posted by ブクログ
この本は今とても売れているそうで、2020年新書大賞の1位を獲得しました。 この本では独ソ戦がなぜ始まったのか、そしてどのように進んで行ったかがわかりやすく解説されています。 そしてこの戦争における巨大な戦闘、モスクワ攻防戦、レニングラード包囲戦、スターリングラード攻囲戦についても解説していきます。独ソ戦の勝敗を決定づけるこれらの巨大な戦いとは一体どんなものだったのか。信じられないほどの犠牲者を出した圧倒的な戦いを私たちは知ることになります。
Posted by ブクログ
お恥ずかしながら、少なくともここ10年くらいは第二次世界大戦の主戦は太平洋戦争だったという感覚でいた。
この大戦による日本の犠牲者は戦闘員、非戦闘員合計でおおよそ3百万人と推計されている。気が遠くなるような悲惨な数字だ。
一方、旧ソ連はジェノサイトも含めると犠牲者は28百万人と推計されている。想像を絶する数字。
ドイツの犠牲者はおおよそ8百万人と推計されている。
また、まさに現在進行中のウクライナ情勢におけるロシアの文字通り「地政学」上の立ち位置が分かるような気がした。
Posted by ブクログ
こんな表現は適切ではないかもしれないが、面白かった
久しぶりに本の内容について議論したくなってしまって友人に勧めまくった
どちらも戦略なくただ人が死んでいく
こんな人が国を動かした時代があったなんて…
Posted by ブクログ
ソ連もドイツも指導者が戦略でなく作戦レベルで口を出すし、口を出すときの判断基準がイデオロギーだし、妙に過信して墓穴を掘るし……。似た者同士が正反対のイデオロギーを振りかざして被害を拡大させたのが良く判ります。
あと軍人の作戦判断は妥当なものが多いと思いましたが、優勢な時は楽観視をしてしまいがちで、劣勢になると無理をして墓穴を掘るのは洋の東西を問いませんね(と、同じ時期の東の方を見ながら思う次第)
Posted by ブクログ
現在進行している、ウクライナ紛争の裏にあるもの、ロシアから見たウクライナ戦とは?というところを理解するのに読んだ。(実際にはオーディブルで聴いた)
読み終えて感じたのは、この本は太平洋戦争に対する「失敗の本質」。
ナチスドイツの自国民の優越性の称揚が実は戦争の性質を規定し、独ソ戦に突入する契機となった。(自国民に対し、戦争に投入する資源の確保、という見地から、日本は、自国民に節約を強いたがドイツはより豊かな生活を約束した。本書中に、「大砲もバターも」として描かれている)
となると、戦争により栄えるドイツ、を立ててしまうと、必然的に「戦争の相手国から全てを奪う」「資源も金も、人すらも」ということになる。
この辺、資源を締め上げられて戦争に追い込まれた日本と大きな構図は似ているが、なぜあそこまで冷酷なことができたのかというナチス軍略の要諦が理解できる。
ドイツ側はこれで理解できるが、ソ連側はどうか、というと国を守るための戦争、大祖国戦争なのだ、という一点に心を集め、降伏せずに戦った、ということはわかる。しかし、掠奪と陵辱を是とする姿勢は…?
