樋口有介のレビュー一覧
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1996年の樋口有介作品で、この2007年創元推理文庫版は中公文庫版に加筆した再文庫版。
樋口氏のデビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』と同路線の、男子高校生が夏休みの間に女子高校生の死の謎を解く、というストーリー。
ですが、『ぼくと、ぼくらの夏』と比べて、だいぶハードボイルド風味が増しています。男子高校生・広田悦至が「ぼく」という一人称で語るスタイルがまずハードボイルドですが、新宿に近いやや寂れた街『梅園銀座商店街』という架空の街を舞台に、クールな主人公とその主人公を取り巻く個性的な人々を配置、ということからわかるとおり、私立探偵が男子高校生に置き換えられたハードボイルド小説、という雰囲気です。
ただ、男子高校生・広田悦至を取り巻く人々の騒がしい雰囲気に引っ張られること無く、クールな変人キャラである広田悦至君が持つ雰囲気が終始作品を支配していて、暑い夏休みであるのにどこか陰鬱な作品になっています。
文庫本の内容紹介にあるような、「青春ミステリ」という言葉からイメージする甘酸っぱさより、だいぶ苦めの味わいでしたが、自分にはこの苦さが快い読み心地となっていました。 -
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名作青春ミステリ「ぼくと、ぼくらの夏」のリブートともいえる本作。人情ミステリのようなとぼけた味わいがありつつも、どこか切ない青春ミステリの雰囲気も漂わせている。江戸文化研究会の部活の部長である金持ちで美人の先輩、おどおどしつつも主人公を振り回す頑固さとアクティブさを持った眼鏡美少女、そして顧問の若くて美人な女教師と、魅力的な属性のヒロインが多数詰め込まれている。しかし本書の見どころはそこではなく主人公の父親であろう。「ぼくと、ぼくらの夏」もそうだが、父と子の距離感の描き方が絶妙で、父権的な押し付けがましさをまるで感じない。ぼんやりしててもいざというときには頼りになる父親、という安易な書割ではなく、一個人の人格をしっかりと持っていて話にぐいぐい食い込んでいくのがポイントが高い。とぼけていながらも聡明な部分もある、実に魅力的な父親像を描いている。その父親の存在感は主人公やヒロインたちを食っているといっても過言ではない。一連の事件を父と子の視点を交代させながら解き明かしていく構図は面白く、早々に動機や関係性は明らかになるものの、真犯人は意外なキャラクターで文字通りころっと騙されてしまった。主人公は所謂「やれやれ」系であり、少し冷めていながらもしっかりものであるため、とぼけた父親との対比になっているのは良かった。加えて「ぼくと、ぼくらの夏」のようなモテキャラでもないため、語り部としてはこちらのほうが良いと思う。やや感情の動きが乏しく、よもやすれば鉄面皮の冷血漢に映るものの、最後の煙草とライターを川に投げ捨てるくだりの感情の振れ幅は抑えていただけあって、切なさは凄まじい。総じてミステリ的にも完成度は高く、リブート前の作品を上回ってはいるものの、やや小手先の感が否めない。また、幽霊のキャラクターである真夏という少女の存在が話の中でやや浮いているようにも思える。特にバックボーンが事件に絡むわけではなく、幽霊という体質が事件解決に活かされるわけでもない。主人公の感情弁の解放と、オチに申し訳程度に使われたものの、主人公ほどの愛着が湧かなかったのが痛い。装置になりきれない装置だったように思う。
