【感想・ネタバレ】金魚鉢の夏のレビュー

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2021年01月16日

荒唐無稽とも言い切れない近未来の日本のド田舎が舞台設定のスモールタウンミステリ。勿論ミステリの筋も一級品なのだが、樋口氏の絶妙な会話の妙が堪能できる。幸祐と夜宵、幸祐と愛芽、由希也と蛍子、の関係性を本線に、幸祐が捜査していくうちに明らかになっていく驚くべき事実を伏線に、人生の意味や社会の矛盾を鋭く描...続きを読むきつつ、全体的には軽妙さを忘れない表現で、幸せな読後感を与えてもらった。幸祐の夜宵への淡い恋心が切なさも感じさせてくれる。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年05月15日

*社会福祉の大胆な切り捨てで経済大国に返り咲いた近未来の日本。警察の経費削減で捜査を委託された元刑事の幸祐は、夏休み中の孫娘・愛芽と共に、老婆の死亡事件が起こった山奥の福祉施設を訪れる。単なる事故死で片づけるはずが、クセのある施設の人々と接するうちに幸祐の刑事根性が疼きだして…ノスタルジックな夏休み...続きを読むの情景に棄てられた人々の哀しみが滲む傑作ミステリ*

一言で表すならば「ぎっしり」。これでもか!と言うくらいに色々なネタや仕掛けがぎゅうぎゅうに詰め込まれている感じ。近未来の設定も、まさに今起こりうるような展開も面白かったし、樋口ワールドも堪能したけど、ネタが多すぎて収束しきれていないのがもったいなかった。とは言え、さすが樋口ワールド、蜃気楼の向こう側に揺れるようなラストが心地いい。

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Posted by ブクログ 2015年05月11日

樋口作品、ノンシリーズ。
犯罪者の島流しと、生活保護者の強制集中居住という極端な方法で治安も経済も安定した近未来日本が舞台。
福祉施設の中にいる青年と、外から来た爺さんを中心にストーリーは展開していく。
筆者にしては大胆な舞台設定だが、中身はいつものごとく、シニカルでハードボイルドな社会派風味のミス...続きを読むテリ。
元々雰囲気、作風は大いに好みであるが、今回はミステリ小説としてよく出来ていた。
ユーモアを織り交ぜた人物間の探りあい・小競り合い、人間臭いホワイダニットを軸とした謎解き、大いなる諦観と僅かな救済を織り交ぜた着地…あたりは樋口有介真骨頂であるが、これがよく活きていたと思う。
2014年上位作。ゴリで推したいエンターテイメント作品。
5

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Posted by ブクログ 2015年02月03日

生活困窮者の収容施設『希望の家』で老女が深夜に階段から落ちて死亡した件で、委託を受けた元刑事の『幸祐』が調査に向かう。
事故としてかたをつけようとした矢先、今度は施設の職員が刺殺体で発見され、さらには燃やされた人骨がででくる。
国家事業である『希望の家』の闇が顔をのぞかせる・・・。


一件の死亡事...続きを読む故をきっかけとして紆余曲折しながら数々の事件が暴かれていく様は、読み手だけに明かされる真実、事件の落とし所、各登場人物の思惑などが絡み合い読み応えがあった。
一番の驚きどころは、この造られた日本の社会制度。刑務所を閉鎖し犯罪者は島流し。生活保護を廃止し自活できないものは施設に収容する。それらの政策により多額の国家予算が削減され、消費税を廃止して好景気に沸く日本。これを推し進めるきっかけとなったのが北朝鮮がミサイル攻撃というのだから。こんな政策世論が許さないと言うはずだが、近隣諸国との軋轢や、現在日本が抱える諸問題に対する世論の風潮などを見ていると、あながち非現実と言えないのではないかと思えてくるので笑えない。何より怖いのが、極論ではあるがあんがい妙案なのではないかと思ってしまう自分がいること。もちろん自分は一般市民として暮らしていけるという自負があってのことなんだけど。
自由な社会と言うのは弱者に無理を強いる社会であり、逆を言えば格差は無理をしなくて済むという官僚の言葉にレトリックを感じながらも共感してしまったりして。勿論助け合える社会は理想だけれども・・・。
それでもやはり『希望の家』で暮らす少年に付きまとう閉そく感と言うか諦めに馴れた感じというのは悲哀を感じた。

