絲山秋子のレビュー一覧
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ある日とつぜん鍵穴が消えて、家に帰れなくなる男の話。安部公房の『赤い繭』を思い出した。
「鍵穴はどこにもなかった」。そんな調子でしれっとSF風に導入したかと思いきや、物語が進むにつれところどころに日本の近現代史の知識欲をかき立てる世代論を交え、思いがけない風景を見せてくれる。とても味わい深い読書だった。
この作家は、女流作家の中で随一に男性の一人称がうまいと思う。団塊の世代のいわゆる「日本のオヤジ」の自意識にリアルに寄り添える力量に感心する。
備忘録:
「自分たちの世代は、若い頃もっと、社会と密接につながっていたと思う。省三(主人公)が月のように、社会の周りで満ち欠けしているとしたら -
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絲山秋子の絲的メイソウを読みました。絲山秋子の露悪的エッセイでした。瞑想というよりは妄想に近いような、絲山的人生観が綴られていきます。禿礼賛という章では禿に萌える絲山秋子の感じ方が大まじめに語られています。寝言は寝て言えという章では、寝言で、お客様に丁寧に挨拶をした後、「クソオヤジがっ」と言ってしまったというエピソードが語られています。また、絲山の取説という章では、家電の取扱説明書のようなトーンで自分の紹介が書かれています。どれもこれも吹き出しそうになりながら面白く読みました。極めつきが世の中みんな五七調という章で、一回分のエッセイが全て五七調で書かれているのです。私はテンポの良い文章が好きな
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Posted by ブクログ
黒蟹県という架空の県に住む人たちのオムニバス。
近隣の市となにかと仲が悪い、というのは高崎と前橋、大宮と浦和(同じさいたま市なのに)なんかのイメージだろうか
宮城や岩手みたいに県庁所在地が圧倒的存在だと、険悪になりようがないからあんまりピンとこないものがあるが。
ストーリーよりむしろ表現が面白くて笑った
下記は頼りにならない男三兄弟に囲まれる十和島所長の章。どれもおかしい
> 同窓会に行けば若作りでてかてか光っている人もおじいさんみたいにすっかりしぼんでしまった人もいる。決して中身を見てはいけない玉手箱みたいな人、埃を被った貯金箱みたいな人、ガレージの脇に放置されたソファみたいな人