絲山秋子のレビュー一覧

  • 忘れられたワルツ

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    短編集。
    震災が共通項となっているが、正面からそれを描いているわけではない。
    どの物語にもどこかにあの3.11の影が現れる。
    しかし、タイトルの「忘れられたワルツ」は、よくわからなかった。妹は精神的におかしくなってしまっているのだろうか。姉と母はもういないのだろうか。
    そうだとするととても悲しい話だったが、一番印象に残った。

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    2020年10月30日
  • 袋小路の男

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    「袋小路の男」「小田切孝の言い分」
    今までこういう話はやきもきしたりじれったいなあと思いながら読んで、最後は(軽い言い方になるけど)こういう恋愛にいい意味で酔って終わることが多かったけどこの作品だとなぜか穏やかな見守るような気持ちで見れたし、爽やかさすら感じる読後感だった
    かっこいい小田切からかっこ悪い小田切への変化が全然嫌じゃなく、まさに「嫌いも含めて好き」というやつだった
    「アーリオ オーリオ」も素敵だった

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    2020年10月19日
  • 海の仙人

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    ―ファンタジーがやって来たのは春の終わりだった。

    冒頭の一文にいきなりグッと引き寄せられた。な、なんだ?
    いるだけでいい、というのはこういうヤツ(失礼!)のことをいうんじゃないだろうか。こんな居候ならぜひうちにもきてほしい。
    相手をそのまま自然に受け入れるような、人々の関わり方も心地いい。
    性別も時間も関係なく、ベースとなるものは静かにあり続けているように思った。

    片桐のファンタジーとの会話が楽しい。同性ながら惚れた。

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    2020年09月22日
  • 逃亡くそたわけ

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    きつい躁の女とゆったり鬱の男の逃避行。
    多分メンヘラは皆分かる、逃げたいという絶対的な衝動。それに反してどこかあっけらかんとした二人の旅は、病への諦めに似た気持ちの果てにある。二人は価値観も育ちも全然違う人間なんだけど、精神病によって世間から隔離される存在だというところでゆるやかにつながっている仲間だ。
    どこからも逃げられないじゃないかよってなごやんが叫んだとき、逃げることはできても逃げ切るなんてしきらんよって返す花ちゃんの言葉がすべてなのだと思う。でもそれは逃げて逃げて、行き詰まってみないとちゃんとは分からないことだ。ああもう駄目だ、どこにも行けないと分かってなぜか少しだけ安らぐ。花ちゃんの

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    2020年08月18日
  • イッツ・オンリー・トーク

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    ネタバレ

    この人の小説はラストが好きだ。淡々とした文章が続いてゆっくり降り積もったもののエッセンスが、最後にすこしだけ滴って落ちる感じ。
    「イッツ・オンリー・トーク」の優子の「なんかさ、みんないなくなっちゃって」も、「第七障害」の篤が順子の頬にそっと触れた余韻も本当にいい。ぐっと心をつかまれてゆっくり離されて、余韻がじんわり広がっていく。

    私は「第七障害」の方が好みだった。前の話でダメ男たちを見てきたせいか篤くんの一途さと素直さの好感度がガンガン上がる。かわいい。解説によると痴漢さんはすごく人気あるらしいけど、どうしてなんだ…?点の優しさより、べったりした面の優しさの方が好みなのかも。そして男たちより

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    2020年08月14日
  • 袋小路の男

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    ネタバレ

    淡々とした文章だけど、降り積もって味わいが出てくる感じですごくよかった。
    日向子は「かっこいい」の額縁を作って抱えてそれ越しに小田切を見ている感じ。一途と言えば一途だけど思い込みもあるし流されやすいし、平気で人んちの物パクったりする人間性。小田切は小田切でそんなかっこよくない、日向子以上にいい加減なダメ人間ではある。
    あくまで日向子の額縁が前提で、額縁越しの関係だから続いてる関係なのは、二人とも薄々分かってる。日向子はあんなにしたがってるのに、そんな魔法が解けるようなことはお互い絶対しないという……。

