瀬戸内寂聴のレビュー一覧
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「浮船」「蜻蛉」「手習」「夢浮橋」の4帖を収録した最終巻。
心が震えるほどに感動した。
四季折々の日本の風景、人情の機微、人を愛すること、そして命のはかなさなど、人が生きるということに関するおよそあらゆるエッセンスを紫式部は描いている。
それらが美しい言葉と和歌、音楽に乗せてつづられているところが本当にすばらしいと思う。
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匂宮は、一目で心を奪われた女(浮船の君)のことが忘れられず宇治へ赴き、薫の君になりすまして浮船の部屋に忍び込むと、彼女を手に入れてしまう。
薫に申しわけないと思いながらも、情熱的な匂宮のとりこになっていく浮船は、追いつめられた末に宇治川に身投げをしてしまった。
『源氏物語』全体の中でもっともスリリングで面白いのは「若菜 下」であると思うが、「浮船」も同じくらいすばらしく、第2部である「宇治十帖」が本編に劣らず面白いと言われる理由はこの帖にあるのではないかと感じた。
浮船が死んだと聞き、悲嘆にくれる薫と匂宮。
ところが、49日を過ぎると2人とも浮船のことなどすっかり忘れたようにほかの女に心を移しはじめる。
寂聴さんによれば、作者はこの2人の様子に「男の愛などせいぜいこの程度」という皮肉を込めたようであるという。
だれからも見下げられた存在でしかなかった浮船は、紫の上よりも悲しい女性であるように僕には思えた。
「手習」では、行方不明になった浮船が実は生きていて、横川の僧都に助けられ、出家する話が書かれている。
そして、最終の「夢浮橋」で、薫は浮船の弟である小君に手紙を持たせて彼女のところへ行かせるが、浮船はつれなくするばかりで小君に会おうともしなかった。
それを聞き、おもしろくない気持ちになった薫が「誰か男が囲っているのだろうか」と想像する場面を最後に、この大長編は幕を閉じた。
意外にも唐突な、あっさりした最後に、かえって紫式部の手腕を感じずにはいられなかった。
人の一生って、本当に夢のようにはかないものなのかもしれないな。
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2年以上かかって、ようやく54帖すべてを読み終えることができた。
僕はそんなにたくさんの本を読んでいるわけではないけれど、日本の歴史上、この『源氏物語』を超える小説はまだないんじゃないかなあと思う。 -
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宇治の八の宮の姫君たちの物語がつづく。
亡き大君(おおいきみ)のことが忘れられず、悲しみに沈む薫の君。
妹である中の君(なかのきみ)は匂宮の妻となるが、その面影が大君と見まがうほどに似てきたため、薫は中の君を自分のものにすればよかったと後悔する。
2人の姫君たちには異腹の妹がいて、名を浮船という(巻九にはまだその名は出てこない)。
薫は、大君に似ているというその人に会ってみたいと思う。
ところが、ふと浮船の姿を見かけた匂宮がそのまま彼女を自分のものにしようとしてしまう(ここでは危機一髪で難を逃れた)。
亡き人のことをずっと一途に想っている薫と、美しい女性には抜け目なく言い寄っていく匂宮。
対極的な2人が浮船をめぐってどんなドラマを繰り広げるのか、最終巻が楽しみだ。
この巻九には「早蕨」「宿木」「東屋」の3帖が収められている。
おもしろいと思ったのは、この時代の人たちがよく音楽やトークで夜を明かしていること。
「カラオケでオール!」的なノリは1000年前からあったってことなんだなあ。
寂聴さんの「源氏のしおり」が本当にわかりやすい。 -
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巻八には、「竹河」「橋姫」「椎本」「総角(あげまき)」の4帖が収められている。
「橋姫」以下「夢浮橋」までの十帖は、「宇治十帖」と言われているらしい。
故光源氏の異腹の弟である八の宮の3人の姫君(大君、中の君、浮舟。この巻八では、まだ浮船は出てこない)と、薫の君、匂宮の恋模様が描かれている。
宇治に住む2人の姫君のうち、姉である大君(おおいきみ)に心惹かれる薫。
しかし大君は快い返事をしてくれず、むしろ中(なか)の君を薫に縁づかせたいと思っている。
一方の匂宮は中の君に夢中になり、2人は結ばれるが、帝と母・明石の中宮がそれを聞きつけ匂宮は宇治へ行くことを禁止される。