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ネタバレ生活保護が廃止された近未来。「希望の家」という低所得者の収容施設で起きた殺人事件を巡る物語。まずその、生活保護が廃止された社会という世界観が独特で、事件以上に目を引いてしまう。ここにあるのは格差社会のリアルさではなく、昨今の世論の息詰まるような閉塞感から感じる「そうなってもおかしくない」というリアリティのほうが強い。かなり悪夢的な世界観で、事件より設定のほうの異質さを感じる作品だった。反面、事件そのものは大したことはなく、ありふれたつまらない殺人事件ではあるのだが、それが逆に異様さを伴っているのが空恐ろしく、返って非常に不気味に映った。異常な社会の中での普通の殺人は文字通り黙殺され、探偵役の初老の刑事やその周囲も、適当に済ませ穏便に片付くことを望んでいる。そこに倫理観や正義感はなく、その命の軽さが異常な社会と相まって一層不気味に感じるのだ。殺人事件の扱いがそのまま作品の舞台設定の世相を反映しており、命の価値や値段などに優劣が付いているというのがミソで、あえて主人公側を単純な正義の人間にしていない辺りに、隠されたリアリティがあるのだろう。異常な社会で暮らせば、価値観は揺らぎ、それを貫こうにも、貧困から漂う諦観が作品全体を包んでいる。単純な施設の隠蔽というわけでもなく、ありがちな個人のエゴや保身による隠蔽ではなく、都合の悪いことを押し包む個人では対抗できないシステムの指示、つまるところは世間からの要請が隠蔽の背景にあるというのは非常に恐ろしい。読後感はやや人を選ぶものの、風刺的ではあるが教訓や警句めいたものは無いので、そのあたりの作者のバランスの匙加減を楽しめるか否かでこの作品の評価は変わるだろう。個人的には、貧困は同情や正義感、倫理観ではなく、無情なまでのリアリズムと、単なる善悪の二項対立では計れない闇の深さを感じるので、その部分を丁寧に描いたこの作品には好感を持てます。加えて作者特有の「身振り」の描写が非常に上手く、風景描写も相まって、非常に文章力は高く感じる。各登場人物の台詞回しなどもウィットに富んでおり、冗長ながらも流れるように読めた。ミステリとしては真犯人の断罪がないのは非常に判断に迷うものの、罪の適用範囲や社会そのものが狂っている状況では真相やその罰に価値があるかという根幹的なことまで考えてしまう。ひそかに行方不明の女児のミスリードなどは上手く、そこは引っかかってしまった。
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2019年1月の時点で、樋口センセの著作の中でも最新の部類になると思うのだけれど、実験的な意味合いでもあるのかな~…と。
複数の視点での語り、女性が推理の主体的存在であるとか。
「猿の悲しみ」で初めて女性主人公の作品を読んだせいでそう感じてるのかもしれないけれど。
しかし視点、語り手が複数に渡るのは、少なくとも冒頭では活きてなかったかなあ。
誰の視点なのかわかりにくく。
せめて「一行空ける」だけでなく「◆」か何かマークで区切って欲しかった。
この辺の迷走ぶり、第二節までは連載形式であったことと関係してるのかな?
書き下ろし部分になった第三節以降では重点的に語る人物が示されてスッキリした感あるもの。
で、樋口センセらしいリズムある言葉の掛け合いなども中盤以降には発揮されて、いよいよ面白くなったかなー。
語り合う相棒がいるというのも樋口センセの作品では必要かなと。
先述の「猿の悲しみ」ではその役が不在だったので一方的に強すぎた感あるんだよねー。
そういう試行?があって、今作があると考えるのは深読み過ぎかなあ。
物語としては、ここでも序盤の強引さで好悪が付くかもなー。
エンターテインメントだから序盤以降もドラマがあると受け取れるけど、リアルに考えると何してんだ警察は…ってなりそう。
でも、その強引さが果たして物語としても押しになってるのはすごい。
意外な真実というのはミステリの骨子だよね-。
そして一件落着…と思わせても、最後の最後にそうは問屋が卸さねえとばかりに足下をすくう一撃。
結末をどう受け取るかは読み手に任せるにしても、やっぱり苦みが効いてるわー。
そして…これは自分が「柚木草平」シリーズをいまだ読んでないこともあるのですが、これはもうスピンオフなんですか?
というかシェアザワールド?
え? こういうシステムなんていうんかな??
