ファイナンス関連の基礎知識が網羅されており、かつ架空ビジネスの実例を踏まえて考察されており、分かりやすい。内容は広く浅いため、バリュエーションの実践等には、他の専門書で理解を深める必要がある。
【メモ】
・ファイナンス理論をどのように経営判断に活かすか?
>ビジネスの分析において、定性分析「経営戦略論」定量分析「ファイナンス理論」
>企業経営とはキャッシュの流れ。キャッシュインプット(投資)、アウトプット(リターン)投資の意思決定、財務の意思決定
>「経営におけるもっとも重要な指標は何か」ジャック・ウェルチ
(1)顧客満足
(2)従業員満足
(3)キャッシュフロー
・M&A、証券分析以外はどこでファイナンス理論を用いるか?
>プロジェクト可否判断、最適調達構造、資本構成、連結ベース経営判断、リストラやスピード経営、配当や自社株買い判断
・ファイナンス理論を活用した実例はどのようなものがあるか?
>ロッキード社、洞爺湖ホテル、バブル時の東京地価はファイナンス感覚の欠如による失敗
>利益の極大化を目的関数とした経営は、スロー経営に陥りやすい。一方、米国ではCF極大化を重視したスピード経営・リストラが断行される
・ユニークリスク(アンシステマティックリスク)はポートフォリオで回避できる
・βの推定期間は任意。実務上は2~5年が採用される。リターン間隔(日次・週次・月次)も同様。実務家はBloomberg 2年 週次データをベースにβを推計している。
・CAPMの代替モデルとしてのスリーファクター・モデル(FFモデル)(1)β、(2)規模、(3)簿価/時価比率
・個別プロジェクトのファイナンシングは、Debt 100%としても全社資本構成に基づくWACC計算が原則
・残存価値はEBITDAマルチプルで計算できる。ファイナンス業界ではEBITDA倍率、事業会社では売上倍率が好まれる。M&AファンドではEBITDAに次いでDCFが用いられる
・資本構成が著しく変化する場合はAPVを用いてTS(Tax Shield)を考慮する
・EVA導入で成果を出している企業が多い。具体的には(1)売掛金の回収サイト短縮(2)在庫削減(3)余剰資金の有効活用(4)EVAマイナス事業の撤退(5)EVAプラス事業のM&A
ただ、固定資産ウェイトが高い場合は業績管理しようとして機能しにくい
※EVA = 税引き後営業利益ー資本コスト×投下資本額
・M&Aによりイナーシャ(現状安住)の打破により不採算事業から撤退できる
・ハイテク企業の適正価格は分かりずらいため、事業価値の源泉が有形資産やブランドにある企業や、ローテクでCFの安定している企業がM&A対象になりやすい
・企業価値を高められる経営陣は、M&Aを恐れる形だけの買収防衛策に勝る
・MM理論:企業価値はB/Sの左側で決まるのであって、資本構成に依らない。配当や自社株買いは企業価値に対して価値中立的である。
・プロジェクト判断は静態的にNPVで判断できるが、実際のビジネスにおいては不確実性を考慮してリアルオプション価値を踏まえた経営判断が求められる
・債権者は債務者に対して貸付と同時に有限責任の破産に対するプットオプション売りを行っていることになる。