水谷淳のレビュー一覧
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著者は私企業で教育プログラム開発に携わる数学教育の専門家。以前読んだ「暗号解読」の著者サイモン・シン氏との共同事業も行なっているようだ。原題は”Mathematical Intelligence -What We Have That Machines Don’t”で直訳すれば「数学的知性──我々にあり機械にないもの」となり、数学から見た人間と機械の所作の違いを炙り出そうというのが本書の狙いということになる。我々人間に備わった数学的知性の諸原則をつぶさに検証することで、「機械に数学的にやってもらう」ことと「自分自身で数学的に考える」ことの差異が明らかにされる。
本書は7章からなるが、最初の5章で人間に備わった数学的考察の原則(枠組み)が一つずつ紹介される。例えば人間にはおおまかに世界を捉える「概算」という能力が備わっているが、これはあらかじめ世界に関する概念を有し、それに照らして有意味/無意味の基準を当てはめつつ重要な要素を篩にかけて取り出す、ということに他ならない。機械的なアルゴリズムは概念も意味も持たないため、重要な要素もそうでないものも一緒くたにクランチしてしまうのだ。
また人間の脳は出来事を理解する際に、理論的整合性より不完全な直感を優先するという社会上の特性を持つが、畢竟過去のデータ間の相関関係を蓄積したもの(カーブフィッティング)にすぎない機械的アルゴリズムにはそのバイアスを増幅するリスクがつきまとう。これに対し、人間は世界に関する膨大な情報を抽象的な「心象風景」に圧縮して長期保存できるという能力を備える上、そうしたさまざまな抽象的な概念を複合的かつ総体的に纏めげる「統合」により数学的理解を高め、数学的推論のもとに真理と非真理を峻別する「論証」を行うことができる。そのような真理に関する論証は論理と情動の両面を手にする人間にしか不可能なもので、AIに論証を行わせようとすればそのような推論法則をあらかじめコード化して組み込んでおくほかはない。推論法則、つまりどのような場合に何を真とし何を偽とするかの判断は人間が行わなければ意味をなさないのだ。
しかも、ゲーデルがいみじくも示した通り、その推論法則を含むいかなる形式的体系も完全かつ無矛盾ではあり得ない。とすると体系に関する真理を理解するには、その体系を超えたメタ推論体系の領域に足を踏み入れねばならないが、それは矛盾を受け入れ新たな価値観のもとで行動できる人間のみに可能なわざだと著者はいう。確かにいかなる価値観も持たないAI・機械的アルゴリズムが矛盾を許容するような事態は想像し難い。さらに「P≠NP予想」(一定時間内に検証可能な問題が必ずしも一定時間内に解答可能とは限らないとする仮説)からは、機械的アルゴリズムが解答できるが正誤の検証が困難な問題が存在することが示唆されており、まさにそこに人間のもつ問題設定能力が発揮できる余地があるのだという。
最後の2章では、自分と他者の考え方についてメタ的に考察する際の原則に触れる。人間が何らかの活動に没入し集中力が相当に高まった状態を「フロー状態」と呼ぶが、これは自分の能力が課題の難易度に見合っている時にしか生じない。つまりインターネット検索などで解答のみを手軽に入手するのではフロー状態の至高の喜びを得られないことになる。さらに、強化学習に見られるアメとムチの方法論よりも、人間が内的に動機づけられて没頭する方がよりフロー状態による課題解決力が増強されるのだという。
本書における著者の最大の主張は、「人間と機械の協力」、つまりチェスや「四色定理」の証明で見られるように、人間の側が創造性を、機械の側が計算力を受け持つことで最大の成果が挙げられる、というもの。そして、逆に人間が創造性などの重要な決定を機械に委ねてしまうと、人間の生活に関わる重要なアルゴリズム上の判断を検証する能力を喪失することになると警鐘を鳴らしてもいる。ここで言外に「アルゴリズムを検証・評価する能力こそが『人間らしさ』である」と述べているのが興味をひく。そのアルゴリズムの評価軸は「倫理」と言い換えてもよかろう。やはり往々にしてコンフリクトする価値観の優先劣後の問題、すなわち倫理や哲学の問題は人間の手のうちに残されねばならず、またそれこそが人間らしさの本質ということになるのだろう。 -
