警備会社に勤める主人公は、あるへまをして僻地に左遷されます。そこでの仕事
は、ある振興宗教団体の警備でした。そして、彼が着いた早々事件はおきました。
午後十時に差し入れを持ってきてくれた美しい信者に見とれていると、いきなり
突き飛ばされるようにして主人公が倒れてしまったのです。
その時から、彼の心の中に別の人格が宿ってしまうという、乗り移りパターンの
物語が始まります。
ひとつの人格の中に別の人格が宿って、葛藤を繰り広げるのは古いパターンであ
り、古今東西いろんな物語が書かれてきました。
最近で有名なところでは、人気漫画『ひかるの碁』もそのパターンでしたね。
だから、目新しさはない、その分わかりやすいし安心して読めるのですが、最後
まで読んで読者は愕然とさせられる事になります。
そして、それだけで終われば、上質なミステリーなだけですが、驚きと同時に味
わわされる感情が、切なさ、胸キュンなのです。
上質なミステリーであり、恋愛小説であり、SF でもあると言われる所以です。
ところで、この小説を読んでも思うんですが、男性作家が書いた女性のほうが女
性作家が書いた女性よりもはるかに魅力的なんですよね。
僕がそう思うだけかもしれませんが、女性作家が書いた女性って、みもふたもな
いと言うか、色気がないと言うか、そんな感じで、あまり魅力的には感じません。
もちろんリアリティはあるんですけど。
考えてみれば当然の事かもしれませんが・・・・・・
もうひとつ気づいた事は、主人公がいきなり意識を失う場面があるわけですが、
その原因を探っていくところで、病名としてまったく『てんかん』という名前が出
てこないのは、不自然すぎる事です。作家は当然入れたかったはずですが、諸般の
事情で削らざるを得なかったのだと思います。
筒井康隆の断筆騒動などもあって、『てんかん』に関して小説の中でさえ語るの
が難しくなってるとしたら、その病気で苦しんでいる患者自身にとってもマイナス
になるのではないかと心配してしまいます。
多分てんかん協会からクレームがつくのを恐れた出版社が自ら自主規制したのだ
と思いますが、てんかんがタブーとなってしまうのは差別を助長するだけだと思い
ます。