大木毅のレビュー一覧
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「砂漠の狐」といえば、言わずもがなエルヴィン・ロンメル将軍の異名としてあまりにも有名で、寡兵であるにもかかわらず大量の連合軍を相手にアフリカでの砂漠戦で数々の勝利を成し遂げた名将として名高い存在である。
しかし、ロンメルが寡兵がゆえに苦労した原因としては従来、そもそもアフリカ軍団としてドイツは2個師団しか送り込まなかった、そもそもイタリアの尻拭いの戦いでありイタリア上層部との諍いが絶えなかった、言っても言っても補給が思い通りにならなかったなどが挙げられていたかと思う。
にもかかわらず戦術的な勝利を続けたロンメル将軍は「名将」の名を欲しいままにしていたわけだが、欧米では逆に作られた「英雄像」ということでロンメル批判ともいうべき言論も展開されていたそうである。
しかし、近年になって「ロンメル」像の再評価が行われているということであり、本書はそうした最近の知見を筆者の見解とともに論述した内容となっている。
「砂漠の英雄」として祭り上げられたのは、当時「英雄」を欲していたドイツ国内の事情も大きいとのことである。
ヒトラーの引き立てに加えて、宣伝相・ゲッペルスの「英雄」としての大喧伝、ロンメル自身の自己アピールの大きさがあったということである。
ロンメルはプロイセン出でもなく中産階級の出であり、参謀養成の課程も受けたことがなかったため、本来は出生する人物ではなかったということであるが、持ち前の戦術指揮の優れた才能や常に最前線で陣頭指揮を行う姿、それらの結果として成し遂げた功やそれ以外に他人の功まで自分の功として猛烈に自己アピールする自己顕示欲の強さなどが最終的にヒトラーに認められたことにより大出世を遂げたとのことであった。
(ま、こういう人は今でも少なからずいますね・・・)
しかし、そうした性格と才能が発揮できるのは戦術レベルの指揮官までであり、戦略レベルの構想や実行、補給など軍司令官レベルに求められる才能としては失格で、常に戦術レベルの有利さを追い求め、司令官が不在となるにもかかわらず陣頭に立ち続け、補給を無視した作戦を実行するということで、それなりの上司からは有能なのは師団長までという烙印を押され続けていたようである。
(ま、周りのフォローが続く間は良かったのでしょうね。今もいますね・・・)
そして彼の悲劇は、彼を引き立ててくれたヒトラーとの関係が悪化し、ノルマンディー上陸作戦への対応を見誤り、ヒトラー暗殺計画に関与しようとしていたことなのだろう。
次第にひどくなるヒトラーの国家戦略についていけなくなり、自らも決定的な戦略的誤りを犯してしまう。
結局、政略・戦略的な才能が無い分、逆の意味の運命に翻弄されたのでしょうか。
(今もそんな人が結構いますが、その運命は・・・!?)
「砂漠の狐」の実像ということで、結構面白かったです。
ヒトラーが指示した戦争犯罪行為には加担しなかったということなので、それなりに気骨もある人物だったのかもしれません。
やっぱり後世に名を残す「将軍」ということでいいんでないかな。 -
Posted by ブクログ
ロンメルは第二次大戦中のドイツの将軍としてあまりにも有名だが、北アフリカで機甲師団を率いていたという程度のイメージしかなかった。
本書では、ロンメルの生い立ちや軍歴、特に、ドイツの軍人として非主流派に属し、軍幹部になるための高等教育を受けていなかったこと、そして、それが故に、前線指揮官としては有能でも、大軍団を率いるような戦略的視点を欠いていたことを幾つもの事実からあぶり出している。
その上で、ヒトラーやドイツ軍幹部との関係やナチスとの距離感なども幾分の推測を含めて記述し、人間としてのロンメルにも迫っている。こうした分析を日本語で読めるというのは幸いなことだ。
あとがきに、著者が本書を執筆するきっかけの一つに呉座勇一さんの著書の話が出てきたのも中々に興味深い。分野は違えども、気鋭の学者の刺激で、こうした面白い本が連鎖的に生まれるというのは、読み手としてはありがたいことだ。 -
購入済み
沙漠の狐が霞んだ。
ロンメルのことは沙漠の狐とノルマンディーの要塞,ヒトラー暗殺計画くらいしか知りませんでした。