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ニューヨーク近郊にあった巨大ヨット、アルキメデスのオーナーを調べたらジム・シモンズだったのがこの人の名前を知った最初。数学者でこれほど稼いだ人はいないだろうから、その投資手法が気になっていた。要は、人間が見つけられないアノマリーをコンピュータで見つけるという方法だったのか。こういう本が出たりして皆が真似するようになると、アノマリーが消えて成績が落ちるかと思いきや、今も60%を超えるリターンとはさすが。メダリオンに投資したい。。素晴らしいシステムを作ったシモンズだが、株価急落の際にはシステムが信じられず、経験の長い人に売買のアドバイスを求めたりするところは面白い。やはり納得して売買したいというのが人間心理。
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宇宙で最初に思い浮かぶ疑問、タイムトラベルの可能性や宇宙人の存在、ブラックホール、宇宙の果て等、誰もが宇宙に持つ疑問について分かりやすく書かれている。これらの疑問の応用として、パラレルワールドやあの世の存在から相対性理論までを、宇宙に絡めて科学的な視点で書かれており、一般読者が興味を引く話題が、徹底して一般読者の目線で書かれていて、最初から最後まで興味深く読める。宇宙について考える時ついて回る、時間と空間や時空のゆがみ、文字通り天文学的な時間や距離などの数字については、どんなに考えても凡人には理解できず、結局宇宙を突き詰めると科学と哲学との境界が分からなくなってしまうように思えた。
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中世から現代まで科学を中心に「オッカムの剃刀」がいかに振るわれたかを辿る。全20章。
はしがきで「宇宙マイクロ波背景放射」なるものが淡々と語られる。その書き振りは「ほら、みんなの好きそうなおもろい導入部でしょ?これからもっとおもろくなるで!」という作者のワクワク感と飴玉ここに置いといたからみたいなのを感じるんだけど私としてはこりゃしまったな、思ってたのよりだいぶレベルが高くて読み切れないのではという感じだった。ページ見たら460とかあるし。むむむ。
ただ読んでみるとおもろい。最初はオッカムのウィリアムの逃亡劇。しばらくしてコペルニクスにガリレオ、ロバートボイル、ウォレス、ベイツ、ダーウィン、アインシュタインと数百年の歴史を下りながらいかに科学が生物学が量子力学が発展してきたかを紹介。(実際はもっと沢山の超有名科学者たちが登場します)
そうねぇ。。読んだのは読んだけど「どんな本だった?」と聞かれると答えられないなぁ。読めはするけど内容は頭に残ってません。キッパリ。特に最後の量子力学は完全にオーバー。
無理矢理例えると数百年間の科学ドラマ。国や時代、登場人物はシーズンごとに変わっていく。ただ「オッカムの剃刀」というアイテム?概念?設定?は守ってる長編連続ドラマ。主人公が毎回変わる水戸黄門というか。ドイツの黄門様。アメリカの黄門様。印籠がオッカムの剃刀ね。モノじゃないけど。伝わる?伝わらないよね。ごめん。
本の感想とか評価では全然ないんですが、思ったことを記録。
1)これがこうやって日本語にまで翻訳されて売ってるってことは、この本をスラスラ読んで内容に沿った感想を書いたり、また文中のエピソードなんかを覚えて人に話したり、「そうは言ってもさー」とか議論まで出来る人が世界中に沢山いるんですよね。みんな頭良くていいなぁ。
それともみんなが普通で私がパーなだけかしら。
2)今でも目眩がする程に洗脳状態は世界のあちこちで続いていますが、つい最近まではどれほど頭脳明晰の人も「神なんていない」という風にはならなかった、なれなかった、私的な日記であっても書けなかった、というか。これからまた50年後にはもっと自由になってるかもだけど20-21世紀に生きててラッキー。何でもかんでも信仰が混ざってたらまずくない?(今でも余裕で混ざってますけども)でも必要なのかな。心の支えになるのかな。恋人友人は見つけやすいのかな。うーん。百歩譲って多神教だなぁ。てかよく無くならないな。
3)ウィリアムのくだり「イエスは財布を持っているか」の議論、ブラックホールは別の宇宙でビックバン説、両方好き。
