樋口有介のレビュー一覧

  • 金魚鉢の夏

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    ネタバレ

    生活保護が廃止された近未来。「希望の家」という低所得者の収容施設で起きた殺人事件を巡る物語。まずその、生活保護が廃止された社会という世界観が独特で、事件以上に目を引いてしまう。ここにあるのは格差社会のリアルさではなく、昨今の世論の息詰まるような閉塞感から感じる「そうなってもおかしくない」というリアリティのほうが強い。かなり悪夢的な世界観で、事件より設定のほうの異質さを感じる作品だった。反面、事件そのものは大したことはなく、ありふれたつまらない殺人事件ではあるのだが、それが逆に異様さを伴っているのが空恐ろしく、返って非常に不気味に映った。異常な社会の中での普通の殺人は文字通り黙殺され、探偵役の初

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    2019年05月27日
  • 林檎の木の道

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    20190407
    ぼくは友崎涼子の平べったい尻にたっぷりとアジシオをふりかけてやり、葡萄棚の影を吸い込むつもりで、大きく深呼吸した。飛んでいたヘリコプターは姿を消し、風が欅にかすかな葉音をひびかせていた。
    友崎涼子が休戦を宣言するのは妥当として、ぼくのほうがいつ宣戦を布告したのか、ぼくには思い出せなかった。

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    2019年05月26日
  • 平凡な革命家の食卓

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    2019年1月の時点で、樋口センセの著作の中でも最新の部類になると思うのだけれど、実験的な意味合いでもあるのかな~…と。
    複数の視点での語り、女性が推理の主体的存在であるとか。
    「猿の悲しみ」で初めて女性主人公の作品を読んだせいでそう感じてるのかもしれないけれど。

    しかし視点、語り手が複数に渡るのは、少なくとも冒頭では活きてなかったかなあ。
    誰の視点なのかわかりにくく。
    せめて「一行空ける」だけでなく「◆」か何かマークで区切って欲しかった。
    この辺の迷走ぶり、第二節までは連載形式であったことと関係してるのかな?
    書き下ろし部分になった第三節以降では重点的に語る人物が示されてスッキリした感ある

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    2019年01月07日
  • 平凡な革命家の食卓

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    ネタバレ

    国分寺と府中が舞台の警察小説。
    捜査はちゃんとすすんでいくのだが、警察小説らしからぬホワンとした不思議な読書感に包まれていて、意外と面白かった。美人の運命も大変だ。

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    2018年12月14日
  • 林檎の木の道

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    再読。
    でも以前はそこまで面白いって感じなかったんだけどなー。
    どこを面白く感じたのかって、主人公と女の子の軽妙洒脱な会話。

    もちろん樋口有介センセの作品はそこが魅力のものが多いんだけど、今作のリズム感はその中においてでも白眉なのではないかと再読で感じた次第。

    また、他作で米澤穂信センセが指摘されていた「主人公の臆病さ」というのも、これは逆に軽妙洒脱が過ぎるがゆえに強く表れているようにも感じた。
    心の内を隠すために、言葉が多くなる…みたいな。

    自分にはそうした主人公の気持ちが強まっているように感じられるところも、今回再読して面白いって思えたのかもなー。

    あと今作はそれなりに推理ミステリ

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    2018年12月01日
  • 夏の口紅

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    先日読んだ「海泡」の解説で、樋口有介せんせの夏に関する作品がつらづらっと挙げられていたので、よっしゃ読み返したろー!っていう個人的気運盛り上がり中。

    今作もまた主人公の男子はカッコつけてて、そしてカッコ悪い。
    特異だなと感じたのは、せんせの作品で好きなトコロは主人公とヒロインの会話の妙にあると考えてるのですが、今作のヒロイン、会話のコミュニケーションに難あり。
    いつもの小洒落た会話がなかなか繰り広げられないんですよねー。
    もちろん、ヒロイン以外の女性との会話にその味わいは見られるのですが。

    まあしかし、会話が無くても主人公の洒落た振る舞いは見どころあるわけで。
    10代のヒロイン、20代のお

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    2018年11月23日
  • 海泡

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    以前に読んだことがあったのに気付かず手に取ってしまった…。
    でも内容もおぼろげになっていたし改稿箇所があったりして、そして何より樋口有介作品に夏の印象を持っている自分としては、時を経て再読しても面白かった。

