樋口有介のレビュー一覧
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零細業界誌の編集長、高梨は、かつて勤めていた会社のトラブルに首を突っ込んでしまう。
カギを握るのは姿を消した女で、人探しから始まったそれは、次第に会社乗っ取りの策略にまで及んでくる。
ハードボイルドです。
でも、愛妻家で、義理の娘にもとっても甘い。
その相反する面がいいバランスを保っていて、高梨という男の複雑さを、明確にしている。複雑なのに明確というのは、矛盾しているようだが、この感じが物語全体のあり様にもつながっている。
失踪した女が、いい。
一向に姿が明確にならない。行方もわからない。が、存在感は匂い立つように迫ってくる。
高梨という人物造形ももちろんだけど、この -
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再読。
母と姉、年上の恋人の尻に敷かれモラトリアムな毎日を送る就職浪人中の広也は、二年前に別れた恋人・千秋の死の真相を追うことになる。
彼女は、中世の魔女狩りのように生きたまま焼かれた。果たして彼女は魔女のような女だったのか・・・。
母、姉、恋人と登場する女たちが強く魅力があり、千秋の人となりが霞んでしまった感があるが、真相を含め、ミステリーとしても面白かった。
2010.10.28
いつもながらの樋口氏の世界。
今回の探偵役は就職浪人中と若めで「ぼくと、ぼらの夏」をに近い。
猟奇系に対抗して、「懸命に生きる人びとの常識を重みを大切に描いた」という著者に共感。 -
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読み終えるやいなや、またこの作家の短篇を読みたいと思った。物語世界を包む空気感が、特に気に入ったポイントだ。本書は、高校二年生の木村時郎を主人公に据えた、ハードボイルド風青春ライト・ミステリの短篇集。8篇を収録している。軽妙洒脱な会話、勝気でかわいい女の子たち。そしてなにより高校生でありながら世の中を達観しているかのような主人公・時郎が生意気でいい。文章の心地よさもプラスポイント。街の風景、鳥や植物をさりげなく描写する文章が、読者をやさしくストーリー世界へと誘ってくれる。それから、女心の描き方が憎らしい。作者の樋口さんは1950年生まれの男性。年配のしかも男性の創造が書かせた女心なのだから、
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長いので、一応あらすじを。
夏休みで暇を持て余していた主人公・悦至は、ある日電話でかかってきた彼女(はっきり付き合っていたわけではない)からの誘いを断る。その後、彼女が自殺をしたことを知った悦至。その理由を探るべく、幼馴染である涼子と共に行動していると、自殺ではなく他殺だったことに気付く。二人は事件の真相を知ろうとするが――。
今まで読んだ樋口先生の作品の中で、一番ラブラブだったような。とにかく恋愛要素のイベントがけっこう入っていて、個人的にかなり好きです。小説のクオリティも高いし、好きだけど、なんだろうな。主な登場人物に個性がない。今まで読んだ樋口作品の青春ミステリの設定が、ほとんど似てい -
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死んだ母親が遺してくれた小さなアパートの管理人として、幸せに暮らしている主人公・福田幸男、40歳。通称、ボクさん。知能は小学生くらいなのだが、事件をきっかけにある変化が……。切なく哀しい物語。裏表紙には「長篇ミステリー」の文字はあるけれど、ミステリーを読みたいと思って本書を読むとちょっとズレを感じると思う。多くを望まず、小さな幸せ感の中を平和に暮らしているだけなのに、どうしても悪意が入り込んでくる。日常にあるささやかな幸福や、人のあたたかさにホッとできるし、思いやり、優しさを嬉しくも感じた。でも、そんな生活も裏を見ると、思いも寄らない苦しみが潜んでいたり、小さな悪意から大きな犯罪まで企まれて
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樋口有介の著書は琴線に合う(だから「あんた、変わっている」)なかで、この作品は気持ちのよさ、という点では順位が落ちる(人が死んだり怪我したりが多い)が、主人公研一の母が遺した「遺書」の一節が妙に心に残った。「発作が起きてから気を失うまでの間、どれくらいの時間があったのか知りませんが、多くて一秒から二秒か、そんな処だろうと思います。そしてそれが本当に一秒か二秒であったとすれば、自分が、自分の人生に於いて一番知りたいと思っていた事の回答を出すのに、人間とはほんの一秒か二秒の時間しか必要としない生き物だということです。自分が生きてきた人生は最善であったのか、自分という人間がこれ以上生きる必要が有る