絲山秋子のレビュー一覧

  • 離陸

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    一週目ではまだ分かりきっていない感はあるけどすごくじんわりくる良さだった。
    死を飛行機が離陸することで表していて、その表現がスッとはいってきた。

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    2021年05月08日
  • 海の仙人

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     主人公の不思議な生活ぶりが面白い。なんでよりにもよって山陰の薄暗い地域など好んで住むのか、海の近くなら静岡などの方がずっと暮らしよいと思うのだが、そうしたくなる気持ちが読み進めると理解できる。セックスレスでありながら女性を求めるのは相手に対してひどいのではないか、しかしそうなってしまうのも仕方がない。

     文章の表現について、解説の福田和也さんの解説が素晴らしくて、お陰で理解できた。自分で読んでいる時はなんとなく、いい感じがするくらいしか思わなかった。

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    2021年02月26日
  • 小松とうさちゃん

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    同時収録の「ネクトンについて考えても意味がない」かステキすぎる。もちろん、本書のタイトルである「小松とうさちゃん」もいいのだけども。
    淡々とした交流の中に、引力の強い掛け合いがふっと出てくるのに、気持ちがもっていかれるような?

    終わり方もきれいで、凛とした精神のありようを見るみたいだと思った。

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    2020年01月10日
  • 妻の超然

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    妻、下戸、作家の三者の「超然」のうち、二人称で書かれた「作家の超然」が壮絶だった。難解な言葉も文脈もないのに、視点はどんどん遠ざかって、やがて文学の滅亡に至る。言葉の意味や情報が失われた後に幻視する光景にただ圧倒される。ひたすらすごい本だった……。
    久しぶりの絲山作品。疎遠になっていた原因でもある「生々しさを突き抜けたグロテスクさ」にやっぱり当てられたけど、どうしてかめちゃくちゃ清潔だとも感じる。不思議。

    (初読やと思ってたけど単行本の登録がある……感想もつけてる……)(自分が信じられない)

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    2020年01月10日
  • 海の仙人

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    その名もファンタジーて。ってとりあえず突っ込みたくなる本作。そのファンタジーをネタにした軽い笑いも要所要所にちりばめつつ、圧倒的リーダビリティで物語は進む。健康的に登場した彼女が、気が付けば不治の病に侵されたりとか、主人公が盲目になったりとか、展開の速さにも驚かされるんだけど、それが無理なく話の中に納まっていく様は、まさに名人芸。中編小説ながら実に濃密。素晴らしい作品でした。

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    2019年11月22日
  • 薄情

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    感情を抑えた描き方ではあるけれど、現代の人の思い、考えていること、日常の移り変わりがよく描けていて、私の世代では「ようわからんな。。。」って思いがちな部分が、「なるほどなー」と浮き彫りになったりして、それも読み応えがあってよかったです。

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    2019年10月15日
  • 海の仙人

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    日常を生きるなかで、こういう読み物が連れて行ってくれる世界がどれだけ潤いになっているか。
    あらためて感じさせられた。

    自分が読んだ本を人に薦める人がいる。今までは自分はあぁはならないぞと思っていたけど、汲々とした時を過ごしている人には何よりも、こういう世界に連れて行きたくなる。 だから、今は人に本を薦めるお節介も許せてしまう気分だ。

    読み終えて、「宝くじを買わなくちゃ」と思った人もきっといる。わたしもだけど。
    河野の生き方が、生きる世界が現実の煩わしさから遠いところにあるだけでなく、彼が抱えた人生の苦難に静かに向かう姿勢、滲み出る佇まいに共感を覚え、愛してしまった人たちが、彼の世界を創