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Posted by ブクログ 2014年07月21日

寡聞にして全然聞いたことがなかった作者さんなのですけど、タイトルに惹かれて手にとってみたら大当たりでした。読みやすいしどのあたりに着地点設けているのか掴めないから飽きずに読めた。結末にカタルシス求めるひとには物足りないかもしれないけど。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年05月27日

生活保護が廃止された近未来。「希望の家」という低所得者の収容施設で起きた殺人事件を巡る物語。まずその、生活保護が廃止された社会という世界観が独特で、事件以上に目を引いてしまう。ここにあるのは格差社会のリアルさではなく、昨今の世論の息詰まるような閉塞感から感じる「そうなってもおかしくない」というリアリ...続きを読むティのほうが強い。かなり悪夢的な世界観で、事件より設定のほうの異質さを感じる作品だった。反面、事件そのものは大したことはなく、ありふれたつまらない殺人事件ではあるのだが、それが逆に異様さを伴っているのが空恐ろしく、返って非常に不気味に映った。異常な社会の中での普通の殺人は文字通り黙殺され、探偵役の初老の刑事やその周囲も、適当に済ませ穏便に片付くことを望んでいる。そこに倫理観や正義感はなく、その命の軽さが異常な社会と相まって一層不気味に感じるのだ。殺人事件の扱いがそのまま作品の舞台設定の世相を反映しており、命の価値や値段などに優劣が付いているというのがミソで、あえて主人公側を単純な正義の人間にしていない辺りに、隠されたリアリティがあるのだろう。異常な社会で暮らせば、価値観は揺らぎ、それを貫こうにも、貧困から漂う諦観が作品全体を包んでいる。単純な施設の隠蔽というわけでもなく、ありがちな個人のエゴや保身による隠蔽ではなく、都合の悪いことを押し包む個人では対抗できないシステムの指示、つまるところは世間からの要請が隠蔽の背景にあるというのは非常に恐ろしい。読後感はやや人を選ぶものの、風刺的ではあるが教訓や警句めいたものは無いので、そのあたりの作者のバランスの匙加減を楽しめるか否かでこの作品の評価は変わるだろう。個人的には、貧困は同情や正義感、倫理観ではなく、無情なまでのリアリズムと、単なる善悪の二項対立では計れない闇の深さを感じるので、その部分を丁寧に描いたこの作品には好感を持てます。加えて作者特有の「身振り」の描写が非常に上手く、風景描写も相まって、非常に文章力は高く感じる。各登場人物の台詞回しなどもウィットに富んでおり、冗長ながらも流れるように読めた。ミステリとしては真犯人の断罪がないのは非常に判断に迷うものの、罪の適用範囲や社会そのものが狂っている状況では真相やその罰に価値があるかという根幹的なことまで考えてしまう。ひそかに行方不明の女児のミスリードなどは上手く、そこは引っかかってしまった。

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Posted by ブクログ 2015年05月20日

 どこかの市長さんの目には、理想に見える世界観の下でのミステリー。
 パラレル・ワールドかと思うと、笑いも引っ込む。
 ただ、訝しく思うのは、せっかくのこの設定は、はたして謎解きには必要だったのかということ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年10月04日

帯と表紙に惹かれて読んだ。正直それほど期待していなかったのに次々起こる怪しい事件に心を躍らせ読み進めた。

**ネタバレ**
おじいちゃんホームズと孫娘ワトソンか、新鮮だな(*'ω'*)と読んでみたら全然違う…!設定はリリー・フランキーの短編を思い出した。こんな世界になればいいの...続きを読むにって思っちゃうのは自分が恵まれているからなんだろう。名探偵役を期待したひとは普通の女子大生と普通の元警官でしかなかったし、頑張ってみても結局名探偵はいないんだと衝撃を受けた。謎解き部分がしっかりしてないからミステリ色は強くないのに、やたら考えさせられる。おじいちゃんは頑張ったし、ちゃんと事件に迫ったけれど肝心のところはうやむやなまま。神の視点からしかわからない事件はまるでタイトルの金魚鉢のようだった。
そのわざわざタイトルになっている金魚鉢。小さな金魚鉢で泳いでいるのは誰なんだろう。由希也と蛍子はいつか罪に窒息するのではないか。夜宵のことを知った蛍子が由紀也への束縛を強くしそうで、気持ちを繋ぎとめるために、共犯で居続けるために殺し続ける未来が見えてしまった。