ウクライナ戦では、これを「現代の大祖国戦争」とするプーチンの嘘を兵士やその家族は嗅ぎ分けているのではないか。
その割には、軍規もゆるく、掠奪に走るロシア軍の本質は、日本降伏後に千島列島で掠奪を行ったロシア軍となんら変わるものはない。
Posted by ブクログ
これを読めば第二次世界大戦における独ソ戦の全てが理解出来る名著。
今まで誤解されていた面も丁寧に説明されているので、ドイツの絶滅戦争に関心のある方はこの本から始めるのがお勧めだと思います。
Posted by ブクログ
独ソ戦、東部戦線こそが主戦場というだけあってとてつもない凄惨な戦いだったことがわかる。
戦争が起きる上でイデオロギーや地理的な要因がかなり大きい。
なによりソ連がめちゃくちゃ強いことが分かった。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦における、ナチスドイツとソ連の泥沼の戦いの詳細な研究記録。
ヒトラーやスターリンという残虐な暴君がその惨禍のわかりやすい原因として槍玉に挙げられるが、真理はそう簡単ではない。
実際には、加担した人々もその非難を逃れようとしてヒトラーに責任を押し付けたりだとか、各地域の人々がユダヤ人に対し強い憎悪を持ち、ナチス党員が求めずとも自発的にユダヤ人を虐殺したりだとか、政治的な駆け引きのためやむなくソ連またはナチスに加担したりだとか、一筋縄ではないのが事実である。
現在進行形に進むロシアのウクライナ侵攻を理解するのにも参考になる。
また、いざ戦争となればどのような形で国民や国土が無残に踏みにじられるかを知っておくことは、悲惨な争いを避けるためにも重要だろう。
Posted by ブクログ
戦略に興味がある人は必読
日本の教育を受けた自分の歴史認識を大きく変えられた
国の存亡をかけた戦争から、
・合理性だけでは指導者は意思決定を行わない
・短絡的な戦術では勝てない
・価値のある情報を得ることの重要性
などを考えさせられる一冊
中学高校までの歴史の授業の認識と異なり、ナチスがいかにソ連に苦戦し、追い込まれたのかを史実に基づいて語られている
また、「戦略」、「心理戦」、「情報戦」など多面的な戦いが記述されている
必読のビジネス書だと思う
孫子「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」の意味を改めて考えさせられた
Posted by ブクログ
以前から独ソ戦に関心があったため、入門書として一冊。グラスノスチやソ連崩壊後の機密文書解除前の古めかしい独ソ戦像を徹底的に最新の情報に置き換えてくれる。YouTubeで独ソ戦などの第二次世界大戦の動画を見ることがあるが、この本の情報からすると、古く、史実に反するような情報を見て取れると感じるようになった。
第1章では、スターリンが大粛清で軍高官の多くが殺され軍が弱体化したこと、ドイツが自国を攻撃することはないと踏んで結果的に多大な犠牲を出したことがソ連側から説明される。ドイツ側の視点では、ソ連の戦力を見くびり、楽観的過ぎる非現実的な戦争計画を立てていたことが説明されていた。これはヒトラーの「腐った納屋はドアをひと蹴りすれば倒壊するだろう」みたいな言葉に似ていると思った。
第2章では、戦争序盤でドイツ軍が快進撃を遂げるものの、消耗が激しく兵站もおろそかになり、戦略的勝利から遠のいていく姿が語られる。
第3章では、イデオロギー的な側面から独ソ戦を説明している。そのほか、ドイツがいかに彼らの思想でいうと「劣等人種」であるロシア人を殺戮していったのかがある。しかし、ドイツだけでなく、ソ連も蛮行を働いており、ドイツ人捕虜の扱いは国際法にのっとったものとは程遠かった。
第4章では、「潮流の逆転」ということで、ソ連軍が防衛から反撃に転じていく。ソ連軍は物資的にドイツより優位にあったが、それのみがソ連を勝利に導いたのではなく、作戦術と呼ばれるソ連が培ってきた兵法の貢献も見過ごせない。
第5章では、ドイツの完全な崩壊へと至る過程が詳述される。次々に撤退していくドイツ軍に対して圧倒的優位を保つソ連軍は容赦なく追撃をかける。マンシュタインが焦土戦術を行い、戦後裁判にかけられていたのは初めて知ったことだった。ドイツが和平を試みるものの、ヒトラーの政治的和平を拒む姿勢がそれを断固として拒否した。というかあの状況で和平なんてできるわけがない。
