絲山秋子のレビュー一覧
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独立した3編が入った短編集。
『勤労感謝の日』
これ好き!主人公の毒におもわず吹き出しそうになってしまう。
飲み屋でのシーンが特に好きで、
毒はありつつも読み心地が良かった。
『沖で待つ』
同期の男女。
どちらかが先に死んだ時にHDDを壊す約束をするもの。
こちらもなかなか味わい深い。
太っちゃんの秘密、本当にそれだけだったのか
誰にも分からないところも良い。
『みなみのしまのぶんたろう』
ぶんたろうのモデルはやっぱりあの人?
(芥川賞の選評でタイトルが嫌いとか言っていたイメージがある)
ぶんたろうを懲らしめる展開になるのかと思ったら、不思議な展開だった。
全編漢字がなく読みにくい作品で -
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とある企業の部長がいる。『通称・チャラ男』だ。その企業を舞台に、チャラ男を取り巻く人とチャラ男本人の目線から物語が描かれる。
ある人には最低最悪と悪口言われても、ある人には思いやりのある良い人と褒められる。人間にはいろいろな顔があり、見る人がどの面、どの角度から見るかで、評価は違ってくるものだ。
チャラ男の部下で苦労する30代の男性、実は政治家を目指している女性社員、窃盗癖のある中年社員、鬱で悩み休職していた女性社員…
最終章でこの会社が不祥事を起こし、チャラ男部長が記者会見で逆ギレして有名になってしまう。
チャラチャラしていても、やる時はやる…チャラ男が最後にめちゃくちゃ活躍するような、 -
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架空の地方に住む人たちの話で軽快。
脇役で登場する人は地方にありがちな同じ苗字で、メインの人は聞き馴染みのない苗字。
現実と架空をさまよう展開もだが、独特のユニークな表現もこの作家の魅力で、本作も冴えている。
勉強机と壁の間には「消しゴムの墓場」が、洗濯機と壁の間には「靴下の墓場」がございますけれども
細やかな気遣いは出来ても思い切って空振りをすることは恐ろしくてできない。それを他人はケチというのだった。
廃業や精算はプラスには見えなくても、立派な仕事だと思う。時代をひとつ先に進めるために避けられないプロセスなのだ。
撤退の判断と実行こそ尊い。 -
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ネタバレ21歳の女子大生である「あたし」は、もともと軽いうつ病の気があったのだが、突如躁に転換し、軽い気持ちで自殺を図る。
結果入院させられた病院は、拘束されているわけではないけれども、退屈だ。
ここにはいられない、と、財布と鍵だけ持って病院を脱走する。
たまたまその時中庭にいた「なごやん」を誘って。
「なごやん」なんて言うから、名古屋出身なんだろうとは思ったけれど、なんとなく小柄で猫背の貧相なおじさんかと思ったら、元慶応ボーイの24歳。
軽いうつということだけど入院しているのは、一人暮らしだからなんだろうか。
ちなみに「なごやん」というのは、故郷の名古屋を捨てた「なごやん」が愛する名古屋の銘菓の名 -
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日本にある架空の県である黒蟹県を舞台に、その地域で暮らす人々と、人に紛れながら人々を見守る神様の話が書かれた短編集。お話ごとに主人公が変わり、別のお話で少し顔を見せたりする。黒蟹県での当たり前の生活が書かれている印象。
お話の中に実在の単語と架空の単語が混ざって登場し、各話の最後に黒蟹辞書として、お話し中に出た一部の単語が実在/架空であるかの解説がされる。これが答え合わせのようで、個人的にはちょっと面白かった。
お話では、人に頼まれてお弁当の審査員をすることになった神様が弁当とは何か、を考える「神とお弁当」が好みだった。確かに神様ならヒトの弁当ってのはもらえないよなぁ。 -
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どうしようもない男と、そいつを一途に好きな女の両面エピソード
以下、公式のあらすじ
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高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。
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表題作の方は女性の一人称視点で描かれている。
高校一年生のときに男と出会い、恋人未満で友達のようなそれでいて近しいという不思議 -
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不思議な物語だった。
今小説に出てきた『恋はあせらず』という古いナンバーを聴いている。
ファンタジーは自分のそばにもいるのかもしれない。
「誰もが孤独なんだよ」とつぶやきながら、そっと傍に佇んでくれている気がする。
「孤独ってえのがそもそも、心の輪郭なんじゃないか?外との関係じゃなくて自分のあり方だよ。背負っていかなくちゃならない最低限の荷物だよ。」という片桐のセリフが胸に刺さる。彼女の自分に厳しい優しさは魅力的だ。
主人公のあくまで自分を大切にする姿勢もいい。そのことによって、結果的に人を傷つけることになったとしても。自分を曲げて、自分が壊れていくよりも。 -
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ネタバレ本筋とずれるが、自分もうつ病で仕事を休んでいるので、伊藤さんの独白が特に印象的だった。
「うつ病というのは、完璧主義の罰としていちばんきついものを集めたものだと思う」というくだりは本当に共感だった。
そんな彼女が、のちのちに仕事に復帰して、きつそうながらもまた働いている様子は希望に見えた。
また、別の人の話で、「うつは心の甘え」みたいなことを言ってるくだりもあって堪えたが、この本の中でたくさんの人の独白が出てくる中で、みんな考えてることや価値観が違っていて、「そう思う人もいるし思わない人もいるし、いちいちショックを受けることないな」と思った。
ぜんぜん別件だが、正義感が強く人の平等性を大切 -
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花ちゃんとなごやんが「まっとうな人生」なんて…置いていかないで、私と一緒に逃げ続けようぜ…という気持ちで読み始めた本。
花ちゃんもなごやんも結婚して新しい家族と生活を持っている。マジか。偶然再会する2人。マジか。
始まるコロナ禍と、交流と、家族と、ただ毎日が過ぎていくだけを描いた小説でした。でもそれが人生というか、まっとうに生きるってなんだろうなあと、私も思いました。1日1日を積み重ねるしかないんだろうな。
こういう、特に大きな事件が起こらない小説って眠くなってしまう(得意じゃない)のですが、絲山先生の文章は本当にスッと入ってくる。不思議。くそたわけからまだ2冊目だけれど、やっぱり好きかも