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猫を仰向けにしてそのまま落とすと、空中で体を回転させて脚を地面に向けて着地します。この現象を「猫ひねり問題」と称し、そのメカニズムに迫った過去の科学者の取り組みを通じて、自然科学のいろいろな面を紹介する読み物です。
内容は19世紀ごろからスタートし、多くの科学者が登場します。マクスウェル、アインシュタインなど超有名どころの名前も。取り上げられる分野は物理学(自由落下、角運動量保存など)、光学(連続写真、高速度撮影)、医学・生物学(反射)、宇宙工学、ロボット工学などなど。
「落下する猫は重力以外の外力を受けないのに、なぜ姿勢を変えられるのか」という視点は物理学、「猫は自分の姿勢をどう認識しているのか」という視点は医学という具合です。
宇宙工学では無重量状態の宇宙飛行士が姿勢を変えるスキルとして「猫ひねり問題」のメカニズムが真剣に検討され、「猫ひねり」の再現をロボットで再現するという試みも紹介されています。
本書後半の幾何学的位相あたりの話ではもう少し図なども盛り込んでもらった方が理解しやすいのではないか(私自身は文章だけではちょっと理解できなかったです)、猫つながりとはいえ量子物理学の「シュレーディンガーの猫」の話まで展開するのはちょっと無理筋という気もしました。
それらの点を差し引いても、訳の読みやすさ、詳しい数式や理論の掘り下げがない点などを考えると、理系でない人も十分に楽しめますし、自然科学への興味を掻き立てられる内容だと思いました。 -
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特に理由もなく書店で目についたので購入しましたが予想以上に面白かったです。本書の著者は歴史学の先生とのことですが、生物学、物理学の領域にもかなり踏み込みつつ、私が感じた書籍全体の印象は、人類がこれまで「未来」をどのように考えてきたか、言い換えると「未来感の歴史(未来感史)」を扱った本、というものでした。
まずパート1で「未来について考える」ということで、A系列時間:川の時間、B系列時間:地図の時間、という未来に関する2つの概念について解説していますが、この2つが本書を通じて何度も登場する大事な概念です。さらにアインシュタインの相対性理論と光円錐を用いて過去と現在、未来のイメージも紹介してくれています。
パート2は「未来を操る」ということで、生物学の領域に踏み込み、細胞、植物、動物は未来をどう操っているかについて説明しますが、さすがにこのパートのボリュームは流石に少ないです。
パート3は「未来に備える」ということで、こちらは文化人類学および歴史学ということで、人類の歴史を振り返っています。ここでは古代ギリシャの予言(アムトラムサイコスの予言)などの紹介もあり、なかなか興味深かったです。このあたりから未来を決定論的ではなく確率論的に見る見方が出始めた、ということになります。個人的にはこのパートが一番面白かった。やはり著者の専門性に一番近いからかもしれません。
最後にパート4「未来を想像する」ということで近未来(今後100年)、中程度の未来(1000年先)、そして遠い未来(宇宙の終わりまで)について書かれていますが、あまり印象には残りませんでした。おそらくこの手の話はSFのようにストーリー性がないと頭に残らないからでしょうか。
扱っている領域の広さに驚いたのと、本書のタイトルからは予想もしていなかったコンテンツも多数含まれていて(例えば古代ギリシャ時代の占い)、知的好奇心を十分満たしてくれる本でした。 -
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パズル雑誌ニコリのおすすめ本コーナーに載っていたので知った。ハーバード大学の一年生向けに開講されてきた『物理学、数学、パズル』という講座が元になっている本とのことで、まー難しいことは予想できたし実際読んでみても難しすぎてお手上げなんだけど、でもなぜか一応目を通してみたいと思ってしまう魅力がある。