筆者は戦争を「通常戦争」、「収奪戦争」、「世界観戦争」の三つに分け、独ソ戦が通常戦争から世界観戦争へと飲み込まれていくと説明している。ベン図を使って説明していた。
感想としては、古い独ソ戦のイメージを払拭してくれる良書という感想。未だにYouTubeとかだとそういうのもあるから早めに読んでおいて批判的にそのような動画を視聴できそう。
Posted by ブクログ
大木毅氏は、1961年東京都生まれの軍事史研究者・著述家。立教大学文学部史学科卒、同大学院博士課程を単位取得退学。専攻はドイツ近代史。ドイツ学術交流会奨学生としてボン大学に留学。帰国後、千葉大学、横浜市立大学などで非常勤講師を務め、防衛省防衛研究所や陸上自衛隊幹部学校でも講師を歴任。現在は著述業に専念し、第二次世界大戦や軍事史に関する著作を多数発表。「赤城毅」名義でフィクションも執筆している。
本書は、第二次世界大戦最大の戦域といわれるヨーロッパ東部戦線「独ソ戦」について、近年の研究の結果を踏まえて考察したもので、2020年の新書大賞を受賞した。
大半の日本人にとって、第二次世界大戦とは太平洋戦線(日本と英米など連合国の戦い)のことであり、ヨーロッパを視野に入れても、多くの場合はノルマンディー上陸作戦で有名な西部戦線(ドイツと英仏・米の戦い)がまず思い浮かぶし、私もその例外ではない。
しかし、独ソ戦は、北はフィンランドから南はコーカサスまで、数千キロにわたる(陸上の)戦線において、数百万の大軍が激突し、ソ連軍の死者・行方不明者・捕虜は1,100万人超、ドイツ軍の死者は400万人超(他の戦線含む)といわれ(尚、日本軍の死者は200万人超)、著者によれば、独ソ戦こそが、あらゆる面で空前絶後であり、まさに第二次世界大戦の核心・主戦場であった。
そして、著者は本書で、その前史から、経緯、性格について、詳細に分析しているのだが、「はじめに」と終章から全体のポイントを列挙すると以下である。
◆ヒトラー(とドイツ指導部)は、対ソ戦を、人種主義に基づく社会秩序の改変と収奪による植民地帝国の建設を目指す(人種的に優れたゲルマン民族が劣等人種であるスラヴ民族を奴隷化する)ための戦争、ナチズムとユダヤ的ボリシェヴィズムとの闘争と規定し、その遂行は仮借なきものでなければならないとした。すなわち、戦争目的を達成した後に講和で終結するような(19世紀的)通常戦争というより、収奪戦争であり、「世界観戦争」であった。そして、最初は、通常戦争、収奪戦争、世界観戦争(絶滅戦争)の3つが並行する形で進められたが、通常戦争での優勢が危うくなると、収奪戦争と絶滅戦争の比重が大きくなり、さらに敗勢が決定的になると、通常戦争が絶対戦争に変質し、しかも、それは収奪戦争と絶滅戦争に包含され、史上空前の殺戮と惨禍をもたらした。
◆一方、スターリン(とソ連指導部)は、コミュニズムとナショナリズムを融合させることで乗り越えようと考え、かつてナポレオンを退けた祖国戦争になぞらえ、ファシストの侵略を撃退し、ロシアを守るための「大祖国戦争」であると規定した。しかし、この方策は、ドイツの侵略を退ける原動力となるとともに、敵に対する無制限の暴力の発動を許した。
◆ただ、戦後長らくは、ソ連では、共産主義イデオロギーによる大祖国戦争の勝利という公式史観により、また、ドイツでは、ナチ犯罪・戦争犯罪という面でも、軍事的な意味でも、全ての責任はヒトラーにあり、ドイツ国防軍はヒトラーに押し切られただけだとする(生き残った軍人らによる)仮構により、実証研究は進まなかった。しかし、ソ連の崩壊による機密文書の公開や、冷戦終結後の国民意識の変化等により、ドイツ国防軍も対ソ戦やむなしと考えていたこと、ドイツ軍の戦略・戦術にもずさんなものが少なくなかったこと、東部戦線におけるジェノサイドにドイツ軍も関わっていたこと、ソ連軍の報復行動も戦時国際法を無視したものであったこと等が明らかになり、やっと上記のような理解に達した。
◆とはいえ、独ソ戦の歪められた歴史は、数のソ連軍に質で勝るドイツ軍という伝説が、冷戦期のワルシャワ条約機構に対するNATOの信念の前提となり得るなど、政治的に利用されてきたし、一面では現在も利用されている。
