絲山秋子のレビュー一覧

  • 海の仙人
    その名もファンタジーて。ってとりあえず突っ込みたくなる本作。そのファンタジーをネタにした軽い笑いも要所要所にちりばめつつ、圧倒的リーダビリティで物語は進む。健康的に登場した彼女が、気が付けば不治の病に侵されたりとか、主人公が盲目になったりとか、展開の速さにも驚かされるんだけど、それが無理なく話の中に...続きを読む
  • 薄情
    感情を抑えた描き方ではあるけれど、現代の人の思い、考えていること、日常の移り変わりがよく描けていて、私の世代では「ようわからんな。。。」って思いがちな部分が、「なるほどなー」と浮き彫りになったりして、それも読み応えがあってよかったです。
  • 海の仙人
    日常を生きるなかで、こういう読み物が連れて行ってくれる世界がどれだけ潤いになっているか。
    あらためて感じさせられた。

    自分が読んだ本を人に薦める人がいる。今までは自分はあぁはならないぞと思っていたけど、汲々とした時を過ごしている人には何よりも、こういう世界に連れて行きたくなる。 だから、今は人に...続きを読む
  • 海の仙人
    宝くじを当てて敦賀の海辺に移り住んだ河野。自身のことを役立たずの神様と呼ぶファンタジー。岐阜から遊びに来たかりん。河野の元同僚の片桐。どれも魅力的なキャラクターで、それぞれの道をのびのびと歩んでいるの感じがとてもよかった。
    あらすじだけ読んだときは変な名前の神様が出てくるし、それこそファンタジー小説...続きを読む
  • 海の仙人
    河野の生き方が羨ましかった。宝くじを当て、仕事をせず海辺の街で釣りをしたり農園で野菜を育てたりしてのんびりとした生活を送る、なんて幸せな生活だろうか。彼とかりん、片桐の微妙な三角関係が読んでいて切なかった。どの登場人物にも感情移入して彼らの幸せを願ってしまった。ラストシーンは個人的に不穏さを帯びてい...続きを読む
  • 薄情
    絲山秋子の谷崎賞受賞作品の文庫化ってことで入手。しばらく文庫化に気付かなくて、このタイミングになっちった。『ばかもの』が随分好きだったけど、やっぱり根っこには、当たり前だけど同じ雰囲気を感じた。タイトルからして、薄情な登場人物が活躍するもんだと軽薄にも思っていたんだけど、主人公にしろ周りの人にしろ、...続きを読む
  • 海の仙人
    このお話に出てくる人はみんなそれぞれ孤独なんだけど、それは自分が選択した孤独で、そのことを自分でちゃんと分かっている。孤独に対する責任感みたいなものもあって、作者の人間性?とか考え方が出てるなと思った。はじめて読んだけど、絲山さんを好きになったし作品をもっと読みたい。一番好きな登場人物は片桐だけど、...続きを読む
  • ばかもの
    えらい強烈なのと付き合ってるなっていう、オープニングからして求心力絶大。読み心地の良い文章と相俟って、どんどん世界の中に引き込まれる。で、最初はちょっと哀れな主人公に同情しちゃいそうになるんだけど、だんだんアルコールに溺れて、いよいよ中毒になっていく過程は、ホントくず。読んでてイライラさせられっぱな...続きを読む
  • 離陸
    作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。
    また文学として、語り部である主人公の佐藤だけでなく、幾...続きを読む
  • 海の仙人
    波間にいるような、砂地に足を囚われているかのような……。とてもたおやかで寂しくてりんと強い。
    過去に向き合おうとしても簡単に乗り越えさせてはくれない、悲しみは次々と自らを襲う。人は皆、自らに降りかかる孤独からは逃れられない。
    ただわたし達はわたし達として生きていくしかないのだな、と静かに淡々と突きつ...続きを読む
  • ばかもの
     アル中ヒデの恋愛物語。これで終わってしまう人も中にはいるのだろうけど、どうしてだか、私の中ではこの本はそう簡単に終わらせることはできず、むしろずっと心に確かな余韻を残していった、好きな本になってしまった。

     額子に振られたのを境にヒデは徐々にアル中への道へと逸れていく。ヤマネも宗教の道へ。額子は...続きを読む
  • 離陸
    へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を思い起こさせるような...続きを読む
  • 妻の超然
    楽しみ読み進めました。
    読みやすいのですが、「超然」というテーマに沿って書かれた短編という挑戦をしているのに、楽しみながら読み進めることができるもので、作家としてのチャレンジ精神にも感服します。
    文体がとてもリズミカルで読みやすいように感じるんですよね。毒もあるので読んでていてスッキリするんです!
    ...続きを読む
  • ばかもの
    とりたてて衝撃的な筋ではない。
    が、読みながら感じていたのは、文体の不思議さ。これが「来た」。
    序盤は、一人称に極めて近い三人称。
    終盤は、三人称を乗り越えてくる一人称。
    なぜというに、読み進めるに連れて「俺」が私の胸中の一部に巣食ったからだ。
    少し特異な文体は、内容への共感と並行して、文を読み進め...続きを読む
  • 海の仙人
    数ある絲山秋子さんの名作の中でも一、二を争う名作ではないでしょうか?物語中盤、日本海沿いにファンタジーと元同僚の女性とのドライブ旅の情景が特に好きです。
  • 海の仙人
     河野勝男は、突然宝くじが当たることで億万長者になった。そんな河野の前に突然「ファンタジー」が現れる。
     敦賀に帰り気ままな暮らしを始めた河野の前に、「かりん」と「片桐(もと会社の同僚)」という二人の女性が現れる。やわらかく包み込むようなかりんと対照的に、あの手この手で河野をおとそうとする片桐。
     ...続きを読む
  • 妻の超然
    2016年、11冊目です。

    絲山秋子の小説です。
    彼女の作品は、過去「沖でまつ」「逃亡くそたわけ」などを読みました。
    我々のそぐそばにある日常を舞台に、僅かに周りの人との間にある齟齬が、
    歩む道筋に大きな影響を与えていく。でもそこでたどり着いた先は、
    渇して無意味なものでなく、少し心が軽くなる着地...続きを読む
  • 不愉快な本の続編
    何だかわからないけど「凄い!!」
    実は人生初のぎっくり腰。動けない程の重傷ではないのですが、動くほど悪化するようなので一日会社をお休み。普通の倍くらいの時間をかけて行った整形外科医院のジジババ一杯の待合室で読み始めました。
    いきなり引きずり込まれます。待ち時間1時間半。その長さが気にならないほど没頭...続きを読む
  • 末裔
    「末裔」(絲山秋子)電子書籍版を読んだ。これは面白かった。シャガールの絵みたいな幻想的で淡く優しい光を感じさせるね。要約すると『わたしはどこから来て、わたしは何者で、そうしてわたしはこれからどこへでも行けるんだ。』って確認と再生の物語。適度な不条理さと適度なユーモアが絶妙です。
  • エスケイプ/アブセント
    相対する双子の兄弟がそれぞれ主人公の二編。自由でいながら、挫折に影を潜めて生きる中年男の切なさが、軽く明るく描かれている。二編が構成から響き合っているので、短いながらも印象がしっかり残る名著。