絲山秋子のレビュー一覧
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ネタバレ
p53
道端にブドウ畑があった。あたしは思わずブレーキを踏んで、後ろの車にクラクションを鳴らされた。なごやんとあたしは目と目を見合わせて次の瞬間車から出て畑に忍び込んだ。マスカットのつぶつぶを片っ端からちぎり取って口に放り込むと水分と甘味が盗みの喜びをかきたてた。そうなるともう、止まらなかった。次がトマト畑で、それからキュウリだった。茎は意外に強くて手でちぎるのは大変だった。
「バーベキューセットがあれば、茄子でもトウモロコシでも行けるのになあ」
キュウリをぽりぽり噛みながら、善悪のみさかいのつかなくなったなごやんが言った。
p112
「ねえなごやん、悲しかね、頭のおかしかちうこと -
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読書開始日:2022年9月19日
読書終了日:2022年9月24日
所感
【袋小路の男】
【小田切孝の言い分】
小田切孝は虚勢を張る。
つい弱音を吐くと、メッキが剥がれ、人が離れていく。
わたしは小田切孝がハリボテだと気づいているが、愛しているから離れない。
小田切孝もそれに気づいているから離れない。
でも近づきすぎると、小田切孝が自身の弱さを目の当たりにし、わたしもわたしで小田切孝の弱さを受け止めきれないかもしれないと不安に苛まれ、先に進まない。
それでも時間をかけ、進まないことこそが二人の関係性とお互いが気づき、袋小路のぺんぺん草になった。
【アーリオ オーリオ】
素敵なお話のようだった -
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久々の絲山秋子さん!
花ちゃんの博多弁丸出しの会話に伴う疾走感がたまらない。引きずられアッという間に読み終えた。
主人公・花田こと花ちゃんは「亜麻色二十エレは上衣一着に値する」が幻聴で聴こえ出すと自分ではどうすることもできなくなってくる。『資本論』の一節だそうだが、時折り何度も出てくるこのフレーズは不可解だがテンポ感があり効果的に使われていた。
「どうしようどうしよう夏が終わってしまう」軽い気持ちの自殺未遂がばれ、入院させられた花ちゃんは、退屈な精神病院からの脱走を決意する。名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、彼のぼろぼろの車での逃亡劇。なごやんと衝突しながらも、車は福岡から、阿蘇、さらに南へ -
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オーロラを運ぶ女と遭遇する「葬式とオーロラ」、見ず知らずの駅に降り立ってしまう「NR」が面白かったです。え、いつの間に非現実に入り込んだのだろうという不思議な世界観でした。一風変わった人たちの人生の一場面を垣間見るストーリー。少し辛い過去を抱える登場人物の不穏な空気の中にも、ふと笑える会話もありで、そうか、そうだったと、所々共感してしまう。ヤンキーとチャラ男の違い、ブリーフとトランクス論。
ほんのり震災の要素が絡まっている。過去と今とは違う、もうふつうなんてなくなった。5年後のふつうなんて想像できない。そうだな・・。
直接的ではないのに、後でふわりと響く独特な雰囲気でした。今日の地元紙、日曜の -
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読書開始日:2022年6月14日
読書終了日:2022年6月17日
所感
【小松とうさちゃん】
話が出来すぎてる気がする。
もう少し自然な方が好み。
みどりも小松もうさちゃんも、もう少し人柄を知りたかった。
結末ありきだったのかな。
【ネクトンについて考えても意味がない】
優しい作品だった。
心和らぐ大好き。
ネクトンについて考えても本当に意味がない。
影響があるのは生死に関わる時だけ
ある日スーッと心がおりてきただけ
漂う漂流者でもいい
南雲咲子が羨んだように、つまるところはクラゲのように清く漂いたい
【小松とうさちゃん】
細く長くを主眼に置くと、楽しさは薄れる
【ネクトンについて考えても -
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読書開始日:2022年3月19日
読書終了日:2022年3月22日
所感
北関東、東京へ行こうと思えば行けるくらいの立ち位置。
この立ち位置も、宇田川のうだつのあがらなさを助長させていたのだろう。
行動すればなにかが変わることも、
行動できない理由なんか一つもないことも、
心のどこかで自覚しながら、日々を怠惰に過ごす。
自分と対極の鹿谷の自由生活に触れ、その人生の疑似体験を行うも、
どこかで鹿谷の失敗を望んでいた。
自分のしがみついた安定が間違っていないことを、実感したかった。
みずから実感を掴みに行くのではなく、その実感が来るのを待っていた。
ここにも、宇田川の弱さが出る。
鹿谷がいざ失敗を -
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ネタバレ絲山秋子の本は何冊か読んだ。いずれも少し不思議な感じがある世界なのだが、本書はかなり幻想的な特色を持つ。
意味のわからない話やメタファーもあるが、意味を探りたくなる深みがある。
東日本大震災の後に書かれた短編集と知り、なるほどと意味を了解した部分もある。
不穏さ、もの悲しさに浸るような作品も、どこかユーモラスでそれがシュールに思えるのがこの作者の持ち味だろう。
描写は極端に省略され、それでも情景が浮かぶ。上手い。
読書会の課題だったのだが
・忘れられたワルツ
・ニイタカヤマノボレ
・神と増田喜十郎
この三編がとても気に入った。 -
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プラトニックながら心は差し出す。
ただ期待したような反応がないだけ。
恋愛って大部分がそういうもんじゃなかろうか。
差し出したものと同等のものが感じられる恋愛は、
相当の観察と場慣れの成果だと思ってる。私は。
(少数派なのかも。わからない。。)
それでもどちらかの熱量が大きくて、その比重のデタラメさをもろともしない恋愛が、これなんだろう。
何度も傷を作って、泣いて、不貞腐れたり、腹を立てたり。そして落ち着いてホームと言うべきこの場所へまた戻る。そんな長くて辛い恋愛。
その大きな気持ちを受け取る男は、女のことを適当にしているわけではなかった。
《饒舌で自分の思うところはもちろん、関係のない仕事の -
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恋愛、結婚、友情、生活、出世、家族、人間って色々な悩みや楽しみの中にも沢山の孤独を背負って生きているんだなって深く感じさせられた一冊でした。
東京でサラリーマンをしている主人公は宝くじが当たって福井の敦賀で自由で孤独な仙人の様な暮しを続けていたある日に"ファンタジー"と言う不思議な神様が出現し主人公の家に居候する様になる。"ファンタジー"はその存在を感じられる人とそうでない人に分かれる。
そんな不思議同居人との田舎暮らしの夏に海岸で仕事中毒なOLと知り合い付き合い始める。
遠距離恋愛を重ね年月が過ぎたある日に彼女が末期ガンと知らされる。
彼 -
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平凡な生活を過ごす大学生のヒデはバイト先の年上女性の額子に誘われ初めて女性の身体を経験し付き合い始めるが何事も経験豊富な額子に始終リードされっぱなしのヒデだが、どんどん額子のクールで不思議な性格に引き込まれて行くが付き合って2年目に夜中の公園の立木に下半身を曝されて縛られたままで結婚が決まったから別れると一方的に宣言され額子は去って行く。
額子が居なくなった後、ヒデは就職や新たな恋人と付き合いながらも充足されない心をアルコールで満たす様になって行き親友の加藤や恋人翔子の忠告も無視しアルコールに依存する生活が続いて行く。
家族・友人・恋人・職場・身体の全てをアルコール依存症のヒデは失っ