一通りページを繰って、著者が「あらゆる面で空前絶後であり、まさに第二次世界大戦の核心・主戦場であった」と表現した意図がよく分かった。(だからといって、太平洋戦線の悲惨さの程度が軽かったなどというつもりはないし、そもそもそのような比較自体が無意味である)
また、2022年2月に始まったウクライナ侵攻について、プーチンは、ソ連時代の歪曲された公式解釈を持ち出して、「ウクライナ=ネオナチ」というレッテルを貼り、「非ナチ化」を侵攻の大義としているが、歴史修正主義の根深さと恐ろしさを強く感じた。
本書は紛れもなく歴史書である。歴史家E・H・カーは古典『歴史とは何か』で、「歴史とは、過去と現在との対話である」と書いているが、それは、歴史は単なる過去の事実の羅列ではなく、現在の問題意識や価値観をもって過去を理解し、さらには未来への指針を得るプロセスだということだ。そのためには、言うまでもなく、歴史修正主義を排除して、過去の事実を直視することが不可欠なのである。
(2025年11月了)
Posted by ブクログ
「同志少女よ敵を撃て」を読んで、歴史的背景を知りたいと思い手に取った。
悲惨な戦争であったことは何となく知ってはいたものの、数字を突きつけられると、改めて驚いた。
各戦場の攻防や作戦も、本書で知ったことが多かった。
Posted by ブクログ
2025.02.15
快作。
ソ連とドイツの戦いを軍事面に比重を置きつつも社会背景にも一定ふれられているのが良かった。この作品を、トランプ大統領が再就任し、ウクライナ侵攻の停戦を欧州抜きで唱え始めた今の現状で読むと、欧州各国は、自分たちを除外して、米露で停戦が勝手に決められることを恐れる心情が理解できる。
Posted by ブクログ
独ソ戦というのはここまで規模感が凄まじいということは知らなかった。
指導者が周りの意見を聞かなくなることの危険性を認識した。
マンシュタインなど、気になる人物も出てくるので、これから突っ込んで色々と読んでみたくなる。
Posted by ブクログ
独ソ戦の発端 イギリスとの戦いの行き詰まりを感じ、ソ連を先に下せばイギリスも諦めるだろうとの考えがドイツ側にあった。ヒトラーの思想にはきたる「千年帝国」のためにソ連の国土を植民地にするというのもあった。
戦争と地形 フランスは道路が舗装されており、侵攻が容易であったが、ソ連の土地は荒れており、鉄道の軌間も異なっていたこともあり計画通りに戦争を進められなかった
不完全な計画 ソ連の戦力をあまりにも軽く見た計画(首都の陥落とソ連側の重要な燃料拠点の同時攻略等)を立て、兵站が不足する自体に陥った。その影響でドイツ軍による村落の収奪が始まり、多くのパルチザンを生むことになった。(同志少女の最初のシーンが思い出される)
表面上は勝利しているように見えても、その実全く計画通りには行っておらず、「空虚な勝利」であった。
ドイツの戦争の発端 ヒトラーの独裁が戦争を招いたのか?否、ドイツ国民の総意である。これには以下の要素が挙げられる。
・ゲルマン民族至上主義
ユダヤ人、社会主義者、精神病者を劣等者とすることでナチズムの政策に固有の原動力を与えた。
・ドイツ国民重視の内政
国民の不満を高めない為に軍備拡張の財源を税金に求めるのではなく、帝国主義的な収奪を行うことで解決を図ろうとした。
三つの戦争
「収奪戦争」 対ソ戦前から「収奪戦争」の傾向はあった。その行為の根幹には人種差別の思想があった。奪われたのは物資だけではなく、五体満足のソ連軍の男子を徴兵さえもした。
「通常戦争」 捕虜取り扱いにおける戦時国際法の遵守や非戦闘員の保護等
「世界観戦争(絶滅戦争)」 敵と見なした者の絶滅を追求する「絶滅戦争」の意味を持つ。「出動部隊(アインザックグルッペ)」はその象徴的な存在がであり、将来ドイツの障害となるであろう存在(ユダヤ人、ボリシェヴィキ等)を殺戮する役割を持っている。
だが、「世界観戦争」という存在には弱点があった。世界観の維持の為に「軍事的合理性」という通常戦争が持つ特性を捨てなければならない為、「退却」という選択肢は無いに等しかった。(体制の動揺を防ぐため)
ソ連側にも「大祖国戦争」という標榜、「ファシストの侵略者」に打ち勝つため(その他いろいろ)という思想が生まれたことで対独戦の正当性が付与され、世界観が構築された。
最終的には、戦況の悪化ととも「世界観戦争」「収奪戦争」が「通常戦争」を飲み込み、「絶対戦争」となった。