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    2019年10月02日
  • 海の仙人

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    宝くじを当てて敦賀の海辺に移り住んだ河野。自身のことを役立たずの神様と呼ぶファンタジー。岐阜から遊びに来たかりん。河野の元同僚の片桐。どれも魅力的なキャラクターで、それぞれの道をのびのびと歩んでいるの感じがとてもよかった。
    あらすじだけ読んだときは変な名前の神様が出てくるし、それこそファンタジー小説なのかな?なんて思っていたけれど、決してそんなことはなかった。魅力的なキャラクターが登場するけれど、べたべた依存するような関係はなく、それぞれがそれぞれの孤独を抱えて、それを認めながら生きていた。この小説は人間の孤独さを描いていて、けれど孤独が悲しいこととして描かれていないことがいい。

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    2019年09月24日
  • 海の仙人

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    ネタバレ

    河野の生き方が羨ましかった。宝くじを当て、仕事をせず海辺の街で釣りをしたり農園で野菜を育てたりしてのんびりとした生活を送る、なんて幸せな生活だろうか。彼とかりん、片桐の微妙な三角関係が読んでいて切なかった。どの登場人物にも感情移入して彼らの幸せを願ってしまった。ラストシーンは個人的に不穏さを帯びていると受け取ったが、河野は生きて片桐と新たな人生を歩むのだと信じたい。

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    2019年03月08日
  • 薄情

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    絲山秋子の谷崎賞受賞作品の文庫化ってことで入手。しばらく文庫化に気付かなくて、このタイミングになっちった。『ばかもの』が随分好きだったけど、やっぱり根っこには、当たり前だけど同じ雰囲気を感じた。タイトルからして、薄情な登場人物が活躍するもんだと軽薄にも思っていたんだけど、主人公にしろ周りの人にしろ、あまり薄情とは違うよな、って思いながら読み進み。殆ど終わりの頃になって、一度だけ”薄情”って言葉が登場するんだけど、なるほどそういうことかって感じ。薄情に見えるけど実は情け深いというか、そんな微妙なニュアンスが作品をもって綴られていた訳ですね。本作も、流石のクオリティでした。

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    2018年12月21日
  • 海の仙人

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    このお話に出てくる人はみんなそれぞれ孤独なんだけど、それは自分が選択した孤独で、そのことを自分でちゃんと分かっている。孤独に対する責任感みたいなものもあって、作者の人間性?とか考え方が出てるなと思った。はじめて読んだけど、絲山さんを好きになったし作品をもっと読みたい。一番好きな登場人物は片桐だけど、ファンタジーは薬味的な感じで素晴らしい。片桐のいい女っぷりが台詞の端々に出ていて惚れる。

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    2018年07月24日
  • ばかもの

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    えらい強烈なのと付き合ってるなっていう、オープニングからして求心力絶大。読み心地の良い文章と相俟って、どんどん世界の中に引き込まれる。で、最初はちょっと哀れな主人公に同情しちゃいそうになるんだけど、だんだんアルコールに溺れて、いよいよ中毒になっていく過程は、ホントくず。読んでてイライラさせられっぱなし。でも入院を契機にそこから離脱して、最後元サヤに収まるまでを描いた物語。くず男の一代記なんだけど、コンパクトに200頁くらいに纏められていて、でも読み応えは抜群でっていう、理想的な小説に仕上がってます。”イッツ・オンリー~”は、正直そこまで大好きな作品ではなかったけど、これは素晴らしかったです。

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    2018年05月07日
  • 離陸

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    作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。
    また文学として、語り部である主人公の佐藤だけでなく、幾つもの登場人物が、異郷の地にいることや、またときにはその人種や障害などの理由から、人生の舞台に対して、異者である。
    他の絲山文学において、異者であることからのサウダージはメインテーマであり、作品の中で特にスコープされると、ぼくは思っている。この作品でも同様であるけど、物語のプロットが移りゆく構成をと

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    2018年01月31日
  • 海の仙人

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    波間にいるような、砂地に足を囚われているかのような……。とてもたおやかで寂しくてりんと強い。
    過去に向き合おうとしても簡単に乗り越えさせてはくれない、悲しみは次々と自らを襲う。人は皆、自らに降りかかる孤独からは逃れられない。
    ただわたし達はわたし達として生きていくしかないのだな、と静かに淡々と突きつけられるかのようで、そのひっそりとした寂しさにも淡く光るものを感じさせてくれる。

