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Posted by ブクログ
【あらすじ】
54個の文書ファイルが収められたフロッピィディスク。ファイルに記載されているのは、様々な人間の視点による「事件」の記録である。夫の帰りを待つ妻、小説家志望の男、暴力的な気配を漂わせる男、何かから逃げようとする女。互いに矛盾を孕みながら、しかし奇妙な符合を見せるファイルを読み進めた果てに、開示される衝撃の真実とは…。2024年度本屋大賞【発掘部門】受賞作。※
※本屋大賞の特別賞。実施年度の前一年をノミネート基準とする大賞とは異なり、2002年11月30日以前に発行された全ての小説を対象とする。時代を超える名作を、文字通り「発掘」することを主眼に置いた賞である。
【短評】
良作であった。
井上夢人は『オルファクトグラム』以来となるだろうか。論理的で緻密な文章を描く作家という印象であり、本作においてもその筆致は遺憾無く発揮されていたと思う。
矛盾とか違和感を凌駕して「気持ち悪い」に至る程に訳が分からない前半部。「もしかしてこれはSFなのか」と考えることを放棄しそうになる位には、マジで意味不明。これは、文章が拙いとか読み辛いとか癖があるという汚点ではなく、すいすいと意味内容を咀嚼したうえで、脳が解答を拒むような意味不明さなのである。
正直に言えば、それでもちょっとキツかった。脳がオーバーヒートし、文章がやや滑った感がある。この混迷は作者が意図したものであろうが、体感に嘘は付けない。
さて。中盤過ぎ位だろうか、この作品には天啓が訪れる。
前述の歪み、違和感、矛盾を全て明瞭な理屈を以て説明する「離れ業」を開帳してくる。結構露骨にヒントが出されるので「!!」という瞬間の衝撃を堪能することが出来るだろう。結構、脳汁が出た。素晴らしいと思う。
終盤はやや評価が分かれるところかな。
ネタバレ防止のため詳述は避けるが、丁寧に丁寧に事実を整理してくれるので、この作品に仕込まれた仕掛けをしゃぶり尽くすことが出来る。一方で、既知となったある「真実」を弄り回しているに過ぎず、スピード感を削いだという意見もあるかもしれない。
倫理的な観点は良く分からない。真実そういうものなのか、実際そうではないのか、私には良く分からない。ファイルNo.54がああいう趣向だったことを含め、私はエンタメと割り切って読んだ次第である。
しかしながら1994年上梓の本作が2026年の今以て十分に戦えるというのは、驚きだった。時代を超える名作というのはあるものだと、改めてしみじみと嘆ずるのである。
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