樋口有介のレビュー一覧
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死んだ母親が遺してくれた小さなアパートの管理人として、幸せに暮らしている主人公・福田幸男、40歳。通称、ボクさん。知能は小学生くらいなのだが、事件をきっかけにある変化が……。切なく哀しい物語。裏表紙には「長篇ミステリー」の文字はあるけれど、ミステリーを読みたいと思って本書を読むとちょっとズレを感じると思う。多くを望まず、小さな幸せ感の中を平和に暮らしているだけなのに、どうしても悪意が入り込んでくる。日常にあるささやかな幸福や、人のあたたかさにホッとできるし、思いやり、優しさを嬉しくも感じた。でも、そんな生活も裏を見ると、思いも寄らない苦しみが潜んでいたり、小さな悪意から大きな犯罪まで企まれていたりする。それが哀しく、悔しくさえ感じた。本書は「ネタばらし」厳禁の作品で、最後の落とし処はとても大切なところだ。結末をそう書いた著者の気持ちをいろいろと想像してしまうところだ。読み始めたときは、他の作品が脳裏を横切った。たとえば、ダニエル・キイス著の『アルジャーノンに花束を』がまず思い浮かんだ。それと、ロバート・デニーロが演じた映画「レナードの朝」。でも、展開はまったく違うし、なによりその大切な落とし処が異なる。ただ、どの物語のラストも、余韻の切なさは同じくらいに深い。思わず溜息が出てしまう。自分だけ知らないのは怖い。でも、すべてを知ることが幸せとは限らない。人生の矛盾を、深く考えさせられた。
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樋口有介の著書は琴線に合う(だから「あんた、変わっている」)なかで、この作品は気持ちのよさ、という点では順位が落ちる(人が死んだり怪我したりが多い)が、主人公研一の母が遺した「遺書」の一節が妙に心に残った。「発作が起きてから気を失うまでの間、どれくらいの時間があったのか知りませんが、多くて一秒から二秒か、そんな処だろうと思います。そしてそれが本当に一秒か二秒であったとすれば、自分が、自分の人生に於いて一番知りたいと思っていた事の回答を出すのに、人間とはほんの一秒か二秒の時間しか必要としない生き物だということです。自分が生きてきた人生は最善であったのか、自分という人間がこれ以上生きる必要が有るのか。ねえ、研一、そんな事はまったく馬鹿馬鹿しくなるくらい簡単に分ってしまう事なのです。人生に於いて最大の問題が、なんと一秒か二秒です。随分簡単な話だとは思いませんか?」
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コミカルでハードボイルド調のライトなミステリ小説<柚木草平シリーズ>の第6弾。でも当初は4作目だったそうだ。その訳は解説に書かれているが、どうせ草平は永遠の38歳、前後しようと大勢に影響はない。春。桜の花びらとともに訪れた出版社の新人担当は、草平担当ということで肩に力の入りすぎたメガネ美女・小高直美。追う事件まで出版社に指定される始末。わずかな原稿料アップにつられ、重い体を引きずって調査に向かう。事件は、渋谷のラブホテルで起きた女子高生殺人事件。刑事時代のコネを使って、コツコツと調べていく。お馴染みの別居中の妻、娘の加奈子、警視庁の吉島冴子、法医学教室教授・田原今日子、人気エッセイスト・麻生美保子、女子高生らに翻弄されながらも、着々と真相に近づいていく草平の姿を丁寧に描いている。コミカルでユーモアたっぷりで楽しい。しかし、今回の事件は簡単にかたがつきそうで結構置くが深かった。焦り、それでも最終決戦を迎えた草平は、見ものだった。事件の真相がわかると、草平がペシミストになってしまうのも仕方ないと思えてきた。和製フィリップ・マーロウ「柚木草平」って言ったら言い過ぎかなぁ〜
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びっくり! 主人公が女子大生だ。本書は<柚木草平シリーズ>の1作。これまでに3作読んできたが、本書は趣がガラッと変わってかなり本格的。あらかじめ張っておいた伏線を、最後に落としてみせる展開の切れ味は、前3作を軽く凌ぐ。巻末の解説をみると、やはり「特別篇」と位置づけている。これまでの厳格なまでの1人称視点ではなく、3人称視点で語られている。その上、主人公がかわいい女子大生で、中学生時代の同級生が連続して死んだ謎を追う設定なのである。柚木はほとんど脇役に近い。それでも、決めるところは決めるのは、さすが。恰好いい。興味を惹かれたのは、今回は3人称視点なので柚木の姿が描写されているということ。「脂っけのない長髪を無造作にかきあげ、黒いTシャツに綿ジャケット。歳は40前らしいがヤクザっぽい雰囲気のなかにへんな色気が感じられて・・・・・・」とある。客観的に描かれた柚木には、イメージしていたのとは違い、かなり危ない雰囲気が漂っていた。視点をかえるだけで随分と印象が変わるものだと、あらためて驚かされた。そうだ、はじめに「びっくり!」と書いたのは、もちろんいい意味で。際どい社会問題も取り込み、そこにピントはずれなかわいい女子大生の恋の行方も絡め、かなり重めな安定感のある作品に仕上がっている。真相は人間心理をついた深刻なもので、考えさせられる。それでも、ほのぼのとしたラストシーンにほっとさせられ、希望を感じさせてもらえたのは救いだった。