沙漠の狐の内容が予想とは異なっていました。もっとモントゴメリーを苦しめたと思っていました。映画などで見る誇張された内容は真実とは異なっているということを知りました。ゲッベルスの広告塔利用については,良く分かります。戦国武将的な指揮官は前線における兵士の士気に大きく影響しますから。
軍人としてのロンメルは戦術家であり,戦略家ではない。と思いました。でも,戦史におけるヒーローは常に戦術家ですから,ロンメルの人気もうなずけます。
現在の経営者にも当てはまる部分があるとすれば,ロンメルはよき部門長であり,良き経営者ではない,といったところでしょう。
ヒトラー暗殺計画の関与については,真実は分かりませんが,人としてロンメルが関わっても何の不思議もありません。
Dデイのことについても,パウルカレルの「彼らは来た」しか詳細の記述を知らなかったので,シェルブールの攻防など新たな知見になりました。
カンプグルッペのことももっと知りたかったですが。
これからもヨーロッパ戦線の史実が明らかになることを願います。 -
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2026/10/15「海軍士官たちの太平洋戦争」大木毅
太平洋戦争を指導した個々の将軍にスポットを当てた歴史。個性により戦争の局面は大きく変わる現実が判り有益だった。
日本の特攻、米国の無差別攻撃[潜水艦・B-29]など「決断者」が存在した。
1.「特攻」採用した軍令部作戦課源田実
大西滝次郎は現場を主導したが、首謀者に仕立てられた
2.米国将軍のキャリアアップ・戦略のブラッシュアップ
米国のリーダーは戦略の勉強をしている。戦略の論文を書き、語ることが出来た。
日本のリーダーは寡黙、部下を信頼して任せる
→無責任⇒現代も同様
3.日米の人事運用の違い
日本=平時の人事 米国=戦時の人事、実力主義・抜擢人事
卒業席次=ハンモックナンバーが序列を固定化
形式主義的に正解を詰め込む将校教育
硬直した教育内容・教官たちの思想・教養の単純さ
適材適所・抜擢人事ができない硬直化した組織は「人材」育てず
⇒戦争の混沌に対応できなかった秀才軍団、合理性なき戦争指導
ex「特攻」 -
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毎年この時期(終戦記念日8月に近く)になると、書店は多くの太平洋戦争関連の書籍が出版され、店頭に専門のコーナーが設けられ、沢山並んでいる。かつては半藤一利氏だけで本屋の一角を占領するくらいあったのだが、その半藤氏も数年前にお亡くなりになられた。他にも太平洋戦争関連を描く研究者たちが、同じ様な題材で新しいものをリリースしてくれるのだが、毎年似た様な顔ぶれであって、なんだか安心してしまう。
本書はこの時期になると書店を賑わす太平洋戦争の著名な研究者たちの座談会形式の様な内容となっている。顔ぶれは、保阪正康氏、戸高一成氏、大木毅氏の3名だ。個々が記してきた書籍もかなり読んできたので、私としては本書内でどの様な会話がなされているのか、買わずに通り過ぎる事は出来ない。
大きなテーマとして扱っているのは、海軍善玉論、石原莞爾、山本五十六、黒島亀人や源田実に代表される戦後生き残った人々についてであるが、いずれも高名なお三方であるから、一体どの様な話が飛び出すのか、通説とは異なる側面や裏話が盛りだくさんとなっている。戦後何故陸軍が悪玉に仕立てられ、海軍は先見性のあるインテリの様なイメージで戦争に反対した善玉と見られたのか。真珠湾を急襲し緒戦の大勝利を齎し、その後も数々の名言を残した山本五十六、彼は本当に英雄だったのか、はたまた単なる博打内だったのか。戦後天才戦略家として最もその名を上げた石原莞爾は天才だったのか。そして、宇垣纏の日記を盗んで焼いたと言われる黒島亀人や、戦後の自衛隊でもその名を轟かせた源田実。戦後はひっそり身を表に出さなかった黒島と、書籍まで出して表舞台に立ち続けた源田。対照的な2人であるが、いずれも戦争中は重要なポジションで作戦の成否に重要な影響を及ぼしてきたが、結果的に日本は敗戦した。2人が消し去りたかった戦時中の黒い歴史とは何か。
わざわざこうした本を出すのであるから、一般的に知られている様な事実や描写、人物像に止まらず、様々な戦争関係者へのインタビューなどから得られた、知られざる話(あまり知られていないという意味で。どこかで既出の話であることには変わりない)中心に進められる会話。読み手にも様々な思い入れや考え方があるであろうが、一つの側面を捉えたものとして、どの話も興味深い。
