井上夢人のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ作者がこの小説を書いた時代には、日本でさほど市民権がなかったのであろう、多重人格という症状。
自分のチカラではどうすることもできない劣悪な環境から逃れる手段として、主人公は自分のなかに別人格を作りだし、刹那的に自らの精神や存在を消すことを選んだ。
誰から教えてもらったわけでもなく、4歳の幼い人間の本能として。
殺すことで目の前から直接的に消滅させる。
家を飛び出し離れることで間接的に存在を消す。
オトナになればつらい環境から逃げ出すための手段はたくさんあるのに、知恵もお金もチカラもない幼い女の子にとって精一杯の手段は、多重人格を作り出すことだった。
この事実に、表現しがたいほどの切ない感情を抱かされる。
そして、複数の人格によってひとりの身体を共有する複雑さ、残酷な事実を知ったときの得体の知れない恐怖。
気付けばまったく身に覚えのないコトが自分のやったこととして身に降りかかる。
ジブンが愛する新婚夫の殺人さえも。
とは言え、私だって、耐えがたい悲しみや怒りの感情が生じたとき、強気のジブンと弱気のジブンの声に翻弄されながらなんとか精神の均衡を保っている。
負の感情だけではない。
超パリピな部分もあれば、冷静で論理的な部分、すごく幼稚な部分もある。
それらは、自分で自覚している私の性格であり、私の一部だ。
だけど、いまの私は、本当に私だけを生きられているのだろうか。
もしかしたら、この主人公のように、無自覚のなかで、単なる性格の枠に収まりきれない別の人格がワタシを語り、ワタシの人生を生きているのかも知れない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ出張中の夫の帰りを待つ主婦・向井洵子の日記が保存されたフロッピィディスク。そこには、彼女が自分を騙る偽物が身辺に存在する不気味なエピソードが綴られていた。そして、偽物の向井洵子惨殺事件…。混迷を極める中で次々に現れる話者の語る真実を繋いだ先に見える物とは…。
気付いたよ多重人格者。
不自然に途切れる記憶から、疑い始めた中盤。そのつもりで読むと、比較的容易に辿り着ける。ネタばらしまでに、なんとか藤本幹也も人格の一部であることにも思い至ることができた。そこまで来れば、奥村恭輔もそうであることは、ネタばらしを待つことなく辿り着けるだろう。そういう意味では、理不尽でない絶妙な難易度設定であり、フェアな作品と言えるだろう。
病理学的にはそれでいいのか。
「二十四人のビリー・ミリガン」を筆頭に、他にもフィクションも含めて多重人格者を扱った小説を読んだ経験がある。本作の、赤の他人をまるごと取り込むみたいな人格形成のケースを知らなかったので、そこがどうしても最後まで引っかかった。人格同士が一切の記憶共有をしていない点と、他人の人格を丸ごと取り込む点が、物語を成立させる肝の部分であるので、そこありきでご都合主義的に作られた症状であるように感じて、首を捻る結果になった。医学素人であるので、この違和感が正しいものか分からないのが残念だ。もし、精神医学に則った記述であるのならお詫びしたい。
冒頭がわけ分からなすぎた。
謎を展開するスピードが早すぎて、人物名や世界観を飲み込む前に拡大していく謎に困惑した。向井洵子が感じる違和感は、明らかに記憶分野の不調を示唆するようなものに感じ、ミステリィというよりは病気を心配しながら読んでしまった。恥ずかしながら、若年性アルツハイマー的な方向に展開していく可能性も頭をよぎりながら読み進め、更に混迷を深めるという自滅的な側面もあった。
仕掛けに気付くと後は惰性で読み切る感じ。
事件の残忍さに比べて、語り手のテンションが常に淡々としているのもあり、全体的に地味な印象を受ける。「オルファクトグラム」を期待してしまうとがっかりする。 -
Posted by ブクログ
ネタバレいわゆる"読者への挑戦"もの。バラエティに富んだ様々なパターンの作品に触れられて面白い。
ただし、
・「少女」殺人事件
大学2年生の中国人留学生がトイレの貼り紙「うんこが流れません」を読めない、というのは納得がいかない。「won't flush」レベルがわからずにどうやって日本で生活するんだ。
また、ミステリの十戒が推理に多大に影響するなら十戒を書いておくのが筋でしょう。ミステリってそういう内輪ネタを公然と出してくるところあるよなぁ。
「必要な情報は全て読者に提示され」じゃないのか。
「アンフェアな描写も目立つ。2点。」ということか。 -
Posted by ブクログ
とある主婦の不穏な内容の日記から始まり、その後、調査内容や供述など、複数の人物による記述ファイルが続く、という構成。不可解な雰囲気で謎が謎を呼ぶ展開に、ワクワクしながらどうなるんだろう!と読み進めたけど、途中で何となくオチが分かってしまった(汗)
しかも自分的には苦手なオチだったので、正直納得いかない部分もあるけど、そのオチなりに丁寧に積み上げられているし、そこに至った心理描写もちゃんと描かれているので、不満感は少しずつなくなっていった。
最後の落とし方なんて挑戦的だし、いろんな感情が膨らむし、何ならちょっとオシャレだし…、なんか惜しい印象が拭えない複雑な読後感だった。