絲山秋子のレビュー一覧

  • イッツ・オンリー・トーク
    この人の小説はラストが好きだ。淡々とした文章が続いてゆっくり降り積もったもののエッセンスが、最後にすこしだけ滴って落ちる感じ。
    「イッツ・オンリー・トーク」の優子の「なんかさ、みんないなくなっちゃって」も、「第七障害」の篤が順子の頬にそっと触れた余韻も本当にいい。ぐっと心をつかまれてゆっくり離されて...続きを読む
  • 袋小路の男
    淡々とした文章だけど、降り積もって味わいが出てくる感じですごくよかった。
    日向子は「かっこいい」の額縁を作って抱えてそれ越しに小田切を見ている感じ。一途と言えば一途だけど思い込みもあるし流されやすいし、平気で人んちの物パクったりする人間性。小田切は小田切でそんなかっこよくない、日向子以上にいい加減な...続きを読む
  • 海の仙人
    しみじみと、いいなぁ…と思いました。
    登場人物たちに起こることは過酷な事もあるのですが、とても静か。
    登場人物たちが皆さん大人なのが、静けさだったのかなと思います。自分の気持ちだけで突っ走らないところが落ち着きます。
    ファンタジーは何だったんだろう、と思いましたが、神ってこういうものなのかも。側にい...続きを読む
  • ばかもの
    これ嫌な人は嫌かもしれない。いきなりエロエロで始まるし、主人公の男は超絶馬鹿で同情の余地もないし。
    10代の頃に出会った年上の女性にドロドロにはまった挙句捨てられて、それ以降の彼の人生を追ってそのどうしようもなさを追体験出来る本です。
    転落っぷりが妙にリアルでエロから始まった本のはずなのに、段々苦し...続きを読む
  • 薄情
    もっさりヘラヘラした主人公だけど、「あーあるある、こういう感情!」という場面が多々描かれてるから嫌な主人公という印象にならなかった。もっさりしてるけど。

    「当たり前」のように毎日同じ生活してて、ふと全然違う行動したくなる衝動とか、夜の田舎道を運転する何とも言えない孤独感?ワクワク感、スリルみたいな...続きを読む
  • 薄情
    なんか、ずっとざわざわしてたの。

    景色や光の描写もストンと入ってこなくて何度も戻った。

    「宇田川、おまえ大変だな。」
    って、彼の状況ではなく思考に対して感じていたせいか。


    そしてそして、堀江敏幸さんの解説を読んで、何度も、
    「はっ!」
    ってなる。

    ダメだなーオレは。


  • 小松とうさちゃん
    ごくありふれた普通のおじさん2人の日常に起こった小さなアクシデントだが、別々に語られていった先に思わぬ形で交わる。著者にとってこの2人のおじさんキャラは特別というか、作者の手元を離れて意思を持っているかのような存在らしい。ものを作る人が「降りてくる」と言いますが、そんな感じなんでしょうか。この2人の...続きを読む
  • 絲的サバイバル
    1人キャンプエッセイに取り組む絲山さんのなりふり構わぬ姿勢に感心した。
    辛い状況でも楽しんで、かつ楽しいエッセイに仕上げる能力も素晴らしい。
  • 掌篇歳時記 春夏
    24節気を3等分した72候があることを知って、日本には季節を細かく愛でる文化があったのだと再認識した.その季節感を念頭に置いて、著名な作家が短編を綴るという贅沢な本だが今回は春夏を読んだ.村田喜代子の雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)が面白かった.戦前の裕福な家庭に育った姉妹だが、それぞれにね...続きを読む
  • 薄情
    主人公・宇田川がいう、「かけ算で0になる関係性」というのは、都会にもありますよね。
    ただ都会では、そういう関係性も社会生活のなかに紛れて、なんだかそれはそれで危うい孤独という形で成立しているんだと思うのです(良し悪しは別として)。0になりそうでも、どうにか倒れず生きている。目の前の通勤ラッシュとかを...続きを読む
  • 掌篇歳時記 春夏
    トップバッターの 瀬戸内先生のが 一番俗っぽかったな と思うほど 瀬戸内先生 相変わらず かわいらしい人を書くんですね ほぼほぼ 幻想的で不思議な短編 ちょっと読むには 分かりにくいものもある 芥川賞作家が多いからでしょうか
  • 薄情
    題名と内容をつなげる癖があって、この題名をつけたのなら作者の言いたい核ってなんなのかといつも考える。主人公の性格なのか、主人公の性格を形成した土地なのか。究極、人間ってみんな薄情なのかな?とか。話の内容は田舎で起きる些細な出来事の連鎖なのだけど、思考ってそういうところから広がっていく。
  • 薄情
    読んだのがたぶん去年なので(どれだけ置いておいたんだ 笑)うっすら忘れかけている部分もあるのだけど…悪い言い方をすればとても地味な雰囲気の小説。だけど妙に心にずっしりと来る。
    地方都市の狭さとか(人間関係の密接した感じ、噂がすぐに広まる、等)は似たような街に住む私もよく分かる。時には助けになるけれど...続きを読む
  • 薄情
    句点を置かずに時折現れる宇田川の「どこへとも向かない気持ち」が心地よいリズムで語られるのが、この作品の印象をグッと深くする。

    群馬の自然がほんのりと味わい深く、そしてマイノリティであろうとする宇田川の繊細とも形容ならない感じがバランスよく、程よく感情移入できた。

    終わりにかけて『薄情』というタイ...続きを読む
  • 袋小路の男
    「袋小路の男」というこの本の中に収めてある三つの小説のうち、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」という二つの小説は、いわゆる恋愛小説だが、ちっとも恋愛小説ではない。
     同じ関係を男の側と女の側から描いて、二つの話にした感じだが、変な男と困った女の奇妙な関係が淡々と続くだけだ。まぁ、たとえば、高校生向け...続きを読む
  • 薄情
    田舎の空気がとても的確に描かれている気がする。そして群馬県民的には、群馬あるあるが多くてとても楽しい。
  • ばかもの
    (以下、ネタバレ気をつけていますが、核心に触れるセリフを引用してしまっています)

    「沖で待つ」もそうだったんだが、わたしにとって絲山秋子の小説は、ある程度歳を重ねてきたからこそ共感できる、という部分がある。主人公は若者なのに・・・

    年上の女性にドはまりしたあげくに振られ、大学で落ちこぼれていつし...続きを読む
  • 袋小路の男
    人の数だけ、絆の形 や 独特の距離感 があっていいんだと、肯定してくれる
    女と男 双方の視点から書いているのがいい
  • 逃亡くそたわけ
    舞台が九州で行ったことある場所が出てきて想像が膨らんだ。201812の天神ぷち読書会の課題本。福岡タワーに近い百道病院という精神病院の入院患者が2人で脱走。24歳慶応大学出身のなごやんと、幻聴の聴こえる福岡大学生のはなちゃん。赤十字病院や高宮や西新などてでくる。車で福岡から阿蘇、さらに南へと奔走する...続きを読む
  • 袋小路の男
    新聞の読書コーナーでその存在を知り、「ピース又吉がお勧めするスゴ本25選」に入っていたので買うに至った一冊。
    二人の微妙な距離感を描いた三つの短編。同じ男女をアングルを変えて描いた『袋小路の男』と『小田切孝の言い分』は、恋人とは呼べない男と女の微妙な距離感が印象的。仕草の意味もクセも知り、一緒にいれ...続きを読む