「またこの人たちか」という感覚の方もいるとは思うが、戦争経験者が減り、口頭での伝承が難しくなる今後に備え、こうした経験者へのインタビュー経験のある研究者から我々は学びたい。毎年同じ様な顔ぶれに私は安心感しかない。 -
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独ソ戦に関する最新(2019年迄)の研究をコンパクトにまとめたとのこと。軍事史はあまり詳しくないが、素人でも分かりやすく読めた。
ドイツにとっては収奪戦争としての一面もあった、という部分が印象的だった。ドイツ人の生活水準の高さを維持するためには対外戦争しか手段が無く、ヒトラーだけでなくドイツ国民も共犯であった。現在のドイツは近隣諸国から労働力を移民という形で『合法的に収奪』しており、貿易差額主義を追求している。国民のメンタリティはそう簡単には変わっていないと思われる。
日本はどうか。第二次世界大戦の失敗・敗北は日本国民もしくは日本的な組織特有のメンタリティに根差しているという言論がちらほら見られる。ドイツ同様、日本にも粗はあろう。自分の無意識の領域に根を張る精神性を理解することも、歴史を学ぶことの重要な意義である。独ソ戦は他人事ではない。 -
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中国の軍拡、ウクライナ戦争以降急激に軍事への関心が高まる一方、それに応えるような本も多数出てきている。玉石混淆のようで、何を読めばいいか分かりにくいが、大木はその中で信頼できるのではないかという印象。
この本で彼の考え、これまでの来歴がわかり、なるほどと感じた。
わたしと合わないところもあるが、事実に基づき歴史や軍事を書いていこうという姿勢は信頼できる。
引き続き著書を読んでいきたい。
この本では、日本の欧州での戦争史が立ち遅れていること、自衛隊の軍事史研究が偏っているのではないか、修正主義の動きの疑念があった。どれも事実を知らないのでなんとも言えないが、これまでの軍事や自衛隊への偏見や差別から来たところも大きいのではないか?
軍事を知らずして関心を持つだけで右翼、軍国主義者と罵倒していた左翼の方々は鬼籍に入ったのか、沈黙しているのか。できるなら当時の総括をしてほしいと思う。 -
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通常戦争だけではなく、世界観戦争(絶滅戦争)・収奪戦争という側面から始められた独ソ戦。そのヒトラーの思想により、スラブ民族・ユダヤ人などドイツ人以外の民族を殺戮、占領地から収奪しながら東進。憎悪に燃えるソ連軍もドイツ人を凌辱・虐殺・収奪しながら戦うという、おぞましい戦いが続く。ドイツ国民はナチスに先導されただけであって、ドイツ国民も被害者との言説がくつて流布されていたが、ドイツ国民はナチの恩恵を受けて積極的に参加した共犯という説が今では主流らしい。それを踏まえると、第二次大戦の責任は一般の日本国民にもあるのだろう。戦後の日本人にまで責任を負わせるのは違うと思うが。
ヒトラーのマイクロマネジメントは稚拙であるだけでなく、自分の思想(絶滅戦争・収奪戦争)に引っ張られ、現状を何も認識していない。強い「思想」の恐ろしさが本書でも描かれている。 -
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日米英の様々な軍人の生き様を綴った本書。戦略戦術で成功、失敗など記述があるが、特に日本の敗戦の要因が気になる。それは「情報収集・解析力不足」及び「人事権・官僚化」だという。
太平洋戦争では日本の暗号が完全解読され、古い体質の戦略(対米英の最新鋭の武器・船隊対航空隊、レーダー、長距離大砲、燃料・物資輸送確保)のまま、机上学と学歴重視の上から目線、さらに人事にコネ・先輩後輩序列が何よりの組織で「否定できない組織」となった事だ。現代日本の政治家組織も多くが自民党の年功序列に従うだけで規制改革・変化は政治家自身の為のものが多く、国民の立場のものはほとんど無くなった。例:人口減・少子化対策など殆ど効果なしで先延ばしの対策しかできない、10年後20年後の日本を背負う世代に「多額の負債」を残し、国家予算を右肩上がりに使い続けるのはいつまでだろうか。 -