大君は、このまま中の君が捨てられたらどうなるかと心配のあまり病気になり、そのままお亡くなりになってしまった。
悲しみに沈む薫の君。
ああ、この世はなんてはかないのだろう…。
男性が意中の人に想いを伝えるとき、「前世からの宿縁」という言葉がよく使われる。
そんなことを言っても男たちは浮気しまくっているけど、ロマンティックな言葉だなあと思う。
僕もそんなふうに思えるたった1人の人にいつかめぐり会いたいなあ。 -
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「柏木」「横笛」「鈴虫」「夕霧」「御法」「幻」「雲隠」「匂宮」「紅梅」の9帖が収録されている巻七。
女三の宮に不義の子を産ませた柏木は、ノイローゼから病気になってしまい、間もなく他界する。
一方、柏木の親友であった夕霧は、「妻の女二の宮を見舞ってくれ」という彼の遺言を守るうち、次第に女二の宮への恋心をふくらませるようになる。
今まで誰よりも理性的で道理をわきまえた人物であった夕霧が、心を迷わせて女二の宮の部屋にしのびこむ姿はいささかショッキングだった。
当時、女性が夫以外の男性に顔を見られるというのはあってはならないことだったようだ。
第40帖「御法(みのり)」では、とうとう紫の上に死のときが訪れてしまう。
紫の上、源氏の院、明石の中宮がそれぞれに別れの悲しみを歌に詠み、その夜が明ける前に紫の上は亡くなってしまうのだけれど、この場面が本当に本当に美しくて、僕も源氏のように悲しさで胸がしめつけられて泣きそうになってしまった。
10歳のときに源氏にかどわかされて以来、何不自由ない暮らしをしてきた紫の上だけれど、その生涯をふりかえるとやはりかわいそうな女性だったなあって思う。
紫の上の死後、源氏が明けても暮れても涙を流し、悲しみを歌にしている様子がまた切なかった。
「雲隠」は題名のみで本文はまったくなく、次の「匂宮」に進むと光源氏はすでにお亡くなりになっていた。
こういう演出に触れるにつけ、紫式部は天才だとまた思い知らされる。
以降は、柏木と女三の宮の不義の子・薫、今上帝と明石の中宮の三の宮である匂宮を中心とした第2部ともいえる物語が展開されていくようだ。
ところで、平安時代の人って事あるごとに「出家したい」って言いすぎ!(笑)
今でいうところの「引きこもり」みたいなものかな?
「ちゃんと現実と向き合いなさいよ!」って思ってしまうわけです。
古典を学ぶ意義って、こうした昔の人の考え方を知ることにあるのかな。
『源氏物語』、正直ここまで心を動かされる小説だとは思っていなかった。
高校の国語の先生が『源氏』のおもしろさを熱く語っていたことや、この作品の研究に一生を捧げる人がいることも今ならわかるなあ。
1000年先にも語り継いでいきたい最高の恋愛小説です。 -
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巻五を読み終えてから約1年半、ふたたび読み始めることにした。
巻六には、大長編の「若菜」上、下が収められている。
源氏は朱雀院の愛娘である女三の宮と結婚するが、まだ13、14歳の女三の宮の幼稚さに失望し、改めて紫の上のすばらしさを思い知る。
六条の院で蹴鞠の会があった日、夕霧の大将と柏木の衛門の督が休んでいたときに、女三の宮の飼っていた猫が綱を御簾にひっかけてしまい、御簾がめくれ上がって、奥に立っていた女三の宮の姿を2人が垣間見る場面がある。
これがきっかけで柏木は女三の宮への恋心を抑えきれなくなり、そのときに見た猫を手に入れて抱いて寝るようになる。
ちょっと変人やけど、可愛らしい人やなと思った。
「しかし『源氏物語』も中盤になってきて正直退屈やなあ」と思い始めていたが、「若菜(下)」にはめくるめくドラマと怒濤の展開が用意されていた―
出家を望む紫の上を押しとどめるため、源氏が過去の女たちの性質や魅力、欠点をこまごまと話し、やはり紫の上は最も理想の女性だと称えたその夜に、彼女は病気になってしまう。
そして、「紫の上の息が絶えてしまった」という知らせが突然にもたらされる。
かわいそうな紫の上、まさに〈憂き世に何か久しかるべき〉。
ところが、それは物の怪のせいだったらしく、彼女は息を吹き返す。
そんなことがあるのか!?って感じだが、このあたりの平安人の感覚がなかなかおもしろいなと思った。
一方、源氏が二条で紫の上の看病をし、六条の院が手薄になっているのをいいことに、柏木は女三の宮のところへ押しかけて過ちを犯してしまう。
この一連の流れがすごすぎ!