    長い年月を経て額縁が透明になってしまっても、それを掲げ続ける日向子の覚悟が好き。本当はかっ

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    2020年07月24日
  • 海の仙人

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    しみじみと、いいなぁ…と思いました。
    登場人物たちに起こることは過酷な事もあるのですが、とても静か。
    登場人物たちが皆さん大人なのが、静けさだったのかなと思います。自分の気持ちだけで突っ走らないところが落ち着きます。
    ファンタジーは何だったんだろう、と思いましたが、神ってこういうものなのかも。側にいるとなんだかいいな…となるけど、実際に何かをしてくれるものではない。
    敦賀、行ってみたくなります。
    絲山さんの本は初めて読みました。文章が朗らかだけれど温度が高過ぎなくて好みです。他の作品も読みます。

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    2020年07月12日
  • ばかもの

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    これ嫌な人は嫌かもしれない。いきなりエロエロで始まるし、主人公の男は超絶馬鹿で同情の余地もないし。
    10代の頃に出会った年上の女性にドロドロにはまった挙句捨てられて、それ以降の彼の人生を追ってそのどうしようもなさを追体験出来る本です。
    転落っぷりが妙にリアルでエロから始まった本のはずなのに、段々苦しい気持ちになって来て、中盤まで読んだときにはこの馬鹿男の友達になったような気分になっていました。
    男女の情愛を書いた本ですが、これをどういう風に読むのかは人それぞれという気がします。でも私にとっては非常に刺さる本でありました。私はこの男のような要素はどちらというと無く、無難な生き方をする人間なのです

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    2020年04月17日
  • 薄情

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    もっさりヘラヘラした主人公だけど、「あーあるある、こういう感情!」という場面が多々描かれてるから嫌な主人公という印象にならなかった。もっさりしてるけど。

    「当たり前」のように毎日同じ生活してて、ふと全然違う行動したくなる衝動とか、夜の田舎道を運転する何とも言えない孤独感?ワクワク感、スリルみたいなものを思い出す。ここではないどこかに行きたい気持ち。

    歳をとると薄情が当たり前になってたけど、人間同士の感情の複雑さを嫌な部分も含めて明るみにしてくれた感。

    あとは、田舎道ドライブしたくなる。さすが絲山秋子。BGMはくるりのハイウェイとかいいな。

    映画化したらどうなるんだろう、と妄想したけどど

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    2020年02月26日
  • 薄情

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    なんか、ずっとざわざわしてたの。

    景色や光の描写もストンと入ってこなくて何度も戻った。

    「宇田川、おまえ大変だな。」
    って、彼の状況ではなく思考に対して感じていたせいか。


    そしてそして、堀江敏幸さんの解説を読んで、何度も、
    「はっ!」
    ってなる。

    ダメだなーオレは。


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    2020年02月02日
  • 小松とうさちゃん

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    ごくありふれた普通のおじさん2人の日常に起こった小さなアクシデントだが、別々に語られていった先に思わぬ形で交わる。著者にとってこの2人のおじさんキャラは特別というか、作者の手元を離れて意思を持っているかのような存在らしい。ものを作る人が「降りてくる」と言いますが、そんな感じなんでしょうか。この2人のキャラクターがまたいつか違う形で再登場する日がくるのかな?ちょっと楽しみです。
    また、全体的に平和な空気が漂っているけど、八重樫という登場人物により底知れない不気味さが醸し出されています。著者の世界の深さをそこに感じました。

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    2020年01月31日
  • 絲的サバイバル

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    1人キャンプエッセイに取り組む絲山さんのなりふり構わぬ姿勢に感心した。
    辛い状況でも楽しんで、かつ楽しいエッセイに仕上げる能力も素晴らしい。

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    2019年12月16日
  • 掌篇歳時記 春夏

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    24節気を3等分した72候があることを知って、日本には季節を細かく愛でる文化があったのだと再認識した.その季節感を念頭に置いて、著名な作家が短編を綴るという贅沢な本だが今回は春夏を読んだ.村田喜代子の雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)が面白かった.戦前の裕福な家庭に育った姉妹だが、それぞれにねえやがいて、様々な世話をするという、今では考えられない家庭内のやり取りが出てくる.あんな時代があったことは、映画や小説の中でしか接することはできないが、この姉妹の会話からその情景が想像できることが新しい発見をしたような感じだった.