p220
スターリンやらかし集
・緒戦の敗因を将校に帰し、粛清祭り。
・独ソ戦前に行われた大粛清によって軍部が急激に弱体化していた。
・ドイツが攻めてくるという情報があったにも関わらず情報を無視して防衛体制を築かなかった。
・ドイツ軍の軍人が乗っていた偵察機を撃ち落としてドイツ軍側の作戦計画がソ連側に漏洩したにも関わらず、スターリンは敵の工作だと信じ込んであてにしなかった。
ヒトラーやらかし集
・杜撰な計画の遂行(ナチ側全員の責任でもあるが、ソ連を舐めた、首都と燃料拠点の陥落を求めたのはヒトラーである)
・偶然の勝利をきっかけにした自信過剰による軍部首脳部の軍人の解雇。敗北の責任を司令官に帰して辞めさせ、ヒトラー自身が司令官となった。
「これ以上の後退は、諸君の破滅を意味し、しかも、それは祖国の破滅につながる。[中略] 一歩も退くな! これが、我らの主たるスローガンでなければならぬ。ほんの一メートル ほどであろうともソ連領土であれば、ただの一区画であろうともソ連の地ならば、おのおのの持ち場を、血の最後の一滴が流されるまで、可能な限り長期間にわたり、断固として 守り抜くことが要求されるのだ。」
Posted by ブクログ
2020年の新書大賞で1位で面白そうだったので買っていたのだが、このウクライナの戦争の時期に読むと地理的な状況やナチスドイツやソ連に占領されてばっかりいた地域の歴史が分かる。
ただ内容はざっと読んだだけではあんまり頭に入ってこない。ドイツもロシアも戦力がそれほどでなかったために泥沼にはまったようだ。また、絶滅戦争など人種や命に対する軽視も災いしている。
とにかく、今現在の差別はよくない、命を大切にしようという価値基準からは想像が及ばない思想が当時は普通だったようだ。しかし、それは平和な地域に暮らしている我々の考えで、現在のロシアの蛮行を見ると今も変わらないのかもしれない。いざとなったらなりふり構っていられないのだろう。
かわぐちかいじの『空母いぶき』を読むと徹底して世間の目を気にして戦争していて、あんなのはただの理想なのだろうか。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦におけるドイツとソ連の戦いについて、専門家ではなく一般向けに分かり易く、近年の研究成果も踏まえて解説してれる一冊。
単に戦闘を追うだけでなく、ドイツとソ連の当時の状況などの解説も加えられていて、日本人には馴染みの薄い当時のヨーロッパの状況についても理解できます。
昨今、ロシアとウクライナの間で起きている紛争の背景だとか、クリミア半島のこととか、その辺の地理のこととか、ロシア人とフィンランドや東欧の人々の間にどのような思いがあるのかなど、非常に理解しやすくなる一冊です。
日本では第2次世界大戦=太平洋戦争。
”戦争”といえば当然、日本とアメリカとの戦いの話しになってしまう。そしてヨーロッパの戦争の話しとなると、ナチス・ドイツ、ヒトラーのユダヤ人迫害、虐殺のイメージや、イギリス・フランスとの戦いや、ドイツが追い詰められた終盤の戦いぐらい。
しかし、第二次世界大戦の最も激しい戦闘は、ドイツとソ連との戦いにあったようだ。しかもその戦争は単に国家間の利益のぶつかりあいによる通常戦争ではなく、相手を殲滅させること自体が目的の絶滅戦争だった。
スターリンによる内部粛清による軍隊の弱体なども影響して、最初はドイツがかなりソ連を追い詰めたが、やがて物量も戦略も上手のソ連に押し返されていく様子だとか、相手を悪魔化して殺戮していう様子だとか、敗戦後はナチスに全て責任を負わせたが、実は国民も大部分は戦争に積極的に加担していたとか、いろいろと日米戦争と重なる部分も多いのも興味深かった。
Posted by ブクログ
独ソ戦に関する最新(2019年迄)の研究をコンパクトにまとめたとのこと。軍事史はあまり詳しくないが、素人でも分かりやすく読めた。
ドイツにとっては収奪戦争としての一面もあった、という部分が印象的だった。ドイツ人の生活水準の高さを維持するためには対外戦争しか手段が無く、ヒトラーだけでなくドイツ国民も共犯であった。現在のドイツは近隣諸国から労働力を移民という形で『合法的に収奪』しており、貿易差額主義を追求している。国民のメンタリティはそう簡単には変わっていないと思われる。
