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Posted by ブクログ
作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。
また文学として、語り部である主人公の佐藤だけでなく、幾つもの登場人物が、異郷の地にいることや、またときにはその人種や障害などの理由から、人生の舞台に対して、異者である。
他の絲山文学において、異者であることからのサウダージはメインテーマであり、作品の中で特にスコープされると、ぼくは思っている。この作品でも同様であるけど、物語のプロットが移りゆく構成をとっていて、(それゆえにこの作品はミステリであるとぼくはつよく感じているのだけど)観念的に傾きすぎない。観念的とは純文学なる指向だと認識してるのだけど、この作品は、エンターティメントとして絲山先生が意図して取り組んだでいる感じがする。バランスがいいのだ。谷崎潤一郎賞を受賞したが、その筆致の見事さ故に、絲山先生の作品のなかで大衆性も得ることが最も可能な一作であると感じる。高村薫以降の、文学とエンターティメントの見事な合致が見られる優れた作品としてミステリ読みに強く勧めたい。
Posted by ブクログ
へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を思い起こさせるようなところもあったり。最後まで描かれなかったような、消化不良感のある終わり方なのは残念。ミステリーとしてなら、顛末まで読みたかった。
でも、この小説の骨頂は「離陸」なのだと思う。ここでいう離陸とは「ぼくらは滑走路に行列をつくって並んでいる。いや、まだ駐機場にいるかもしれない。生きている者は皆、離陸を待っているのだ。」(p.322)ということ。これはかつて読んだ『沖で待つ』と重なるようなところがある。主人公は近しい人との別れ、死をたび重ねるのだけど、それ以上でもそれ以下でもない、人生というもののとらえ方を描いているようだ。
それにしても、死を離陸と表現するのって面白いね。彼岸とかいうように、何となく船で渡るような感覚でいたけど、向こう側へは飛んでも行けるね、たしかに。
Posted by ブクログ
この小説は間違いなく「道中」が面白い小説だった。
人は誰しもいずれは死という結果に行き着くものだし、そこに至るまでの道中に意味を持たせる必要はない。滑走路を走っているうちにいつかふわりと離陸していくものなんだと思った。
作中で解決されない謎があるが、それはたまに思い起こす昔の消化不良の恋みたいなもので、自然と過ぎ去ってまたいつかふと思い出すことがあるだけ。結局のところ他人は他人で、人間は他人の考えなんか真には分からないんだよな、とそんなことを思う。このほろ苦い実感を噛みしめるのもこの作品の価値なのかもしれない。
しかし、物語の中に生きていた人物たち全員にいつの間にか愛着を持っていた。だからこそ彼ら彼女らが「離陸」していく事実をなんとなく他人事にはできなくて。読み終わったあとも、思い出すのはその人たちの存在である。私は彼ら彼女らと親しくなったのだ。だから離陸を見送る私は少し寂しいんだ。
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