三津田信三のレビュー一覧
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ネタバレ三津田信三『首無き如き祟るもの』は、ホラーとミステリの融合が見事な一作だった。閉鎖的な村の三軒の分家に伝わる因習と、連続する首無し死体という謎が絡み合い、村社会の土俗的な空気が終始まとわりつく。実話怪談風の語り口で読者を引き込みながら、後半は本格ミステリとして牙を剥く構成が三津田作品らしい。
何より圧巻だったのは、名探偵・刀城言耶(実は本物ではなかった!)が登場してからの多重解決だ。一つの謎に対して複数の解決編が次々と提示され、「これで真相だろう」と思わされた直後に覆される。首を切る動機さえも解決編ごとに違う角度から語られ、単なる犯人当てを超えた読み応えがあった。
さらに探偵役自体が偽者だったという仕掛けが、トリックの多重性に加えて「誰の語りを信じるべきか」という一段上の欺きを生んでいる。謎解きの快感と、足元をすくわれる不安感が同居する読書体験だった。 -
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ネタバレおもしろかったー!
ミステリーなのかホラーなのか分からなくなるような最後の締めも好き。
長寿郎が実は女説は考えてたけど、男の子が結局生まれず一守家で長寿郎を男として育てていたっていうストーリーを予想してのものだったので、斧高が裸を確認した時点で完全に男だと信じてしまった。
まさか妃女子と性別を入れ替えていたとは…
ぜんぜん分からなかった!
メタ的に考えて語り部を言耶にしていないのは、信頼できない語り部のトリックを採用してるのかなぁとか考えてたけど、本筋にはあまり関係なかった笑
シリーズを順番に読むよりもいきなりこれを読んだ方がメタ的なこと考えなくてよくて、より驚けそう! -
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ネタバレ三津田信三の作品、特に主人公が一人称の『僕』や「私」としか記されないホラー作品は、著者の経歴と絡めた創作なのか実話なのかが曖昧な書き出しからスタートすることが多い。そのなかでも本書は『忌館』や「刀城言耶シリーズ」に『異形コレクション』シリーズのような著者が実際に執筆し刊行されている書籍名が並び、虚実ないまぜの、いよいよ現実との区別がつかない書き出しとなっている。
この『序章』は本作の導入なのだが、『のぞきめ』に『僕』がすぐに飛びつかず、怪異譚を知ってからも文章として公表することを躊躇するなど行ったり来たりの心理を(くどくならない程度に)繰り返すことで、上手く本編への興味をつなぎながら物語の概況を説明している。『序章』の最後には恐怖を盛り上げるような警告を残し、しかし、主要な関係者が皆存命というちょっとした安心感も与えながら本編へ入っていく。
本編は二部構成で、一昔前に起きた怪異譚としての『第一部』と、怪異譚の本質に迫っていく『第二部』となっている。時間軸としては第二部が最も古く、『序章』と『終章』が最も新しいので、部が進むごとに数十年ずつ過去に戻っていくことになる。
100ページ程度の『第一部』は利倉成留らの体験した怪異を通して『のぞきめ』の性質や有効範囲、起点となっている廃村の様子や周辺地域からも相当に恐れられていることがわかる。 大学生達が好奇心から怪異に触れて追い詰められ、最後は霊能者に助けられるが・・?というテイストの典型的な怪談なのだが、これが怖い。静かな深夜に一人で読んでいると「自分も覗かれるんじゃ・・」と思ってしまう。
魅入られると逃げられない、土地を離れても憑いてくる、祓っても終わらないかのような展開にゾクっとする。 『序章』でこの話を仕入れた際の顛末があるので「霊能者に祓われたことで障は無くなったのだ」と安心できるのだが、最後の一行はその安心感を逆手に取った気味悪い締め方で、著者の怪談のうまさを感じる。このオチのせいで「利倉成留は無事だが、最後に鈴を触ってしまった彩子は大丈夫なのだろうか」といらぬ心配をしてしまう。
『第二部』は若き日の四十澤想一が主人公となり、第一部とは場面が全く転換するが、冒頭から『第一部』の謎解き要素が散りばめられている。すぐに出てくる『鞘落』の文字にギョッとし、その後の会話で彼の出身地が明らかに『第一部』で利倉らが怪異に襲われた村落だとわかっていく。 鞘落惣一の告白で鞘落家の因習や『のぞきめ』と巡礼の母子の関係性が明らかになるが、その直後に惣一が事故死し四十澤は単身で侶磊村へ向かう羽目になる。
