【短評】
決して悪くはないのだが、過去作と比較すると物足りない印象。
まず、冒頭に「碆霊様(はえだまさま)」に纏わる四つの怪談を配置する構成は、導入として効果的だったと思う。碆霊信仰の得体の知れない薄気味悪さは本作の雰囲気作りに一役買っていたし、強羅地方の地理を頭に入れるという点でも奏功していた。刀城言耶シリーズは登場人物や地理を把握するのに苦労する(苦痛、ではない)ので、こうした工夫はありがたかった。一方で、各話の恐怖度がイマイチであり、良くも悪くも「触り」になってしまったのは残念。ただし「蛇道の怪」は良かった。”段々振り返っている”という趣向はさすが三津田信三と唸らされた。
導入部のお陰が、シリーズ屈指の読み易さだったと思う。どこで何が起きているか、スッと頭に入ってくるので連続殺人事件に集中することが出来た。中でも竹林宮の殺人は状況の不可解さが群を抜いており、その真相も含めて非常に評価している。
高評価に至らなかったのは意外性の無さといったところか。回り道をして正道に戻る構成というか、論理的には正しいかもしれないが、何というか、もっと吃驚させて欲しかったなと思う。
最後に、本作の幕引きは見事の一言。最終3ページの展開だけで1点追加しても良いと思う程に。伏線が綺麗に発動すると言う意味において、本筋のミステリィを凌駕してさえいると思う。
【気に入った点】
●「蛇道の怪」が良かった。断続的に立ち現れ、それが徐々に迫っているというのはやはり怖い。暗闇の山道という逃げ場の無さも含め、緊張感に溢れた良作だったと思う。
●竹林宮の殺人の真相。発想という点では間抜けですらあるが、あそこまでシンプルな仕掛けで矛盾なくあの奇妙な状況を現出させるのは、素直に凄いと思った。
【気になった点】
●「**の睨んだ通り」ってのは着地点としては微妙。個人的にはそれを否定するのがミステリィじゃろがいって思ってしまう。無論、それだけではなく、背景には複雑な因果はあるのだが、楽しみにしていたご馳走を取り上げられたような気分になった
●「逆」という設定に必然性が無い。物語を複雑にし、因果関係を隠蔽するために組み込まれたとしか思えなかった。これ「順」でも問題ないのでは?と思ってしまった。
●主観的な視点の欠如。本作は基本的に「外から眺める」構成になっているが、どうにも全体的に淡々とした印象が強い。四つの怪談話も然り。”真相”の当事者である誰かの目線に依れば、文字通り真に迫る物語が紡げたのではないかと、素人ながら思ったりもした。凄絶なお話がスッと流れた印象がある。
要所要所に光るものはあるが、全体的には振るわなかったかな。過去作との比較を避け得ないシリーズ物の宿命だろう。ただ、キャラたちへの愛着は十分にあるので、今後も楽しく読み進めることだろう。
全体的に酷評めいたが、本作のラストはマジで素晴らしい。この点だけは手放しで褒めることが出来る。本当に大好物な展開であった。