日本はどうか。第二次世界大戦の失敗・敗北は日本国民もしくは日本的な組織特有のメンタリティに根差しているという言論がちらほら見られる。ドイツ同様、日本にも粗はあろう。自分の無意識の領域に根を張る精神性を理解することも、歴史を学ぶことの重要な意義である。独ソ戦は他人事ではない。
Posted by ブクログ
通常戦争だけではなく、世界観戦争(絶滅戦争)・収奪戦争という側面から始められた独ソ戦。そのヒトラーの思想により、スラブ民族・ユダヤ人などドイツ人以外の民族を殺戮、占領地から収奪しながら東進。憎悪に燃えるソ連軍もドイツ人を凌辱・虐殺・収奪しながら戦うという、おぞましい戦いが続く。ドイツ国民はナチスに先導されただけであって、ドイツ国民も被害者との言説がくつて流布されていたが、ドイツ国民はナチの恩恵を受けて積極的に参加した共犯という説が今では主流らしい。それを踏まえると、第二次大戦の責任は一般の日本国民にもあるのだろう。戦後の日本人にまで責任を負わせるのは違うと思うが。
ヒトラーのマイクロマネジメントは稚拙であるだけでなく、自分の思想(絶滅戦争・収奪戦争)に引っ張られ、現状を何も認識していない。強い「思想」の恐ろしさが本書でも描かれている。
Posted by ブクログ
単なる戦術比較論的な読み物では無い。
戦争を「通常戦争」「収奪戦争」「絶滅戦争」と分けて、それぞれがどんな背景でどんな手段を用いて、どのように行動し何を実現しようとするのかを論じている。ドイツが当時ナチスのもとでどう変化したのか、また、ソ連はどう考えていたのか、時系列で事態がうねりながら変化していく。
そして「絶滅戦争」
ヒトラーやスターリンの脳髄の中だけでなく、関わったものが互いに貶めていく“不条理”の相乗効果。
やがて、この戦争の最も馬鹿げた惨状がレニングラード、スターリングラードの攻防戦に現れる。
この、我が人類の悪癖に、怒りを通り越して絶望すら感じる。
それにしても人類は“ジェノサイド”をなぜ繰り返すのか。
現代と紙一重の当時を知らなければ、再びやってくる。その時私たちは受ける側かそれとも行う側か……あるいは両方か。
独ソ首脳陣を含め世界中の指導者たちへ、日本の有名な言葉を贈る。
「事件は会議室で起きてるんじゃ無い。現場で起きてるんだ」
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戦争論 クラウゼウィッツ
敵の重心を攻略せよ。 党派的に分裂しているならば、首都を攻略。弱小国ならば、その同盟国を攻撃。
独ソ戦の特徴。
イデオロギーのぶつかり合いの絶滅戦争であること。
1.事前の準備不足。限りあるリソース、時間を、どう用いるか。優先順位付けが曖昧であった。
ドイツ側からみると、緒戦で大量包囲を完了したものの、モスクワ攻略などに要する時間を浪費してしまった。
1933-39の軍拡が、失業者を減らした一方、設備投資、資源輸入のための外貨減少、製造業労働者不足を招いた。
→ 収奪戦争へ
読む限り、ドイツはソ連に負けるべくして、負けた。戦略的敗北。
絶滅戦争で、戦争に勝つことは無理では?? ましてや、広大な国土を持つ、膨大な人的資源を持つソ連に対しては。
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西部戦線に関する書籍は多いが、この本は独ソ戦に焦点を当てている。なぜ先にモスクワではなくより東にあるスターリングラードを侵攻したのか。ベルリン陥落までの経緯など知らなかった話があったので勉強になった。
Posted by ブクログ
すごい、研究者っぽい、冷静で且つマニアックな書きっぷり。:
戦史を、こうやって研究する分野があるんだってのがまず驚いた。
通常戦争から、収奪戦争、絶滅戦争、あと絶対戦争だっけ。
独ソ戦が通常戦争を超えた総力戦みたいな書き方だったように思ったが、要は、宗教戦争みたいなレベルに堕ちたってことなのかと思った。
戦略、作戦、戦争の解説が面白かった。
別に、非合理でバカなことやってたのは日本軍だけでないのもわかった。
ただ、敵をヒトと見ないのは、日本には無い感じ。
ソ連だって、別段、ナチスにやられたからやり返したんじゃない気がするんだけど。残虐っぷりは。
なんにしろ、日本は、隣国戦争はできない。
勝ち負けでなく、鬼畜を相手にするのは無理。