ある地方都市の食品会社で「チャラ男」であると自他ともに認める中年男性を、さまざまな人の目を通して描く連作短編集。
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ジョルジュ食品の営業を担当する岡野繁夫(32)は今日も各取引先を回っていた。
岡野は要領の悪い人間だが、営業という仕事は気に入っている。どこから弾が飛んで
...続きを読むくるかわからない社内で気を張り詰めているよりも、外へ出て自分のペースでノルマをこなす方が性に合っていると思うからだ。
その日、外回りを終えた岡野が事務所に戻ると、同僚の山田さんが逮捕されたと耳にした。以前からあった窃盗癖が顔を出したらしい。
警察での事情聴取に社長が直々に出向くことになったのは、直属の上司である三芳部長がとっくに帰ってしまっていたからだという。
まあ、あの人ならそうだろうなとチャラチャラした三芳部長を思い浮かべた岡野繁夫は、自分もさっさと帰ることにした。 ( 第1話「当社のチャラ男 ― 岡野繁夫 ( 32歳 ) による」) 全16話。
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「チャラ男」。そう言えば思い当たる人がどこにでもいました。自分はこれまで親しくならないようにしていたのですが、それでも「チャラ男」の特徴をいくつか挙げることができます。
・見栄っ張りである。だからおしゃれに気を遣い、目立つことを好み、マウントを取ることも好きで、話の流れを自分の自慢話へと誘導するのがうまい。
・頭の回転が速くて口も立つため、その場しのぎがうまい。だから常に自分が損をしないよう巧妙に立ち回り、矢面に立つことも責任を取ることも免れるところに身を置いている。
・話術が巧みで人を惹き付けるが、よく聞いていると豊富な話題はすべて受け売りであるという、底の浅い人間だったりする。
といったところでしょうか。
このチャラ男、長期的に見ると損をしているようにも思うのですが、反省したり改めたりすることがありません。
理由としては、目先の欲望が満足すればそれでよしとしていることと、一般的には人気があることが自己肯定感に繋がっているからだと思われます。
本作で語られる三芳道造(44歳)という人物も、そんなタイプの紛れもない「チャラ男」です。
社長のツテで営業統括部長として迎えられた「逸材」であるはずですが、周囲の人間が語る「三芳」像からは社運を背負って立つ優れた重役の姿は窺えません。
むしろ、器量の小さい小利口なだけの男というところで、衆目は一致しています。
みんな本当はわかっているのです。「チャラ男」と親しくなってもなんの得にもならないないということを。恐らく社長も気づいていると思います。
なのに見限れない。三芳の妻、眞矢子などはそれでよしと達観しているようです。
堪えきれずに三芳を罵倒した、不倫相手だった一色素子も、すぐ矛を収めてしまいました。三芳の安泰は続きます。
先述したとおり、三芳は尊敬に値するような優れた人物ではありません。なのに、常に安全なところに身を置き、甘い汁を吸っている。驚くべき嗅覚です。
会社の不祥事が発覚した上に三芳の横領まで取りざたされる物語終盤。三芳もここまでか。天誅が下ったかと思われたのですが……。
三芳の持つ生命力というか、したたかさにはそら恐ろしくさえ感じます。
「自分、不器用ですから」の実直な健さんタイプが好きな私には、第5話「愛すべきラクダちゃんたちへの福音 ― 三芳道造 (44) による」および最終話「その後のチャラ男」で披露される、三芳の身勝手さを正当化するような述懐から受ける違和感にモヤモヤするしかありませんでした。( ああ疲れた……。)