いよいよあのシリーズに手を出す頃合いなんだろかー…。 -
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再読。
でも以前はそこまで面白いって感じなかったんだけどなー。
どこを面白く感じたのかって、主人公と女の子の軽妙洒脱な会話。
もちろん樋口有介センセの作品はそこが魅力のものが多いんだけど、今作のリズム感はその中においてでも白眉なのではないかと再読で感じた次第。
また、他作で米澤穂信センセが指摘されていた「主人公の臆病さ」というのも、これは逆に軽妙洒脱が過ぎるがゆえに強く表れているようにも感じた。
心の内を隠すために、言葉が多くなる…みたいな。
自分にはそうした主人公の気持ちが強まっているように感じられるところも、今回再読して面白いって思えたのかもなー。
あと今作はそれなりに推理ミステリの体裁を整えようとしたのかなーって印象も。
それが功を奏しているという意味では無く、ちょっとムリクリ感が浮かび出てしまったかなー…というマイナス面。
ギミックがね、ちょっと大味な感。
それでいてハウダニットを証明させようと、樋口センセらしからぬ主人公が強く探偵色を出しちゃってるかなー…て。
まあしかし、それでも樋口センセの「夏」らしい作品ではありましたなー。 -
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先日読んだ「海泡」の解説で、樋口有介せんせの夏に関する作品がつらづらっと挙げられていたので、よっしゃ読み返したろー!っていう個人的気運盛り上がり中。
今作もまた主人公の男子はカッコつけてて、そしてカッコ悪い。
特異だなと感じたのは、せんせの作品で好きなトコロは主人公とヒロインの会話の妙にあると考えてるのですが、今作のヒロイン、会話のコミュニケーションに難あり。
いつもの小洒落た会話がなかなか繰り広げられないんですよねー。
もちろん、ヒロイン以外の女性との会話にその味わいは見られるのですが。
まあしかし、会話が無くても主人公の洒落た振る舞いは見どころあるわけで。
10代のヒロイン、20代のお姉さん彼女、40代のお母さん、50代のおばさん…て、どの年代の女性に対しても臆すること無く賢く振る舞いますねえ。
今作の解説は米澤穂信センセなのですが、そうした主人公の振るまいを気障ではなく照れているのだと評してますが、ああなるほどって感じ。
そうしたいわゆる「照れ」なんかだと、「ぼくと、ぼくらの夏」の戸川くんがヒロインに対して告白するシーンとか、あれなんかまさに照れだし照れ隠しだと思います。
ああ、「ぼくの」で思い出した。
今作もヒロインが主人公を迎えるように仕向けて待っているようなシーンが。
そういったところが樋口有介せんせの作品におけるヒロインの可愛らしさだと思うのですが如何に。
主人公は女性の扱いに長けているように見えて、いつだってヒロインに振り回される。
そこが面白いのです。 -
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以前に読んだことがあったのに気付かず手に取ってしまった…。
でも内容もおぼろげになっていたし改稿箇所があったりして、そして何より樋口有介作品に夏の印象を持っている自分としては、時を経て再読しても面白かった。
生意気で気怠げな主人公は、樋口作品のそれとして「いかにも」な感。
幾人もの女の子との会話はスピード感あるのがいいよね。
まあ、そういうところが若干は小賢しい感じも受けるのだけど、そういう部分の未完成なところも主人公としての魅力なのかな。
その主人公と関わりを持つ幾人もの女性もまた魅力か。
ここは樋口作品としては珍しい部類に入るくらいに関わりがあるような。
登場数の多さというか。
しかしそういった設定も、小笠原という閉じた世界を象徴するために必要なことだったのかもなー。
誰もが、誰もを、知っている(知らない)というような。
今作、探偵モノではあっても推理モノでは無いよね。
事実は最後に怒濤のように披露され、エンターテインメントとしてはそこに至るまでの探偵の行動にあるという。
そしてその探偵にしても、真たる探偵は早々に舞台から降り、その探偵の尊厳?価値?正当性?を証明するために奔走するのが主人公、と(奔走はしてないか)。
今作が最初に上梓されてから17年経っても、作中で触れられている空港は小笠原に出来ておらず。
ちょっとググったらようやく建設案がまとまりかけているようなところ。
飛行機が小笠原を結ぶようになれば今作で描かれたような世界は無くなるのかもしれません。
