筒井康隆のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ本好きの子からオススメされた。
以下、好みの作品
●時の女神
白いスーツ、長い髪、美しい女性に出会い忘れられない女性。子供のころ、思春期を経て3回目の再会を果たし結婚。幸福な生活を送る。「時を自由自在に、行ったり来たりできるの。(未来へも)あなたの将来を見るために(行ったことがある)」という妻は、娘を残して死去する。時が経ち妻そっくりに成長した娘は「結婚する人は、もう決まっているわ。会ってきた」と。
●走る男
誰もオリンピックに関心を寄せない近未来。出場者は3名。その内の1人である主人公。途中で下水道で出会った女性と結婚しそのまま普通の生活を送る。晩年、衣類整理をしていると自分の鉢巻を見つけ、オリンピックに出場していたことを思い出し、ゴールまで歩く。そこにはまだ事務所が設営されており、なんやかんや一位に。弱々しいBGMと共に表彰される。
●碧い底
世界は海の底に沈み人間は鰓呼吸をして以前とそれほど変わらない世界で生きている。都心部は水が汚れていて、息苦しい。海面にあがり空気が吸いたくなる。息苦しくなった主人公はバーのママと共に東京の海面に上がろうとするが、地上は屍が腐敗しており深呼吸も出来ない。
●母子像
猿の玩具に母子が吸い込まれる。身体がこちらの世界に救い出せるも首から上は向こうの世界。首のない母子は飲食を必要とせず歳も取らない。一日中薄暗い茶の間でひっそりと座っている。
●佇む人
ささやかな社会批判(世間話で物価が高いと政府を批判しただけ)をした妻が密告により逮捕され土に植えられる。妻は徐々に感情を無くして人柱となり、わたしは自虐的にブラックコーヒーを味わう。
●睡魔のいる夏
仕事終わり。いつものように同僚とビールを嗜む夏の夕方。新型爆弾が落とされる。静かに意識が薄れていく中、妻や死んだ母のことを考える。歯磨き粉の匂いやコーヒーのある朝は来ない。単なる朝が来るだけ。
-
Posted by ブクログ
ずいぶん前に映画を見たため内容をほぼ忘れており、また最近筒井康隆の小説に出会って面白さを体験し、1から読み返そうと思ったのがきっかけです。「見てから読む」派閥です。
本編は3つのストーリーに分かれた短編集で、お馴染みの青春タイムトラベル『時をかける少女』を始め、般若の面、高所恐怖症の苦手を払拭するために、主人公が過去のトラウマを追求していく『悪魔の真相』、主人公の理想が現実になった世界へタイムトラベルする『果てしなき多元の宇宙』の3つが楽しめる。SF小説といえば筒井康隆という言葉を見かけるが、まさに体現するような小説だった。
私はが印象的だったのは『悪魔の真相』だ。苦手な物には過去のトラウマがあり、それが現在も潜在意識として残っている。そのトラウマは案外笑いに変わるものかもしれない。もし大きな事件だったとしても、「10年前のことだから」と分別できるかもしれない。そんなトラウマに対して比較的楽観的な視点で語られていたが、実際現在至る所で過去を掘り返し炎上するような事件が多発している。事件の度合いや考え方にもよるだろうが、現実では何事も綺麗事とはいかないのだろう。誰もが過去の過ちを反省し、いつでもタイムトラベルでいい世界に直せるような、そんな世界がいつかあれば良いなと思う。 -
Posted by ブクログ
犬に噛まれて左腕が不自由になった少女、愛が父親を探して犬を連れて旅をする物語。ジュブナイルらしい平易かつ一昔前の教科書のような読みやすい文体でありながら、暴力が支配する近未来の日本の治安は非常に悪く、そんな世界を旅するいたいけな少女というコントラストが非常に良かった。まるでその道中はさながらRPGのように仲間との出会いと別れが描かれていて、誰かがいなくなれば誰かが助けてくれる風になるあたり、人との絆や「縁」というものを感じてしまう。子供でいる間は魔法に近い奇跡があったりするのだが、そうした時期を過ぎれば魔法はただの現実となり、主人公の世の中への解像度が上がる従ってその風景もより現実的に変わっていく。特に今までの旅の成果が一気に繋がるクライマックスは読み応えがあり、思った以上に現実的だったことにびっくりしてしまった。そんな現実を知ることで子供は大人になっていくのであり、それこそがジュブナイルものの真骨頂なのだと思う。