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    2017年12月16日
  • ばかもの

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     アル中ヒデの恋愛物語。これで終わってしまう人も中にはいるのだろうけど、どうしてだか、私の中ではこの本はそう簡単に終わらせることはできず、むしろずっと心に確かな余韻を残していった、好きな本になってしまった。

     額子に振られたのを境にヒデは徐々にアル中への道へと逸れていく。ヤマネも宗教の道へ。額子は額子でまた辛さを抱え、一番まともで一番幸せをつかんで良いはずの翔子は、一番厄介なヒデが重荷となる。

     ヒデの中には常に理想となるある女性が目の前に現れていて、ことごとくその女性が顔を出す。ある時を境にそれは消えてしまうのだけど、それはその人を必要としなくなったから…現実にその人に代わる安心を得たか

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    2017年08月01日
  • 離陸

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    へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を思い起こさせるようなところもあったり。最後まで描かれなかったような、消化不良感のある終わり方なのは残念。ミステリーとしてなら、顛末まで読みたかった。
    でも、この小説の骨頂は「離陸」なのだと思う。ここでいう離陸とは「ぼくらは滑走路に行列をつくって並んでいる。いや、まだ駐機場にいるかもしれない。生きている者は皆、離陸を待っ

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    2017年07月29日
  • 妻の超然

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    楽しみ読み進めました。
    読みやすいのですが、「超然」というテーマに沿って書かれた短編という挑戦をしているのに、楽しみながら読み進めることができるもので、作家としてのチャレンジ精神にも感服します。
    文体がとてもリズミカルで読みやすいように感じるんですよね。毒もあるので読んでていてスッキリするんです!
    しばらく絲山秋子さんの本を読み漁ろうと思っています。

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    2017年01月16日
  • ばかもの

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    とりたてて衝撃的な筋ではない。
    が、読みながら感じていたのは、文体の不思議さ。これが「来た」。
    序盤は、一人称に極めて近い三人称。
    終盤は、三人称を乗り越えてくる一人称。
    なぜというに、読み進めるに連れて「俺」が私の胸中の一部に巣食ったからだ。
    少し特異な文体は、内容への共感と並行して、文を読み進めることによる共感を、誘う。
    だからこそ、「ばかもの」と言い合える関係性に、ぐっときてしまうのだ。
    小説はある程度の分量を経て、つまりは文脈を経ることで得られる感慨だ、と改めて認識した。

    酒への耽溺は他人事ではない。
    寄る辺なさ、思いの行き場のなさ、俺自身が俺を扱いかねているのだから周囲にとってはな

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    2016年08月20日
  • 海の仙人

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    数ある絲山秋子さんの名作の中でも一、二を争う名作ではないでしょうか?物語中盤、日本海沿いにファンタジーと元同僚の女性とのドライブ旅の情景が特に好きです。

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    2016年03月16日
  • 海の仙人

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    ネタバレ

     河野勝男は、突然宝くじが当たることで億万長者になった。そんな河野の前に突然「ファンタジー」が現れる。
     敦賀に帰り気ままな暮らしを始めた河野の前に、「かりん」と「片桐(もと会社の同僚)」という二人の女性が現れる。やわらかく包み込むようなかりんと対照的に、あの手この手で河野をおとそうとする片桐。
     結局どちらとの関係を実らせるでもなく、かりんは乳がんにかかってしまう。果たして、ファンタジーは不幸の前兆なのではないかと思った河野。その後、河野自身も雷に打たれて失明してしまう。やがて、河野は高校生のとき以来さわっていなかったチェロを手に取り、生きる意味を見出してゆこうとする。
     
     わずか150ペ

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    2016年03月06日