絲山秋子のレビュー一覧
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日常を生きるなかで、こういう読み物が連れて行ってくれる世界がどれだけ潤いになっているか。
あらためて感じさせられた。
自分が読んだ本を人に薦める人がいる。今までは自分はあぁはならないぞと思っていたけど、汲々とした時を過ごしている人には何よりも、こういう世界に連れて行きたくなる。 だから、今は人に本を薦めるお節介も許せてしまう気分だ。
読み終えて、「宝くじを買わなくちゃ」と思った人もきっといる。わたしもだけど。
河野の生き方が、生きる世界が現実の煩わしさから遠いところにあるだけでなく、彼が抱えた人生の苦難に静かに向かう姿勢、滲み出る佇まいに共感を覚え、愛してしまった人たちが、彼の世界を創 -
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宝くじを当てて敦賀の海辺に移り住んだ河野。自身のことを役立たずの神様と呼ぶファンタジー。岐阜から遊びに来たかりん。河野の元同僚の片桐。どれも魅力的なキャラクターで、それぞれの道をのびのびと歩んでいるの感じがとてもよかった。
あらすじだけ読んだときは変な名前の神様が出てくるし、それこそファンタジー小説なのかな?なんて思っていたけれど、決してそんなことはなかった。魅力的なキャラクターが登場するけれど、べたべた依存するような関係はなく、それぞれがそれぞれの孤独を抱えて、それを認めながら生きていた。この小説は人間の孤独さを描いていて、けれど孤独が悲しいこととして描かれていないことがいい。 -
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絲山秋子の谷崎賞受賞作品の文庫化ってことで入手。しばらく文庫化に気付かなくて、このタイミングになっちった。『ばかもの』が随分好きだったけど、やっぱり根っこには、当たり前だけど同じ雰囲気を感じた。タイトルからして、薄情な登場人物が活躍するもんだと軽薄にも思っていたんだけど、主人公にしろ周りの人にしろ、あまり薄情とは違うよな、って思いながら読み進み。殆ど終わりの頃になって、一度だけ”薄情”って言葉が登場するんだけど、なるほどそういうことかって感じ。薄情に見えるけど実は情け深いというか、そんな微妙なニュアンスが作品をもって綴られていた訳ですね。本作も、流石のクオリティでした。
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えらい強烈なのと付き合ってるなっていう、オープニングからして求心力絶大。読み心地の良い文章と相俟って、どんどん世界の中に引き込まれる。で、最初はちょっと哀れな主人公に同情しちゃいそうになるんだけど、だんだんアルコールに溺れて、いよいよ中毒になっていく過程は、ホントくず。読んでてイライラさせられっぱなし。でも入院を契機にそこから離脱して、最後元サヤに収まるまでを描いた物語。くず男の一代記なんだけど、コンパクトに200頁くらいに纏められていて、でも読み応えは抜群でっていう、理想的な小説に仕上がってます。”イッツ・オンリー~”は、正直そこまで大好きな作品ではなかったけど、これは素晴らしかったです。
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作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。
また文学として、語り部である主人公の佐藤だけでなく、幾つもの登場人物が、異郷の地にいることや、またときにはその人種や障害などの理由から、人生の舞台に対して、異者である。
他の絲山文学において、異者であることからのサウダージはメインテーマであり、作品の中で特にスコープされると、ぼくは思っている。この作品でも同様であるけど、物語のプロットが移りゆく構成をと -
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アル中ヒデの恋愛物語。これで終わってしまう人も中にはいるのだろうけど、どうしてだか、私の中ではこの本はそう簡単に終わらせることはできず、むしろずっと心に確かな余韻を残していった、好きな本になってしまった。
額子に振られたのを境にヒデは徐々にアル中への道へと逸れていく。ヤマネも宗教の道へ。額子は額子でまた辛さを抱え、一番まともで一番幸せをつかんで良いはずの翔子は、一番厄介なヒデが重荷となる。
ヒデの中には常に理想となるある女性が目の前に現れていて、ことごとくその女性が顔を出す。ある時を境にそれは消えてしまうのだけど、それはその人を必要としなくなったから…現実にその人に代わる安心を得たか -
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へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を思い起こさせるようなところもあったり。最後まで描かれなかったような、消化不良感のある終わり方なのは残念。ミステリーとしてなら、顛末まで読みたかった。
でも、この小説の骨頂は「離陸」なのだと思う。ここでいう離陸とは「ぼくらは滑走路に行列をつくって並んでいる。いや、まだ駐機場にいるかもしれない。生きている者は皆、離陸を待っ -
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とりたてて衝撃的な筋ではない。
が、読みながら感じていたのは、文体の不思議さ。これが「来た」。
序盤は、一人称に極めて近い三人称。
終盤は、三人称を乗り越えてくる一人称。
なぜというに、読み進めるに連れて「俺」が私の胸中の一部に巣食ったからだ。
少し特異な文体は、内容への共感と並行して、文を読み進めることによる共感を、誘う。
だからこそ、「ばかもの」と言い合える関係性に、ぐっときてしまうのだ。
小説はある程度の分量を経て、つまりは文脈を経ることで得られる感慨だ、と改めて認識した。
酒への耽溺は他人事ではない。
寄る辺なさ、思いの行き場のなさ、俺自身が俺を扱いかねているのだから周囲にとってはな -
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ネタバレ河野勝男は、突然宝くじが当たることで億万長者になった。そんな河野の前に突然「ファンタジー」が現れる。
敦賀に帰り気ままな暮らしを始めた河野の前に、「かりん」と「片桐(もと会社の同僚)」という二人の女性が現れる。やわらかく包み込むようなかりんと対照的に、あの手この手で河野をおとそうとする片桐。
結局どちらとの関係を実らせるでもなく、かりんは乳がんにかかってしまう。果たして、ファンタジーは不幸の前兆なのではないかと思った河野。その後、河野自身も雷に打たれて失明してしまう。やがて、河野は高校生のとき以来さわっていなかったチェロを手に取り、生きる意味を見出してゆこうとする。
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