    生意気で気怠げな主人公は、樋口作品のそれとして「いかにも」な感。
    幾人もの女の子との会話はスピード感あるのがいいよね。
    まあ、そういうところが若干は小賢しい感じも受けるのだけど、そういう部分の未完成なところも主人公としての魅力なのかな。

    その主人公と関わりを持つ幾人もの女性もまた魅力か。
    ここは樋口作品としては珍しい部類に入るくらいに関わりがあるような。
    登場数の多さというか。
    しかし

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    2018年11月18日
  • 夏の口紅

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    15年前に母と離婚し、家を出たきり一度もあっていない父が亡くなった。
    大学3年生になった礼司は、亡くなった父の形見を受け取りに本郷の親父が住んでいた家に向かう。

    そこで自分には姉がいるという衝撃的な事実と、季里子という無口な従妹に出会う。

    父は礼司に蝶の標本を残しており、姉にも同様のものが残されている。

    姉の存在を探りながら、季里子との距離も徐々に詰めていく。

    姉の過去をたどると自分が今、接点を持つ身近な人にたどり着く・・

    そこでもまた衝撃的な事実が・・・

    季里子は、徐々に礼司に心を開いていく。

    この季節に読みたい本

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    2018年10月28日
  • 誰もわたしを愛さない 柚木草平シリーズ6

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    トリックとか犯人がそこまで意外というわけではない。
    このシリーズは柚木草平のカッコよさとカッコ悪さとだらしなさを堪能するものだと思う。

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    2018年09月27日
  • 平凡な革命家の食卓

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    平凡な人物の自然死かと思いきや、正反対の心象を受ける展開があったりと面白く読めた。この作品は前情報がないほうが断然楽しく読める。

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    2018年09月08日
  • 猿の悲しみ

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    風町サエシリーズの1作目。

    続編の「遠い国からきた少年」から先に読んでしまったのだが、どちらも読みごたえは十分。

    殺人を犯し、刑務所に服役。その時の弁護士だった羽田のもとで、「調査員のようなもの」として勤める風町サエ。

    この物語には、正義面する人間は出てこない。

    誰もが個人的事情を抱え、トラブルやモメごとの真っ只中を突き進んでいく。

    メインキャラ、サエの関心事は、ただただ、溺愛する息子、聖也との静かな生活。

    「人殺し」で服役した母を持つ聖也の将来のため、1億円を貯めると心に決めている。

    そのためには、汚れ仕事だってなんだってやる。

    いや、自ら望んで手を染める。


    羽田が依頼さ

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    2018年07月18日
  • 遠い国からきた少年

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    「猿の悲しみ」の続編。

    ここに登場する人物たちは、いずれもしたたかで、クセが強く、あまり可愛げはない。

    だが、ワルとしての魅力はプンプンと匂ってくる。

    正義なんてクソくらえ。欲のオンパレードなんだが、それが実にさっぱりしていて、いっそ清々しい。

    ワルにはワルの事情があり、正義には少々、引っ込んでもらおうか。

    メインキャラの風町サエは、羽田法律事務所の「調査員のようなもの」。

    十六歳で人を殺し、少年院から女子刑務所で服役した後、所長の羽田に弁護を担当してもらった縁で、この事務所に雇われた。

    彼女の担当は、借金の回収、脅しなど、裏の汚れ仕事。

    子どもの頃に身に付けたムエタイを駆使し

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    2018年07月05日
  • 枯葉色グッドバイ【新カバー版】

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    内容(「BOOK」データベースより)
    「誰もがなりたくないと思い、それでいて誰もがなれてしまう。そこがホームレスの面倒なところだな」。代々木公園のホームレスで元刑事の椎葉明郎は、女性刑事、吹石夕子に日当二千円で雇われ、一家惨殺事件の推理に乗り出す。考えるホームレス、椎葉の求めた幸せとは?ハーオウォーミングな長篇ミステリ。