ただ説明に出てくる海外の描き方がいまいち。近隣諸国を嫌いなのは別にいいのだが、小説で押し付けられちゃうとちょっと引く。私だって好きではないけれど、いちいち地の文に作者の影が出るのはきつい。あと、人名が読みにくい。愛芽を何度「あいめ」「まなめ」と読んだことか。夜宵って字面は綺麗だけど弥生でもいいじゃん…。設定が突飛なのはミステリにはつきものなので、それを差し引いてもおもしろかったけど、私が編集者なら直すかなあ。

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Posted by ブクログ 2019年01月20日

不思議 不思議な感覚の本
今の時代から ありえそうな仮定のミステリー
善人 普通の人 犯罪者 社会不適合者
区別をして社会を構築する
面白かったんだけど
感動とは違う 何かを感じた

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年12月09日

樋口センセの作品を上梓順に読んでるわけでは無いし気にしても居なかったから今作に触れるのがたまたま2018年の終わりになったワケなんだけど。
しかし今作で描かれる作品背景がフィクションなんだけど妙に生々しく感じてしまう世界情勢との符号か。
創作だと絵空事だと捨てるのも簡単だけど、少しでも針が振れたら今...続きを読む作のような日本もあり得るのではないかなー…というあたりが巧みなのかそれとも自分の政治信条と近しいのか。

自分が触れてきた樋口センセの作品にしては、推理役が真面目に推理しているなぁ…という。
そりゃ「元刑事」なら当然でもありますか。
刑事ってのは元が付こうが、作品の中では勘が働いて不整合や不条理が気にくわないものなんですよね。

センセらしい「考えが多い」未熟な男子も登場するのですが、主に引っ張るのはその老いた元刑事ってのも自分には新鮮でしたなあ。
さらに幾つかの事実が交錯しながら積み上がって、結局のところ誰ひとりとして「全体」の姿には辿り着けてないというのも面白い。
真実を知っているのが読者だけという。
舞台劇なんかにしたら面白いんじゃないですかね。

それでも、小狡いことをしたヤツには罰が下っているし、主人公サイドはベストじゃ無くてもベターな幕引きを向かえているので、こういうのは自分には合ってますね。
少しだけ苦かったり酸っぱかったりするのが樋口有介センセの作品って感じがして。


…作品の感想とはズレるけど、所長の山本夜宵。
幾花にいろセンセの絵柄でキャラ像つかんでたわー。「演色」の大高さんあたりの。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年04月14日

北朝鮮がミサイルを撃ってきた後の世界
生活保護施設での転落死から
事件が思わぬ方向に転がって…

話の動き出しが遅いし、
最後までモヤモヤした感じで終わった気がする。
そんな終わり方でいいの?

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Posted by ブクログ 2015年12月28日

12月-11。3.0点。
近未来が舞台。収入の少ない家庭は、生活保護が廃止され、
希望の家というハウスへ。
そのハウスで、老婆が死亡。用務員が誰かに押されたと目撃証言。前の用務員も変死。果たして殺人なのか。

うーん。広げた風呂敷がイマイチ回収されていない。
あの女子中学生の、もっと深い事情やその後...続きを読むが必要かな。

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Posted by ブクログ 2015年09月19日

生活保護法は廃止され、刑務所が激減された代わりに島流し制度など、架空の設定でのミステリー。廃校を利用した、元生活保護者が生活する施設で起きた1人の老婆の転落死。事故死で片付けられた事故から、日本を揺るがす大事件へ発展する展開がとてもおもしろかった。ただ、全体的に間延びした雰囲気で、スピード感がなかっ...続きを読むたのが残念です。探偵役のおじいちゃんと孫娘の会話が楽しかった。

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Posted by ブクログ 2015年07月12日

生活困窮者の施設、希望の家が舞台。恵まれない環境で育った主人公の由希也と階段から落ちて亡くなった老婆の事件を捜査しに来た捜査員の孫娘、みんなに愛されて東大に通う明るい孫娘とどうなるのか気になったけど、キーパーソンは由希也を思い続けてる妹のような蛍子。恋愛もふわ〜としたままミステリー性もふわ〜としたま...続きを読むま。樋口ワールドでした。