なにが魅力かといったら、やっぱり宇宙と哲学のロマンですよ。SF好きの心も刺激される。もちろんそんな甘々な覚悟では歯が立たない。理解しようと思うことは早々に諦めて、匂いだけ嗅がせてくださいねという感じでふわーっと読んだのだが、書かれている言葉やフレーズにたまに私のロマンセンサーが反応することがあり、するとそこをきっかけに(著者の想定とはきっと重ならないと思われるような)怪しげな思索の旅が始まったりするのが楽しかった。
そんなわけなので、正直なところ星がいくつとか評価できるような読み方はしていないのだが、本国アメリカでの出版が二〇二〇年、日本語版が二〇二二年十月とまだまだ新しい本なので、最前線という点でも価値があるのではないだろうか(読んで意味がわかる人にとってはなおさら)。また、パズル(クイズといっても良い)を通して物理学や数学の考え方を知るというアプローチも面白い。パズルも私はほとんど解けなかったけど、子供のころもよく科学クイズ本を読んでいたなあ、なんてことも思い出した。その頃も、解かずに解答ページを読んで楽しんでいた。
我ながら、何を読んだかわからないくらい飛ばし読みしておいてよくこんな好意的なレビューが書けるものだと、非常に訝しい。数式も多いし、本当にわけわからん本だったのに、なぜか楽しい。
以下、備忘用に章名とちょこっとメモ。
■対称性と保存則
・対称性は不変性
・連続対称性がひとつあるごとに、それに対応した保存則がひとつ必ず成り立っている(ネーターの定理、1918)
■対称性の破れ
・「利き手」も対称性の破れだとか。じゃあ日本文化のアシンメトリー主義は???なんつて
■単純で抽象的な数学のパワー
・問題に課された制約条件だけで解けるとか
・グラフで表すと正から負に移動していくから0を必ず通るとか
■直観に反する数学
・数学者(厳密)物理学者(近似が好き)工学者(現実的)ジョーク
■物理的直観
・物理的直観は磨ける
■直観に反する物理
・「量子力学は直観に反する」やっぱり。
・その手前の、アインシュタインまではいずれ理解したい…。
■双対性
・わからん。が、今アツいみたい。 -
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宇宙誕生以降の全歴史を学際的な視点から掘り下げることによって理解を深める研究・教育手法である「ビッグヒストリー」の提唱者が、過去から未来に目を転じて、人類を含めたすべての生物にとっての未来思考の意味を探求するとともに、現時点で予測可能な未来像を描き出した一冊。
著者は、人類を含めたすべての生物が意識的か無意識的かに関わらず、自らの「目的」を達成するために、発生することが確実な領域と予測不可能な領域の間にある「重大なことが起こるかもしれない不安領域」即ち「レッドゾーン」について、相関やサンプリング、因果の分析等を駆使して未来を予測し行動していることを、微生物や動植物の例を挙げて解説する。
さらに人類は、脳の巨大化と言語の発明によって他の生物とは一線を画し、旧石器時代から農耕時代を経て「人新世」に至る中で、知識の保有範囲が個人から社会集団へ広がるとともに、時間に対する認知も過去・未来の両面へと拡大したことに伴い、未来思考も占いや宗教的なものからより科学的・機械論的なものへと高度化してきたが、それでも政治経済的な動向を予測することは困難なままであるという。
そのような認識の上で著者は、今後百年の近未来、数千年〜数百万年の中程度の未来について、「崩壊」「成長縮小」「持続可能性」「成長」という4つのシナリオによる予測を立てるとともに、宇宙の終焉まで見通した遠い未来にも思いを馳せる。考古学や哲学から進化論や量子物理学まで様々な学術的視点を網羅しており、多くの学びが得られる「未来論」となっている。 -
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ネタバレ◾︎生命は意志を持って「未来を操作する」という視点が目からウロコ
138億年のビッグヒストリーをベースに未来予想をする本。宇宙や太陽・地球の創成は無機的で意志などない。
だが生命は明らかに生存や繁栄の意図を持って未来を作って行こうとしている。それゆえ複雑で不確定要素が多いが、意志を持って未来を操作できる。この視点はすごい。
一方遠未来では、地球や太陽、宇宙が終わることは不確定要素なく分かっている。
このスケールだからこそ見えることで、非常に面白かった。それだけに、いまの我々の意志と行動で、近未来・中未来が決まるということは改めて考えさせられる。人生についても同じだなと思った。