樋口有介のレビュー一覧
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「あの人」から逃げている母親と転々としながら暮らしている玲菜。無戸籍が学校にも通ったことないが、自分で教科書を購入して勉強だけはしてている。
似たような話があるし、似たような展開の話もある。この手の小説は設定や展開の奇抜さよりも、登場人物のキャラがどれだけ魅力的かということが大事のような気がする。そういう意味で本書は正解。玲菜をはじめ、リサイクルショップの店主・秋吉とその孫・周東がいい。玲菜の生真面目なところと秋吉・周東のゆるい感じが物語を重苦しくさせなかったんだと思う。
もちろん背景にある事件性については軽く考えられるものではないが、とても前向きな終わり方でよかった。伊藤沙莉の解説も面白かっ -
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卯月枝衣子警部補シリーズ、2作目。
前作「平凡な革命家の食卓」から続くシリーズ2作目。樋口作品では恒例とは言え、前作はシリーズ1作目として登場人物の自己紹介も兼ねてか本筋からかなり脱線した会話劇が多く目に付いたが、今作はさすがに抑えられていて、その分、事件の方に集中できて良かった。一見事件性のないように見える重大事件を首尾よく嗅ぎつけるという超能力(?)の持ち主の卯月を素直に受け入れ、彼女の意外や優秀な捜査能力に一目置く他の署員の対応も良き。男女差別をやたら強調する警察小説に辟易としている身としては、こういった雰囲気の警察小説の方がストレスなく読めて非常に好みです。卯月を始めとして、キャラは -
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殺人罪で服役した過去を持つシングルマザーの『風町サエ』は、弁護士事務所で裏の仕事を受け持っている。
自殺した店員遺族への賠償金を減額すべく依頼を受けたサエは、別口からその社長の調査も依頼される。調べても中々過去がつかめない男の正体とは・・・。
元ヤンのサエの軽めの口調で語られるのだが、内容は結構ハード。
まんまAKBのようなシステムのピザチェーン店ということは、インチキ慈善団体にもモデルがあるのかな?にしても、ビジュアル的にも某プロデューサーだったはずの社長が、某国の将軍様になるとは・・・。
声高に正義を叫ぶ気はないが、毒を持って毒を制するのような制裁だしスッキリとはいかない終わり方だったけ -
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樋口氏の作風に時代小説は合わないだろうと勝手に決めつけて今まで読まずにいたことを後悔しました。
主人公の真木倩一郎は樋口作品史上でも珍しい明らかな男前の超武闘派ですが、表面的には冷めているものの熱い心を持っている共通点は健在。女性に対して口が上手いのもいつもの通りですが、行動力はピカイチという点が他作品の主人公とは一線を画しています。
長屋の住人や目明しとの交流、江戸の日常の描き方などは初めての時代小説とは思えない堂に入ったものでした。
長屋住まいの浪人からすれば田沼、松平といった幕府の重鎮たちは雲の上の人のはずなのに、、、という違和感がありますが、エンタテイメント作品なので大丈夫。
樋口作 -
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どう見ても事件性なしの変死の案件を、手柄欲しさに殺人事件に格上げし、無理くり捜査に乗り出す主人公の女性刑事。一見、無茶苦茶な暴走捜査をしているかと思いきや、意外に洞察眼が鋭く、捜査能力に秀でている主人公が魅力的。ワトソン役の専門学校講師の男性との軽妙な会話の応酬も洒落ていて、柚木草平シリーズを彷彿とさせる。脱線、脱線の連続なので、好き嫌いの分かれる作風だろうとは思うけど、私にとってはこれぞ樋口ミステリの醍醐味。また柚木草平シリーズを読みたいナと思っていたら、山川さんが出てきてビックリ。彼の口から草平さんの名前が出てきて、途中からニヤニヤが止まらず。名前しか出ていないのに、何て美味しい登場の仕方
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1996年の樋口有介作品で、この2007年創元推理文庫版は中公文庫版に加筆した再文庫版。
樋口氏のデビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』と同路線の、男子高校生が夏休みの間に女子高校生の死の謎を解く、というストーリー。
ですが、『ぼくと、ぼくらの夏』と比べて、だいぶハードボイルド風味が増しています。男子高校生・広田悦至が「ぼく」という一人称で語るスタイルがまずハードボイルドですが、新宿に近いやや寂れた街『梅園銀座商店街』という架空の街を舞台に、クールな主人公とその主人公を取り巻く個性的な人々を配置、ということからわかるとおり、私立探偵が男子高校生に置き換えられたハードボイルド小説、という雰囲気です。 -
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名作青春ミステリ「ぼくと、ぼくらの夏」のリブートともいえる本作。人情ミステリのようなとぼけた味わいがありつつも、どこか切ない青春ミステリの雰囲気も漂わせている。江戸文化研究会の部活の部長である金持ちで美人の先輩、おどおどしつつも主人公を振り回す頑固さとアクティブさを持った眼鏡美少女、そして顧問の若くて美人な女教師と、魅力的な属性のヒロインが多数詰め込まれている。しかし本書の見どころはそこではなく主人公の父親であろう。「ぼくと、ぼくらの夏」もそうだが、父と子の距離感の描き方が絶妙で、父権的な押し付けがましさをまるで感じない。ぼんやりしててもいざというときには頼りになる父親、という安易な書割ではな