    ホームレスなのにモテていいなあという気持ちがもたげるミステリーです。殆ど表紙の秀逸さで手に取った感じでした。いい表紙ですよねまさに秋という感じで。フォントもレトロで飾っていおきたいような表紙です。表紙の事ばかり言うなって?何を言いますやら、ジャケ買いしていた世代にとっては重

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    2018年04月10日
  • 窓の外は向日葵(ひまわり)の畑

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    いかにも樋口作品という力が抜けた雰囲気の親子や、季節感の描写、凛々しい女性達といったところまでは良かったけれど、幽霊と事件の結末はいただけなかったな。
    物語の舞台が今住んでいる家の近所であり、情景を想像しながら読めたので甘めの評価にしておきます。

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    2018年03月14日
  • 風景を見る犬

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     舞台は沖縄。
     主人公は、高校3年生。
     夏休み。

     も、これだけで暑い。
     
     飲み屋の女主人が殺され、続けて、アルバイトの女の子が殺される。無関係かと思われた事件は…。

     沖縄の閉塞感が通奏低音のようにあって、なんかだるい感じ。
     とはいえ、タイトルの意味がわかった時の、苦さはインパクトある。

     主人公は完全なる傍観者なのだけど、まだ傍観者がいることで救われているように思えるやるせなさ。
     うん。
     やるせない話なんだろうな。
     だからこそ、なんくるないさー、って流れに身を任せるしかないのかもしれない。

     にしても、食べ物がやたら美味そうだったww

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    2017年12月28日
  • 猿の悲しみ

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     弁護士事務所で、表向き事務員、実はすご腕調査員のシングルマザーが主人公。
     クールで、冷徹とも思えるところがあるのだけど、息子にはでれでれになる。そのギャップが面白い。彼女が服役していたことや、シングルマザーになってことも、割と早いうちに明らかになっていてノンストレス。

     女性が殺され、その容疑者になっている男の調査をするうちに、話が大きくなっていく。

     ラスボス(ww)がよいです。
     主人公と互角にさせてるあたりがいい。
     
     も、これで続編書くしかないよね、って思う。

     調査員ってことで、人の暗部ばっかり見てるようだけど、彼女はそれはそれ、って割り切れる強さがある。ま

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    2017年12月28日
  • 猿の悲しみ

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    異色の主人公。元ヤンキーで殺人の前科があり、16歳のときに産んだ息子を持つ32歳の女性サエ。世話になった弁護士をオヤジと呼び、そのオヤジの事務所に勤めている。表向きは事務員だけど、解錠その他、元不良らしく、さまざまな特技を駆使して、顧客の依頼に応じた危ない調査いろいろ。

    著者の作品ではおなじみの、いわゆる「ワイズクラック」な話し方が今回はなりをひそめているものの、会話のテンポのよさは相変わらず。いくつかの仕事が最後に絡み合うのかと思ったらそうではなかったのがちょっと残念ですが、クールなシングルマザーのハードボイルドといった風情で飽きさせません。シリーズ化、歓迎。

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    2017年11月03日
  • 風景を見る犬

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    色々と暮らしが違い過ぎる世界での話だけど、わりとすんなりと読める。
    一応はミステリ的な話になるのだけど、結末は世の中的にはうやむやで、一部の人達ちだけが知っている、という割に暗さはない。
    コウちゃんが、上京すればその後の活躍?話があっても面白そう。

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    2016年11月27日
  • 木野塚探偵事務所だ 木野塚佐平シリーズ1

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    定年を過ぎてから私立探偵を始める木野塚氏。憧れの事務所を開設しなんだかんだでうまくやってるところがすごい。
    桃世という助手にも恵まれ、ほのぼの感漂う探偵話が面白い。
    ハードボイルドに憧れており吸えないタバコや飲めない酒を始める形から入る感じも面白い。
    歳をとってからでも学んで成長しやりたいことをできるんだなーという話。

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    2016年08月28日
  • 木野塚佐平の挑戦だ 木野塚佐平シリーズ2

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    3.5
    相変わらず木野塚氏の言動が面白い。還暦でこのバイタイリティはすごい。
    桃世の策士な名助手な感じも面白い。
    時の内閣を相手にするスケールのでかすぎ感はあるが、なかなか面白い。

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    2016年08月28日