あらすじ
「これは絶滅戦争なのだ」。ヒトラーがそう断言したとき、ドイツとソ連との血で血を洗う皆殺しの闘争が始まった。日本人の想像を絶する独ソ戦の惨禍。軍事作戦の進行を追うだけでは、この戦いが顕現させた生き地獄を見過ごすことになるだろう。歴史修正主義の歪曲を正し、現代の野蛮とも呼ぶべき戦争の本質をえぐり出す。
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Posted by ブクログ
現在進行している、ウクライナ紛争の裏にあるもの、ロシアから見たウクライナ戦とは?というところを理解するのに読んだ。(実際にはオーディブルで聴いた)
読み終えて感じたのは、この本は太平洋戦争に対する「失敗の本質」。
ナチスドイツの自国民の優越性の称揚が実は戦争の性質を規定し、独ソ戦に突入する契機となった。(自国民に対し、戦争に投入する資源の確保、という見地から、日本は、自国民に節約を強いたがドイツはより豊かな生活を約束した。本書中に、「大砲もバターも」として描かれている)
となると、戦争により栄えるドイツ、を立ててしまうと、必然的に「戦争の相手国から全てを奪う」「資源も金も、人すらも」ということになる。
この辺、資源を締め上げられて戦争に追い込まれた日本と大きな構図は似ているが、なぜあそこまで冷酷なことができたのかというナチス軍略の要諦が理解できる。
ドイツ側はこれで理解できるが、ソ連側はどうか、というと国を守るための戦争、大祖国戦争なのだ、という一点に心を集め、降伏せずに戦った、ということはわかる。しかし、掠奪と陵辱を是とする姿勢は…?
ウクライナ戦では、これを「現代の大祖国戦争」とするプーチンの嘘を兵士やその家族は嗅ぎ分けているのではないか。
その割には、軍規もゆるく、掠奪に走るロシア軍の本質は、日本降伏後に千島列島で掠奪を行ったロシア軍となんら変わるものはない。
Posted by ブクログ
以前から独ソ戦に関心があったため、入門書として一冊。グラスノスチやソ連崩壊後の機密文書解除前の古めかしい独ソ戦像を徹底的に最新の情報に置き換えてくれる。YouTubeで独ソ戦などの第二次世界大戦の動画を見ることがあるが、この本の情報からすると、古く、史実に反するような情報を見て取れると感じるようになった。
第1章では、スターリンが大粛清で軍高官の多くが殺され軍が弱体化したこと、ドイツが自国を攻撃することはないと踏んで結果的に多大な犠牲を出したことがソ連側から説明される。ドイツ側の視点では、ソ連の戦力を見くびり、楽観的過ぎる非現実的な戦争計画を立てていたことが説明されていた。これはヒトラーの「腐った納屋はドアをひと蹴りすれば倒壊するだろう」みたいな言葉に似ていると思った。
第2章では、戦争序盤でドイツ軍が快進撃を遂げるものの、消耗が激しく兵站もおろそかになり、戦略的勝利から遠のいていく姿が語られる。
第3章では、イデオロギー的な側面から独ソ戦を説明している。そのほか、ドイツがいかに彼らの思想でいうと「劣等人種」であるロシア人を殺戮していったのかがある。しかし、ドイツだけでなく、ソ連も蛮行を働いており、ドイツ人捕虜の扱いは国際法にのっとったものとは程遠かった。
第4章では、「潮流の逆転」ということで、ソ連軍が防衛から反撃に転じていく。ソ連軍は物資的にドイツより優位にあったが、それのみがソ連を勝利に導いたのではなく、作戦術と呼ばれるソ連が培ってきた兵法の貢献も見過ごせない。
第5章では、ドイツの完全な崩壊へと至る過程が詳述される。次々に撤退していくドイツ軍に対して圧倒的優位を保つソ連軍は容赦なく追撃をかける。マンシュタインが焦土戦術を行い、戦後裁判にかけられていたのは初めて知ったことだった。ドイツが和平を試みるものの、ヒトラーの政治的和平を拒む姿勢がそれを断固として拒否した。というかあの状況で和平なんてできるわけがない。
筆者は戦争を「通常戦争」、「収奪戦争」、「世界観戦争」の三つに分け、独ソ戦が通常戦争から世界観戦争へと飲み込まれていくと説明している。ベン図を使って説明していた。
感想としては、古い独ソ戦のイメージを払拭してくれる良書という感想。未だにYouTubeとかだとそういうのもあるから早めに読んでおいて批判的にそのような動画を視聴できそう。
Posted by ブクログ
「同志少女よ敵を撃て」を読んで、歴史的背景を知りたいと思い手に取った。
悲惨な戦争であったことは何となく知ってはいたものの、数字を突きつけられると、改めて驚いた。
各戦場の攻防や作戦も、本書で知ったことが多かった。
Posted by ブクログ
2020年の新書大賞で1位で面白そうだったので買っていたのだが、このウクライナの戦争の時期に読むと地理的な状況やナチスドイツやソ連に占領されてばっかりいた地域の歴史が分かる。
ただ内容はざっと読んだだけではあんまり頭に入ってこない。ドイツもロシアも戦力がそれほどでなかったために泥沼にはまったようだ。また、絶滅戦争など人種や命に対する軽視も災いしている。
とにかく、今現在の差別はよくない、命を大切にしようという価値基準からは想像が及ばない思想が当時は普通だったようだ。しかし、それは平和な地域に暮らしている我々の考えで、現在のロシアの蛮行を見ると今も変わらないのかもしれない。いざとなったらなりふり構っていられないのだろう。
かわぐちかいじの『空母いぶき』を読むと徹底して世間の目を気にして戦争していて、あんなのはただの理想なのだろうか。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦におけるドイツとソ連の戦いについて、専門家ではなく一般向けに分かり易く、近年の研究成果も踏まえて解説してれる一冊。
単に戦闘を追うだけでなく、ドイツとソ連の当時の状況などの解説も加えられていて、日本人には馴染みの薄い当時のヨーロッパの状況についても理解できます。
昨今、ロシアとウクライナの間で起きている紛争の背景だとか、クリミア半島のこととか、その辺の地理のこととか、ロシア人とフィンランドや東欧の人々の間にどのような思いがあるのかなど、非常に理解しやすくなる一冊です。
日本では第2次世界大戦=太平洋戦争。
”戦争”といえば当然、日本とアメリカとの戦いの話しになってしまう。そしてヨーロッパの戦争の話しとなると、ナチス・ドイツ、ヒトラーのユダヤ人迫害、虐殺のイメージや、イギリス・フランスとの戦いや、ドイツが追い詰められた終盤の戦いぐらい。
しかし、第二次世界大戦の最も激しい戦闘は、ドイツとソ連との戦いにあったようだ。しかもその戦争は単に国家間の利益のぶつかりあいによる通常戦争ではなく、相手を殲滅させること自体が目的の絶滅戦争だった。
スターリンによる内部粛清による軍隊の弱体なども影響して、最初はドイツがかなりソ連を追い詰めたが、やがて物量も戦略も上手のソ連に押し返されていく様子だとか、相手を悪魔化して殺戮していう様子だとか、敗戦後はナチスに全て責任を負わせたが、実は国民も大部分は戦争に積極的に加担していたとか、いろいろと日米戦争と重なる部分も多いのも興味深かった。