紫式部って天才じゃないか?
偉い人が言っているからではなく、僕の実感として日本の歴史上最高の小説の1つだと思う。 -
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「須磨源氏」という言葉がある。
『源氏物語』を読み始めて、「須磨」の巻まで読み進んで挫折し、再び最初からとりかかるが、また須磨の巻で挫折していつまでも読み終わらないことをいう。
僕はこの「巻五」に収録されている「藤裏葉」で挫折してしまった。
あれから2年近くの月日が流れてしまったが、また続きが読みたくなってきた。
源氏さんは玉鬘(夕霧の娘さん)に恋心を打ち明けながらも、弟の兵部卿の宮との交際をそそのかす。
源氏が玉鬘の部屋に蛍を放ち、その光で兵部卿の宮が玉鬘の横顔を見てしまう場面がある。
すごく幻想的で、日本的な美しさにあふれているなあと思う。
しかし、そうこうしているうちに、玉鬘は鬚黒の大将の手に落ちてしまった。
そんな横取りありか!って感じだ。
明石の姫君(娘さんの方)の入内が決まり、その後見役として明石の君(お母さん)が推薦されたことで、漸く母娘は宮中で共に暮らすことができるようになった。
すべての心配事が解決し、源氏は出家の志を固めたようだ。
「蛍」「常夏」「篝火」「野分 」「行幸」「藤袴」「真木柱」「梅枝」「藤裏葉」の9帖を収録。
寂聴さんの日本語、美しいなあ。 -
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源氏は明石の姫君を京に連れてきて、紫の上に育てさせることにする。
恋敵(明石の君)の生んだ子に愛をそそがなければならない紫の上がすごくかわいそう。
また、源氏32歳の春に、最愛の藤壷の宮が他界する。
そして、2人の子どもである冷泉帝は自分が不義の子であることを知らされる。
一方、葵の上との間に生まれた夕霧は、花散里が世話をすることになる。
この花散里という人は、「源氏物語」に出てくる女性の中でおそらく唯一の不美人な女性である。
「器量がよい」という言葉は「性質・性格がよい」という意味だと思っていたけれど、「容貌・顔立ちが美しい」という意味なのだと知った。
「乙女」の中で、源氏は六条京極に「六条の院」という邸を建てる。
そこは4つの町に仕切られ、紫の上、花散里、明石の君を住まわせて、いつでもそれぞれの女性を見舞うことが出来るようになっている。
さらに、かつて愛した夕顔の娘を偶然見つけて六条の院に引き取ると(この姫君を玉鬘と呼ぶようになる)、やはり心を抑えきれなくなる。
お金持ちで容姿端麗なのをいいことに、多くの女性を恣(ほしいまま)にしている源氏にはちょっと呆れてしまう。
「薄雲」「朝顔」「乙女」「玉鬘」「初音」「胡蝶」の6帖を収録。 -
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異母兄・朱雀帝の寵姫である朧月夜の君との逢瀬を契機に凋落していった源氏は、須磨への都落ちを決める。
身はかくてさすらへぬとも君があたり
去らぬ鏡の影は離れじ
別れても影だにとまるものならば
鏡を見てもなぐさめてまし
という源氏と紫の上のやりとりがとても美しい。
邸を須磨から明石へと移した源氏は、そこで明石の君という女性と結ばれ、子を産ませる。
後にこの明石の姫君を紫の上に引き取らせて育てさせるのだが、正妻であるにも関わらず子供ができない彼女の心中は穏やかではないだろう。
藤壷との罪の子・冷泉帝の即位、六条の御息所の死など大きな出来事が起こる3巻、および先の2巻は、『源氏物語』全体のなかでももっともおもしろい帖が多く収められていると思う。
「須磨」「明石」「澪標」「蓬生」「関屋」「絵合」「松風」の7帖を収録 -
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高校で習った古文の中で、もっとも印象に残っているのはやはり「源氏物語」である。
