絲山秋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「そうやっていつまでも超然としてればいいよ。私は、もう合わせられないけど」とは帯文。
帯読んだ時は言う側で思っていたのに、読み通した後は完全に言われる側の心地だった。
そういう視点の転換が、純粋に、本読みの楽しさ。
絲山さんの小説が本当に好き。
3編入った中編集なんだけど、ひとつ読むごとにこの本の良さが上がって行く気がした。「作家の超然」が1番。
物語の後ろに作家の物凄く大きな引き出しが透けて見える。
がさがさと取り出される色々を、小皿みたいな自分のキャパシティで受け止める感じ。
これまでに読んだ物語が、芋づる式に(ほんとにじゃがいもを掘り起こすみたいに)想起されて、楽しくなった。 -
Posted by ブクログ
東京で生まれ育ちながら東京嫌いのラジオDJ、野枝。仙台でDJをした後、思い立って群馬のラジオDJに。医者らしくない医者の沢音、リスナーである「恐妻センター前橋」、群馬・高崎でのいくつかの出会いの中で美丈夫(本当の名前は忘れたらしいが)という過去にいた唯一の彼氏の存在も徐々に薄まり、今の自分を受け入れられるようになっていく…。
何かに雁字搦めにされたように精神の殻に閉じこもっていた野枝が、群馬の街(高崎だったり前橋だったり)や群馬の人々の等身大の姿に感化され、次第に凝り固まったものが溶けていく感じ、なんだかスゥーっとする。
絲山作品には妙な男っぽさがある。この小説の主人公は女なんだけど、とことん -
Posted by ブクログ
あぁーこの軽い感じ。けど重い感じ。なんか矛盾した感じ。このメンドくさい感じ、自分とダブります(別に自分は活動家でもなけりゃ左翼でもないんだけど)。
「元」左翼活動家である正臣が、妹の家に転がり込んで「マトモな」生活を送る(送ろうとする)までの間に訪れた京都で過ごす1週間程の出来事。
左翼的思想だって、何かすごいものに思われたレコードだって、気が付けばなんてこともないものだった。ポケットに入れた「自由」も結局あっさり割れちゃったし。番ちゃんにとっての「神」だって、所詮はコスプレ、後付けの信仰。でも案外そういうものなのかも。世の中なんて全て茶番劇。それでも自分なりの意味付けをして生きていくしかない -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分で捨てておいて、
それなのに気づけば焦がれて
奪われていたりする。
我を通すのも、力むのも大変。
とじこもるのは簡単。
でも少しだけひらいてみると、
なんだか気持ち良い。
昨日と同じ景色なのに、晴々していたりする。
「ラジ&ピース」
「うつくすま ふぐすま」
の二編が収められています。
自意識とコンプレックスを盾に、
世界とフィルターを通して向き合う野枝。
ラジオのパーソナリティを田舎でしている野枝。
そこに優しい姉さんみたいな女医の沢音が加わり。
あいつもこいつも厭になる。
触らないで、近寄らないで、悪意や打算しかないから。
そーゆーの面倒だから。
誰でも持っている感情を少 -
Posted by ブクログ
『沖で待つ』が良くて、それ以来、絲山さんの本を読むようになりました。
今回の末裔は、妻を亡くした中年男性が主人公。
家に帰ろうとすると、何故か鍵穴が見つからず、仕方がなく放浪する羽目になるってお話。
鍵穴が見つからないってところで、どういうこと?と思い、かつその説明がされないので、ずっとモヤモヤします。
あ~久しぶりにハズレの本を引いたかなぁって思ったんですが、ジワジワと読み進められます。
んで、最後には、モロモロ納得できないところを吹っ飛ばして、冴えない中年男性が一歩踏み出す爽快感を味わえます。
自分も何かしよう!って気持ちにさせてくれる内容でした。
いや~良い本!
こういう、ジワジワ