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中年オヤジが読むには勇気がいるタイトルである。でも、主人公の柚木草平は38歳の刑事事件専門のフリーライター兼探偵。ストーリーはハードボイルド・タッチに進行する。娘と訪れた草津のスキー場で、高校時代の初恋の女性・卯月実可子と出会う。しかし、1ヵ月後彼女は殺される。実可子は娘・梨早に「自分に何かあったら柚木さんに相談するように」と言い遺していた。この作品は柚木草平シリーズの第2弾。今回は柚木が高校の同級生に捜査のため接触する。柚木が背負っている重荷を振り返る。読者に過去の一部を覗かせる。ふだんは、減らず口や憎まれ口ばかりのシニカルな男であり、美女には歯の浮くような世辞を欠かさない軽い男を演じている。柚木の現在と過去。辛い過去を隠し、道化を演じるように生きる強さが好きだ。そうできる男は理想だ。物語は淡々と語られる。派手なアクションも展開もあるわけではない。しかし、そこがいい。人間の多面性について、考えさせられる作品だった。もうひとつ、この作品は著者・樋口有介さんの真面目さも実感させた。あとがきを読んだら、このシリーズはすべて主人公・柚木草平の1人称視点で描かれているという。風景、状況、登場人物の姿かたちから表情や仕種まで、柚木草平が見た通りの構成ということだ。ぶれることない構成が、安心感をもたらしてくれていたことに気付いた。表紙の絵は、物語の6人のイメージ。柚木はどの子だろう?
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好みど真ん中の作品だった。本書は1990年に出版された。なんと19年前。その頃、知らずに横を通り過ぎてしまっていたのは惜しかった。作者のあとがきを読むと、『ぼくと、ぼくらの夏』でデビュー後の、創作に苦しんでいた時期の作品らしい。息の長い作家を目指すにはシリーズものだ、ということで誕生したのがこの<柚木草平シリーズ>ということだ。本書を読むと、日米のハードボイルドやミステリ作品を研究した、作者の努力が窺える。探偵に美女たち。気障な台詞に洒落た言い回し。減らず口。ストイシズム。そこに樋口有介さん独自の人物造形、ユーモア、ひねり過ぎない事件、鋭すぎない推理などが加えられ、独特の軽やかさ、爽やかさを生んでいる。それにしても柚木草平はもてすぎる。文章からすると、ハンサムだからではないようだ。会話が面白いから?南の島への夏休み旅行を誘った美人女子大生とは、今後どうなるのだろう。その女子大生と、草平が不倫関係にある人妻とのかち合わせはどうなったんだろう? 続編が楽しみだ。
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刑事が単独行動はしないから、ホームレスに仕事を依頼ができるわけないとかいわないの。
前提が多少違っててもいいじゃん。
推理が組み違い前後賞的に外れてみたり、今までぜんぜん出てこなかった人がイキナリ犯人だったり、
多少無理はあるような気がしたけど、それをさっぴいても十分あたしは楽しめた。
考えるホームレス、と、名付けられた主人公はひねくれた言い回しながら、ときに鋭く、ときに醒めていて、なかなか面白いキャラ設定。
後半一気に加速するからね、途中で止めようってのはあきらめて。
開いたら最後まで行った方がいい、この加速度はなかなか、よいです。
最後がハッピーエンドじゃないという意見もあったけど、そうかなぁ。
すごく現実的でやさしい、あたしは素敵なエンディングだと思ったけど。
最後まで読んでタイトルを見返すと、ちょっとしんみり?
バイバイしちゃうの?
いやいや沖縄に、ブルーのまぶしい色にて展開希望。 -
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ハチャメチャなナンセンス・ハードボイルド・ミステリ長編。経理一筋で警視庁を定年退職した木野塚佐平、60歳。海外ハードボイルド探偵を崇拝する氏は、裏新宿に探偵事務所を開設した。本書はその『木野塚探偵事務所だ』に続くシリーズ第2弾。前作でケニアに去った秘書兼助手の梅谷桃世が半年後に帰ってきた。またまた、木野塚・桃世コンビに出会え、嬉しくなった。さて、ストーリーはどうだろう。冒頭、現職の総理大臣の死亡から始まる。こんな大事件の依頼が来るのか? と訝しく思いながら読み始めた。きっと木野塚は相変わらずの妄想ばかりで、事件のあらかたは桃世が解決するパターンだろうと思いきや、実はちょっと手の込んだミステリ仕立てで凝ったエンディングが待っていた。嬉しい勘違いだった。そう、ラストには驚きの真相が明かされる。ただし注意あり! この作品、一歩間違えれば「おバカミステリ」と言われかねない。否、ナンセンス小説が嫌いな方だとそう捉えるかもしれない。面白いんだけど……第3弾もあるらしい。楽しみに待とう。