冒頭の文句は、覚えさせられたわけでもないのに何年経っても忘れることがない。
「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に…」
世に例のないほど美しく、才能豊かな光源氏。
気に入った女性は、どんな手段を使っても我がものにしようとする。
まだ幼い若紫に心惹かれ、自分の屋敷である二条の院に強引に連れて行く。
つまるところ拐しである。
こんなことが許されるのか、と思いながらも、寂聴さんのすばらしい日本語にどんどん引っ張られて読んでいく。
この巻一でのいちばんのお気に入りは、第ニ帖「帚木」である。
雨夜に頭の中将らと独自の恋愛論を披露しあっているのが実におもしろい。
千年前の男性の考え方って現代人と少しも変わらないのだなあと感じるからである。
幾年もの時が流れても変わることのない人間の機微が巧く描かれていて、「史上最高の恋愛小説」というコピーにも十分納得できる古典文学である。
桐壺 帚木 空蝉 夕顔 若紫 を収録 -
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ネタバレこの巻は、源氏が輝いていた時代の物語に匹敵するくらい面白い。ページをめくる手が止まらなくて、ついつい長湯してしまう(お風呂で読んでいるので)。
本巻では亡くなった大君に瓜二つの浮舟が登場。大君に未練たらたらの薫は、浮舟に恋をしてしまう。一方、薫とワル仲間の匂宮も、浮舟を一目見るなり恋してしまう。今まで散々一緒に女遊びをしてきた薫と匂宮が一躍恋のライバルになるところもこの巻の見どころだ。
今まで出てきた女性たちと異なり、浮舟は意思が弱い。アクシデントとは言え、どちらの男性とも関係をもってしまい、以後どちらかを断ち切ることができない。今までの物語では、いずれは妻として迎えることが多かったのだが、薫も匂宮も浮舟は単なる浮気相手のまま。紫式部は、女性の物腰が柔らかくて拒否せず意思が弱くて負い目があると、都合のいい女になりやすいことをよく知っている。こういった心理描写は本当に圧巻。
寂聴氏の解説によると、この後浮舟は「ドラマティックな運命を辿る」らしい。長い長い源氏物語の最終巻ということもあり、期待が膨らむ。 -
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光源氏が亡くなって、もう物語を読み尽した気になっていた。その後の子孫たちの物語。主人公をなくした後の物語は、とても味気なくて物足りない。これが紫式部以外の手によって書かれたという説も納得してしまった。「総角」の巻までは。
「総角」から物語は一気にドラマチックになる。それ以前は、薫と匂宮や周囲の状況説明だったようだ。源氏と違い、薫や匂宮に費やされた巻は3巻のみ。なのでそれだけ話が凝縮されていて、ハマりだしたら止まらなくなる。
いい香りのするプレイボーイ光源氏。その子の薫、孫の匂宮。その血は綿々と続くようで、光源氏顔負けの強引な女性関係に目が離せない。 -
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ネタバレ恐らく源氏物語のクライマックスだろう。光源氏御寵愛の紫の上が亡くなり、それを追うように源氏も息を引きとる。こんなにエキサイティングで、ページをめくる手が早くなる巻は今までになかった。
一番印象的な巻は、「雲隠」。この巻は題名こそあるものの、文章はない。開くと真っ白で、一瞬印刷ミスかと思ってしまうほど。次をめくると、新しい物語が展開している。どうやら源氏は亡くなったらしいと悟る。なんとインパクトのある巻だろうか。
源氏物語ではどんなに主役級の人の死でも、読み飛ばしてしまうくらい、呆気なく語られていることが多い。随分進んでから、「あれ?死んでる?」と思って読み返すこともしばしばだった。なので、光源氏の一巻を使った最期の演出はとても感動的だ。
主人公がいなくなったのに、まだ源氏物語はあと3巻も続くらしい。何が語られているのか、そちらも楽しみだ。