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    2019年11月06日
  • 掌篇歳時記 春夏

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    トップバッターの 瀬戸内先生のが 一番俗っぽかったな と思うほど 瀬戸内先生 相変わらず かわいらしい人を書くんですね ほぼほぼ 幻想的で不思議な短編 ちょっと読むには 分かりにくいものもある 芥川賞作家が多いからでしょうか

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    2019年08月22日
  • 薄情

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    題名と内容をつなげる癖があって、この題名をつけたのなら作者の言いたい核ってなんなのかといつも考える。主人公の性格なのか、主人公の性格を形成した土地なのか。究極、人間ってみんな薄情なのかな?とか。話の内容は田舎で起きる些細な出来事の連鎖なのだけど、思考ってそういうところから広がっていく。

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    2019年08月05日
  • 薄情

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    読んだのがたぶん去年なので(どれだけ置いておいたんだ 笑)うっすら忘れかけている部分もあるのだけど…悪い言い方をすればとても地味な雰囲気の小説。だけど妙に心にずっしりと来る。
    地方都市の狭さとか(人間関係の密接した感じ、噂がすぐに広まる、等)は似たような街に住む私もよく分かる。時には助けになるけれど、一方でものすごくうんざりするときも多い。都会ではなく、本当の田舎でもない。そういう独特の狭さの街。

    この、薄情というタイトルがどういうところを指しているのかは、作者ではないから分からない。主人公はある意味で至って普通の青年だ。つかず離れずの人間関係を形成しながら、必死ではないものの日々食べていけ

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    2019年04月15日
  • 薄情

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    句点を置かずに時折現れる宇田川の「どこへとも向かない気持ち」が心地よいリズムで語られるのが、この作品の印象をグッと深くする。

    群馬の自然がほんのりと味わい深く、そしてマイノリティであろうとする宇田川の繊細とも形容ならない感じがバランスよく、程よく感情移入できた。

    終わりにかけて『薄情』というタイトルの真意がつかめてくる。

    バランス良い小説でした。

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    2019年03月05日
  • 袋小路の男

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    「袋小路の男」というこの本の中に収めてある三つの小説のうち、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」という二つの小説は、いわゆる恋愛小説だが、ちっとも恋愛小説ではない。
     同じ関係を男の側と女の側から描いて、二つの話にした感じだが、変な男と困った女の奇妙な関係が淡々と続くだけだ。まぁ、たとえば、高校生向けとはいえない。
     三つめの「アーリオ オーリオ」という小説は中三の少女と叔父さんの話。叔父さんと宇宙の話なんかしているのは受験勉強の邪魔だとしかられた少女が叔父さんに出した最後の手紙には「私が死んでしまっても、世界はこのままなんでしょうか。宇宙もずっとあるんでしょうか。」と書かれている。
     現実の生

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    2019年02月22日
  • 薄情

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    田舎の空気がとても的確に描かれている気がする。そして群馬県民的には、群馬あるあるが多くてとても楽しい。

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    2019年02月17日
  • ばかもの

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    (以下、ネタバレ気をつけていますが、核心に触れるセリフを引用してしまっています)

    「沖で待つ」もそうだったんだが、わたしにとって絲山秋子の小説は、ある程度歳を重ねてきたからこそ共感できる、という部分がある。主人公は若者なのに・・・

    年上の女性にドはまりしたあげくに振られ、大学で落ちこぼれていつしかアルコールに溺れる。
    自信満々(単に世間知らず)なだけの若いときの自分なら、こんな「ダメ人間」には感情移入できかなったと思う。

    「たぶん俺はずっと誰かに甘えたい男なのだ。でもそれはこういう形じゃない。もっと、誰も不幸にならないような甘え―――そんなことは可能なのか」

    「俺は、かつて自分をアルコ

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    2019年02月10日