そうなる前に行ってみたいですなあ。 -
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風町サエシリーズの1作目。
続編の「遠い国からきた少年」から先に読んでしまったのだが、どちらも読みごたえは十分。
殺人を犯し、刑務所に服役。その時の弁護士だった羽田のもとで、「調査員のようなもの」として勤める風町サエ。
この物語には、正義面する人間は出てこない。
誰もが個人的事情を抱え、トラブルやモメごとの真っ只中を突き進んでいく。
メインキャラ、サエの関心事は、ただただ、溺愛する息子、聖也との静かな生活。
「人殺し」で服役した母を持つ聖也の将来のため、1億円を貯めると心に決めている。
そのためには、汚れ仕事だってなんだってやる。
いや、自ら望んで手を染める。
羽田が依頼された裏仕事はサエ担当、必然的に、世の中の闇の部分、人間の汚れを真っ向から浴びることになる。
だが、ひるまないし、そういうワルたちに脅しをかけもする。
刑務所時代に愛読書となった「裸の猿」にある通り、ヒトも所詮ただのサルと割り切り、腹式呼吸をしてやり過ごす。
タフで、弱音を吐かないサエに、拍手喝采してしまう。
出版コーディネーター、東宮路子が殺された事件で、第一発見者となったカメラマンの水沼一良がどこまで事件に関与しているのかを探るよう、羽田に依頼される。
調査を進めると、今度は水沼が不審死を遂げる。
警察は、痴情のもつれで水沼が東宮を殺害、水沼は心臓発作による病死として事件を終わらせた。
サエも事件から手を引こうとしたが、水沼の母親から、息子は本当に殺人犯なのか、その「心証」を知らせてほしいと頼まれ、調査を続行する。
だが、事件の裏には、警察上層部をも黙らせる巨大な団体の影が浮かび上がり…。
ただ一つ、結末で、サエを驚愕させた疑惑が何だったのかわからないのが悔しい。 -
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「猿の悲しみ」の続編。
ここに登場する人物たちは、いずれもしたたかで、クセが強く、あまり可愛げはない。
だが、ワルとしての魅力はプンプンと匂ってくる。
正義なんてクソくらえ。欲のオンパレードなんだが、それが実にさっぱりしていて、いっそ清々しい。
ワルにはワルの事情があり、正義には少々、引っ込んでもらおうか。
メインキャラの風町サエは、羽田法律事務所の「調査員のようなもの」。
十六歳で人を殺し、少年院から女子刑務所で服役した後、所長の羽田に弁護を担当してもらった縁で、この事務所に雇われた。
彼女の担当は、借金の回収、脅しなど、裏の汚れ仕事。
子どもの頃に身に付けたムエタイを駆使して、大立ち回りも辞さない。
服役中に出産した息子は高校生となり、シングルマザーとして奮闘中。
と、なかなかハードな人生を送っている。
事務所には、新米弁護士の島袋(この男は幾分まとも?)、そして、八十を過ぎたと見える老女、雪原玲香が事務員として勤めている。
彼女は、羽田の父親の愛人だったらしい、というのだから、キャラの濃いメンバーがそろっている。
さて、今回は、芸能界で顔役でもあり、アイドル育成のピザ店で成功をおさめた男が依頼人。
ピザ店でアルバイトをしていた少女が自殺し、その両親から1億2千万の賠償金を要求されているという。
その額を何とかして下げてもらいたいというのが依頼内容。
自殺した少女の家族を探るうち、事態はとんでもない方向に…。 -
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内容(「BOOK」データベースより)
「誰もがなりたくないと思い、それでいて誰もがなれてしまう。そこがホームレスの面倒なところだな」。代々木公園のホームレスで元刑事の椎葉明郎は、女性刑事、吹石夕子に日当二千円で雇われ、一家惨殺事件の推理に乗り出す。考えるホームレス、椎葉の求めた幸せとは?ハーオウォーミングな長篇ミステリ。
ホームレスなのにモテていいなあという気持ちがもたげるミステリーです。殆ど表紙の秀逸さで手に取った感じでした。いい表紙ですよねまさに秋という感じで。フォントもレトロで飾っていおきたいような表紙です。表紙の事ばかり言うなって?何を言いますやら、ジャケ買いしていた世代にとっては重要な要素ですよ。表紙嫌いだとまず手に取りませんからね。
樋口 有介 さんの本はどれもライトなテイストでウィットに富んだ会話でサクサク読めていいです。頭が疲れている時に高村薫さんとか読むと脳のエネルギー大量消費しますからね。この話えぐい事とか出てこないので穏やかに読めます。