筒井康隆のレビュー一覧
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面白かった。流石筒井康隆。大学では英文学の教授、裏では小説家として文学理論を体現するような小説を書いている唯野教授の目を通して、ドロドロの大学内部の権力闘争とそれにまつわる珍事を描く。また各章のラストは唯野教授による文学理論講義で締めくくられているため、本作を読むだけで文学理論の概観を知ることができる入門書のようなものにもなっている。
ウィットに飛んだ言い回しも教養に支えられた作中で披露される文学知識も全て素晴らしい。サクサク読むことができる口当たりの軽さと裏腹に読むと本当に大学の講義を一期分聞き終えたかのような満足感も得ることができる。大学の内部事情に関してはかなり悪意的というかコメディ的に誇張・脚色はされているだろうが、「ここまでじゃなくとも近いことはあるのだろうな」と思わせるリアルさ。小説としてもある種の暴露本としても理論の入門書としても、色んな面で楽しむことができる作品である。
……のだが。現代に復刊は絶対できないだろうな、という問題作でもある。時代を反映しすぎている。悪い意味で。言ってしまえば差別表現がすごい。特にひどいのがエイズ差別とゲイ差別。読んでいるだけでぎょっとするような言説がポンポン出てくる。が、そういえば一昔前の日本ってこんなだったわ、ということをすぐに思い出してしまう。そう言う意味では歴史的な資料ではある。この本の発刊当時の日本がどのような空気感の中にあったか、このような公然とした差別が『差別』とすら認識されずにまかり通っていたか、ということの何よりもの証左だからだ。内容に改変を加えて差別表現を抑えれば……と考えたくなるが、正直ストーリーの根幹にそれらの差別要素ががっちり組み込まれてしまっているから無理そう。
本作は非常に面白く読む価値のある本だ。すでに様々な人が触れている通り文学理論の概観を知るにはうってつけ。おまけに小説としても読んでいて面白いのだから素晴らしい。が、それはそれとして内容表現は現代からみると非常に問題がある。往時の小説を読むときはままあることだが、差別問題の是非は一旦置いておいて、『そういう時代であった』事実をきちんと念頭に入れたうえで楽しむ作品であろう。 -
Posted by ブクログ
数十年ぶりに再読。最後に裏切られるタイプの小説なので、本来なら再読時には「答え合わせ」という楽しみがあるはずなのだが、残念ながら内容をすっかり忘れていて、ろくにできなかった(まぁ、最後には本文中で解説してくれるんだけども)。
館モノの体裁ではあるが、そこは筒井作品。読者への挑戦というよりも、文学への挑戦として読むべきだろう。要するにミステリーとしては反則的であり、これをミステリーと呼ぶべきではないという向きも多いかもしれない。しかし、私の読書歴の中では、しばらく離れていたミステリーを再び読むようになったきっかけとなった、思い出の一冊なのである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレすごく意欲のある取り組みで面白かった
こんな作品がかなり前に出ていたなんて……
こんなに実験的な作品だとは思っておらず、タイトルの印象から男女の恋愛関係が主題なのかと思っていた。
中身を開くと挑戦的な設定に取り組む主人公が不思議な世界観の中で奮闘するという感じで、「パプリカ書いた人だな〜」という印象を受けた。主人公と友人の取り決めたルールが拡張されて、物語内の登場人物・世界にも影響が出るというのが面白い
中盤あたり、主人公の私小説っぽくなるシーンでは胸にくるものがあった。言葉を削られないと重大な事項、センシティブな事項に言及できない、というのはなんとなくわかる気がする。選択肢が絞られたが故に選択できるというか……。
終わり方は破滅的で好みだった。 -
Posted by ブクログ
コロナ禍の時期に書かれた全14編の短編集。いくつかは普通の小説(解説の小川哲のいう「小説空間」の立ち上がる小説)だが、大半は、言葉遊びメタ私小説群。実在の人物も、架空の人物も、「老年の希望の星筒井康隆」をやっている「筒井康隆」なんかも混然となったメタ世界。カッパッパルンパッパとか、コロコロコミックコロコロコロナとか、終いにゃ首尾よくラ・シュビドゥンドゥン(作詞・作曲:筒井康隆)ときたもんだ。いや、ラ・シュビドゥンドゥンは終いではなく、冒頭一作目「漸然山脈」に出てくるのだった。
しかし、この「ラ・シュビドゥンドゥン」、楽譜も載っているけれども、私は五線譜は読めない。どんな雰囲気の曲なのかは…YouTube動画が公開されていた! そうか、こんな雰囲気の曲なのか(随分と力の抜けた感じで)。そういう雰囲気のものとして「漸然山脈」を読み返すと、結末のp.30。ここにはみ出した感じになっている3行だけが、それまでの言葉のドタバタに比べ、いやに気の抜けたオチと見える。
そしてこの気の抜け方は、第二作「コロキタイマイ」の「(了)」に続く2行にも通じるものと思われた(短編小説としてはまったく別の二作品なのだけど)。 -
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ネタバレ筒井康隆自伝の続編として読んだ。2022年の年末から2025年の年末にかけての日記のようなものである。主に新潮の雑誌「波」に掲載された文書や書評などを集めたものである。文章の半分以上は何を食べたかの記録であり、その美食ぶりが凄まじい。一人数万円の食事はなんとも思っていないようである。実際、どこそこのレストランで何を食べて支払いがいくらであったかが詳細に綴られている。美食をした翌日などであっても簡単な食事で済まそうという気はさらさらないらしく、連日の美食三昧である。作品内で1年間で貯金が1000万円減ったという件があるが、収入は3000万円ともあり、4000万円使ったのか1000万円使ったのかは本人のみ知るところである。
文章を読んで、妻の光子さんへの愛、亡き息子さん伸輔さんの思い出などが綴られ老大家の心境が伺える。
また途中心筋梗塞でステントを入れる手術をしたり車椅子生活になったりと満身創痍となりながらも美食に明け暮れ、さらには禁煙したかと思うと喫煙を始めたりと心にブレーキがないのか、アクセルを踏みすぎているのか、たただ呆れるやら感心するしかなかった。少しでも長生きして作品を書き続けてもらいたいもんである。