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Posted by ブクログ 2014年12月23日

生活保護法が廃止されるなど、社会福祉を大幅に路線変更した近未来の日本。生活保護の対象となっていた人々は「希望の家」なる福祉施設へ集められていた。そこで起こった老女の転落事件。ただの事故で片づけられるはずが、突き落とされると主張する職員が現れたことで、元刑事(とその孫娘)が呼び寄せられることになる。
...続きを読むという導入から始まる、ミステリ…というより、仮想のこの設定をもとに、「歪んでいる社会」を照らし出した物語、といいましょうか。
祖父と孫娘のミステリという売りのようでしたが、それを期待するとあらあらという方向へ物語が進みます。途中、施設の少年と孫娘のふれあいがあってしんみりするのですが、それも途中でぶつ切り感があって…あえてぷっつりと断つことで、置かれた立場の違いを表しているともいえるんでしょうが…。
話のコアは、極端な福祉政策を取り「みんなが幸せとなるような社会」となって経済大国となった日本の、同時に抱えているいびつな幸せの裏側を照らし出すことにあります。状況はあくまで仮想下ではありますが、格差社会といわれている現代社会のリアルにおいても、まったく起こりえないとはいえない真相がそこにはあり、ぞわりとした嫌な感覚を持たせます。
装丁から感じ取れる爽やかさ切なさをもとに読み始めると意外に重い終盤の展開に沈むかもしれませんし、謎が解決してすっきりという話でもないので、ぱっと見より重たいし人を選ぶ物語だと思いました。
個人的には老(元)刑事と所長の恋物語…的な要素はあまりどうかなあと…。よほど先に書いた、少年と孫娘の出会いと別れをもっと書いてほしいなと思いました。

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Posted by ブクログ 2014年08月08日

近未来日本の生活保護の無くなった社会。『希望の家』に自活できない人々は集められて、、、という設定。児童ポルノ、臓器売買、物品横流し等様々な事件が絡み合って、、でも着地点は良かったと思う。由希也君の将来が楽しみなのと蛍子がストーカーのようで怖い。

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Posted by ブクログ 2014年07月14日

夏といえば樋口有介さん!しかも青春ミステリ!
で、期待して読んだのですが、時代設定に力が入りすぎたのか登場人物が薄っぺらい印象…。
由希也にもうちょっとヘラヘラ感が欲しかったな。って無理だわ。

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Posted by ブクログ 2015年12月29日

うーん、何だろうなあ、これは。
私の最も好きな作家である樋口有介。

彼が第一回サントリーミステリー大賞で、故開高健氏より「コクがあるのにキレがある」といったような表現で絶賛されたデビュー作「ぼくと、ぼくらの夏」を初めて読んで以来、その独特のハードボイルド文体に魅了され、新作が出るたびに胸躍らせてい...続きを読むた彼の最新作なのだが------。

探偵は、警察をとっくに定年退職した民間の老人。
しかも時代設定が不可解。
北朝鮮が日本に実際にミサイルを撃ち込み、そのお蔭で日本がバブル以来の好景気に沸いている時代という設定。
ラストなどは、某国軍が或る国の島に攻め入って上陸したという終わり方。
近未来小説なのか、これは?

貧しい人たちの福祉施設で起こった不可解な死亡事件。
目撃者の証言から謎は深まり、美しい施設長夜宵の存在もあり捜査にのめり込んでいく民間老人探偵一之瀬幸佑。
この施設には由希也と蛍子という幼馴染の少年少女もいた。

まず、キャラクターにそれほど魅力を感じない。
幸佑然り、由希也と蛍子また然りだ。
文章も、これだけの老人になるとハードボイルドタッチにするのも無理があるのか、作者独特のキレのいい文体ではない。
70の爺さんに色気を感じるアラサーの若くて美しい施設長というのも、
違和感ありありだ。
どことなく陰のある少年由希也と彼を慕う蛍子の心情の掘り下げも浅い。

うーむ。
最後のオチさえも、それまで張り巡らせえた伏線を、広げっぱなしにしたままで、全く回収する意図さえ見えない。
どうなんだろうね、これは。

ここ数年の作品は、どうにも今一つ楽しく読めなくなってきたのだが、ここまで来ると、もはやあきらめの境地だ。
樋口さん、沖縄に隠居したせいで年老いてしまったのかなあ。
もう一度、ヒット作の「柚木草平シリーズ」にでもチャレンジしてくれないだろうか。
さもなければ、苦しいかと思うが、高校生あたりを主人公にした青春ミステリーに。
このままでは私の最も好きな作家が消滅してしまうことになる。
時の流れとはいえ、それは悲しい。

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