『第一部』で常に彩子が頼れる相棒としてそばに居たことから、「第二部でも惣一とバディになり怪異を調査するのでは」とぼんやり期待していたのだが、それが裏切られることで「一人だけ」ということを強く意識することになる。 この一人という状況は村に入る前から効果を発揮しているようにみえる。他の人と話し合うことができないため、遭遇する不気味な現象が四十澤の不安によるものなのか怪異なのか判別できないという恐怖の演出や、ブレーキをかける他者がいないことで村に向かう前から幾度もある踏みとどまる、引き返す機会をすべて逃している。 村の中でも異邦人として知識なく孤立しており、誰を信じ頼って良いのか、儀式や現象の意図や手はずもわからないまま怪異にも遭遇し、孤立無援の手詰まり感を感じながら足掻くことになる。
『終章』はわずかなページ数ながら物語の核心に迫る答え合わせの内容となっている。 『終章』の最初の部分は、三津田のミステリ作品の推理パートのようだと感じる。これは「絡み合った事象を整理し、残った謎だけを抽出し、それらにもっとも合う解釈を当てはめる」というものである。ミステリ作品では多くの場合犯人が推理の成否と細部や残る謎に答えることになるが、それができない本作では推理の正しさを『僕の怪異体験が最小限で済んだ』つまり『のぞきめ』が担保するという構造になっている。ただの『妄想』で済まさず推理と怪異を絡める手腕が実に上手いと思った。
この『終章』によって『第二部』の事件はただの怪異譚ではなく、怪異が実在することを前提としながら、因習に囚われた村の作為やそこからの復讐劇といったミステリ作品のような仕掛けが含まれた複雑な物語であることを理解できる。 『第一部』が『のぞきめ』の純粋な怪異を扱っただけに、『第二部』も同じ原因からの怪異だと思い込んでしまった(: 物語の外にいる自分までもが侶磊村の村人と同じ認識になっている!)。これは『第二部』全体が読者の思い込みを利用した巨大な叙述トリックを形成しているようにも思えた。『終章』の解釈を知ると、ずっと二重の意味をもった物語が走っていたことが分かり、違和感なく物語を書ききっている筆力にも驚く。
以下は『終章』を読みながら考えたこと。
『第二部』では四十澤が無謀な行動を取りすぎているような気がしていて、「この著者の作品にしては行動に無理がありすぎる」と気になっていたが、『終章』のタネ明かしを経て、「四十澤の大学ノートの中身が帰還後に書き換えられているのか?」と思えた。
途中、ノートの中で『小説風』と記述しているが、これは「持蓑の少女の知識と四十澤自身の体験が混ざり合っていることを隠すためや、事件の顛末を曖昧にするために意図的に記述をぼかしたのではないか?」や、「ノートの中で書かれていないことがあるのでは?」と考えることもできる。 四十澤が実は”信頼できない語り手”である可能性も考えると、前述の叙述トリックと合わせて複数のトリックが物語の中で立体的に錯綜していることになり、それもすごい。
また、『終章』の推理のとおりに四十澤が少女を連れ帰ったとして、彼が研究者にならなかった(= 大学院に進学していない)理由にはなるのだが、在学中の学生が子供を育てられるのか?や、中退して働いたとして家族が黙ってないだろう(時代的に援助なしで大学に行く事なんてできないだろう)と、『終章』の推理への矛盾も考えられた。
『終章』最後の文言や想像の余地を残す推理などの怖さとは別の余韻も残る。ただの怪談に終わらないのが三津田作品の良さであると思う。
余談にはなるが、
本書よりもだいぶ後の出版年代までの「刀城言耶シリーズ」を読んでいるので、本書中で『爬跛村』や『蒼龍郷』の名前を目にして「コイツらまた(間接的に)悪さしているのか」という感想を抱いた。 「刀城言耶シリーズ」の外で関連する名称を見たのはこれが初めてのことなので三津田作品が根底で繋がっているような気味の悪さを感じるとともに、現実と創作の間が曖昧になるような感覚も感じた。 -
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ネタバレ私が三津田信三先生を知るきっかけになった1冊。
ずっと手元にあると思っていたのだが、先日本棚を確認したところ所有していないと気がついたので購入し再読した。
ホラーから現実味のある考察に移行するのがとてもおもしろく、私が科学的に紐解けるホラーが好きになった理由の一つにこの本があると改めて認識できた。
