樋口有介のレビュー一覧
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ネタバレ生活保護が廃止された近未来。「希望の家」という低所得者の収容施設で起きた殺人事件を巡る物語。まずその、生活保護が廃止された社会という世界観が独特で、事件以上に目を引いてしまう。ここにあるのは格差社会のリアルさではなく、昨今の世論の息詰まるような閉塞感から感じる「そうなってもおかしくない」というリアリティのほうが強い。かなり悪夢的な世界観で、事件より設定のほうの異質さを感じる作品だった。反面、事件そのものは大したことはなく、ありふれたつまらない殺人事件ではあるのだが、それが逆に異様さを伴っているのが空恐ろしく、返って非常に不気味に映った。異常な社会の中での普通の殺人は文字通り黙殺され、探偵役の初
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2019年1月の時点で、樋口センセの著作の中でも最新の部類になると思うのだけれど、実験的な意味合いでもあるのかな~…と。
複数の視点での語り、女性が推理の主体的存在であるとか。
「猿の悲しみ」で初めて女性主人公の作品を読んだせいでそう感じてるのかもしれないけれど。
しかし視点、語り手が複数に渡るのは、少なくとも冒頭では活きてなかったかなあ。
誰の視点なのかわかりにくく。
せめて「一行空ける」だけでなく「◆」か何かマークで区切って欲しかった。
この辺の迷走ぶり、第二節までは連載形式であったことと関係してるのかな?
書き下ろし部分になった第三節以降では重点的に語る人物が示されてスッキリした感ある -
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再読。
でも以前はそこまで面白いって感じなかったんだけどなー。
どこを面白く感じたのかって、主人公と女の子の軽妙洒脱な会話。
もちろん樋口有介センセの作品はそこが魅力のものが多いんだけど、今作のリズム感はその中においてでも白眉なのではないかと再読で感じた次第。
また、他作で米澤穂信センセが指摘されていた「主人公の臆病さ」というのも、これは逆に軽妙洒脱が過ぎるがゆえに強く表れているようにも感じた。
心の内を隠すために、言葉が多くなる…みたいな。
自分にはそうした主人公の気持ちが強まっているように感じられるところも、今回再読して面白いって思えたのかもなー。
あと今作はそれなりに推理ミステリ -
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先日読んだ「海泡」の解説で、樋口有介せんせの夏に関する作品がつらづらっと挙げられていたので、よっしゃ読み返したろー!っていう個人的気運盛り上がり中。
今作もまた主人公の男子はカッコつけてて、そしてカッコ悪い。
特異だなと感じたのは、せんせの作品で好きなトコロは主人公とヒロインの会話の妙にあると考えてるのですが、今作のヒロイン、会話のコミュニケーションに難あり。
いつもの小洒落た会話がなかなか繰り広げられないんですよねー。
もちろん、ヒロイン以外の女性との会話にその味わいは見られるのですが。
まあしかし、会話が無くても主人公の洒落た振る舞いは見どころあるわけで。
10代のヒロイン、20代のお -
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以前に読んだことがあったのに気付かず手に取ってしまった…。
でも内容もおぼろげになっていたし改稿箇所があったりして、そして何より樋口有介作品に夏の印象を持っている自分としては、時を経て再読しても面白かった。
生意気で気怠げな主人公は、樋口作品のそれとして「いかにも」な感。
幾人もの女の子との会話はスピード感あるのがいいよね。
まあ、そういうところが若干は小賢しい感じも受けるのだけど、そういう部分の未完成なところも主人公としての魅力なのかな。
その主人公と関わりを持つ幾人もの女性もまた魅力か。
ここは樋口作品としては珍しい部類に入るくらいに関わりがあるような。
登場数の多さというか。
しかし -
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風町サエシリーズの1作目。
続編の「遠い国からきた少年」から先に読んでしまったのだが、どちらも読みごたえは十分。
殺人を犯し、刑務所に服役。その時の弁護士だった羽田のもとで、「調査員のようなもの」として勤める風町サエ。
この物語には、正義面する人間は出てこない。
誰もが個人的事情を抱え、トラブルやモメごとの真っ只中を突き進んでいく。
メインキャラ、サエの関心事は、ただただ、溺愛する息子、聖也との静かな生活。
「人殺し」で服役した母を持つ聖也の将来のため、1億円を貯めると心に決めている。
そのためには、汚れ仕事だってなんだってやる。
いや、自ら望んで手を染める。
羽田が依頼さ -
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「猿の悲しみ」の続編。
ここに登場する人物たちは、いずれもしたたかで、クセが強く、あまり可愛げはない。
だが、ワルとしての魅力はプンプンと匂ってくる。
正義なんてクソくらえ。欲のオンパレードなんだが、それが実にさっぱりしていて、いっそ清々しい。
ワルにはワルの事情があり、正義には少々、引っ込んでもらおうか。
メインキャラの風町サエは、羽田法律事務所の「調査員のようなもの」。
十六歳で人を殺し、少年院から女子刑務所で服役した後、所長の羽田に弁護を担当してもらった縁で、この事務所に雇われた。
彼女の担当は、借金の回収、脅しなど、裏の汚れ仕事。
子どもの頃に身に付けたムエタイを駆使し -
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内容(「BOOK」データベースより)
「誰もがなりたくないと思い、それでいて誰もがなれてしまう。そこがホームレスの面倒なところだな」。代々木公園のホームレスで元刑事の椎葉明郎は、女性刑事、吹石夕子に日当二千円で雇われ、一家惨殺事件の推理に乗り出す。考えるホームレス、椎葉の求めた幸せとは?ハーオウォーミングな長篇ミステリ。
ホームレスなのにモテていいなあという気持ちがもたげるミステリーです。殆ど表紙の秀逸さで手に取った感じでした。いい表紙ですよねまさに秋という感じで。フォントもレトロで飾っていおきたいような表紙です。表紙の事ばかり言うなって?何を言いますやら、ジャケ買いしていた世代にとっては重 -
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弁護士事務所で、表向き事務員、実はすご腕調査員のシングルマザーが主人公。
クールで、冷徹とも思えるところがあるのだけど、息子にはでれでれになる。そのギャップが面白い。彼女が服役していたことや、シングルマザーになってことも、割と早いうちに明らかになっていてノンストレス。
女性が殺され、その容疑者になっている男の調査をするうちに、話が大きくなっていく。
ラスボス(ww)がよいです。
主人公と互角にさせてるあたりがいい。
も、これで続編書くしかないよね、って思う。
調査員ってことで、人の暗部ばっかり見てるようだけど、彼女はそれはそれ、って割り切れる強さがある。ま -
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異色の主人公。元ヤンキーで殺人の前科があり、16歳のときに産んだ息子を持つ32歳の女性サエ。世話になった弁護士をオヤジと呼び、そのオヤジの事務所に勤めている。表向きは事務員だけど、解錠その他、元不良らしく、さまざまな特技を駆使して、顧客の依頼に応じた危ない調査いろいろ。
著者の作品ではおなじみの、いわゆる「ワイズクラック」な話し方が今回はなりをひそめているものの、会話のテンポのよさは相変わらず。いくつかの仕事が最後に絡み合うのかと思ったらそうではなかったのがちょっと残念ですが、クールなシングルマザーのハードボイルドといった風情で飽きさせません。シリーズ化、歓迎。