絲山秋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
生きている人間は修正が利くが、死んだ人間のことなんか間違えて覚えていたらそのまんまじゃないか。
今までは気持ち半分で両親や叔父母の先祖についての話を聞いていたがこの一文で先祖についての意識が変わりいまは先祖についての話を深く聞きたいそう思う。
鍵穴が消えているという不思議な出来事から省三の中の心境が少しずつ変わっていく物語。不思議な点はいくつかあるがそれも読み切るまで違和感は感じなかった。そう言うところを自身で噛み砕くのもまた一つの楽しみではないか。私はまだ若輩で省三ぐらいの年齢で読んでいたらもっと違うように思えたのかな、そう思いまたきたる時に再読したいと思った。 -
Posted by ブクログ
オフビートなロードムービーっぽい小説。
特に大きなイベントはなく、淡々と主人国の二人が来るまで博多から鹿児島へと南下する。
退屈と言えば退屈な話なのだが、ジャームッシュ映画のような「面白い退屈」と言えば良いだろうか。ストーリーの起伏ではなく、主人公二人の会話を楽しむ小説だ。
「幻覚の方が実感なのだ」
精神病院に入院している主人公が幻覚を表現した時のセリフだ。健康な人間でも不安に苛まれている時は、自分の想像が現実以上に実感を伴う。
「あたし」と「なごやん」の会話が普通なだけに、病人と健常者の境界があいまいなものだと感じる。
「幻覚の方が実感なのだ」 -
Posted by ブクログ
かつて愛した女・額子に下半身丸出しで木に縛り付けられ「私結婚するから、じゃね」とあっさり捨てられた青年ヒデが、アル中社会人生活を経て、片腕を失ったかつての恋人額子と再会を果たす物語。
だいぶ端折りましたが、大筋はこんな感じ。ざっくり書くと本当カオスな物語だな……。
moratoriumを経て社会に出たものの、アルコール依存症になってしまい、恋人も友人も失う顛末が、「そりゃまああんた自業自得ですわね」と若干鼻白らむんですが、なんとか踏ん張って断酒するヒデの独白が、元カノ額子を思い出すでも感傷に浸るでもなくアッサリしてて、なんか無性に読み心地が良い。
額子との再会も、ドラマチックではなく淡々 -
Posted by ブクログ
切なさが残る。
読み終わってすぐはあっさりとした感覚だった。でも、この本のことを考えると少しずつ心の奥底に切なさが降り積もっていき、今はずっしりとした気持ちになった。
会ったこともないはずのファンタジーに想いを馳せる。彼は一体誰なのだろう。とても不思議な存在で、そこにいなくても誰も困らないし、いつかきっと忘れてしまう人。それなのに会うと嬉しくて心が温まる人。まるで人の希望が具現化したような人だな。
不器用でも、傷を抱えていても、孤独でも、人は生きていかなくてはいけない。私たちはみんな、孤独とともに生きるのだ。静かな夜にじっくりと読みたい一冊。