最後に読んだのは10年ほど前になるので内容は朧気になっていたのだが、葬列の後ろを無邪気に付いていく女の子、というイメージがこの作品にはずっとあり、終い屋敷の話の中でそのシーンが出てきたときは懐かしいものに再会できたようで嬉しかった。
子供の頃はこの小説が実際の話を物語風にした物だとずっと思っていたのだが、大人になって読み返すとあくまでも『実話風怪談』なのだなと思った。ミステリーとして書き留めていないはずなのになぜか住職の苗字を明言していないとか、酷い待遇を受けてはいたけど、だからといって子供が大量殺人を犯すか……?みたいな疑問はどうしても湧いてしまった。
これってもしかして最近流行りのモキュメンタリーホラーなんじゃ……?流行らせようと思ったらまた人気が出そうだな〜、などと考えてしまう。 -
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ネタバレ芦花公園さんのお話が良かったです。
少し前に色々あった、その一件を目にしてたから、この作家さんのお話は読まないでおこうって思ってました。
でも良かった、背筋さんや他の作家さんのお話もなんとも言えない気持ちになってそれはそれでほんとに良かったけど、芦花公園さんのお話はその中でも異色で。
主人公の日記(だと思う)の合間に、過去の社内チャット、上司や他部署からのネットでの注意喚起のような文章が入るという形式。
だから混乱しそうにもなるけど、そういう体裁だからこそ、この主人公の今に至った経緯が徐々に露わになってきて、いたたまれなくなりました(泣)
人によったら自業自得じゃないって主人公のことそう思うのかもしれないけど、私にはなんかすごい理不尽に感じられて。肩入れしすぎてるのかな…
緑地保全エリアという場所で働いてるの、最初は「斎木さん」だと思っていたし、緑地保全エリアでのお仕事に「転職」したのかとも思ってました。どっちも違った、全然違った。。
この主人公って言い方強めだから人によってはパワハラのように感じるんだろうけど、仕事はちゃんとしてたんじゃないのかな… むしろパワハラ受けてるとされてる人の方が働けない人だと思われ… って、主人公の肩持ちすぎかな(笑)
読後直後は会社がなんでこの人を解雇しないのかすごく不思議でした。だけど一晩経った今は、社内やSNSの言動くらいでは解雇できないのかもと思っていて。だからこのエリアに移して徐々に社会生活が送れないように追い込もうとしてるのかな… でもお給料は現状維持なんですよね…そこがよく分からん。
会社的には仕事の出来栄えが並程度なら、足並み揃えられる人材の方が扱いやすいんでしょうね。この主人公をもう少しうまく立ち回らせてあげられる上司さんがいなかったのが、会社にとっては痛手じゃない?
もしかしたら、ライバル社からの呪い?かもしれないよね(笑) -
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ネタバレ三津田信三さんの小説ということなので、「ホラー」に分類したが、「民俗学」分類に登録したいくらいの作品。短編の冒頭にその妖怪の三津田さん自身の解釈と民俗学の面からの妖怪や怪異に対する解説がでてくるのだが、河童の解説のところで、建築物を作るときに使役した人形が河童の由来と言われている説に触れたとき、私は小松和彦先生が責任編集した「怪異の民俗学シリーズ」の「河童」を思いだしたのだが、最後の参考文献で同書籍はもちろん、他3つ同じシリーズが挙げられていてあのすごくピンときた感覚は間違いなかったことを確認した。
短編ながらその話も怪異の話としては十分ば量で、世界に入り込むことができた。世界観としては「白女」がすごく好きで、参考にされた少年伐採夫の記録の本も読んでみようと思った。「獺淵の記憶」は河童の民俗学ネタがふんだんに使われており、尻子玉の話、女好きなことなど伝わっている要素をさまざま織り込んでいて、そこが結構興奮した。純粋な恐怖は「蓑着て笠着て来るものは」。これはタイトルからしてもう怖かった。これも民俗学の本をただ読むだけではなく、何冊もいろんなものを読んで知識を自分のものにした著者だからこそかけたものと思う。神様か、鬼か、夜のシーンも、定番だけどそれだけに情景が目に眼に浮かんで怖い。それでいうと「なぜかいるもの」の最初の怪異にあったキャンプ場での話、特に逃げ込んだバンガローに近づいてくるところはドクドクしながら読んだ。「やがて神隠し」の話を読みながら話の真相に気づいた時もハッとしてページを戻って確認した。最近の三津田先生の作品の中ではかなり満足度の高い作品でした。