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軍事史家として個人的にかなり信用している大木氏の著作。まず「あの戦争をなんと呼ぶか」というところで、アジア太平洋戦争が最も適切ながら党派性と結びついてしまっていること、大東亜戦争も学術・文芸の言葉としては用いられないとして、手垢がついた凡庸さゆえに最大公約数的な価値中立性を得ている太平洋戦争を使うというところから激しく同意。
どこかで連載していた太平洋戦争中の日米英の将帥の列伝で、分量的には物足りなさがあるものの、逆に言うとそれぞれの人物の指揮統率を理解するうえで重要なポイントに絞って論述している。
シンガポールで降伏せざるえなかったパーシヴァル、上級司令部の指導なく現場で第一次ソロモン海戦に勝利しつつ輸送船段に手をつけなかった三川軍一、戦術レベルで力を発揮したが戦略レベルで強引な作戦を立て破滅に向かった神重徳、日本軍の伝説を粉砕したヴァンデグリフト、細菌戦の北條圓了、フライングタイガースの指揮官シェンノート、近年過大評価されていたとされているがそれでも独創性を有していた小沢治三郎、比島沖海戦や台風で2度失敗している猛将ハルゼー、独混一旅を東条にバラバラにされ近衛と倒閣運動をした酒井鎬次、実は軍政部門で細やかさを見せていた山下奉文、イギリス軍の人事制度で力を発揮できたウィンゲート、ヨーロッパ戦線で名を挙げ日本を爆撃したルメイを取り上げている。
本書のために書き下ろされた終章では、短いながらコマンドカルチャーについて考察している。平時に形骸化・官僚化する軍だが、日本の場合は第一次世界大戦から教訓を集めたときに持たざる国であったことを直視すると軍人たちは絶望したと、結果現実から最適のドクトリンを追求するのではなく、おのれが取りうる戦術や作戦に都合のいい戦例を並べ立てる「教訓戦史」に走ったとする。
最後に一点面白い指摘をしていて、日本の将校が非常に独善的かつ楽観的な姿勢を示す傾向が強いことは知られているが、それはめっけるがすでに1888年に日本将校固有の欠点の三つのうち第一として「物事が容易に為し得るものと妄想していること」だと断じていた。著者は日本人論の範疇に属する問いかけかとも述べているが、ここを掘り下げた著者の研究を見てみたい。 -
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単なる戦術比較論的な読み物では無い。
戦争を「通常戦争」「収奪戦争」「絶滅戦争」と分けて、それぞれがどんな背景でどんな手段を用いて、どのように行動し何を実現しようとするのかを論じている。ドイツが当時ナチスのもとでどう変化したのか、また、ソ連はどう考えていたのか、時系列で事態がうねりながら変化していく。
そして「絶滅戦争」
ヒトラーやスターリンの脳髄の中だけでなく、関わったものが互いに貶めていく“不条理”の相乗効果。
やがて、この戦争の最も馬鹿げた惨状がレニングラード、スターリングラードの攻防戦に現れる。
この、我が人類の悪癖に、怒りを通り越して絶望すら感じる。
それにしても人類は“ジェノサイド”をなぜ繰り返すのか。
現代と紙一重の当時を知らなければ、再びやってくる。その時私たちは受ける側かそれとも行う側か……あるいは両方か。
独ソ首脳陣を含め世界中の指導者たちへ、日本の有名な言葉を贈る。
「事件は会議室で起きてるんじゃ無い。現場で起きてるんだ」 -
Posted by ブクログ
戦争論 クラウゼウィッツ
敵の重心を攻略せよ。 党派的に分裂しているならば、首都を攻略。弱小国ならば、その同盟国を攻撃。
独ソ戦の特徴。
イデオロギーのぶつかり合いの絶滅戦争であること。
1.事前の準備不足。限りあるリソース、時間を、どう用いるか。優先順位付けが曖昧であった。
ドイツ側からみると、緒戦で大量包囲を完了したものの、モスクワ攻略などに要する時間を浪費してしまった。
1933-39の軍拡が、失業者を減らした一方、設備投資、資源輸入のための外貨減少、製造業労働者不足を招いた。
→ 収奪戦争へ
読む限り、ドイツはソ連に負けるべくして、負けた。戦略的敗北。
絶滅戦争で、戦争に勝つことは無理では?? ましてや、広大な国土を持つ、膨大な人的資源を持つソ連に対しては。